企業は商品の差別化をとおして、できる限り高い価格を設定したいと努めます。そのため、自社プロダクトのベネフィットを評価してくれる買い手を、少しでも多く獲得したいと考えます。何故なら、自社商品をいつも評価してくれる買い手は、そうでない人たちより、より多くの対価を支払ってくれるからです。
買い手によって異なる価格感度は、参照価格の違いによるものが大きいことは、これまで見てきたとおりです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その11、その12)。(価格感度の説明については、こちら→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その15)
それでは、基本的に同じプロダクト(製品、サービス)において、どのようにすれば異なる価格を設定することができるのでしょうか。全く同じ環境下で、同一のプロダクトを、異なる価格で提供することは、通常できないでしょう。けれども、プロダクトの提供方法を変えたり、プロダクトの購入(または利用)時の条件を変更すれば、たとえ同じプロダクトであっても、異なる価格を設定することが可能になります。
買い手の特性に合わせて価格をカスタマイズするプライス・カスタマイゼーションについては、ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16、その17、その18で述べました。
このほかにも、トーマス・T・ネイゲル(米国シカゴ大学等の元教授)とリード・K・ホールデン(ホールデン・アドバイザー創業者、プライシングエキスパート)の7つのプライシング・セグメントという考え方があり、これも大変有効なものです(呼び名が違うだけで、買い手の特性に従い、異なる価格を設定するという考え方は、プライス・カスタマイゼーションと基本的に同じもの)。
両氏は、プロダクトにおける価値の相違と連動するプライシング・メトリクスを確立することは、様々な買い手を獲得することにつながると述べています。セグメント化されたプライシングで成功するためには、それぞれの業界の状況に即したアプローチを選択し、的確なプライシング・メトリクスと、価格感度の相違で買い手を区分するプライシング上のフェンスをいかに作るかにかかっていると説いています。
買い手の身元確認によるセグメント化
購入場所によるセグメント化
購入時間によるセグメント化
購入数量によるセグメント化
製品デザインによるセグメント化
製品とりまとめによるセグメント化
抱き合せ販売によるセグメント化と測定
「買い手の身元確認によるセグメント化」は、よくあるセグメント化といえるでしょう。日本で典型的なものには、学生割引、シニア割引、クーポン利用による割引があります。なかでも、クーポンの活用は、異なる価格セグメントの消費者を惹きつけたり、プロダクトブランドの変更や新規顧客獲得の契機になり得ます。かつての携帯キャリアの乗り換えなどは、その典型例といえるでしょう。ほかにも、会員割引、提携先や提携カードメンバーへの割引、誕生日や結婚記念日等のアニバーサリー特典などが挙げられるでしょう。
この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、サイモンとドーランが説いたプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のひとつである「購買者特性によるフェンス」(ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その18)と、基本的に同じ考え方です。
ところで、この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、価格感度の高い買い手に対して有効なやり方ですが、身元を確認できるものを提示してもらうことが前提となるため、個人情報の開示を好まない人には通用しません。
このため、どんな商品の買い手でも価格感度を示してもらうためには、予め高い価格、たとえば定価や正規料金を提示し、身元確認をとおして割引するようにもっていくことと両氏は述べています。けれども、買い手はプロダクトの購入/利用をとおして学習します。時間の経過と共に、その手の情報には長けるようになり、選択肢の幅を広げていくことになります。このため、プロダクトの提供側は、こういった買い手の変化をいち早く察知し、セグメントの見直しや広義のコミュニケーションスキルを磨いていかなければなりません。同じやり方がいつまでも通用するということはまずないからです。
ところで、このセグメント化における両氏の興味深い分析として、価格感度の高い買い手は、提示された価格や提供されたサービスに対して不満を述べることは少ないが、価格感度の低い買い手はそうとは限らないばかりか、むしろしばしば不満を相手に伝えるというものです。筆者も、この記述には思いあたるところが多く、プライシングによるセグメント化を検討する上で、非常に参考になると思います。
購入場所によるセグメント化以降については、次回にしたいと思います。