10/14/2024

ブランディング (5)ポジショニング ②差別化のすすめ方

差別化のすすめ方は、どのようにすればいいのでしょうか。ジャック・トラウトは、ロジックによる差別化が肝要といい、クリエイターによる創作に任せるべきではなく、差別化にクリエイティビティや想像力の豊かさは関係ないといっています。また、大半のケースで、マーケティングが失敗する理由は、論理性の欠如だと述べています。


トラウトの差別化に向けたステップは、次の4つです。

1. 取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探す。

2. 差別化のアイデアを探す。

3. 主張の根拠を示して、信頼を獲得する。

4. あらゆるコミュニケーションの場で、アピールを徹底する。


1の取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探すことについて、トラウトは、重要なことは頭にすぐに浮かぶこと、よく考えないとわからないようなことでは駄目だといっています。ターゲット顧客が、競合他社の強みと弱み自社の強みと弱み、この2点をどのように見ているかということ、これをいち早く把握する必要があると述べています。

トラウトがよく用いたやり方は、対象になるカテゴリーに関係する基本特性を列挙し、各項目について、ターゲット顧客に対して、競合他社ごとに、10点満点で採点してもらうというものです。これを行うことで、当該カテゴリーにおいて、誰がどう感じているかを把握することができ、これに基づき、社内で議論を発展させていくというものです。


2の差別化のアイデアを探すことについては、ほかとはハッキリ違うこと、差別化できること、独自性であること、兎にも角にもこれを見つけ出して、顧客に魅力を感じてもらえるようにすることだといっています。この差別化や独自性は必ずしも商品そのものの特徴である必要はないとのこと。これについては、本ブランディングブログの差別化の方法を参考にしていただけるはずです(i商品の機能による差別化iiサービスによる差別化iii人による差別化ivチャネルによる差別化vイメージによる差別化)

そして、トラウトは差別化するためには、カテゴリーを自ら創り出して、そこに一番乗りすることだと述べています(ブランディング (1)ブランディングとは②)。一番手は永遠に一番手で、独自性なき後発は消えると指摘しています。実際、米国でいえば、コピーのゼロックス、ジーンズのリーバイス、ティッシュペーパーのクリネックス、ゼリーのジェロ、翌日(または翌朝)配達のフェデラル・エクスプレス等、カテゴリーに1番乗りして成功したブランドは、その後の市場シェアで優位性を保持し続けることが多いはずです。

ただ、一方で、必ずしも一番乗りが優位とはいえないのも事実です。たとえば、インターネット黎明期のネットエスケープ社のネットエスケープ・ナビゲーターというウェブブラウザーが後発のマイクロソフトのインターネットエクスプローラーに駆逐されてしまうケースや、パソコンOSの先発Macに対して後発のWindowsが市場を制した例、家庭用VTRで後発のビクター&松下連合のVHSが先発ソニーのベータを市場から退場させたことなど、いろいろ挙げることができます。

つまるところ、一番手のブランド/企業は、市場参入後の打ち手次第で、先発優位を維持し続けることは可能であるのは事実といえるでしょうし、実際のところ、先発ブランドが後発ブランドのポジショニングに対して、極めて大きな影響を与えることは間違いありません。

トラウトは、また、一番手の商品名がトップブランドであり続ける理由に、商品名が一般名詞化することも挙げています。ゼロックス、バンドエイド、サランラップ、ゴアテックス、ファイバーグラス等々です。


3の自分たちの主張の根拠を示して信頼を獲得することについては、世論という法廷の場に立っているくらいのつもりで、消費者が納得できるエビデンスを提示しなければならないといっています。建て前と本音、広告でうたっていることと実態の違いが、あまりにも多いことに我々は随分前から気づいています。消費者、ひいては自社従業員からの信頼を得るために、客観的なエビデンスや明確な根拠を提示する。これが、本来のあるべきブランドプロミスといえるでしょう(ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位ii 文化の形成要素と顧客サービス)。

信頼の裏付けとして、専門性を見せるというのはひとつの有効なやり方です。たとえば、プロフェッショナルファームにみられる豊富な知識と多様な経験・実績から導きだせる問題解決における引き出しの多さなどが挙げられます。メーカーが自社の研究/技術開発力を誇示するのであれば、特許件数はひとつの有力な裏付けになるでしょう。専門性を少し拡大解釈することになりますが、歴史や伝統も、信頼の裏付けになるのではないでしょうか。宮内庁御用達、数百年以上変わることなくこだわり続けてきた製法や原材料といったものになります。レストランの格付けも、信頼の裏付けに該当することが多いと思います。これらは、次のステップ4で展開することになります。


4のあらゆるコミュニケーションの場でアピールを徹底するというのは、仮に良い商品を創ることが出来たとしても、それだけでは決して売れないからです。トラウトは、米国レンタカー業界のエイビスの「(当社は業界の)No2だからこそ、我々は頑張っています」といった広告をとおして、社員がモチベーションを上げた例を紹介しています。

大勢の人に選ばれ続けていることは、アピールできることです。多くの人が選んでいるからこそ、消費者は安心します。人が買うから自分も買うということです。今日の口コミは、やらせも多いようですが、アピールが徹底できるという点で、非常に強力なツールであることに間違いありません。著名人や多くの人が憧れるような人が選ぶ製品やサービスも、強力なアピールになります。多くのアスリートが選ぶナイキなどはその典型でしょう。他人が買うものを買いたがる人は多くいます。


ところで、トラウトは、ボールのあるところでプレーしろと説いています。所謂Think Globally, Act Locallyです。ゴルフはグローバルスポーツで、ゴルファーはこれを心得ているが、マーケターはそうでないといっています。この例として、ビールのハイネケンは世界中どこでも同じ味だが、マーケティングは標準化せずにローカルニーズを踏まえた多様な形態をとっているとしています。

ただ、グローバル化が進行し続けている今日では、画一的なメッセージを世界中に発信することが必ずしも通用しないとはいえません。地球温暖化、SDGs、ESG経営、ブランドパーパス等々、少し遡ればWindows95なども、画一的なメッセージだったように思います。一方で、ウォルマートは米国以外の国では、うまく事業成長ができずにいます。マグドナルドは現地に適したハンバーガー、たとえばインドの羊バーガーなどを提供しています。


日本の国土の約26倍の面積を持つ米国、その人口は日本の3倍もありません。米国は地域によって、考え方や行動様式などが大きく異なります。面積が大きいから、移民が作った国だから、それは当然という見方があります。一方で、日本はどうでしょうか。世界の大都市東京と地方では、人の意識やものの見方・考え方はかなり違うと筆者は強く感じています。少し大袈裟にいえば、国が違うくらいの感さえあります。同じ大都市でも、東京、大阪、名古屋でも随分異なります。こういったことを考えると、頭(または心)の中にポジショニングするやり方も、ターゲット市場が何処で、狙いたい顧客は誰か、そして競争相手は誰で何をしているかといったことについて、今まで以上にはっきりとさせておかなければいけならないということになります。


最後に、トラウトは何度も繰り返し説いています。大事なことは、自分が何を望むかではなく、競争相手との関係で何ができるかということ。そのためには、競争相手をしっかりと理解し、消費者の頭(または心)の中で相手がどういう場所を占めているかをまず理解しなければならないということを強調しています。決して忘れてはならない金言です。


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ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

現在、景気は大きな後退局面にあると言えるのではないでしょうか。 賃上げにより(賃上げがあったとして)、名目賃金は増えても、モノの多くが1.5倍くらいはふつうに値上がりしているようなこの 異常な価格高騰により、所得は 実質目減りしています。 消費者は価格に敏感にならざるを得ず、価格...