9/22/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その19

企業は商品の差別化をとおして、できる限り高い価格を設定したいと努めます。そのため、自社プロダクトのベネフィットを評価してくれる買い手を、少しでも多く獲得したいと考えます。何故なら、自社商品をいつも評価してくれる買い手は、そうでない人たちより、より多くの対価を支払ってくれるからです。

買い手によって異なる価格感度は、参照価格の違いによるものが大きいことは、これまで見てきたとおりです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その11その12)。(価格感度の説明については、こちら→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その15)


それでは、基本的に同じプロダクト(製品、サービス)において、どのようにすれば異なる価格を設定することができるのでしょうか。全く同じ環境下で、同一のプロダクトを、異なる価格で提供することは、通常できないでしょう。けれども、プロダクトの提供方法を変えたり、プロダクトの購入(または利用)時の条件を変更すれば、たとえ同じプロダクトであっても、異なる価格を設定することが可能になります。


買い手の特性に合わせて価格をカスタマイズするプライス・カスタマイゼーションについては、ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16その17その18で述べました。


このほかにも、トーマス・T・ネイゲル(米国シカゴ大学等の元教授)とリード・K・ホールデン(ホールデン・アドバイザー創業者、プライシングエキスパート)の7つのプライシング・セグメントという考え方があり、これも大変有効なものです(呼び名が違うだけで、買い手の特性に従い、異なる価格を設定するという考え方は、プライス・カスタマイゼーションと基本的に同じもの)。

両氏は、プロダクトにおける価値の相違と連動するプライシング・メトリクスを確立することは、様々な買い手を獲得することにつながると述べていますセグメント化されたプライシングで成功するためには、それぞれの業界の状況に即したアプローチを選択し、的確なプライシング・メトリクスと、価格感度の相違で買い手を区分するプライシング上のフェンスをいかに作るかにかかっていると説いています。

買い手の身元確認によるセグメント化

購入場所によるセグメント化

購入時間によるセグメント化

購入数量によるセグメント化

製品デザインによるセグメント化

製品とりまとめによるセグメント化

抱き合せ販売によるセグメント化と測定


買い手の身元確認によるセグメント化」は、よくあるセグメント化といえるでしょう。日本で典型的なものには、学生割引、シニア割引、クーポン利用による割引があります。なかでも、クーポンの活用は、異なる価格セグメントの消費者を惹きつけたり、プロダクトブランドの変更や新規顧客獲得の契機になり得ます。かつての携帯キャリアの乗り換えなどは、その典型例といえるでしょう。ほかにも、会員割引、提携先や提携カードメンバーへの割引、誕生日や結婚記念日等のアニバーサリー特典などが挙げられるでしょう。

この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、サイモンとドーランが説いたプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のひとつである「購買者特性によるフェンス」(ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その18)と、基本的に同じ考え方です。


ところで、この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、価格感度の高い買い手に対して有効なやり方ですが、身元を確認できるものを提示してもらうことが前提となるため、個人情報の開示を好まない人には通用しません。

このため、どんな商品の買い手でも価格感度を示してもらうためには、予め高い価格、たとえば定価や正規料金を提示し、身元確認をとおして割引するようにもっていくことと両氏は述べています。けれども、買い手はプロダクトの購入/利用をとおして学習します。時間の経過と共に、その手の情報には長けるようになり、選択肢の幅を広げていくことになります。このため、プロダクトの提供側は、こういった買い手の変化をいち早く察知し、セグメントの見直しや広義のコミュニケーションスキルを磨いていかなければなりません。同じやり方がいつまでも通用するということはまずないからです。

ところで、このセグメント化における両氏の興味深い分析として、価格感度の高い買い手は、提示された価格や提供されたサービスに対して不満を述べることは少ないが、価格感度の低い買い手はそうとは限らないばかりか、むしろしばしば不満を相手に伝えるというものです。筆者も、この記述には思いあたるところが多く、プライシングによるセグメント化を検討する上で、非常に参考になると思います。

購入場所によるセグメント化以降については、次回にしたいと思います。


9/13/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18

前回はプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のうち、2つめの「利用可能性によるフェンス」について述べました(1つめは「製品ラインアップによるフェンス」)。今回は、残り2つの「購買者特性によるフェンス」と「取引特性によるフェンス」についてです。


(3)の購買者特性によるフェンスは、属性ごとに異なる顧客価値に沿って、価格をカスタイマイズする方法で、ジェラルドJ.テリスの9つの価格戦略の第2市場ディスカウンティング(価格その4)に相当します。遊園地や映画館での子ども割引、一部の食品スーパーで行われている高齢者割引、PCソフトなどでみられるアカデミック割引などが代表的なものとして挙げられます。ここで重要なことは、コストをできる限りかけずに購買者の特性を識別できるようにすることです。その属性には、以下の4つがあります。

年齢(子供や高齢者の割引)

組織特性(エンドユーザーと小売流通企業)

ユーザー特性(新規購入者と既存顧客)

支払能力(大学の奨学金受給学生とそうでない学生)


なお、②組織特性については、エンドユーザーの商品選択を主導的に決めることができる大口顧客(たとえば問屋など)に対して、価格を下げることで、当該大口顧客の商品変更の余地をなくしてしまうことなどが該当します。サイモンとドーランは、このフェンスの例として、米国における医薬品業界の卸売企業による薬局薬店などの小売企業に対する例を挙げています。



(4)取引特性によるフェンスは、デジタル機器の活用により、現在ではふつうに行われている価格をカスタマイズする方法です。これには主に、①購入/利用時期、②購入/利用量、③購入/利用するプロダクトの組合せという3つのタイプが挙げられます

購入/利用時期: 飛行機や鉄道・バス・フェリーなどの早割、高速道路の深夜割引、車の保険やメンテナンスの特定期日前の契約による割引などは、よく知られています。また、電気やガスなどもインフラでも時間帯別割引料金を導入しています。 

 

購入/利用量: 取引特性によるフェンスの中で、このタイプが最も一般的です。国内では今日、もはや殆ど聞くことがなくなってしまったFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)が該当します。FSPは、小売企業が顧客の購入履歴を分析して、優良顧客を囲い込むための手法で、もともとは航空会社のFFP(フリークエント・フライヤー・プログラム)を真似たものだったかと思います。FSPは、航空会社が顧客の搭乗距離に合わせて、マイレージポイントを貯められるようにして、一定マイルに達すると様々な特典を付与するもので、呼び名はともかく、今日では当たり前のサービスとして流通しています。 

FSPやFFPなどに代表されるポイントプログラムは、データ分析による顧客の囲い込みと選別にとどまることなく、蓄積したデータを活用して、自社提供サービスの改善や開発につなげることが狙いだったはずです。ところが、ポイントプログラムが年々、複雑多様化することで、分析は後回しとなり、プログラムは単なる割引制度になってしまったというのが、国内市場の状況だといえるでしょう。

 

購入/利用するプロダクトの組合せ: 価格バンドリングと呼ばれるこのやり方は、束ねるという意味のバンドリングが表すとおり、幾つかのものを組合せて販売します。最も一般的なものは、本体と一緒に付属品を購入すると、付属品の価格が安くなるというもので、たとえばPCとソフトウェア、複写機とカートリッジ、新車購入時の様々なオプション、昼食時の食事と食後のコーヒー、ハンバーガーとポテトといったものが代表的でしょう。 

また最近では、コンテンツサービスのバンドリングも多数見られるようになりました。アマゾンプライム、ネットフリックス、ユーチューブプレミアム(YouTube、YouTube Music、YouTube Kids)などが該当します。こういったサブスクリプションをひとまとめにしたセット販売には、ユーザーが1つのプラットフォームで提供されるサービスへ一元的にアクセスでき、支払いも済ませられるということに、利用者が利便性を見いだしているのでしょう。こういったサービスは、エンターテインメントに限らず、ゲーム、教育、更には電力をはじめとしたエネルギーや金融などまで広がり、業界を横断してサービス提供が進められようとしています。筆者個人としては、やはりプライバシーやセキュリティなどが気になりますし、また、そこまでの利便性は必要ないと感じています。 

こういったバンドリングの一方で、コンテンツ産業では以前からアンバンドリングも存在しています。以前であれば1枚のCDに収められていた音楽を、オンライン上で曲ごとにダウンロード購入できる楽曲販売が代表的なものです。


プライス・カスタマイゼーションは利益を増大させる可能性のある有用な手法です。サイモンとドーランは価格をカスタマイズするにあたり、重要なポイントを次のように述べています。

1. 顧客ごとに異なる知覚価値(商品やサービスに対して感じる価値)を把握し、違いが発生する要因を特定すること


2. 知覚価値の異なる顧客ごとに、棲み分けできるフェンスを構築すること。つまり、知覚価値に見合った価格を設定しなければならないということです。顧客を知覚価値によって分類し、その分類がプロダクトの特性に適合している必要があります。このためには、プライス・カスタマイゼーションのベース(製品ラインアップ、利用可能性、購買者特性、取引特性)を明確にしなければなりません。


3. プライス・カスタマイゼーションによってもたらされる利益のみならず、計画し実行する上でのコストにも十分注意する必要があります。複雑なプライス・カスタマイゼーションには多大な運用コストがかかります。円滑に進めていくためには、一気に価格をカスタマイズしていくのではなく、徐々に進めていくこと。最初に2段階の価格を設定して、その後効果が高く実行可能と判断できる割引を付加していくこと。


4. プライス・カスタマイゼーションに関する法的環境を理解しておくこと。特に、顧客が価格に対して不公平感を抱くことがないように、顧客に対する公平性に気をつけること。顧客の不公平感は重大な問題に発展する可能性があるからです。



9/06/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その17

前回は、プライス・カスタマイゼーションの4つの方法のうち、1つめの「製品ラインアップによるフェンス」について述べました。今回は、2つめの「利用可能性によるフェンス」についてです。


(2)利用可能性によるフェンスは、販売/提供方法やチャネルなどを変更することで、価格をカスタマイズするものです。価格をカスタマイズする理由は、ワン・トゥ・ワン・マーケティング手法などにより、顧客を選別してプロダクトの購入/利用確度を高めるために行われます。サイモンとドーランは、利用可能性によるフェンスづくりには、主に4つの方法があると述べています。


クーポン: 紙についている割引券を切り取って使用するものがクーポンの始まりです。筆者が米国留学した90年代には、スーパーなどの小売店やガソリンスタンドでの精算時に、購入品目や額に応じてクーポンをレシートに印字するのが当たり前に行われていました。今日では、インターネットのショッピングサイトやメールなどに記載されているクーポンのコードも、ふつうに目にするようになりました。 

プロダクトの提供者が、顧客の購買/利用履歴に応じて、特定のグループに的を絞り、価格を割り引くクーポンは、購入頻度の高い顧客に対して、さらにもう一品購入を促すためのコモディティ商品における有効なやり方であるばかりでなく、車などに代表される高額品の買い替え需要を促進する手段としても定着しています。

 

ダイレクトメール・カタログ: インターネットの浸透により、この方法は下火になっていますが、筆者は今でも時折目にします。これは、顧客の購買履歴や会員情報に基づき、DMを何回かに分けて郵送し、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目というように、回数を重ねるごとに価格を割り引いて案内するやり方です。サイモンとドーランは、7回に分けて、つまり7種類のカタログを作って顧客に配る事例を紹介しています。現在では7回というのはかなり特殊なケースのように思いますが、1回目は標準価格、2回目が割引価格、3回目は大特価というのは、衣料や食品などの分野では珍しくないでしょう。

 

地理的プライシング: 同じ商品であっても、国ごとに価格が異なるのがふつです。これは、たとえば英語を日本語に変える表記や、サイズ、色、容器、パッケージデザインなどの変更に伴うコストの増加、輸配送や保管コストなどに加え、為替の変動と、関税がかかってくるため、ある程度はやむをえないものです。 化粧品や衣料雑貨品は地理的プライシングの典型例といえるでしょうし、車にしても国内で販売されている輸入車は、本国仕様とさほど変わらないのに、日本では非常に高い値段がつけられているものも少なくありません。 

90年代初頭くらいまでの日本では、同一商品の内外価格差がそれなりに存在していました。およそ1.3から1.5倍くらいだったのではという記憶があります。ただ、その頃までの日本人の消費行動は旺盛で、支払い能力(または意欲)も今よりは随分高かったのではないでしょうか。また、消費に対する各人の目は今よりも肥えていたように思います。程度の差はありますが、筆者は内外価格差の存在がそれほど悪いことだとは思いません。経済のグローバル化の進展と共に、内外価格差は縮小し、為替の問題はあるにせよ、世界同一価格的な方向に、この20年くらいは進んできたように思います。それと歩調を合わせるように、日本人の消費行動はこじんまりとし、活力を失ってしまい、暮らしの中で豊かさを実感できなくなってしまったように感じるのは、筆者だけではないのだろうと思います。

 

購入場所限定のプライシング: これは、特定の場所でしかその価格で購入できないものを指します。ホテル客室内のミニバーや冷蔵庫にある飲料や菓子類などの価格が、通常価格より大幅に高いのはこの典型例です。自宅など所定の場所まで運んでくれるピザなどもここに含まれます。訪日外国人観光客向けに割り引かれたJRの周遊券などは、日本国内で購入できず、こういった類いのものもこの購入場所の限定になるプライシングです。 

さらには、競争の激しいエリアに立地しているチェーンストアの小売店と、競争相手がほぼ存在しないようなところに店を構える同一チェーンの小売店では、同じ商品であっても、価格が異なることがしばしばあります。このケースも、購入場所の限定に該当するプライシングといっていいでしょう。各店舗が顧客の価格感度を反映した値付けを行っているわけです。地方に移住した筆者は、ドラッグストアの商品、たとえば地方で売られているトイレットペーパーやティッシュボックスなどの価格が、都心一等地に構える同一のドラッグストアのものより、随分と高いことはちょっとした驚きでした。製紙メーカーの工場が、東京よりはるかに近いところに立地しており、輸送コストもさほどかからないはずですが、競争環境と販売量が異なるからというのが理由になるのでしょう。

3つめのプライスカスタマイゼーション「購買者特性によるフェンス」は、次回とさせていただきます。


9/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16

前回は価格の測定尺度について述べました(価格その15)。今回はプライス・カスタマイゼーションについてです。


企業は、幾つかの市場セグメントに対して、1つのプロダクトを1つの価格で提供するよりも、セグメントが異なれば、異なる分だけ違う価格で提供するほうが、売上利益増大の観点で効果的です。また、同一セグメントにおいて、1つのプロダクトを状況に応じて異なる価格で提供することがビジネス倫理上問題なければ、より効果的だといえます。顧客の特性に合わせて価格をカスタマイズすることを、プライス・カスタマイゼーションといい、利益を拡大させるための手法で、価格を改定していく契機にすることができます。


ハーマン・サイモン(サイモン・クチャーアンドパートナーズの創業者)は、ロバート・J・ドーラン(ハーバード・ビジネススクール元教授)との共著『価格戦略論』のなかで、プライス・カスタマイゼーションには、基本的に4つの方法があり、そこではフェンス(仕切り、囲い)を作ることによって、価格をカスタマイズすることができると述べています。

(1)製品のラインアップによるフェンス: 顧客が自分の嗜好に合わせて製品を選択できるように、製品ラインを拡張させることで価格をカスタマイズする。

 (2)利用可能性によるフェンス: 顧客を選別して、販売/提供方法やチャネルを変更するなどして、価格をカスタマイズする。

(3)購買者特性によるフェンス: 属性ごとに異なる顧客価値に沿って、価格をカスタイマイズする。

(4)取引特性による分類: 取引の時期や取引量なでに応じて、価格をカスタマイズする。


(1)の製品ラインアップによるフェンスは、顧客が自分の嗜好に合わせて製品を選択できるように、製品ラインを拡張させることで価格をカスタマイズします。この製品ラインアップは、同じカテゴリーで少しずつバリエーションをつけて製品展開を行うことが基本です。これはカテゴリーの拡張ではなく、製品ラインの拡張であり、ブランド価値を維持しながら、顧客の裾野を広げていくことが重要な目的のひとつとなります。

興味深い事例として、サイモンは1995年に発売した米国自動車メーカーフォード社のトーラス新モデルを挙げています。当時、標準グレードのGLモデルの価格が、従来のトーラスの顧客層にとって割高のため批判を受けた際、フォードはこのGLモデルの価格を下げずに、人気が高いオプションをやめ且つカラーバリエーションを減らして、600ドル安い新しいGモデルをラインアップに加え、低価格帯のモデルを充実させたというものです。これは当時のトーラスにおけるフォードの戦略を堅持しながら、価格に敏感な顧客層に適切に対処した事例といわれています。


車がイメージしやすい製品ラインの拡張ですが、化粧品のライン拡張はより戦略的といえるかもしれません。たとえば、高級化粧品の代表格であるクリスチャン・ディオールは、基礎化粧品のラインを3つのクラスに分類しています。エントリークラスとしてカプチュールトータル、アドバンスがプレステージホワイト、ハイエンドで知られる最上級のディオールプレステージです。ディオールは、エントリーとして幅広い層を対象にした良いものとしてカプチュールトータルを薦め、顧客の年齢や製品の使用期間などに合わせてより良いものとしてプレステージホワイトを、最後は最上位ランクにある最高のものとしてディオールプレステージへと、クラスを上げていきながら、顧客の生涯にわたって関係を維持していけるようにしています。この間、様々な試供品は勿論のこと、希少なノベルティグッズや、プロモーションを徹底して行います。

ディオールの基礎化粧品についていえば、最上位ランクのステータスが、ブランド全体の品質を表現し、エントリークラスの位置付けにあるカプチュールトータルの製品イメージを大きく押し上げているといえるでしょう。エントリークラスでは他社製品との競争が激しさを増しますが、ブランド全体に浸透するプレステージ性の高さが、競争を軽減させたり、回避させることに貢献しています。なお、ディオールの販売チャネルは、百貨店を中心に、一部の専門店ビルと、自社のオンラインショップのみです。

国内の化粧品メーカーは、今でも百貨店、量販店、コンビニエンスストアなど、小売業態や販売チャネルに合わせて、ブランドを変更するなどして、多数の製品を提供しています。ブランドの絞り込みが難しい事例として、2005年くらいに資生堂がチャネル横断でマキアージュを展開し、ブランドイメージを毀損したことが挙げられます(ブランディング (4)ターゲティング ③3つのアプローチ)。化粧品のような美やイメージを売る製品については、基本的に1つのブランドがチャネルを跨って、同一価格で提供するということは、通常ありえないでしょう。


垂直方向に伸びる製品ラインアップは、車や化粧品以外にも、ファッション衣料(たとえばかつてのラルフローレンのポロとチャップスの関係がわかりやすいケース)や、輸入洋酒(たとえばブランデーのヘネシーでいえば、VS、VSOP、XOなど)に代表されるようなラグジュアリーな製品カテゴリーがあります。ITの分野でいえば、典型的なところでは、アドビ社の無料のアクロバットリーダーとアクロバットプロをはじめ、グーグルの無料のGmailから有償の幾つかのランク、ズームの無料ウェブ会議ソフトから有償版まで、様々なところで見ることができます。

サービスでは、航空会社のファースト、ビジネス、エコノミーの各クラスに加え、近年増加しているプレミアムエコノミーをはじめ、列車や船舶なども同様です。ホテルも同様ですが、シティホテルになると、よりバリエーションが広がります。なお、これらについては、(3)の取引特性による分類で、取引の時期で価格が変化することについて取り上げます。


水平方向の製品ラインアップは、先の化粧品でいえば、機能性としてスキンケアのホワイトニング、しわ排除のリンクルケア、しみをなくすスポッツケアなどがあります。ほかにも、フレグランスやメークアップなどもこのラインアップに含まれます。ファッション衣料では、デザイナーのブランドでよくみられる鞄や靴などの雑貨へ製品を拡張させることも水平方向のラインアップに該当します。ブランド力を最大限活用すれば様々な拡張が可能となりますが、規模が大きくなればなるほど、トラブルは発生しやすくなるものです。いつのまにか、あらゆるものをあらゆる人に提供するなどとなってしまい、ブランドイメージの悪化や信頼感の低下などにつながるようなことがあっては元も子もありません。


ほかには、製品を提供するタイミングが挙げられます。たとえば、映画はロードショー、二次封切り、DVD販売、DVDレンタルなど、時間の経過と共に価格が変化していきます。また、DVDの販売でも、通常のDVDから、ブルーレイ、4Kなどとバリエーションが広がり、CDも同様です。書籍は、ハードカバー(単行本)から、ソフトカバー(文庫本やペーパーバックなど)へ体裁を変えることで、購入の間口を広げ、より多くの読者を獲得しています。


このように見てくると、製品のラインアップによる分類といっても、様々なものがあることがわかります。ビジネスのアイデアや気づきは、同業種からではなく、異業種から得られることが少なくありません。他業種、他業界では当たり前とされているものでも、自らの業界では慣行されていないこともあり、新しいプライスカスタマイゼーションが見つかるかもしれません。

次回は、(2)利用可能性によるフェンスについてです

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その23

新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。 1. 新商品の位置付けの明確化 2. 新商品のベネフィットの評価 3. 新 商品の価格帯の決定 4. 市場規模の予測 5. 新商品の価格提示と価格帯の調整 前回(価格その22) は、上記1の「 新商品の位置付けの明確化」...