9/06/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その17

前回は、プライス・カスタマイゼーションの4つの方法のうち、1つめの「製品ラインアップによるフェンス」について述べました。今回は、2つめの「利用可能性によるフェンス」についてです。


(2)利用可能性によるフェンスは、販売/提供方法やチャネルなどを変更することで、価格をカスタマイズするものです。価格をカスタマイズする理由は、ワン・トゥ・ワン・マーケティング手法などにより、顧客を選別してプロダクトの購入/利用確度を高めるために行われます。サイモンとドーランは、利用可能性によるフェンスづくりには、主に4つの方法があると述べています。


クーポン: 紙についている割引券を切り取って使用するものがクーポンの始まりです。筆者が米国留学した90年代には、スーパーなどの小売店やガソリンスタンドでの精算時に、購入品目や額に応じてクーポンをレシートに印字するのが当たり前に行われていました。今日では、インターネットのショッピングサイトやメールなどに記載されているクーポンのコードも、ふつうに目にするようになりました。 

プロダクトの提供者が、顧客の購買/利用履歴に応じて、特定のグループに的を絞り、価格を割り引くクーポンは、購入頻度の高い顧客に対して、さらにもう一品購入を促すためのコモディティ商品における有効なやり方であるばかりでなく、車などに代表される高額品の買い替え需要を促進する手段としても定着しています。

 

ダイレクトメール・カタログ: インターネットの浸透により、この方法は下火になっていますが、筆者は今でも時折目にします。これは、顧客の購買履歴や会員情報に基づき、DMを何回かに分けて郵送し、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目というように、回数を重ねるごとに価格を割り引いて案内するやり方です。サイモンとドーランは、7回に分けて、つまり7種類のカタログを作って顧客に配る事例を紹介しています。現在では7回というのはかなり特殊なケースのように思いますが、1回目は標準価格、2回目が割引価格、3回目は大特価というのは、衣料や食品などの分野では珍しくないでしょう。

 

地理的プライシング: 同じ商品であっても、国ごとに価格が異なるのがふつです。これは、たとえば英語を日本語に変える表記や、サイズ、色、容器、パッケージデザインなどの変更に伴うコストの増加、輸配送や保管コストなどに加え、為替の変動と、関税がかかってくるため、ある程度はやむをえないものです。 化粧品や衣料雑貨品は地理的プライシングの典型例といえるでしょうし、車にしても国内で販売されている輸入車は、本国仕様とさほど変わらないのに、日本では非常に高い値段がつけられているものも少なくありません。 

90年代初頭くらいまでの日本では、同一商品の内外価格差がそれなりに存在していました。およそ1.3から1.5倍くらいだったのではという記憶があります。ただ、その頃までの日本人の消費行動は旺盛で、支払い能力(または意欲)も今よりは随分高かったのではないでしょうか。また、消費に対する各人の目は今よりも肥えていたように思います。程度の差はありますが、筆者は内外価格差の存在がそれほど悪いことだとは思いません。経済のグローバル化の進展と共に、内外価格差は縮小し、為替の問題はあるにせよ、世界同一価格的な方向に、この20年くらいは進んできたように思います。それと歩調を合わせるように、日本人の消費行動はこじんまりとし、活力を失ってしまい、暮らしの中で豊かさを実感できなくなってしまったように感じるのは、筆者だけではないのだろうと思います。

 

購入場所限定のプライシング: これは、特定の場所でしかその価格で購入できないものを指します。ホテル客室内のミニバーや冷蔵庫にある飲料や菓子類などの価格が、通常価格より大幅に高いのはこの典型例です。自宅など所定の場所まで運んでくれるピザなどもここに含まれます。訪日外国人観光客向けに割り引かれたJRの周遊券などは、日本国内で購入できず、こういった類いのものもこの購入場所の限定になるプライシングです。 

さらには、競争の激しいエリアに立地しているチェーンストアの小売店と、競争相手がほぼ存在しないようなところに店を構える同一チェーンの小売店では、同じ商品であっても、価格が異なることがしばしばあります。このケースも、購入場所の限定に該当するプライシングといっていいでしょう。各店舗が顧客の価格感度を反映した値付けを行っているわけです。地方に移住した筆者は、ドラッグストアの商品、たとえば地方で売られているトイレットペーパーやティッシュボックスなどの価格が、都心一等地に構える同一のドラッグストアのものより、随分と高いことはちょっとした驚きでした。製紙メーカーの工場が、東京よりはるかに近いところに立地しており、輸送コストもさほどかからないはずですが、競争環境と販売量が異なるからというのが理由になるのでしょう。

3つめのプライスカスタマイゼーション「購買者特性によるフェンス」は、次回とさせていただきます。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その23

新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。 1. 新商品の位置付けの明確化 2. 新商品のベネフィットの評価 3. 新 商品の価格帯の決定 4. 市場規模の予測 5. 新商品の価格提示と価格帯の調整 前回(価格その22) は、上記1の「 新商品の位置付けの明確化」...