前回の「組織文化と競争優位i」では、組織文化の定義と3つのレベルについて述べました。今回は、組織文化の形成に影響を与える要素と、競争優位の源泉との関係について考えてみたいと思います。
はじめに、競争優位の源泉ですが、これはマイケルポーターが1980年に『競争の戦略』で提唱し、その後今日まで世界中で活用されている基本戦略、つまりコストリーダーシップ、差別化、集中の3つに基づき、本稿では、差別化、なかでも卓越した顧客サービスにフォーカスすることにします。
次に、組織文化の形成に影響を与えるものですが、筆者はこれまでの事業会社における実務と、経営コンサルティング業務の経験から、組織文化は主として次の6つで形成されると考えています。
(1)ビジョン・目的・戦略
(2)競争環境
(3)リーダーの行動
(4)組織構造
(5)社員の行動
(6)業績評価
卓越した顧客サービスを提供をするためには、上記6つの形成要素はいずれも重要なものばかりですが、突き詰めていえば、サービス企業の場合、特に(1)ビジョン・目的・戦略と、(3)リーダーの行動、が最も重要で不可欠なものだと考えます。(5)社員の行動も極めて重要になるのは言うまでもないことですが、ここでは社員の行動に強い影響を及ぼすリーダーの行動に、人の行動を集約させて考えていきたいと思います。 上記の組織文化の形成に影響を与える6つの要素については、次のことがいえます。
組織文化を自社が望ましいと考えるものに変えていきたい場合は、文化の形成に大きな影響を与えている形成要素のいずれかを変えることによって、それが個人や組織に影響を与え、結果的に文化の変革を促進していくことができるようになります(組織文化 (2)文化の捉え方①)。
サービス企業が卓越した顧客サービスを提供するためには、サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境の4つが一体となることが必要です(SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素)。ですが、つまるところは、卓越した顧客サービスを提供するには、優れたサービスコンセプトと、サービスに関わる優れた人々が必要ということに尽きると筆者は考えます。そして、その人たちの関わり合い方が、組織文化と呼ばれるものになります。
別の言い方をすれば、サービスの企画・設計と、それに命を吹き込む組織文化を体現する人、特にリーダーが、卓越したサービス提供には必要だということになります。読者の皆さんも、日々のサービス体験で、そういったことを何度か感じられたことがあるでしょう。たとえば、レストランやホテルなどの施設で、いろいろな小売の店舗で、飛行機やタクシーなどで、理容・美容院で、経営コンサルティング会社!などで、同じようなサービスを受けても、まったく異なる印象や結果になったり、十分満足できるものもあれば、不快になったりしたことが、あるのではないでしょうか。
ところで、企業はゴーイングコンサーン、事業を永続的に発展さえていくためには、売上げ・利益・市場シェアなどを考える前に、まずは顧客を創造して、その維持に努めること。そのためには、顧客と長期にわたって継続的な関係を構築しなければならないといわれてきました。
顧客との関係性構築をとおして卓越した顧客サービスを提供している企業または施設で、真っ先に頭に浮かぶのが、ディズニーランドという方は今でもいらっしゃることでしょう。東京ディズニーランド(TDL)では、従業員のことをキャストと呼び、来場客であるゲストとのコミュニケーションを重視しています。TDLでは、キャストつまり出演者には何らかの役が与えられていて、顧客(来場客)はキャストたちが演じるショー全体を楽しむゲストという設定を、開園以来徹底して行っていて、これが強さの秘訣になっています。
人をとおして卓越した顧客サービスを提供する例として、もはや米国MBAの古典となった、サウスウエスト航空が挙げられます。同社は米国民が車で移動していた地点を、短距離フライト、格安料金、簡素なサービス(食事なし、映画なしなど)、先着順の座席割り当て、そしてユーモアに富んだ接客サービスで、フライトを楽しいものに仕立て上げたことで知られています。ホテル業界では、リッツカールトンのお客を待たせない応対サービスなどが度々紹介されています。
TDLと、旅客輸送やホテルは、人の心または人に作用するサービス(SMM(1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)ですが、物に作用するサービスでは、貨物輸送のヤマト運輸を挙げなければならないでしょう。今では当たり前となった宅急便ですが、これはそもそも一番最初にヤマト運輸が1970年代半ばに創り出したサービスです。個人宅であろうと、オフィスであろうと、何処へでも荷物受領に出向き、何処へでも荷物を届ける。現在では、日付指定に加え、ほぼ2時間枠での時間指定ができるのは誰もが知るところです。ここに至る過程で、ゴルフ宅急便、冷蔵冷凍のクール宅急便など、他社に先駆けて革新的な顧客サービスを次々と繰り出してきました。社会の変化に合わせて需要を創出するサービスコンセプトと、日時厳守や汚れの少ない状態で配送される商品などにみられるような安心できるサービスデリバリは、長年健在です。いつの間にか当たり前になってしまったサービスを、当たり前のこととして長く継続させていることは、見方によっては驚嘆すべきことだといえるでしょう。
卓越した顧客サービスは、一様ではありません。TDLのようなその場でしか体験できないことをとおして顧客を幸せにしたり、顧客ニーズに応えてその結果に必ず責任を持つクロネコヤマトの宅急便であったり、ほかにもいろいろなものが挙げられるでしょう。たとえば、(大企業のサービスであるにも関わらず)顧客を個客として扱うことでその人の満足を追求していくものだったり、顧客のライフステージに沿ったサービスを提供することで顧客と半ば永続的な関係性を築いていくようなものがあったり、なかには顧客を信者にするくらいのようなものまでと様々です。
このように卓越したサービス提供には、レジャー&エンターテインメント系に代表されるような場をとおして劇的な体験を提供するような1回限りのものもありますが、相対として、顧客が望むサービスを着実に提供し、その繰り返しによって、結果として、顧客がサービスの卓越性を感じるようになるといったもののほうが多いように思います。
その継続性をとおして、顧客とサービス企業の間に信頼関係が醸成され、最後にはそのサービス企業に対して、包括的な信頼を顧客が寄せるようになると筆者は考えます。
そして、顧客が購入しているものは、サービス企業の専門性という側面は勿論ありますが、それ以上に、サービス企業と顧客の間に生まれる、いわば人間関係に基づいた信頼関係に、顧客はお金を払っているといえるのではないでしょうか。
卓越した顧客サービスを継続して、たとえサービスを提供する人が変わろうとも、そう変わりなく提供できる組織の文化とはどういうものなのでしょうか。次回の本稿で考えたいと思います。