5/25/2024

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価iii

ターゲットセグメントを特定する方法として、ポートフォリオ・マトリクスを用いることはよく知られています。そのマトリクスでは、事業の成長機会を検討するアンゾフの成長マトリクス、ポートフォリオのバランスを評価するBCGのPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス、市場成長率x相対的マーケットシェア)、GEの9つのマトリクス(業界の魅力度x事業単位の地位)が、特に有名です。

ターゲットセグメントの選択には、縦軸に市場セグメントの魅力度、横軸に自社のビジネスポジションを置き、2つの軸に適切な諸要因を当てはめ、重要度によって重みづけします。これまで記述してきたものと重複するところがあるため、2つの軸に貢献する主だった要因の名称だけを挙げておきます。


市場セグメントの魅力度

市場要因

市場のサイズ(金額、量)、主要セグメントのサイズ、年間成長率(全体、セグメント)、市場の多様化状況、プロダクトの内容、価格、外部への感度、需要の季節性、サプライヤーのパワー、バイヤーのパワー

競合要因

競合のタイプ、競合の集中度、シェアの変化、新技術による代替可能性、垂直または水平の統合の程度とタイプ、市場の参入と撤退

財務・経済的要因

貢献利益、規模の経済、学習効果、参入と撤退の障壁、設備の稼働率

技術的要因

成熟度と変化度、複雑さ、技術開発に要する時間、上市までのリードタイム、差別化、特許や知的所有権、必要な生産プロセス

企業を取り巻く環境要因

社会の傾向や態度、法律と政府による規制、圧力団体の存在と政府への影響力、組合やコミュニティとの人的調和


ビジネスポジション

市場要因

市場シェア、主要セグメントにおけるシェア、自社の売上成長率(全体、セグメント)、自社の多様化状況、自社の市場への影響度、サプライヤーとの力関係、バイヤーとの力関係

競合要因

プロダクトとマーケティング力における他社との比較(バランスや位置づけ)、生産上の強み、財務上の強み、相対シェアの変化、自社の新技術に対する弱み、自社の統合レベル、自社のセグメントにおけるプレゼンスの程度(参入未参入、放置など)

財務・経済的要因

マージン、事業規模と経験の有無、自社にとっての参入と撤退の障壁、自社設備の稼働率

技術的要因

変化への対応力、アイデア創出から上市までのリードタイム、プロダクトライフサイクルの長さ、技術力(萌芽・途上・戦略・基盤等の各技術)、特許件数、外部企業との技術上の連携の有無

企業を取り巻く環境要因

トップのリーダーシップ、開発途中での失敗を成功に転じることのできる組織運営能力、法律や規制への対応力、外部ステークホルダーとの関係構築力


縦軸に市場セグメントの魅力度を、横軸にビジネスポジションとしたマトリクスを、たとえば9つに区分します。前者を高・中・低、後者を強・中・弱とします。市場セグメントの魅力度が高く、ビジネスポジションが強い象限に該当するものは、まさにターゲットセグメントです。2番目に狙うセグメントは、セグメントの魅力度が高くビジネスポジションが中のものか、前者は中程度だが後者が強い場合です。

セカンドターゲットとまではいかないまでも、可能性があるものは、セグメントの魅力度は高いが自社のビジネスポジションが弱いところか、セグメントは低いがポジションが強いところです。言うまでもなく、必ず回避しなければいけないのは魅力度が低くポジションも弱いところです。また、セグメントの魅力が中程度でポジションが弱い、また、セグメントの魅力が低でポジションが中程度のところについては、基本的に回避するのが妥当だといえるでしょう。

最後に、各要因をどう計測するかという問題がありますが、スコアや重みづけは経験に基づいたり、経営上の判断に委ねられるのが一般的だと思います。実務において、重みづけなどは最終判断に思ったほど影響を与えないように感じます。


5/19/2024

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価ii

ターゲットセグメントを特定するためには、自社の現行マーケットポジション、自社の経済的・技術的ポジション、自社の特徴の3つを、評価することが必要です。前回自社の現行マーケットポジションについて述べました。今回は、残りの2つについて簡潔に記述しておきたいと思います。


自社の経済的・技術的ポジション

相対的なコスト構造は、特定セグメントにおける競争力の優劣を決める可能性があります。つまり、相対的に低い技術開発コスト、生産コスト、マーケティングコストは、市場競争において優位に立てるということです。価格感度が高い商品、特にSMやCVSなどが扱う最寄り品などを低価格で提供できるというのはひとつのアセットになります。 

一方で、ハイエンドな車や衣服などの専門品においては価格がそれほど重要とはいえないため、コスト優位は強力なアセットにはなりにくいといえるでしょう。なお、家具家電などの買回り品については、一部のハイスペックな製品や、マニアック的なファンがいる製品(たとえば、TVはソニー製でなければいけない)などは除いて、低コスト構造は競争優位を発揮することに役立ちます。

 

技術開発力は、市場競争上、非常に重要であるのは明白です。技術開発力といっても、先駆的なものもあれば、設計の仕組みづくりや、設計対応時間の速さのような変化に即応できる力、アーキテクチャー全体の構想力など多様です。時には、最新技術ではなく、低い技術レベルで市場に対応することが適切な場合も多々あるはずです。いずれにせよ、ターゲットセグメントの顧客が何を求めているかを見極め、当該顧客の課題を解決するために、技術を調和させることが、最も重要なことになります。

 

生産能力は、トヨタ生産システムに代表されるように、製造業にとって極めて重要な要素であり、超高効率を実現する生産システムは、企業間競争の要ともいえるでしょう。また、中小規模の製造業であれば、生産能力の最大活用、最適水準の見極めとその達成が最も重要なことであるはずです。

 

自社の特徴

人的資産、特に経営層のリーダーシップが、ターゲットセグメントを特定し、製品やサービスの開発プロジェクトを成功裏に終わらせる鍵になることが少なくありません。 

戦略を実行できる組織とできない組織では何が違うのでしょうか。実行できない組織には、リーダーのコミットメントが欠如していることがよくあります。目標が曖昧だったり、アカウンタビリティが欠如していたり、典型的な縦割り組織が業務の進行を阻害していたり、こういった問題を抱える組織は、トップが責任をもって関与しない限り、根本的に解決することはできないでしょう。

 

川上や川下をコントロールできる力とその範囲は、日本の総合商社の動きを見れば、その重要性がわかります。原材料供給の川上、流通チャネルの川下、これらの領域での企業のパワーが強ければ、統合レベルを高めるほど、競争相手よりもはるかに強大なポジションを構築できることは明らかです。

 

ターゲットセグメントで、自社が強みを発揮できるかどうかは、前回と今回に述べたような項目で、検討を重ねることが必要です。ここで、見極めるべきことは、自社の強みが、特定したセグメントにおける顧客の諸要求に関係していることと、同一セグメントを対象にしている競争相手にも関係していることです。これが非常に重要です。区切りがよいため、続きは次回とさせていただきます。




5/12/2024

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます(ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目)。規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめったにないからです。

最も重要なことは、ターゲットにするセグメントが自社にとって価値があり、且つ一定の地位を確保できるか、防御できるかということです。このためには、当該セグメントにおいて、自社が強みを発揮できるかどうかを見極めなければなりません

自社が競争に勝てるセグメントか否か、攻めるべきセグメントかどうかを検討するためには、次の3つの視点で考察するのがよいでしょう。

自社の現行マーケットポジション (相対的マーケットシェア、マーケットシェアの変化率、高付加価値プロダクトの受容可能性、マーケティングアセットの有効性)

自社の経済的・技術的ポジション (相対的なコスト構造、技術開発力、生産能力)

自社の特徴 (人的資産特に経営層のリーダーシップ、川上や川下をコントロールできる力とその範囲)


自社の現行マーケットポジション

相対的マーケットシェアは、企業が顧客にどれだけ受け入れられているかを表す指標です。高いシェアを持つ企業は、より幅広い顧客から認知され、通常、広範囲に及ぶ流通網を築いているため、そのシェア自体がより一層市場に浸透していく上で有利な状況を生み出します。

その高いシェアを誇るブランドが、市場のトップブランドで、消費者市場を対象にしているのであれば、尚更でしょう。というのも、相対的にいえば、多くの消費者はトップブランドを購入したがる傾向があるためで、これはデジタル時代の今日、ますます顕著になってきているように筆者は感じています。加えていえば、トップブランドは新規参入含めて競合するブランドのシェア獲得・拡大に、何もせずただ見ているということがないからです。

なお、この相対的マーケットシェアは、 ターゲットセグメントにおけるシェアを表したものでなければなりません。何故なら、当該プロダクトが市場全体を対象にしていない限り、ターゲットセグメントにおけるシェアではないものを云々することは、意味がないからです。

 

マーケットシェアの変化率は、ターゲットセグメントにおいて、シェアを維持しているか、伸ばしているか、落しているかといったことを知る点で重要です。仮に、自社の売上げが順調に伸びていたとしても、シェアが低下しているようであれば、ターゲット市場の成長率に自社が追いつかず、競合がシェアを伸ばしているということがわかります。こういった場合は、状況に応じて、マネージャーは量的に拡大させるのか、利益率の向上を目指すべきなのかといったことを、再度、判断し直すことが必要となります。前者であれば、値下げをすることが有効な手段でしょうし、後者ならば差別化できる要素をプロダクトに付加するということが考えられます。

 

高付加価値プロダクトの受容可能性は、優れたプロダクトが市場に受け入れられるか、顧客が継続して購入してくれるかといったことを見るわけですが、これは当該ターゲットセグメントの潜在力を検討する上で重要です。仮に、価格変動に敏感な消費者が多数を占め、品質よりも低価格であることにまず反応するようであれば、自社にとって当該セグメントは魅力的なものではないのかもしれません。

 

マーケティングアセットの有効性も、自社の現行マーケットポジションを考える上で、重要な項目です。ここでいうマーケティングアセットには、顧客ベース、流通ベース、インターナルの3つがあります。

 

顧客ベースのアセットには、 企業名やまさにブランドネームであったり、企業の名声、プロダクトの独自性や優位性、市場支配力といったものが含まれます。中でも、企業名が誰の目にもはっきりわかるものであれば、それはブランドネームに転化し、企業のあらゆる製品に利用されることになります。筆者が以前、在籍していたIBMは、まさに20世紀から2010年(?)くらいまで長く続いた顧客に強く支持されるブランドでした(今でも続いているかもしれませんが、クラウドの時代になって、IBMが少し遅れた感は否めません)。

流通ベースのアセットには、 配送または配荷リードタイムや安定供給などを含めた流通のネットワーク、流通の独自性などが挙げられます。前者であればその代表格はアマゾンやクロネコヤマトなどが、はじめに挙がるのではないでしょうか。後者については、以前の化粧品訪問販売や生協などが該当すると思います。

インターナルアセットについては、 技術力、コスト競争力、著作権と特許、生産ノウハウ、フランチャイズやライセンス、現有顧客基盤などが対象となります。

企業があるセグメントに向き合う際、マーケティングアセットがどういった働きをするのかを考えなければなりません。ターゲットセグメントについては、強みを発揮できたとしても、それ以外のセグメントに対しては弱みになりうる場合があります。ターゲットセグメントにおいて、マーケティングアセットを引き続き開発する価値や意味、開発することが妥当と判断できれば、企業はそのセグメントにおいて、潜在的な強みを持つことができるといえるでしょう。

自社の経済的・技術的ポジションと、自社の特徴については、このまま続けていくと、長くなりすぎるため、次回にしたいと思います。


5/02/2024

ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目

ターゲティングは、はじめにセグメントした市場を評価し、次に自社が競争に勝てそうなセグメント、或いは攻めるに値するセグメントを特定するというステップで進めます。

セグメントを評価する項目には、以下のようなものが挙げられます。

市場要因 (セグメントの規模、セグメントの成長率、価格の弾力性、需要の季節変動性、顧客の交渉力、産業のライフサイクル、予測可能性) 

経済的要因 (参入と撤退の障壁、製造業などサプライヤーの交渉力、技術の蓄積と変化のスピード、投資の必要性、マージンのレンジ)  

競争要因 (競争の強度、競争相手の成熟度、差別化の程度、代替品の脅威)

政治的・社会環境要因 (法規制、倫理や社会的な責任行動、気候変動対等)


市場要因

セグメントの規模は、販売拡大や生産における規模の経済達成のためには、必要不可欠で、市場の魅力度を評価する上で重要な項目です。 

セグメントの成長率についても、多数の企業が重視します。というのも、市場の成長と共に、自社も比較的たやすく成長することが可能とみることができるからです。

価格の弾力性については、通常、低い市場のほうが高い市場よりも魅力的です。価格弾力性が高い市場は、価格に対して敏感なため、価格競争が起こる可能性が高くなります。特に、成熟市場においてはそれが顕著であり、多くの企業が市場から撤退していく可能性があります。

需要の季節変動性は、見方によっては魅力的な要因となります。一年の上半期に大きな需要を抱える企業が、下半期の需要も得て、年間をとおして需要が見込めるようになると、自社リソースを安定的に活用できるようになる、こういったことが考えられます。

顧客の交渉力は、エンドユーザーや流通業者などの購買力を指します。一般的にいえば、購買者のパワーが強大であればあるほど、その市場は魅力的ではありません。メーカーが市場を独占している度合いの高いほうが、まだ、ましといえるでしょう。

産業のライフサイクル(またはプロダクトのライフサイクル)については、台頭/導入期、成長期、成熟期、衰退期といった4つのライフサイクル・ステージによって、直面する問題や立案する戦略が変わってきます。 

たとえば、台頭/導入期であれば技術や商業面での不確実性が高く、それによってとるべき戦略はたとえばデファクトスタンダートの確立や初期ユーザーを後押しする施策を矢継ぎ早に打つといったことが求められます。一方、成熟期であれば、不確実性が低くなる一方で、競争は激化し、低成長で低収益に悩むことが多くなります。顧客をつなぎ留めたり、マーケティング4Pの精緻化や、業務の効率化などが必要になるなど、企業にとっての魅力度は、企業そのものの成長や資金調達などによって異なってきます。

予測可能性は、産業のライフサイクルとも関係してきますが、市場の予測可能性が高いほど、セグメントの潜在的価値を予測することがたやすくなるといえます。

 

経済的要因

参入と撤退の障壁は、企業のおかれている状況によってまちまちです。たとえば、スイッチングコストが高い市場は、参入障壁を築けます。すでに参入している企業には魅力的な市場となりますが、これから参入を検討する企業にとってはそうとはいえないでしょう。一般的にいって、参入障壁を克服するには、多額の費用がかかる割には、得るものが少ないように思います。反対に、撤退障壁が高い、たとえば設備を使い続けなければならないような状態に陥っていることなどがあります。投資した設備が、高い参入障壁を築いたとしても、それは撤退障壁も高くなることが多いといえます。 

製造業などサプライヤーの交渉力は、メーカーが独占または独占に近い状態にある市場は、メーカーが競争し合っている状態のものより、魅力が劣ります。

技術の蓄積と変化のスピードは、競争相手の状況によって異なります。高い技術力を蓄積している企業は、その技術を用いて他社に対する高い参入障壁を築けるはずです。但し、その市場の技術変化が非常に速い場合は、そうとは限りません。

投資の必要性は、上記にあるような幾つかの要因と同様に、市場の魅力度に影響を及ぼします。大きな投資を必要とする場合は、すでに参入している企業にとっては他社に対する障壁となりえます。実際、多くの市場ターゲットには到達できないことを示していることが少なくありません。

マージンのレンジは、誰もが知るとおり、業種・業界、市場によってまちまちです。小売業でも、食品を扱うスーパーマーケット(SM)と、衣料品を扱う専門店では大きく異なるのがふつうです。SMでも、高級スーパーと呼ばれるようなところと、ディスカウントストア的な品揃えをしているスーパーでは変わってきます。

 

競争要因

競争の強度は、基本的に競争相手の数に関係します。1社独占か、複数による寡占状態か、或いは支配的な企業がまだ存在しないかといったことです。当然のことながら、ごくわずかな企業数によって支配されているような市場に参入するには、相手を上回る競争力が必要となります。完全競争またはそれに近い環境下では、価格競争が盛んであることが少なくありません。価格競争で勝てる見込みがほぼない小規模企業は、差別化できるプロダクトを提供しなければなりませんが、国内においては、多くの場合、それがうまくできずにいるのではないでしょうか。

競争相手の成熟度は、ルール順守やフェアな競争環境を維持しようとする企業で構成されている市場は、ある面で魅力的といえます。一方で、競争相手がしばしば変わり、その動きが予測しづらいような市場は、自らの手でコントロールすることが難しいといえ、故に魅力的な市場とはいえないでしょう。

差別化の程度については、差別化が進まない市場ほど、価格競争に走りがちです。差別化ができない市場は、閉塞感から、価格競争を生み、その競争がさらに市場を悪化させています。

代替品の脅威は、ほぼ全ての市場で起こりえるのではないでしょうか。技術革新は代替製品/サービスの登場につながります。自社があまり技術革新的でないと考える場合は、代替が起こりにくいと思える市場をターゲットすべきです。 


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...