7/06/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位i 文化の定義と3つのレベル

サービス企業における大きな論点を、これまで4つ取り上げてきました。

1. 顧客の期待を理解しているか?

2. サービスコンセプトは明快か?

3. サービスデリバリのギャップは何か? 

4. コミュニケーションを組織的に行っているか?

 

5つめは、「組織文化は競争優位の源泉になっているか?」です。これについては、数回に分けて記述することにします。1回目は、組織文化とは何かということについてできる限りコンパクトに概説し、次回以降で組織文化と競争優位について、述べていくことにしたいと思います。


サービス企業においてこそ、組織文化は、他社が真似ることのできない最強の競争力の源泉になると筆者は考えています。(組織文化 (1)競争力の源泉)

サービス企業は、5つのサービス特性にみられるように(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)、かたちがなく、作り置きができず、また移転することもできないサービスを、多くの場合、顧客と共同で生産しているため、どうしてもサービスの品質にバラつきが生じてしまいます。

質の高いサービス品質を絶えず提供できるようにするには、個人個人が努力するだけでなく、組織全体が学習し続け、組織構成員がお互いに啓発しあえる関係を築くことが必要であり、この点において組織文化が極めて重要な役割を果たすことになると考えます。

組織文化の定義で、おそらく最もわかりやすいだろうと思えるものは、日本の経営学者の伊丹と加護野の両教授による「組織のメンバーが共有するものの考え方、見方、感じ方」という説明でしょう(組織文化 (1)競争力の源泉)。

これをはじめ、ほかの学者、研究者などの定義から、組織文化とは、組織における物事のすすめられ方と捉えることができ、それは組織構成員の思考や行動様式に長期にわたり強く影響を及ぼし、日常業務や意思決定などに反映されていくものだということができます(組織文化 (2)文化の捉え方①)。

ただ、残念ながら、組織文化を目に見えるかたちとして理解することは容易ではなく、それ故、現実のビジネス社会においては、真正面から捉えて考えるということが敬遠されがちです。ましてや、現場の従業員一人ひとりが、組織文化を個別に理解して、それをコントロールしていくなどといったことは、とてもできるものではなく、現実的ではありません。では誰がすべきなのかというと、経営トップをはじめとした組織の各リーダーが、まずは組織文化に向き合い、よく理解して、結果として、業績向上に活かせるようにしていくことが必要だということになります。


組織文化の大家エドガーH.シャインは、「リーダーが行う真に重要な唯一の仕事は、文化を創造し管理すること。リーダーとしての独自の資質は、文化を操作する能力」と述べています。そのシャインは、組織文化には3つのレベルがあるといっています。

レベル1. 人工の産物

レベル2. 公然と表明している信条と価値観

レベル3. 共有された暗黙の前提認識

レベル1の人工の産物には、目に見えるものと、観察された行動で構成されているものがあります。前者には物理的環境である建物であったり、服装、言語、組織構造などが含まれます。後者には、仕事の仕方など代表的なものといえるでしょう。

たとえば、組織Aのオフィスには仕切り壁がなく、開放的な雰囲気が漂っていて、そこで働く従業員は、熱気に満ち、少し騒がしいが、臨機応変に物事に向き合い、素早く処理していく。一方で、組織Bのオフィスは、部屋が細かく壁で仕切られていて、リーダーが着席している部屋の扉はいつも閉じられたまま。そこでの従業員は、物静かで、何事に対しても時間をかけて慎重に検討し、決められた手順を重視するといった感じです。こういったことは、少し観察をすれば知ることができますが、それは表面的なものといえ、これをもって組織文化を理解したとはいえません。


レベル2の公然と表明している信条と価値観は、組織が考える理想の姿とか願望などが対象になります。たとえば、組織Aでは、チームワークを大切にしているため、何を決めるにしても、全員の意見を聞き、皆が納得するまで話し合う。組織Bは、何か決める時には、リーダーが各人個別にヒアリングし、全員の意見や考えが一致せずとも、最後はリーダーが判断して、皆にフィードバックする。

コミュニケーションについては、どちらの組織も重視していることが窺い知れますが、AのほうがBより重視しているとは必ずしもいえないでしょう。何故なら、Bは各人のプライバシーを大切にし、且つ各人が使える自由な時間に、ヒアリング内容を事前にじっくり考える機会が与えられている。しかも全員が一同に介して話し合うことはスケジュール上難しいため、個別に打合せをして、各人の作業効率を妨げないにしているといったようなことが推察できるからです。ですが、仮に組織Cが、Bと同じようなステップで進めるものの、リーダーが下した判断について、フィードバックをしていなければ、それはコミュニケーションを重視しているとはいえないでしょう。

信条や価値観は、組織・会社によって、部屋に掲示されていたり、印刷物にしていたりすることがよくあります。仮に、AとBいずれのパンフレットにも、当社はコミュニケーションを大切にして、チームで仕事をしていますなどと書かれてあったとしたら、どうでしょうか(よくあることだと思います)。表明している信条や価値観は、両組織似通っているにも関わらず、仕事のスタイルや物理的環境である人工の産物は、明らかに異なります。つまり、このレベル2よりもさらに深く掘り下げたところでなければ、組織文化を正しく理解できないということになります。


レベル3の共有された暗黙の前提認識については、シャインは組織の歴史を考慮しなければいけないとしています。というのも、組織集団が繁栄を続けていく過程において、獲得されてきた価値観や考え方、行動の仕方といったものが、共有され当然視されるようになっていくからです。典型的な例では、強い信条を掲げる創業者の考えや意向に沿うことができない組織は消えていくといったことが挙げられます。また、その創業者が独自のやり方で大成功をおさめたとして、それが自社にとって成功するための唯一の方法だと創業者が信じ込むようになり、それを奨励する。周囲の者もそれが成功の鍵だと理解し、また、組織内でうまくやっていきたいと思い、時には盲目的にそれに従うことで、会社の業績を上げることができたならば、それはまさに暗黙の前提認識になっていくでしょう。


以上から、組織文化の本質にあるものは、時間をかけて学習され共有されてきた暗黙の前提認識であり、それは組織の底流にあるといえます。組織の構成要員である各従業員は、その前提認識をもとに日々、組織でのやり方を実践しているといっていいでしょう。

このように、組織文化は多重構造です。あまりにも単純化して、社内や社外に対してアピールしたり、表層的に活用するといったことは、重要な側面を見落としてしまうばかりでなく、特にサービス企業にとっては、信用を大きく傷つけかねないリスクをはらんでいます。

何故ならば、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったサービスの特性(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)ゆえに、サービスのパフォーマンスは、現場で働く従業員のスキルや裁量、取組み姿勢といったものに、大なり小なり左右されてしまいます。

サービス基準やマニュアルがある場合が多かったとしても、実際の現場で、サービスの活動内容を詳細に決めるのは、経験や考え方、受けた教育などが蓄積されて出来上がってきた現場従業員の内的な基準だからです。この点においてこそ、ものづくり企業以上に、サービス企業、なかでも労働集約的なサービス生産を行う企業は、組織文化の重要性を正しく理解し、適切に活用しなければなりません。

繰り返しとなりますが、内的基準に大きな影響を与えるのが組織文化であり、特にレベル3の共有された暗黙の前提認識については、慎重に考察することが必要です。事業会社に約10年在籍した当事者としての経験に加え、ビジネスコンサルティングサービスを様々なクライアント企業に提供してきたコンサルタントとしての経験から、組織文化の重要性と、また、その恐ろしさを実感しています。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

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