「組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の5回目です。これまでの内容については、以下4つのリンクをご覧ください。
ii: 組織文化の形成要素と顧客サービス
iii: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)
iv: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(下)
組織文化から影響を受けるものは、意思決定とそれに伴う動きやアクションだと筆者は考えます。ここでいう意思決定とは、容認されている意思決定スタイルのみならず、決定事項の伝達の仕方などを含みます。動き・アクションは、決定事項に対する反応や向き合い方のことを指しています。
海外で暮らした経験を持ち、外資系の経営コンサルティング会社に長く在籍した筆者には、欧米、特に米国では何か問題が発生した場合、まずその人がとった行動そのものを問題視し、原因を考えていくというながれになるのがふつうでした。一方、日本では、問題にするのは個人の行動そのものというよりは、個人の性格や仕事に対する向き合い方全般、時にはわざわざ評価まで見るといった傾向が強いように感じます。素晴らしいリーダーは、素晴らしい能力を備え、且つ大変優れた人格者である必要はありません(本当にそうあれば素晴らしいことでしょうが)。問題の対象は、絞り込まなければいけません。また、その問題は解決できなければ、職場において、問題を議論することは殆ど意味がないといえるでしょう。
加えていえば、仕事に対する向き合い方や癖、考え方などといったものは、少し時間をかければ(場合によっては、すぐにでも)変えることが可能です。たとえば、リーダーや従業員の行動を変えたければ、すべきことや考えなければいけないことをプロセスに落し込み、ルーチン化することです。 実際、筆者はそのようにして、クライアント企業の多くの問題を解決してきました。比較的シンプルな仕事だけでなく、複雑な仕事、時には創造的な仕事においても、取り巻く環境を慎重に踏まえた上で、当初の目的どおりに良い結果を生み出すことに成功してきました。
組織文化を変えていこうとする時、多くのケースにおいて、変えていくべきは、特定の行動パターンであって、問題発生の理由を含めて、人の性格などをはじめから対象にすべきでないということです。実際、その人の人格まで変えてしまうことなど、ふつう誰も望んでいないでしょう。また、行動パターンを改めていくことのほうが、はるかに簡単で、組織にとって有益です。
リーダーを中心とした人の行動が非常に重要であることに、これまで触れてきました。但し、すごく重要だからといって、従業員を一斉にとか、ランダムに選んだ個人から取り組んでいくのでもなく、何人かを選抜して、まずはリーダーの行動から変えていくのが、通常は正しいやり方です。その場合、何人かのリーダーに対して、以下のような問いかけをしてみることです。
問題のある行動は、どういったものか?
何故、その行動をとるのか?
共有された暗黙の前提認識は何か?
その前提認識を変えるには、何をすべきか?
おそらく優れたリーダーは、上記の問い全てに対し、的確に回答することでしょう。 もし、あるリーダーがうまく回答できず、また、日頃からあなたがそのリーダーに対して、少し疑問を感じているようであれば、次のような自問をし、全てにおいて答えがNoであれば、リーダーを変えるか、そのリーダーの上長へすぐにエスカレーションしたほうがいいでしょう。
リーダーは実行するか?
状況に合わせてスタイルを変えているか?
部下が提案する機会を積極的に設けているか?
部下の提案は採用されているか?
部下はリーダーの発言を遮れるか?
もうひとつの極めて重要な形成要素であるビジョン・目的・戦略についてはどうでしょうか。次のような5つを自問することで、自身が属する組織・企業について、考えてみることができるでしょう。
あなたの組織は、ビジョンに沿った活動をしているか?
ビジョンはわかりやすい言葉で書かれているか?
そのビジョンは組織に浸透しているか?
戦略は合目的なものになっているか?
誰がどうやって策定しているのか?
もし、ビジョン・目的・戦略が存在しないか、または知ることができなければ、リーダーは組織からどういった行動を求められているかがわからず、ルールにない行動や意思決定を下すことを避けることでしょう。それは、リーダーの質に関係ありません、知らされていないだけなのです。組織文化を操っている本質的なものは、共有された暗黙の前提認識です。
このまま続けると、かなり長くなるため、続きは次回といたします。