5/14/2023

ツーリズム (1)はじめに②

人によって、時代によって、非日常的な体験は異なります。ですが、驚きや感動、ちょっとした不安(または適度な緊張感)など、その多くをもはや手に入れることさえ難しくなってしまったと感じることがあります。

実際、たとえばGoogleMapで迷うことなく目的地へ直行できるとか、そもそも事前に自宅に居ながら現地を仮想的に体験するとか、そういったことがほぼ誰でもできるようになったため、「今回はもうやめておこうか」とか「行った気分になっちゃった。どうせそこへ行ってもこれと同じようなものだろう」等々、と思う人も少なくないかもしれません。

昨年、久しぶりに国内旅行をしました。旅行といっても、わずか2泊3日で鳥取県の某有名温泉です。この旅行を英語でいえばトリップ(短期)で、トラベル(中長期)や、ジャーニー(長期)ではありません。トリップであれば、ある意味失敗は許されません。旅行期間が長ければ、嫌なことがあってもほかで吸収できることもあるでしょうし、楽しいことだって見つけられるはず。ところが、滞在期間が短ければそうはいきません。

ここでいう失敗というのは、(自身の事情によるものではなく)相手の都合で、不快な気分になったり、クレームを言わざるをえなかったりすることを指しています。その失敗をして、もうこんなところへは二度と来ないということになってしまいます。そもそも、ありきたりの体験しか得られなかったら(不快な気分にはなっていなくても)、再度そこを訪れることはふつうないでしょう。ましてや、不快な気分にでもなれば当たり前で、その場所はおろか、もう似たようなトリップさえやめてしまおうかなどといったことにもなりかねません。

旅館に限りませんが、何故苦労して(?)獲得した一度目の宿泊客に対して、もう1回来てもらおう、そのためには何をすべきで何をすべきでないかといったことを考えないのか、筆者には不思議です。宿泊客を十把一絡げに扱うことは、まさにやってはいけないことだと思うのですが、多くができていないといえるでしょう。旅館でいえば、露天風呂付客室滞在者であろうとなかろうと、特別料理を注文しようがしまいが、高額な土産物を買っても買わなくても、全てが同じ対応です。

観光業では最近CRMの重要性がいわれているようですが、(そもそもCRMがこれまで機能してきたかどうかはともかくとしても)顧客の属性や履歴などを知らずとも、当館は本日、誰を特に大事にしなければいけないのか、そもそもどういった人たちを相手に商売したいのかといったようなことは、予めおよそわかっていなければいけないことで、そこにITの必要性は関係ないはずです。デジタル化を検討する前に、まずはやっておかなければいけないことが、まったくできていないというところに大きな問題があります。

観光業に限らず、接客を伴うサービス業でいつも思うことは、自分ごとして捉えたら、そのように振舞うことなどできるはずもないのに、まさに他人ごとなので平気でやってしまう、平然といられること自体が大きな問題です。

たとえば、1泊10万円の宿泊客を年間で500組獲得したいのか、或いは1泊1万円の客を5000組なのか、そういったことを予めはっきりさせておく必要があります。いうまでもなく前者と後者では、部屋などの室内環境や食事の質量、オペレーション全般、宿泊客への向き合い方などはまったく変わってきます。ですが、特にコロナ禍以降、多くの旅館では、両者を同じように扱っているのではないでしょうか。

量的拡大ではなく、質的に拡大することこそ、今の日本の観光業にとって必要なことといえるでしょう。このようなことについて、筆者なりの考えや思いなどを、今後このブログで、理論やフレームワークなども用いながら、述べていきたいと思います。


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市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...