今回は価格についての15回めで、価格の測定尺度を取り上げます。これまでの内容は次のとおりです。 価格その1(価格の多様性)、その2(価格検討3つのレベル)、その3(プロダクトレベルでの検討)、その4(先発企業の価格戦略①)、その5(先発企業の価格戦略②)、その6(先発企業の価格戦略③と後発企業の価格戦略)、その7(経営の意志)、その8(ライフサイクル①)、その9(ライフサイクル②)、その10(消費者の価格概念)、その11(内的参照価格①)、その12(内的参照価格②)、その13(バリュー・プライシング)、その14(EDLP)
価格の測定尺度には、よく知られるものとして、価格評価と価格感度があります。価格評価とは、プロダクト(商品/製品とサービス)を価格の視点で評価することです。価格感度は、価格変化に対する消費者をはじめとした買い手の反応を表します。たとえば価格感度の高い消費者というのは、価格に対して敏感な消費者という意味になります。
測定尺度には、もうひとつ「価格関与」というものがあります。「関与」は、国内外の研究で共通した用語ではなく、(共通の用語が存在しないために)学習院大学の元教授である上田隆穂氏が提唱したものです。上田氏の研究には、僭越ながら優れたものが多いと思いますが、ただ、この価格に関係するという意味合いの関与という用語に限って言えば、筆者にはどうもしっくりきません。ですので、本稿では「価格価値」という表現に変えて、消費者がプロダクト価格の支払いをとおして、自分が得たいことを表すものという意味合いを持たせた言葉にさせていただきます。
価格には、一般的に、「犠牲」、「品質」、「プレステージ」という3つの意味があるというのが通説です。犠牲については経済学で用いられるものですが、ビジネスの現場で使う言葉として、犠牲というのはあまりふさわしいとは思えませんので、筆者はこれを「対価」という言葉に変えたいと思います。
以上から、プロダクトを購入/利用する時に、価格がそのプロダクトの価値を表す価格価値については、第一に対価、第二に品質、第三にプレステージという3つで構成されることになります。
ひとつめの対価(または犠牲)については、当該プロダクトが備えていると期待されるそもそもの機能や働きに対して支払う消費者ごとの妥当性を表します。
ふたつめの品質は、消費者が要求する特徴や、機械でいえば性能、食でいえば味覚といったそのプロダクトの働きが持つ精度や程度を示すもので、価格の多少が品質の良し悪しを推し量ることになります。
プレステージについては、他者からどのように見えるか、または見られたいか、見せたいかといったことを表し、それが価格の高低でプレステージ性を感じるか否かという意味になります。
これら3つを用いた質問項目(測定尺度)については、上田氏のものをここにそのまま引用させて頂きます(上田隆穂著『マーケティング価格戦略』P113-114)
対価(または犠牲):
どのくらい安くなっているかが気にかかる。
価格の変化をたまにチェックする。
何処でも買えるならばディスカウントストアで買うほうがいい。
バーゲンや特売があるときに購買する。
品質:
高い商品は品質がよいと思う。
安物を買って後悔したくない。
高い商品を買っておけば面倒がなくてよい。
プレステージ:
正直にいうと、他人に印象づけるために私は高い商品を買う。
価格の高い商品を買うことによって、他人に自分を印象づけることができる。
他の人たちが私よりも高い商品を買っているかどうか時々探ってみたくなる。
これらの質問項目をそれぞれ7点尺度として(全くそう思うを7点、全くそうは思わないを1点など)、消費者ごとに点数をつけると、各人の傾向がわかり、対価(または犠牲)、品質、プレステージの3軸でサンプルを全てプロットすれば、価格価値(または価格関与)の消費者分布がわかり、ターゲットセグメントの発見につなげやすいと上田氏は述べています。
新規のプロダクト開発で、ターゲットセグメントを見つけるために適用できる面もあると思いますが、何より自社の現行顧客はどういった人たちが多いのか、対価志向か、品質志向か、プレステージ志向かといったことを知るのに役立ち、この点から自社の意図したものとの乖離を掴むことができるなど、非常に有用だと思われます。
但し、近年の異様な価格高騰下では、対価での点数が高くなり、価格で買物を考えるセグメントが非常に大きな割合を占めるようになるのは、(悲しいことですが)自然なことなのだろうと思われます。また、対価(または犠牲)の質問内容については、今日の経済情勢により即したものにする必要があると思いますので、これらの点については注意が必要です。
次回は、プライス・カスタマイゼーションについてです。