10/24/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その23

新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。

1. 新商品の位置付けの明確化

2. 新商品のベネフィットの評価

3. 新商品の価格帯の決定

4. 市場規模の予測

5. 新商品の価格提示と価格帯の調整


前回(価格その22)は、上記1の「新商品の位置付けの明確化」ですべきことは、当該新商品が革新型、改良型、模倣型のどれに該当するかを判断することです。要は、市場における当該新商品の位置付けをハッキリさせるということです。

この1で、どのタイプ(型)に該当するかが決まれば、次は2の新商品のベネフィットの評価へと進みます。


2の「新商品のベネフィットの評価」では、当該品がどういった種類のベネフィットをうたっているのか、機能なのか、プロセスなのか、リレーションシップなのかといったことを評価します。但し、差別化のもとになるベネフィットは、マーケティングミックス前のコンセプト策定時点で検討を終えていなければなりません(ブランディング (7)マーケティングミックス② プロダクト)。

新商品の評価は、関係者の勝手な思い込みを鵜呑みにすることなく、データや情報を集めて、できる限り定量的に行うことが重要です。一般的な消費者調査では、コンジョイント分析や、PSM分析(Price Sensitivity Measurement, 価格感度測定)になります。ほかにも、定量手法として、価格設定に関する実証実験(新商品が実在している場合に限定)、ヒストリカルデータを用いた市場取引分析(過去における商品の価格変動や取引量等の時系列データ分析、既存商品には有効)などがあります。

専門家による判断については、専門家次第の感はありますが、相対的にいって今日では、(筆者だけかもしれませんが)その判断が妥当性を欠くことが珍しくありません。むしろ見込み客となりうる消費者(或いは法人企業など)を慎重に選定して、無料で新商品を一定期間試してもらうほうがはるかに効果的でしょう。但し、パイロットテストをとおして、見込み客には忌憚ない意見をしっかり語ってもらうことがが前提です。


3の「新商品の価格帯の決定」は、新商品の通常価格以外に、上限の価格と、いくらまでなら値段を下げてもいいかという下限の価格の範囲を決定します。食品でいえば、特に嗜好性の強い菓子や飲料などは、魅力的な価格設定を行うことで、市場規模の拡大が比較的やりやすい商品カテゴリーであるため、価格帯の決定は非常に重要です(消費者を惹きつける広告宣伝や販売促進は、もちろん別途必要ですが)。

このような商品カテゴリーでは、価格帯の幅を少し広めにとることがポイントになります。嗜好性の強い菓子や飲料は、リピート購買がふつうで、また、ファン化もしやすいため、単価を下げて販売すれば利益は減りますが、売上げ数量は増やすことができ、トータルで利益額を押し上げていくことができるからです。

但し、価格帯の上限値を高く設定できるのは、強いブランド力を持つ商品または企業に限られるのがふつうでしょう。ブランド力が弱かったり、そもそも認知されていなければ、価格帯の範囲はやや狭めにして、通常価格は中程度かやや低めに設定するほうが賢明です。なお、適正な下限値を設定するためには、甘い市場予測の下でコストを低めに見積もったり、コストを過大に見積もったりしないように、コスト分析を精緻に行うことが必要です。

ここで気をつければいけないことは、改良型の新商品の場合は特に、競合の反応を慎重に見極めなければならないということです。もしかなり安い価格で競合他社のシェアを奪いとるようなことをすれば、後戻りのできないような価格競争に陥る可能性があるからです。自社に置き換えて考えればわかりやすいと思いますが、みすみす自社のシェアが奪われていくことを見過ごすことなど、ふつうはできないでしょう。もし、その商品が自社の看板商品の地位を脅かすようなことがあれば尚更です。逆に、高めに価格設定をすれば、シェアよりも利益重視の姿勢を示せることで、他社はしばらく様子見をする可能性が高い(つまり価格競争にはならない)といえるでしょう。

革新型の新商品の場合は、他社の模倣型新商品が必ず登場してくるため、それまでの時間をどれくらい見込むか、また、他社が参入しにくくするような打ち手をどのようにとるかを考えなければなりません。浸透価格経験曲線プライシングなどは、大手企業であれば用いやすいでしょう。また、他社の参入を招きやすくなりますが、スキム価格も十分ありえる価格戦略でしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5価格その6)


4の「市場規模の予測」では、3の新商品のベネフィットの評価に基づき、消費者(または法人企業)セグメントごとに市場規模を算出します。これにより、どのセグメントが新商品を高く評価してくれて、どのセグメントがそうでないかを把握できるようになります。また、価格帯ごとに市場規模を予測することができれば、それぞれの価格と売上数量にふさわしいプライシングモデルが見えてくるはずです。PSM分析をセグメントごとに行えば、価格の受容範囲を探ることが可能です。(PSM/Price Sensitivity Measurement、価格感度測定)


5の「新商品の価格提示と価格帯の調整」については、一般的にいえば、販売チャネルの種類と競合の動きを考慮して行われていますが、このブログで論じてきたような消費行動をもっと重視する方向に転換できれば、より大きな売上げと利益の創出機会を獲得できるはずです。

そのためには、新商品の売り手企業が買い手である消費者や法人企業に対して、新商品のベネフィットや価値を的確に伝えられるマーケティングコミュニケーション能力をもっと磨いていくことが必要で、革新型の場合は尚更です。適切な販売チャネルの選定、効果的なプロモーション手法の選択とその実行頻度の検討が求められます。販売チャネルとプロモーションについては、プライシングの後に続けて行う予定です。


10/19/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その22

新商品の価格はどのように決めるのがいいのでしょうか。

コロナ禍以降、モノの値段は高騰(または暴騰)し、根拠のないめちゃくちゃな値付けになってしまったのものが少なくありません。なかでもお米はその代表格といえるでしょう。たとえば、大分県産のひとめぼれの特Aが、2024年の秋だと10kgで4,280円だったものが、25年には値段が上がり続け、筆者の知る限りで最高値の時には14,000円にもなりました。その後、値段は一定せず、11,000円くらいまで僅か1日くらいで下がったかと思えば、また上がったりするなど、消費者をバカにしたような値段がつけられ続けています。

野菜農家や果物農家、または畜産農家などと違って、米農家が生産する米の値段が、短期間で、1.5倍や2倍どころか、3倍以上にもなるというのは狂気の沙汰で、説明などつくはずがありません。何故なら、たとえばハウス栽培をする野菜や果物農家にかかる電気代とか、多くの肥料を輸入に頼るような畜産農家などと違って、米農家にはそういったインフラや原材料などに係るコストがないからです。勿論、まったく要らないというわけではありませんが、極めて小さいものに過ぎません。

このように近年のプライシングには、常識とか倫理といったものが通用せず、事業のあるべき姿やビジネス上のセオリーなどは消失した感があります。ですが、いつまでもこのような状態が続くわけでもなく、いずれそういった事業者は淘汰されることになるでしょう。


新商品のプライシングは、市場における当該商品の位置付けを考えて決めるというのが、おそらく最も適切なやり方です。モノであろうとサービスであろうと、新商品は、次の3つのいずれかに該当します。

革新型: 比較できる類似品が存在しない、まったく新しい商品

改良型: 機能強化、サービス付加など、既存品の延長線上にある商品

模倣型: 他社商品と比べ目新しさのない商品


自社が新たに開発している新商品が、上記3タイプのどれに該当するかを正しく判断することが、はじめにすべきことです。


革新型であれば、自由な値付けが可能ですが、そもそも買い手が当該品のベネフィットを理解してくれるかどうかはわからず、適正価格の設定とその後の価格コントロールは、参入してくる可能性のある企業を想定しながら行う必要があるため、非常に難しいものがあります。

革新型の価格戦略には、スキム価格浸透価格を適用することができます(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その6)。但し、自社新商品の価値を、経営者や担当者が過大に評価するケースは珍しくないため、何が革新的なのか、本当に革新的なのか(実は改良型に過ぎないものを革新型として売り込もうとしていないのかとか、実際のところは他社追随型の模倣品であるにも関わらず経営層向けの受けを狙ったものではないのかなど)を、見極めなければなりません。


改良型では、改良によって買い手が得られるベネフィットが適切なものか、また、そもそも買い手は改良を望んでいるのかといったようなことを正しく把握しなければなりません。また、当然のことですが、競合の動きは慎重に見極めなければならず、無用な価格競争に陥っては元も子もありません。やり方としては、差別化プライシング競争的プライシング製品ラインプライシングの3つに大別できます(価格その4価格その5)。


模倣型の場合は、買い手からすると、目新しいベネフィットは見当たらないため、費用構造を念入りに分析し、考えなければなりません。また、自社のブランドイメージを毀損するような値付けだったり、市場ポジショニングと乖離した値付けをするようなことになると、取り返しのつかない失敗につながる可能性もあるため、細心の注意を払って行う必要があります。模倣型では、協調適応日和見略奪という4つ価格戦略のいずれかを用いることができます(価格その6)。


繰り返しになりますが、新商品のプライシングは、対象となる新商品が革新型なのか、改良型なのか、模倣型なのか、どれに該当するのかを慎重に見極め、その新作の位置付けを明確にすることから始めます

注意しなければいけないことは、いきなり細かい点から入ってあれこれ論じたり、いくらにすれば損をせずに済むかといったような、謂わば局所的な検討や、リスク回避的ともいえるような思考や行動は避けなければならないということです。新商品の可能性を自ら狭めたり、むやみに広げたりすることがあってはなりません。まずは、高いところから考える、全体を見るといった思考アプローチで、新商品のタイプ(革新型、改良型、模倣型)を考えることが必要です。


位置付けを明確にしたら、次は当該新商品のベネフィットを評価することになります。これについては、次回にしたいと思います。


10/13/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その21

前回の価格その20は、ネイゲルとホールデンの7つのプライシング・セグメントの2つめから4つめまで、「購入場所によるセグメント化」、「購入時間によるセグメント化」、「購入数量によるセグメント化」について触れました。今回は、残りの3つについてです。


5つめの「製品デザインによるセグメント化」は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの「製品ラインアップによるフェンス」のなかの一つに含めることができるでしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16)

ネイゲルとホールデンは、このセグメント化の例として、航空会社のビジネストラベラー向けフライトスケジュールの調整が容易いタイプの航空券と、多くの観光旅行者向けのフライト日程変更不可の航空券の違いや、石油会社の精製コストは、レギュラーガソリンとプレミアムでは殆ど変わらないにも関わらず、販売価格には一定の違いがある例などを挙げ、売り手が再販を制限できるプロダクトを扱う場合には、このセグメント化は容易に行うことができるとしています。


6つめの「製品とりまとめによるセグメント化」は、7つめの「抱き合せ販売によるセグメント化と測定」と併せて、サイモンとドーランの「取引特性によるフェンス」(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18)のなかの一つに含まれます。

グロッサリーストアやファストフード店などでの商品購入で得られるスピードくじ、レストランで単品注文よりもお得なセットメニューなど、日本でもお馴染みのものですが、米国では一層ポピュラーなもので、食品や日用品などの最寄り品でよくみられるセグメント化です。

専門品の代表的な商品である車では、たとえば新車購入時に、モノやサービスなど様々なオプションをつけて販売しています。とりまとめて一括購入すると、個別に購入するよりも、安く、何より手軽に手に入れられるのが買い手からはメリットでしょうし、売り手もあまり手間をかけずに売上げを伸ばすことができます。パッケージ旅行商品にあるオプショナルツアーなどもこれに含まれ、選択可能な付加価値的とりまとめをするセグメント化といえるでしょう。


最後の「抱き合せ販売によるセグメント化と測定」は、おそらく最もよく知られるものに、製品とメンテナンスサービスの組合せが挙げられます。日本でも、マンションなどの集合住宅や業務用エレベーターなどは、その代表例といえるのではないでしょうか。ほかにも複写機とインクカートリッジや、PCとソフトウェア、また、DVDでの人気ソフトとそうでないものとの組合せなどがあります。ところで、この7つめのセグメント化での「測定」というのは、製品の使用頻度をモニタリングし、サービスを付加して、つまり抱き合せて提供するということが、このセグメント化の目立った特徴(但し、全てがそうではありません)であるためです。固定費が高い業界では、このセグメント化は効果的といえるかもしれません。


プロダクトの何処に着目すれば、より利益を生み出すプライシングが可能になるのか、優れたセグメント化が実現されるのかといったことは、マーケティングマネージャーの卓越した市場インサイトにかかっているといえるでしょう。


10/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その20

前回の価格その19は、プロダクトの提供方法の変更をとおして、異なる価格設定の重要性について述べました。そのなかで、ネイゲルとホールデンの7つのプライシング・セグメントの有用性について触れ、1つめの「買い手の身元確認によるセグメント化」について概説しました。


今回は、2つめの「購入場所によるセグメント化」から始めます。このセグメント化は、日本でも広く行われている一般的なやり方です。なお、このセグメント化は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のひとつである利用可能性によるフェンス」の購入場所の限定と同じ考え方です(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その17)

価格その17の内容と重複しますが、場所によるセグメント化の例として、たとえば、ホテル客室内のミニバーや冷蔵庫にある飲料などが通常価格より大幅に高いこと、宅配ピザと同じピザを店内で食べた時の価格の違い、外国人が日本以外の居住地で日本国内の列車チケットを購入する時の割引料金、競争の激しいエリアとそうでないところの同一小売チェーンが扱う同一商品の価格の差異、オフィス街にある自販機で売られている飲料の価格とリゾート地やへき地などでの価格の違い、地域によって送料が異なるケースなどが挙げられます。

また、グローバル化が進行しているとはいえ、同じ商品でも国によって取り巻く競争環境が異なるため、価格に大きな差異が生じていることは珍しくありません。広く知られているコカ・コーラやマグドナルドのハンバーなどが、為替や物価水準を差し引いても、国や地域よってかなりの違いがあるのはこのためです。


3つめの「購入時間によるセグメント化」は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの「取引特性によるフェンス」のひとつに該当します(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18)飛行機や列車、ホテルなどの早割、高速道路の深夜割引をはじめ、自動車保険等の契約更新前の早期割引、電気やガスなどのインフラ料金の時間帯別割引などが挙げられます。ほかにも、ファッション衣料雑貨のシーズン終了後のバーゲン価格や、型番が古くなったPCほかのIT関連製品、車のモデルチェンジ直前の現行モデルのディスカウント、さらにはレストランでのランチタイムのお得価格なども該当するでしょう。


4つめの「購入数量によるセグメント化」も、「取引特性によるフェンス」のひとつに数えられます。価格その18ではFSPなどのポイントアップ・プログラムについて触れました。ネイゲルとドーランは、購入数量割引には、「ボリューム割引」、「オーダー割引」、「段階的割引」、「二重価格」の4つの種類があるといっています。

両氏のいうボリューム割引とは、基本的に法人の大口顧客向けで、ビジネスを継続させるために適用されるものです。一般消費者向けは、オーダー割引という名称となり、少しでも多くの量を、注文金額をより大きなものにするために行われるものです。たとえば、飲料やアルコール類の1ケース売り、菓子類の4袋まとめ売り、最近ではアマゾンの4点買うと5%オフなどになるでしょう。

段階的割引は、指定数量を上回って購入した場合に割引が適用されるものをいいます。両氏は、電気料金を例に説明していますが、日本ではあまり一般的とはいえません。おそらく最も知られているものは、ポイントアップ・プログラムで、年間購入金額が一定額を上回ると、ポイント還元率がアップするというものでしょう。リアル、ネット問わず、この段階的割引の仕組みを取り入れている企業は少なからずあります。

ここでの二重価格とは、ひとつのプロダクトの消費に対して、異なる2つの請求をすることをいいます。基本料金と個別の利用量、たとえば、スポーツジムやフィットネスクラブの年会費と時間帯別利用料金、比較的高額なレストランでのメニュー料金とサービス手数料などが代表的ではないでしょうか。

両氏は、二重価格によるセグメント化は、高頻度利用者には有利に働く一方で、低頻度利用者にも魅力あるサービス提供を維持継続させることを可能にするとしています。フィットネスクラブを頻繁に利用する人は、年会費を利用回数で割ると1回当りの額が低くなり、あまり利用しない人にとってはいつも使っている人でも飽きがきにくい設備・仕様環境を楽しめるからということになるのだろうと思います。

5つめの「製品デザインによるセグメント化」以降については、次回といたします。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その23

新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。 1. 新商品の位置付けの明確化 2. 新商品のベネフィットの評価 3. 新 商品の価格帯の決定 4. 市場規模の予測 5. 新商品の価格提示と価格帯の調整 前回(価格その22) は、上記1の「 新商品の位置付けの明確化」...