差別化の方法の5回目は、イメージについてです。(商品の機能による差別化、サービスによる差別化、人による差別化、チャネルによる差別化)
イメージによる差別化
消費者からみて、他社と同じように映る製品やサービスであっても、ブランドに対する心象で差別化することを、イメージによる差別化といいます。フィリップコトラーによると、イメージによる差別化は、シンボル、メディア、雰囲気、イベントなどをとおして行われるとしています。なお、このイメージによる差別化は、一般的にいわれるところのブランドイメージとは異なるもの、或いは狭義の概念と捉えるべきです。
というのも、ブランド・イメージとは調査などによって明らかにされた消費者が実際に認識しているブランドの姿のことを指すからです(ブランディング(2)ブランド用語①)。消費者がブランドをどのように見ているかを表すものがブランドイメージであるため、そのイメージを構成する要素には、自ずと商品やサービス、人、チャネルといった差別化の方法になるものが含まれ、そこには5つめの差別化の方法であるイメージも入るためです。
シンボル(またはロゴ)といえば、ナイキを思い浮かべる人は少ないないはずです。ナイキは、製品の機能以上に、多くのアスリートの心に、格好いい姿、スマートな自分といったようなイメージをロゴマークから想起させることに成功しました。こういったシンボルをとおしたイメージの確立に、マイケルジョーダンが果たした役割は、非常に大きいものがありました。ほかにも、3M、P&G、 Unilever、FedEx、インテル「intel inside」等々、国内外で高い評価を得ているものがたくさんあります。
自動車のレクサスも、シンボルマークによる差別化を実現したといえるでしょう。 米国において、レクサス前のトヨタ車には、性能が高く、故障しにくい優れた車という評判はゆるぎないものだったのでしょうが、それはあくまでも大衆車としての認識にとどまるるものでした。そこで、(それまでのトヨタがあまり得意とはしてはいなかった)デザイン性に優れた高級車として開発したのがレクサスだったわけです。レクサスはトヨタブランドとは一線を画したブランド展開を行い、今日レクサス(のシンボル)=ラグジュアリーな高級車というイメージを定着させ、世界的に成功を収めています。
SONYのロゴは、(世代によるかもしれませんが)シャープでスマートな製品というイメージを今でも想起させます。今日のソニーは、エンターテインメントの分野でも巨大な存在で、イメージセンサーにおいても大きな強みを発揮しているコングロマリット的なメーカーです。
20世紀のことになりますが、SONYの4文字は、まさに性能の高い先進的な製品というイメージを、人々に与え続けていました。その代表格が(かなり古いかもしれませんが)ウォークマンです。筆者は学生時代の1981年に、米国で音楽旅行をした際、プレスマン(ほぼウォークマンのサイズで、録音機能が備わっているもの)を携行し、ニューヨークのジャズバーでミュージシャンに録音許可をした際、プレスマンを見せ、「こんな小さな機械が、良い音で録音できるのか」と言われ、実際に聞いてもらい、音の良さに相手も驚き、そのまま快諾されました。また、大陸横断バスのグレイハウンドの車中でプレスマンで音楽を聴いていると、黒人の子供から「雑音を聞いているの?」と言われ、ヘッドフォンを渡して音を聞かせると、驚嘆していたのを、不思議なことに今でも鮮明に覚えています。こういった場面では、いずれの人たちもSONYのロゴを、まじまじと眺め、それが脳裏に焼き付いたのではないでしょうか。そういったロゴによるイメージが、SONYにはありました。今の若い世代が、ソニーのロゴを実際のところ、どのように捉えているかはわかりませんが、以前と比べて、極端な差はないのではないかと思っています。
シンボルに含まれるであろうものにキャラクターがあります。不二家のキャラクター、ペコちゃんも同社のシンボルでしょう。もともとミルキーの販売促進のために練られていたキャラクターは、何故かミルキー発売の前年に、不二家レストランの店頭に登場しました。ママの味のミルキーという存在を超えて(ミルキーはもはやそれほど売れていないそうです)、永遠の6歳のペコちゃんは、70年以上も多くの人たちに認知され、親しまれています。
ペコちゃんは架空の人物ですが、実在した人物がキャラクターになっているものに、ケンタッキーフライドチキンの創業者カーネルサンダース、煙草のマルボロのカウボーイなどもよく知られたキャラクターです。動物では、三越本店のライオン、ブルドッグソースのブルドック、そしてミッキーマウスやハローキティといったところでしょうか。
テレビをはじめとしたマスメディアによる差別化は、もはやあまり効かなくなってしまったといっていいでしょう。そのマスメディアをとおした差別化では、サントリーの伊右衛門が、今でも筆者の頭に浮かびます。京都宇治・福寿園の寛政2年創業、創業200年といったような老舗感、或いは本格的なイメージが付加された伊右衛門のメッセージは、当時、非常に印象的でした。今日、サントリーや京都福寿園といったコーポレートブランドの下ではなく、単独で伊右衛門ブランドを展開しています。コーポレートの冠をつけたメディア展開から伊右衛門単独になるまで、少し時間がかかったのかもしれませんが(わざと時間をかけていたと思いますが)、筆者には比較的短期間で強いブランドに育てられたと感じています。なお、マスメディアによる差別化以外に、ファンサイトを含めたネットメディアによる差別化については今回の対象外とし、別途、機会をみて触れてみたいと思います。
雰囲気による差別化については、最高級のホテルや旅館、レストランなどが幾つも挙げられます。もっと身近なところで、誰もが目にするものでいえば、スターバックスを挙げるべきでしょう。1971年に米国シアトルで誕生した同社は、当時、米国には存在しなかった本格的なコーヒーを提供するカフェとして登場したと、筆者は理解しています。日本には2003年に、自分らしい時間をゆったりと過ごせる自宅や職場とは異なる第三の場所「サードプレイス」というコンセプトで登場しました。米国と異なり、日本には至るところに喫茶店があったわけですから、提供するコーヒーをはじめ、提供の仕方や喫茶の空間全体を、ほかの喫茶店・カフェとは大きく違うイメージで展開する必要がありました。そのやり方が成功し、今では国内だけで1900店舗を超える規模に成長しました。
イベントによる差別化については、たとえばミニッツメイド社の名を冠したMLBヒューストンアストロズの球場(ミニッツメイド・パーク)や、国内では福岡PayPayドーム、京セラドーム、日産スタジアムなど、数が増えました。少し前であれば、サントリーホールが有名でしょう。ただ、これは実際に、森ビルとサントリーホールディングスが所有しているため、上記のようなネーミングライツ(命名権)とは異なります。
次回のブランディングブログは、差別化のすすめ方についてです。