8/22/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位viii 私が組織文化にこだわる理由(中)

「私が組織文化にこだわる理由」の2回目です。前回は、筆者が勤めていた事業会社(西武百貨店)での経験について述べました。今回は、外資系経営コンサルティング会社在籍時に、2つの全く異なる組織文化が融合することの難しさを肌で感じたことについて記述したいと思います。それは、PwCコンサルティングと日本IBMのシステムコンサルティング部門が統合して、IBMビジネスコンサルティングサービスという会社が設立された2002年からの数年間のことです。

筆者は2000年に、PwCコンサルティング(当時はプライスウォーターハウスクーパースのコンサルティング部門)に入社しました。02年7月に米国IBMコーポレーションが、ワールドワイドでPwCコンサルティングを買収し(在籍コンサルタント約5万人)、殆どの国ではIBMの中にPwCコンサルティングが取り込まれました。日本は、クライアント企業に日本IBMと競合する会社が何社かあったということもあり、IBMビジネスコンサルティングサービスという別会社を設立して、02年10月から事業展開を正式にスタートさせました。


PwCとIBMのカラーは、全く異なるものでした。当時のPwCはかなり自由闊達な空気感があり、私が入社した時点で、すでにフリーアドレス、ペーパーレスを実現させており、オフィスはまるでショールームのような感じでした。実際、毎日午前から夕方まで、いろいろな会社がひっきりなしに、オフィス見学に来ていました。組織もフラットで、経営トップの下に、役員からコンサルタント一人ひとりが、そして事務関係の一般社員に至るまで、全員が横一列に並んでいるかのような組織体でした。役員がいるスペースは、金魚鉢と呼ばれ、周囲からは丸見え、壁や扉などは一切ありません。いつでも、誰でも、そこへ入っていって、話ができるというような環境でした。

一方、日本IBMはというと、当時の組織は階層をどんどん作っていき、そのラインで仕事を処理していくというスタイルでした。ただ、整然と並べられた固定席で仕事をしている人たちに、すぐ隣りに座っている人のことを尋ねると、担当が違うからといって、こちらが少しくらい困っていようと一向にお構いなし、今、何をしているのか、休みかどうかさえもわからないし、関心もないといったような感じでしたし、全てがそうだったわけではありませんが、そういう雰囲気が私には感じられたものです。


目に見える部分・組織文化のレベル1でさえ、それだけ違うわけですから、レベル3の底流にある共有された暗黙の前提などは、違って当たり前のことだったでしょう。最初は、お互いがかなりぎくしゃくしていたのを今でも覚えています。柔軟な組織構造の下、率直なもの言いをするPwCは、プロジェクトベースで活動するコンサルタントの集団です。一方、巨大な組織で、一見すると硬直化して物事をハッキリ言わないように感じられる日本IBMの人たち。そこの一部門と経営統合して、IBMになったわけですから(IBMビジネスコンサルティングサービス、所謂IBCSという会社であっても、結局はIBMer)、それが嫌で辞めていったコンサルタントは数多くいましたし、半ばノイローゼや病気になったりして、退社せざるをえなくなった人もいました。

文化と組織特性2つのアプローチで触れましたが(⑤組織文化と競争優位iv 文化と組織特性2つのアプローチ上、同)、キャメロンとクインの競合価値観フレームワークに従えば、コンサルティング会社における組織文化の類型は、アドホクラシー(時々の状況に合わせて柔軟に対応する姿勢またはそのような主義)です。専門知識を持った個々のコンサルタントは、個人が尊重され、将来に向けてリスクをとっていくことが奨励される傾向があります(まさにそのとおり!)。そういった人間が多数を占める組織であるため、ある程度は自然淘汰的に、IBCSという新しい組織が成立していったという側面はありました。


統合にあたって考慮されたことは、主に次の5つだったと記憶しています。第一に、新しい会社として、顧客への価値創造を優先させること。第二に、組織・人事管理・知識において統合を早急に実現し、新しい組織として、One Teamを具体的に実現させること。第三に、意思決定と行動は素早く行うこと。何よりスピードを重視する。第四に、両社いずれかに片寄らせるのではなく、ベストプラクティスに寄せていくこと。第五に、両社それぞれの文化のよいところを持って、新しい会社を補強していくこと。なお、両社の統合は、PMO(Program Management Office)によって課題を管理し、明確な目的意識の下、客観性を持たせたコントロールが行えるようにしていました。当時の新会社、IBCSは経営陣を中心に、世界最強のコンサルティング会社を創るという強い思いで、統合作業が進められました。統合作業自体は、数ヵ月程度だったように思いますが、組織文化が融合し、新たな文化が醸成されるには、3~4年くらいはかかっただろうと思います。07年くらいに、IBCSと日本IBMが、結構、円滑に協業できるようになっていったという記憶があります。

筆者はIBCSのコンサルタントではありましたが、ほぼ自由に、日本IBMの研究所に出入りできたり、いつでも日本IBMの営業と連携して一緒に行動でき、そういう意味でも事実上、IBMの一員だったと思います。統合当初は、上述した両社の組織構造や、行動様式の違いばかりに目がいき、PwCの一員からすれば、日本IBMってどういう会社なんだとネガティブに捉えた時期もありました。ただ、時間の経過と共に、その気持ちは大きく変わっていきました。そして最後には、当初自分がやりたかったことがほぼ全てできたため、08年にIBCSを退社し、他社へ移ることにしました。退社する頃になると、自分がIBMから学んだことは本当にたくさんあったと思うようになり、PwCではなく、IBMに在籍できたことは、自分の職業人生において、本当に良かったと思うようになったことと併せて、IBMという会社の奥深さを実感するようになっていました。

IBCSの一番の強みは、理論と実践が融合していたことだと思います。たとえば、製品開発などで立証済のIBMの成果を方法論として体系化し、それをコンサルティングサービスのひとつのメニューに加えていくといったことができたことです。これは、ふつうの経営コンサルティング会社にはできません。


ただ、IBM全体のすごさを、一言でまとめるならば、筆者は、そこで働く人の多様性、ひいては組織文化の奥深さにあったと思っています。見た目とは違って(?)我慢して(?)在籍していると、意外とかなり自由な空気感・環境があって、話し合いをとおして物事を決めていけるような素地がある程度整っていたように思います。勿論、話が通じない人も社内にはいましたが、そういう時には同僚を巻き込んだり、エスカレーションするなどして、最後はどうにかうまく決着できる、そういうことが出来た会社でした。こういう会社は、ありそうでそうなかなかないだろうと思います。

実際、当時のIBMには(おそらく今でもそうだろうとは思いますが)、Read、Listen、Observe、Discuss、Thinkという5つの大きな指針があり、それが米国本社に刻まれていると聞きました。この思考・行動様式の共有のもととなる指針を、外からやってきたプロパー社員ではない私がそれを空気で感じ、後になってから、そういった指針があることに気づいたわけですから、組織における指針の浸透に驚かずにいられません。


当時、IBCS/IBMでは、よく次のようなことが言われていました。IBMにではなく、お客様企業にフォーカスして、お客様の立場で、お客様の成功に全力を尽くす。あらゆる関係において信頼と一人ひとりが責任をもって価値あるイノベーションを創出していく。こういったことをClient Valueと呼んでいました。その顧客価値の根底にあるものは、チャールズ・ダーヴィンの「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるわけでもない。唯一、生き残るのは、変化できる者である」ということではなかったのだろうかと思います。


8/16/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位vii 私が組織文化にこだわる理由(上)

今回は筆者が何故、組織文化にこだわるのか、自身の職務経験をとおして見てきたもの、感じたことなどについて、少し述べてみたいと思います。

他のブログにも少し書きましたが、筆者には2つの職務経験があります。ひとつは事業会社のマネージャー、もうひとつは経営コンサルティング会社のコンサルタントです。

事業会社は、旧セゾングループの西武百貨店で、約10年間在籍しました。私が入社した年は、日経新聞の大卒男子文系就職ランキングで、確か25位だったような記憶があります(もしかしたら19位だったかもしれませんが、いずれにせよ20位前後くらいでした)。女子は2位で、その後1位にという大変人気のある企業でした。もともと私は、小売業界を希望していたのではなく、音楽業界で音楽制作に携わることが一番の希望でした。旧セゾングループ(当時、西武流通グループ)内に音楽関係の会社があって内定をもらっていたのですが、就職解禁日の10月1日がたまたま空いていた上、第一希望のレコード会社が10月8日だったために、親会社の西武百貨店を受けて、そのままあれよあれよという間に内定が出て、所謂活動の拘束にあいました。その時に、自分の周りにいたその時点での内定者は、私のようなメディア・エンターテインメント系か、総合商社系、金融系のどれかを希望する者ばかりで、小売業を希望しているのは1人もいませんでした。そういうこともあってか、ほぼ誰もが癖のある奴ばかりというか、個性溢れた人間が多くいました。


こういった背景がある小売企業は、おそらく当時、何処にもなかったでしょう。Wikipediaなどには記載されていませんが、当時の西武百貨店は、婦人衣料と食品で会社全体の売上げのかなりの部分を占めていました。その食品は、私が入社する前の段階で、今でいうところのデパ地下のもっと進んだかたちのものがすでに出来上がっていて、次々と新しい商品やサービスを開発し展開していました。自身が勤めていた会社のことを、本人がいうのもなんですが、まさに変化し続ける革新的な会社であったわけです。ほかの百貨店や小売企業とは、社員のバックグランドなどがかなり異なっていたため(勿論、小売業第一希望の商人的?な者もいましたが)、他社とはかなり違ったことを、他社よりはるかに先駆けて行っていたのは当然といえば当然でした。


その西武百貨店の社内で、91年に西武百貨店白書なるものが配付され、その中では、企業は社会の公器、西武百は当たり前のことを当たり前のように全く出来ない駄目な会社ということでした。セゾングループで西洋環境開発という大赤字の会社を抱えていたこともあって、グループの基幹会社である西武百は、チェーンオペレーション手法を導入して、何処の店でも同じやり方をして効率的な運営により営業黒字を増やさなければならないといったようなことが書かれてあった記憶があります。残念ながら、当時の資料が一切手元にないため、裏覚えですが、そういった主旨のことであったと記憶しています。当時の自分にはかなり衝撃的な内容で、自分ももっと頑張らないといけないなどと真面目に思ったものですが、会社の具体的な打ち手が自分には見えず、またやり方自体もちょっとまずいんじゃないかなどと何となく感じていました。会社に対してそういうことを言ったりもしたのですが、まともな回答がなかったので、一念発起して会社を辞め、海外で勉強しようと思い、93年に退社しました。


西武百貨店はその後、紆余曲折があって、当時の面影など今は微塵も感じられず、消滅の可能性さえあるようです。何が、問題だったのでしょうか。

問題はほんとにいろいろあったと思いますが、少なくとも90年代前半に限っていえば、私にはやはり当時の会社のやり方(会社を変えようとするやり方)が社員のカラーに合わなかったというのが一番大きかったのだろうと思います。加えていえば、トップダウンで進めるのはいいとしても、社員の声にちゃんと向き合わなかったというのも問題だったでしょう。


Whatは良かったのかもしれませんが、Howがまったくダメだった。Whatは、方向を導出したり、課題を特定することHowは、方法論を構築したり、手順を作成したりするものです。Whatは経営陣や上級管理職に求められる能力で、Howは中間管理職に必要な能力です。仮に、方向は出せても課題特定が十分でなかったら、どうなるか。ましてや、やり方を適切に提示できなければ、取組みを始める前の段階でその取組みが成功しないのはほぼ見えているといっていいでしょう。ましてや、一般社員層の現場レベルが担うDoの業務遂行能力など、あったとしても発揮されるはずがありません。ちなみに筆者が考える理想的な組織というのは、ミドルがWhatを提示して、一般がHowを考えることです。実現させるのは、そう容易ではありませんが、実現の鍵は組織文化にあると思っています。

当時の西武百貨店は、社員の個性や技量、思いなどが、チェーンオペレーションを一気に導入して根付かせるといったものを受け入れられるような状態にはまったくなかった、むしろそういうものとは対極にあるような仕事の進め方、ものの考え方を、多くの者がしていました。


会社に仕組みが欠如していたのは事実ですが、チェーンオペレーションという仕組みを、西武百の組織文化を何ら顧みることなく、むしろ破壊していくようなやり方で、無理やり一気に展開しようとしたことが、最大の問題だったと私は思っています。それだけ、当時、時間がなかったという見方もできますが、結果だけを見ると、それが会社の瓦解を早めたといえるでしょう。

長くなってきましたので、続きは次回とさせていただきます。


8/07/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位vi 文化を変えるもの(下)

組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の6回目です。これまでの5回については、以下(リンク)をご覧ください。

i: 組織文化の定義と3つのレベル

ii: 組織文化の形成要素と顧客サービス

iii: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)

iv: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(下)

v: 組織文化を変えるもの(上)


ここまで述べてきたとおり、組織文化を操っている本質的なものは、共有された暗黙の前提認識です。リーダーをはじめ各従業員は、その前提認識をもとに、日々行動することで、その組織でのやり方が出来上がっていきます。ここでひとつ気をつけなければいけないことは、日々の前提認識を、第三者のアドバイスなしに、作り変えることはなかなか難しいということです。何故なら、彼ら彼女たちは、そういうやり方をするものだと信じ、また、そのやり方でうまくやってきたと思っているからです。


仕事のやり方を変えたり、新しい考え方を取り入れたりする場合には、組織文化を形成する要素を活用して、障害になるものを取り除いていくことが必要です。 


組織文化がどのような内容であったとしても、サービス企業の場合は、サービスの特性故に、リーダーの行動を変えていくことが解決に向けたおそらく一番の近道でしょう。但し、一度に全てを、または全員のリーダーの行動を変える、そういったことを考えるのは無謀です。

早期に明確な効果が見込めて、且つ組織全体へのインパクトが甚大なものとはなりにくいところ、変えることによって組織或いは企業全体の受ける影響がさほど大きくないと思われる職務を持つリーダー、状況変化に対応できる見識と努力を続けるリーダーが所属する組織から、徐々に変えていくというやり方が良いでしょう。つまり周囲からすれば変化が見てとれるところ、インパクトがそう大きくないところから始めて、着実に成果を出していくということが重要です。ちなみに『学習を促す組織文化』では、研究結果の要約として、実験やリスクを許容し、高い目標を追求しているチームワークの良い組織では、組織学習が促進されるという示唆を紹介しています。


組織文化は競争優位の源泉になっているかということについては、これまで論じてきたように、卓越した顧客サービスの提供による差別化をとおして競争優位を構築する、その源泉に組織文化は大きな役割を果たしているということができます。特に、人の体と心を対象にするサービスカテゴリー(SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)においては、繰り返し述べてきたように、その特性故に、リーダーを中心とした組織の構成員にかかっているといえるでしょう。


前回の冒頭で述べたように、組織文化から影響を受けるものは、その人が行う意思決定と、それに従う人の動きやアクションです。

リーダーとその配下にいるスタッフのパフォーマンスが優れた組織には、少なくとも次の3つの特徴が挙げられます。

(1)現場に情報が正しく伝えられている。

(2)フィードバックが必ず行われている。

(3)仕組み化されたルーチンがある。


(1)の情報伝達を正しく行うためには、他者(顧客、リーダー、スタッフ)の話を、正確に聞き、話し、時には読んだり、書いたりすることが前提となります。言葉送り・伝言ゲームに見られるように、人から人へ言葉が伝えられていくうちに、内容が歪められることはよくあることです。こういったことを起こさない、少なくとも最少化できるようにしておくことがまず必要です。伝達事項が意図せずして徐々に変わっていく過程で、人の熱意や見方も薄められていくことは珍しいことではありません。


(2)のフィードバックについては、所謂フィードバックループがしっかり築かれていることです。何かを動かしたり、変えようとする時に、フィードバックを受け取るまでの時間が長ければ長いほど、結果を出すのは難しくなります。ましてや、フィードバックが行われないというのは問題外でしょう。但し、気をつけなければいけないことは、ある意味、運動と同じで、一日やってすぐに効果がでるものではないということをよく認識しておかなければなりません。根気よく継続して行い、効果を皆が感じられるようになるまでには時間がかかるのがふつうです。


(3)ルーチンとは、繰り返し行うことで、時間の経過と共に、当然のものとみなされるものです。それは明文化され、また、合理的に決められたものでないことが多くあります。それは、自宅で毎朝、顔を洗ったり、歯を磨いたりするようなものです。毎日やることで定着し、しなければ気持ちが悪くなることでしょう。たとえ、それがTo Doとして、カレンダーに書かれていなかったとしてもです。正しいルーチンを組織内に埋め込み、ルーチンをいわば暗黙の前提にできれば、しめたものです。ルーチンをとおして行動を変えることで、意識を変えることができるようになります。

上記3つが成立している組織では、必ずしもリーダーやスタッフのスキルが高かったり、豊富な知識や経験が必ずあるというわけではありません。逆に、(1)(2)(3)のいずれか、またはすべてが欠落している組織というのは、人の知識やスキルなどがどれだけ高くても、組織としてそれを活かせることはできないでしょう。


今日のような変化が激しく、競争環境が厳しい上に、人手不足が恒常的に続いているとされるような時代には、組織の実行力が、立案する戦略の幅を規定します。仮に、時間をかけて、じっくり戦略を練り上げることができたとしても、それを実行できなければ意味がありません。組織文化を十分に理解し体現しているリーダーやスタッフがあまりに少ないようだと、組織としての実行力は欠落します。

組織における縦と横の関係がぎくしゃくしていれば、集団で考え、意思決定する場合、うまくいかないのは必然といえるでしょう。意思決定に関与する人が増えれば増えるほど、決定に要する時間は長くなるばかりでなく、内容自体がどんどん丸められ、意思決定そのものがマズイものとなり、その結果、早くて(それなりに)正しい決定をする会社にあっさり負けることになってしまいます。


組織文化を、その集団により適したものに変えていくことで、その組織は的確に機能するようになります。ビジョンや戦略を共有し、まずはリーダーの行動から変えていく、こういったことは時間もかかり、すぐに成果が現れるものではありませんが、であるからこそ、他社が模倣しにくい競争力の源泉になるといえるのではないでしょうか。


8/03/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位v 文化を変えるもの(上)

組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の5回目です。これまでの内容については、以下4つのリンクをご覧ください。

i: 組織文化の定義と3つのレベル

ii: 組織文化の形成要素と顧客サービス

iii: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)

iv: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(下)


組織文化から影響を受けるものは、意思決定とそれに伴う動きやアクションだと筆者は考えます。ここでいう意思決定とは、容認されている意思決定スタイルのみならず、決定事項の伝達の仕方などを含みます。動き・アクションは、決定事項に対する反応や向き合い方のことを指しています。


海外で暮らした経験を持ち、外資系の経営コンサルティング会社に長く在籍した筆者には、欧米、特に米国では何か問題が発生した場合、まずその人がとった行動そのものを問題視し、原因を考えていくというながれになるのがふつうでした。一方、日本では、問題にするのは個人の行動そのものというよりは、個人の性格や仕事に対する向き合い方全般、時にはわざわざ評価まで見るといった傾向が強いように感じます。素晴らしいリーダーは、素晴らしい能力を備え、且つ大変優れた人格者である必要はありません(本当にそうあれば素晴らしいことでしょうが)。問題の対象は、絞り込まなければいけません。また、その問題は解決できなければ、職場において、問題を議論することは殆ど意味がないといえるでしょう。 


加えていえば、仕事に対する向き合い方や癖、考え方などといったものは、少し時間をかければ(場合によっては、すぐにでも)変えることが可能です。たとえば、リーダーや従業員の行動を変えたければ、すべきことや考えなければいけないことをプロセスに落し込み、ルーチン化することです。 実際、筆者はそのようにして、クライアント企業の多くの問題を解決してきました。比較的シンプルな仕事だけでなく、複雑な仕事、時には創造的な仕事においても、取り巻く環境を慎重に踏まえた上で、当初の目的どおりに良い結果を生み出すことに成功してきました。


組織文化を変えていこうとする時、多くのケースにおいて、変えていくべきは、特定の行動パターンであって、問題発生の理由を含めて、人の性格などをはじめから対象にすべきでないということです。実際、その人の人格まで変えてしまうことなど、ふつう誰も望んでいないでしょう。また、行動パターンを改めていくことのほうが、はるかに簡単で、組織にとって有益です。


リーダーを中心とした人の行動が非常に重要であることに、これまで触れてきました。但し、すごく重要だからといって、従業員を一斉にとか、ランダムに選んだ個人から取り組んでいくのでもなく、何人かを選抜して、まずはリーダーの行動から変えていくのが、通常は正しいやり方です。その場合、何人かのリーダーに対して、以下のような問いかけをしてみることです。

問題のある行動は、どういったものか? 

何故、その行動をとるのか? 

共有された暗黙の前提認識は何か?

その前提認識を変えるには、何をすべきか?


おそらく優れたリーダーは、上記の問い全てに対し、的確に回答することでしょう。 もし、あるリーダーがうまく回答できず、また、日頃からあなたがそのリーダーに対して、少し疑問を感じているようであれば、次のような自問をし、全てにおいて答えがNoであれば、リーダーを変えるか、そのリーダーの上長へすぐにエスカレーションしたほうがいいでしょう。 

リーダーは実行するか?

状況に合わせてスタイルを変えているか?

部下が提案する機会を積極的に設けているか? 

部下の提案は採用されているか?

部下はリーダーの発言を遮れるか?

 

もうひとつの極めて重要な形成要素であるビジョン・目的・戦略についてはどうでしょうか。次のような5つを自問することで、自身が属する組織・企業について、考えてみることができるでしょう。

あなたの組織は、ビジョンに沿った活動をしているか?

ビジョンはわかりやすい言葉で書かれているか? 

そのビジョンは組織に浸透しているか?

戦略は合目的なものになっているか?

誰がどうやって策定しているのか?


もし、ビジョン・目的・戦略が存在しないか、または知ることができなければ、リーダーは組織からどういった行動を求められているかがわからず、ルールにない行動や意思決定を下すことを避けることでしょう。それは、リーダーの質に関係ありません、知らされていないだけなのです。組織文化を操っている本質的なものは、共有された暗黙の前提認識です。

このまま続けると、かなり長くなるため、続きは次回といたします。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...