ここまでは、プロモーションミックスの5つの要素について述べてきました(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1、その2)。今回は、幾つかのプロモーションを組み合せて、効果的なコミュニケーションを行っていく上で、前提としておさえておくべき事柄について述べてみたいと思います。
広告をはじめとしたマーケティングコミュニケーションの目的は、自社のプロダクトを買ってもらえるように、買い手(消費者、法人企業)に良い影響を与えることです。それぞれのコミュニケーションを的確に機能させ、良い影響を与えられるようにするためには、買い手の購買/利用行動(以下「購買行動」)に与える要因を、把握しておくことが必要です。
購買行動に影響を与える要因には、①購買者の背景と役割、②購買者の経験、③購買者の情報源の3つがあります。
①は、購買者の地理的、社会的、文化的、個人的といった背景がどのようなもので、どういった役割でプロダクトを購入しようとしているのかということです。
地理的というのは、日本の場合であれば、たとえば関東と関西、もっと絞り込めば東京と大阪では、行動様式や話のすすめ方などが大きく違います(筆者は大阪出身で東京に長く暮らしたため、そのあたりのことが皮膚感覚としてよくわかります)。大阪のほうが東京よりも、より直裁的、実利的に話をする傾向が高いといえますし、そもそも大阪人には今でも話好きの人がたくさんいます。また、最近では外国人が増えてきているため、宗教的・人種的という要素も考慮すべきでしょう。
役割というのは、自分のために買うのか、家族や第三者のために買うのかということです。これに加えて、同じ自分のためであっても、プライベートなのか、或いは仕事でなのかということも把握しておく必要があるでしょう。たとえば新幹線に乗る時、仕事であればグリーン、プライベートなら一般車両という人は少なくありません。
②の購買者の経験については、おそらく最もわかりやすい例のひとつとして、自動車の購入が挙げられます。はじめて車を購入する人と、何度も買い替えている人では、車に対する経験値が全く異なるため、車の購入にあたって、車の性能は勿論のこと、ディーラーに対して要求するサービスレベルも自ずと変わってきます。最寄り品の食品についても、家族に愛情を込めたおいしい家庭料理に作りたいと思っている人と、料理にはできる限り手間をかけずにできれば出来合いのもので済ませたいと思っている人とでは、全く違うのは明らかです。
③の購買者の情報源については、広告、SP、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングといったプロモーションミックスのような商業的情報源のほかにも、格付け機関のような(本来は?)半ば公的な情報源、家族や友人・知人などの人的情報源、また自身の購買等の経験で得た情報源などが挙げられます。このように見ると、プロモーションミックスに代表される商業的情報源が、必ずしも買い手に大きな影響を与えているとはいえないことがわかります。
SNSなどの口コミは、人的情報源のようなものといって差し支えないでしょうが、現在の口コミにみられるようなウソや欺瞞に満ちた状態、或いは特定者を攻撃するためにSNSが使われているような状況では、良識ある買い手は何を参考にすればいいのかわからなくなってしまったというのが実情で、それは売り手にとっても同じようなことでしょう。そう考えると、購買行動に影響を与える3つの要因のうち、①の購買者の背景と役割をしっかり把握し、②の購買者の経験を見極めることが、これまで以上に、売り手、買い手双方にとって、ますます重要なことになってきているといえます。
以上を踏まえつつ、マーケティングコミュニケーションをうまく機能させるには、購買者の意思決定における関与の仕方と、重視するベネフィットのタイプを見定めることです。
関与については、意思決定に要する時間や労力、関係する人の数と関わってきます。関与が、ルーチン的な問題解決にあたるものなのか、或いは広範囲に及ぶ問題解決なのかによって、違いが生まれるのは明らかです。前者であれば、たとえば1週間の食事の献立を考えて買物リストを作ること、後者であれば典型的なものとして住宅購入の検討が挙げられます。
ルーチン的な関与に対するコミュニケーションは、相対的にいえば既存顧客の維持が主たる目的になるでしょう。継続的なコミュニケーションにより、商品が繰り返し購入される可能性が高まります。コミュニケーションが途切れれば、顧客は当該商品を思い起こすことなく、他の商品を購入してしまうかもしれません。
広範囲に及ぶ関与に対するコミュニケーションでは、買い手に新商品を認知させ、商品の特性を理解してもらうことで購買につなげていくことが主な目的となります。謂わば買い手の購買を支援する学習プロセスのような働きを、コミュニケーションが担う役割になるといえるでしょう。
ベネフィットについては、買い手が最も重視しているものが何かを見極めることです。それは機能性なのか、情緒的なものなのか、或いは自己を表現できるものなのかといったことです(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場、SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。
ルーチン的な問題解決にあたる関与では、日常的な購買行動に該当することが多くなることから、一般的に言えば、機能的ベネフィットが最も重視されるといえるでしょう。仮に、日常的な購買行動のなかで、情緒的ベネフィット、または自己表現ベネフィットが重視される場合は、衝動的な買い方が行われる時で、これには商品に関する表現やメッセージが大きな役割を果たします。
一例として、ぶどうを絞った天然100%のグレープジュースは、飲みやすく(体に吸収しやすい)、カリウムを多く含んでいるため、高血圧予防によいとされています。ナトリウムを排出して、体内の塩分を調整することから、血圧を安定させるためですが、ほかにも、ポリフェノールを含んでいるため抗酸化作用(アンチエイジング)も期待されているのはよく知られているところです。また、ポリフェノール成分の一種であるアントシアニンも含んでいることから、最近ではスマホ疲れなど、眼精疲労の回復にも役立つことなどから、シニアから若者まで、幅広い人気があります。
上記文字のグレープカラーのところが、機能的ベネフィットに該当しますが、これを情緒的ベネフィットに変換すると、もっと健康的で、若々しい自分になれるというような表現ができると思います。これを自己表現ベネフィットに押し上げると、人それぞれかとは思いますが、自分らしくいられるとか、自分の理想に近づけるといった言い回しになるのではないでしょうか。仕事にたとえれば、幾つになっても、フットワークよく、効率的で、スマートなビジネスパーソンになれるなどといえるのかもしれません(R&Dと組織横断活動型活動(1)はじめに③)。
広範囲に及ぶ問題解決にあたる関与では、3つのベネフィットどれもが該当しますが、おそらく買い手が最も重視するのは、結果として、自己表現ベネフィットになると筆者は思います。高額品であればあるほど、その傾向は高まります。たとえば、住宅であれば、通常注文住宅が最も高額になります。買い手が仮に機能性を重視し追求していった結果が、その人のスタイル、つまり自己表現として、注文住宅が出来上がることになるからと言えるからです。
次回は、効果的なコミュニケーションの開発とながれについて考えていきたいと思います。