新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。
1. 新商品の位置付けの明確化
2. 新商品のベネフィットの評価
3. 新商品の価格帯の決定
4. 市場規模の予測
5. 新商品の価格提示と価格帯の調整
前回(価格その22)は、上記1の「新商品の位置付けの明確化」ですべきことは、当該新商品が革新型、改良型、模倣型のどれに該当するかを判断することです。要は、市場における当該新商品の位置付けをハッキリさせるということです。
この1で、どのタイプ(型)に該当するかが決まれば、次は2の新商品のベネフィットの評価へと進みます。
2の「新商品のベネフィットの評価」では、当該品がどういった種類のベネフィットをうたっているのか、機能なのか、プロセスなのか、リレーションシップなのかといったことを評価します。但し、差別化のもとになるベネフィットは、マーケティングミックス前のコンセプト策定時点で検討を終えていなければなりません(ブランディング (7)マーケティングミックス② プロダクト)。
新商品の評価は、関係者の勝手な思い込みを鵜呑みにすることなく、データや情報を集めて、できる限り定量的に行うことが重要です。一般的な消費者調査では、コンジョイント分析や、PSM分析(Price Sensitivity Measurement, 価格感度測定)になります。ほかにも、定量手法として、価格設定に関する実証実験(新商品が実在している場合に限定)、ヒストリカルデータを用いた市場取引分析(過去における商品の価格変動や取引量等の時系列データ分析、既存商品には有効)などがあります。
専門家による判断については、専門家次第の感はありますが、相対的にいって今日では、(筆者だけかもしれませんが)その判断が妥当性を欠くことが珍しくありません。むしろ見込み客となりうる消費者(或いは法人企業など)を慎重に選定して、無料で新商品を一定期間試してもらうほうがはるかに効果的でしょう。但し、パイロットテストをとおして、見込み客には忌憚ない意見をしっかり語ってもらうことがが前提です。
3の「新商品の価格帯の決定」は、新商品の通常価格以外に、上限の価格と、いくらまでなら値段を下げてもいいかという下限の価格の範囲を決定します。食品でいえば、特に嗜好性の強い菓子や飲料などは、魅力的な価格設定を行うことで、市場規模の拡大が比較的やりやすい商品カテゴリーであるため、価格帯の決定は非常に重要です(消費者を惹きつける広告宣伝や販売促進は、もちろん別途必要ですが)。
このような商品カテゴリーでは、価格帯の幅を少し広めにとることがポイントになります。嗜好性の強い菓子や飲料は、リピート購買がふつうで、また、ファン化もしやすいため、単価を下げて販売すれば利益は減りますが、売上げ数量は増やすことができ、トータルで利益額を押し上げていくことができるからです。
但し、価格帯の上限値を高く設定できるのは、強いブランド力を持つ商品または企業に限られるのがふつうでしょう。ブランド力が弱かったり、そもそも認知されていなければ、価格帯の範囲はやや狭めにして、通常価格は中程度かやや低めに設定するほうが賢明です。なお、適正な下限値を設定するためには、甘い市場予測の下でコストを低めに見積もったり、コストを過大に見積もったりしないように、コスト分析を精緻に行うことが必要です。
ここで気をつければいけないことは、改良型の新商品の場合は特に、競合の反応を慎重に見極めなければならないということです。もしかなり安い価格で競合他社のシェアを奪いとるようなことをすれば、後戻りのできないような価格競争に陥る可能性があるからです。自社に置き換えて考えればわかりやすいと思いますが、みすみす自社のシェアが奪われていくことを見過ごすことなど、ふつうはできないでしょう。もし、その商品が自社の看板商品の地位を脅かすようなことがあれば尚更です。逆に、高めに価格設定をすれば、シェアよりも利益重視の姿勢を示せることで、他社はしばらく様子見をする可能性が高い(つまり価格競争にはならない)といえるでしょう。
革新型の新商品の場合は、他社の模倣型新商品が必ず登場してくるため、それまでの時間をどれくらい見込むか、また、他社が参入しにくくするような打ち手をどのようにとるかを考えなければなりません。浸透価格や経験曲線プライシングなどは、大手企業であれば用いやすいでしょう。また、他社の参入を招きやすくなりますが、スキム価格も十分ありえる価格戦略でしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5、価格その6)。
4の「市場規模の予測」では、3の新商品のベネフィットの評価に基づき、消費者(または法人企業)セグメントごとに市場規模を算出します。これにより、どのセグメントが新商品を高く評価してくれて、どのセグメントがそうでないかを把握できるようになります。また、価格帯ごとに市場規模を予測することができれば、それぞれの価格と売上数量にふさわしいプライシングモデルが見えてくるはずです。PSM分析をセグメントごとに行えば、価格の受容範囲を探ることが可能です。(PSM/Price Sensitivity Measurement、価格感度測定)
5の「新商品の価格提示と価格帯の調整」については、一般的にいえば、販売チャネルの種類と競合の動きを考慮して行われていますが、このブログで論じてきたような消費行動をもっと重視する方向に転換できれば、より大きな売上げと利益の創出機会を獲得できるはずです。
そのためには、新商品の売り手企業が買い手である消費者や法人企業に対して、新商品のベネフィットや価値を的確に伝えられるマーケティングコミュニケーション能力をもっと磨いていくことが必要で、革新型の場合は尚更です。適切な販売チャネルの選定、効果的なプロモーション手法の選択とその実行頻度の検討が求められます。販売チャネルとプロモーションについては、プライシングの後に続けて行う予定です。