マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1、その2、その3)。
最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することができます。先発企業ゆえに価格設定の自由度が高くなるわけですが、この自由度の高さは、価格において、多くの戦略オプションの検討機会があることを意味します。このオプション(代替案)については、学習院大学の元教授である上田隆穂氏に倣い、ジェラルドJ.テリスが提唱した9つの価格戦略で概説することにします。なお、ここでいう先発企業というのは、純粋な意味で最初に市場に参入する企業だけでなく、独自のポジショニングを構築して、消費者の頭の中に新たなプロダクトカテゴリーを想起させることができる企業なども含みます。
企業の価格設定(プライシング)には、3つのタイプがあります。
差別化プライシング(消費者セグメント間での異なる価格設定のため)競争的プライシング(厳しい競争環境下での優位性獲得のため)
製品ラインプライシング(製品ライン間での価格バランス確保のため)
プライシングタイプの検討は、プロダクトの主旨に従って行われます。価格をはじめ、マーケティングミックスは、プロダクトの狙いに沿ってアライメントさせるべきで、これなくしてプロダクトの成功はありえません。ブランドが毀損する理由は、多くの場合アライメントの欠如にあります。
一方、価格を消費者の行動や価値観などの消費者特性で考えた場合には、以下のような3つの捉え方があるとされています。
探索コストの違い(消費者が価格を調べるのに要するコスト、つまり情報を探索するのに要するコストの違いによるもの。多忙な人や面倒くさがりの人は、情報探索に十分な時間をかけずに購入商品を決定することが多い。ネットを含め探索時間が短いほど、探索コストは小さくなる。一方で、商品の品質や原材料、産地、素材やデザイン性などじっくり調べる人や、どの店で買うのがお得なのかといったことをしっかり調べる人は、探索コストが大きくなる)
留保価格の違い(消費者が支払ってもよいと考える価格の上限の違いによるもの。消費者が商品の価格を適当なものと考える時の価格幅の上限を意味するのが留保価格で、これ以上は払わないという価格のこと。留保価格が低い=出せる金額が低い場合は、消費者は価格に敏感といえる)
取引コストの違い(消費者の商品入手に係る多様なコスト/取引コストの違いによるもの。商品購入のために要する交通費をはじめ、使い慣れた商品を他社製のものに変更する時に生じる金銭的・物理的・心理的障壁であるスイッチングコストであったり、購入後当該商品が不要になる場合や不良品であったりする時の謂わば投資リスク的なものなどを含む)
消費者セグメント間で異なる価格を設定する差別化プライシングと、3つの消費者特性(大きい探索コストを持つセグメントがある場合、低い留保価格を持つセグメントがある場合、誰もが特別な取引コストを持つ場合)を組み合わせた時、先発企業には、ランダム・ディスカウンティング、経時的ディスカウンティング、第2市場ディスカウンティングという3つの価格戦略のオプションが成立します。
ランダム・ディスカウンティングx大きい探索コストを持つセグメントがある場合
商品購入前に、情報収集を熱心にする人としない人がいる場合に成立するプライシング。探索コストが大きい人は、希望どおりの商品を手に入れる可能性が高く、購入前の期待と購入後の満足が一致しやすい。このため、返品の可能性も低くなります。また、探索コストの大きい人は小さい人より、商品を安く買えることが多くなります。たとえば、小売業の曜日別または時間帯別割引サービスであったり、クーポンの発行などがこれに当てはまります。
経時的ディスカウンティングx低い留保価格を持つセグメントがある場合
時間の経過と共に、価格を下げていくプライシング。たとえば、発売当初は高値で販売し、その後徐々にある程度の水準まで価格を下げていくやり方などが該当します。典型的なものとして、新製品のPCや周辺機器、映画のロードショーから2次封切、DVD発売、レンタルといった一連のながれなどが挙げられます。なお、商品発売当初に高く設定された価格を、スキム価格、或いは上澄み吸収価格といいます。
第2市場ディスカウンティングx誰もが特別な取引コストを持つ場合
ここでは本来の市場を第1市場と呼び、第1市場で固定費は回収されたが生産余力があるため第2市場と呼ぶ新たな市場で同じ商品を割り引いて販売するプライシングのことをいいます。たとえば、鉄道などの学割や、オフシーズンでの航空運賃割引、高級ホテルでのランチサービスなどが該当します。
競争的プライシングと製品ラインプライシングについては、次回にしたいと思います。