8/07/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位vi 文化を変えるもの(下)

組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の6回目です。これまでの5回については、以下(リンク)をご覧ください。

i: 組織文化の定義と3つのレベル

ii: 組織文化の形成要素と顧客サービス

iii: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)

iv: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(下)

v: 組織文化を変えるもの(上)


ここまで述べてきたとおり、組織文化を操っている本質的なものは、共有された暗黙の前提認識です。リーダーをはじめ各従業員は、その前提認識をもとに、日々行動することで、その組織でのやり方が出来上がっていきます。ここでひとつ気をつけなければいけないことは、日々の前提認識を、第三者のアドバイスなしに、作り変えることはなかなか難しいということです。何故なら、彼ら彼女たちは、そういうやり方をするものだと信じ、また、そのやり方でうまくやってきたと思っているからです。


仕事のやり方を変えたり、新しい考え方を取り入れたりする場合には、組織文化を形成する要素を活用して、障害になるものを取り除いていくことが必要です。 


組織文化がどのような内容であったとしても、サービス企業の場合は、サービスの特性故に、リーダーの行動を変えていくことが解決に向けたおそらく一番の近道でしょう。但し、一度に全てを、または全員のリーダーの行動を変える、そういったことを考えるのは無謀です。

早期に明確な効果が見込めて、且つ組織全体へのインパクトが甚大なものとはなりにくいところ、変えることによって組織或いは企業全体の受ける影響がさほど大きくないと思われる職務を持つリーダー、状況変化に対応できる見識と努力を続けるリーダーが所属する組織から、徐々に変えていくというやり方が良いでしょう。つまり周囲からすれば変化が見てとれるところ、インパクトがそう大きくないところから始めて、着実に成果を出していくということが重要です。ちなみに『学習を促す組織文化』では、研究結果の要約として、実験やリスクを許容し、高い目標を追求しているチームワークの良い組織では、組織学習が促進されるという示唆を紹介しています。


組織文化は競争優位の源泉になっているかということについては、これまで論じてきたように、卓越した顧客サービスの提供による差別化をとおして競争優位を構築する、その源泉に組織文化は大きな役割を果たしているということができます。特に、人の体と心を対象にするサービスカテゴリー(SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)においては、繰り返し述べてきたように、その特性故に、リーダーを中心とした組織の構成員にかかっているといえるでしょう。


前回の冒頭で述べたように、組織文化から影響を受けるものは、その人が行う意思決定と、それに従う人の動きやアクションです。

リーダーとその配下にいるスタッフのパフォーマンスが優れた組織には、少なくとも次の3つの特徴が挙げられます。

(1)現場に情報が正しく伝えられている。

(2)フィードバックが必ず行われている。

(3)仕組み化されたルーチンがある。


(1)の情報伝達を正しく行うためには、他者(顧客、リーダー、スタッフ)の話を、正確に聞き、話し、時には読んだり、書いたりすることが前提となります。言葉送り・伝言ゲームに見られるように、人から人へ言葉が伝えられていくうちに、内容が歪められることはよくあることです。こういったことを起こさない、少なくとも最少化できるようにしておくことがまず必要です。伝達事項が意図せずして徐々に変わっていく過程で、人の熱意や見方も薄められていくことは珍しいことではありません。


(2)のフィードバックについては、所謂フィードバックループがしっかり築かれていることです。何かを動かしたり、変えようとする時に、フィードバックを受け取るまでの時間が長ければ長いほど、結果を出すのは難しくなります。ましてや、フィードバックが行われないというのは問題外でしょう。但し、気をつけなければいけないことは、ある意味、運動と同じで、一日やってすぐに効果がでるものではないということをよく認識しておかなければなりません。根気よく継続して行い、効果を皆が感じられるようになるまでには時間がかかるのがふつうです。


(3)ルーチンとは、繰り返し行うことで、時間の経過と共に、当然のものとみなされるものです。それは明文化され、また、合理的に決められたものでないことが多くあります。それは、自宅で毎朝、顔を洗ったり、歯を磨いたりするようなものです。毎日やることで定着し、しなければ気持ちが悪くなることでしょう。たとえ、それがTo Doとして、カレンダーに書かれていなかったとしてもです。正しいルーチンを組織内に埋め込み、ルーチンをいわば暗黙の前提にできれば、しめたものです。ルーチンをとおして行動を変えることで、意識を変えることができるようになります。

上記3つが成立している組織では、必ずしもリーダーやスタッフのスキルが高かったり、豊富な知識や経験が必ずあるというわけではありません。逆に、(1)(2)(3)のいずれか、またはすべてが欠落している組織というのは、人の知識やスキルなどがどれだけ高くても、組織としてそれを活かせることはできないでしょう。


今日のような変化が激しく、競争環境が厳しい上に、人手不足が恒常的に続いているとされるような時代には、組織の実行力が、立案する戦略の幅を規定します。仮に、時間をかけて、じっくり戦略を練り上げることができたとしても、それを実行できなければ意味がありません。組織文化を十分に理解し体現しているリーダーやスタッフがあまりに少ないようだと、組織としての実行力は欠落します。

組織における縦と横の関係がぎくしゃくしていれば、集団で考え、意思決定する場合、うまくいかないのは必然といえるでしょう。意思決定に関与する人が増えれば増えるほど、決定に要する時間は長くなるばかりでなく、内容自体がどんどん丸められ、意思決定そのものがマズイものとなり、その結果、早くて(それなりに)正しい決定をする会社にあっさり負けることになってしまいます。


組織文化を、その集団により適したものに変えていくことで、その組織は的確に機能するようになります。ビジョンや戦略を共有し、まずはリーダーの行動から変えていく、こういったことは時間もかかり、すぐに成果が現れるものではありませんが、であるからこそ、他社が模倣しにくい競争力の源泉になるといえるのではないでしょうか。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

現在、景気は大きな後退局面にあると言えるのではないでしょうか。 賃上げにより(賃上げがあったとして)、名目賃金は増えても、モノの多くが1.5倍くらいはふつうに値上がりしているようなこの 異常な価格高騰により、所得は 実質目減りしています。 消費者は価格に敏感にならざるを得ず、価格...