2/22/2025

地方生活者にとっての3つの重大な問題①

地方創生、地域課題解決の事案にあたればあたるほど、地方で進められていることの多くが矛盾に満ち、主催者にとって虫のいいことばかりを考えていることが多い現状に閉口してしまいます。

そこでの問題解決は、まさにコインの裏返しです。コインの裏返しとは、問題のある状況下での解決策が、その問題を裏返しただけのものでしかないこと、つまり問題の表層だけを見て解決策を決めることをいいます。たとえば、売上げが下がっているから売上げを上げるとか、利益が低下しているから高利益商品を売るといった問題対処の仕方です。原因には踏み込まず、表層的とさえ言えないような打ち手に終始している状態です。

人口が減少しているから子供の数を増やすとか、若者が出て行っているから若者を呼び込むとか、若者が親しみを感じられるであろう仕事がないからITのスタートアップに来てもらうとか、といった具合です。スタートアップ誘致にいたっては、いきなり有償でサテライトオフィスを貸しだすという感じで、あきれるばかりです。仕事を担うべき若手から中堅(中年)の多くに、出て行かれてしまったまちが、何故そうしたことを簡単に言えるのか。当事者の言動は、筆者にはまるで他人ごとのように映ります。そう感じているのは、私だけではないでしょう。


筆者は、大阪で生まれ育ち、長い期間を東京で暮らしました。通勤で時間を無駄にしたくなかったため、できる限り職場に近いところに住みました。はじめは目黒、その後は日本橋です。そういうこともあって、地方の現状は実体験として、何も知りませんでしたが、住まいを地方に移してからは、日々、驚きの連続です。

まず何より愕然とさせられたのが、病院・クリニックは、まちにたくさんあるにも関わらず、救急病院がないということです。筆者が現在住んでいるまち(市)は人口7万人くらいですが、その程度でも救急病院がないのです。正確に言うと、救急対応するといっていながら、夜間に専門の医師が不在のため、事実上、救急対応の役割を果たせていないのです。まわりのまちなどは、ここより人口も少なく、救急病院まで車で2時間程度はかかるのがふつうです。小さい子供を抱えている家庭などは不安で仕方ないのではと思いますが、各市は子供人口を単に増やすことばかりを奨励しているように見えます。そういうことを初めから分かっていれば、誰がそんなところに越してくるというのでしょうか。なお、救急ヘリ(ドクターヘリ)はありますが、配備数に限りがあるのと、夜間や悪天候では飛ぶことができません。

加えていえば、医院の数がどれだけたくさんあっても、必要な治療を素早く、正確にできなければ何の意味もありません。たとえば、歳がある程度いけばよく見かけるといっていい目の病気の緑内障や白内障などは、山のようにあります。都内の有名国立病院などへ行けば、良い治療を受けることはできますが、それは地方の人にはなかなか難しいでしょう。地方ではそういった治療ができる専門医はごくわずかか、まったくいないかといった状況です。地方では総合病院をうたっていても、信じられないことですが、そう珍しくもないのに、治療できない病気がたくさんあります。であれば、デジタルを活用するのはどうか。大半の地方自治体がデジタル化に取り組んでいます。が、何故、こういったものがないのか。デジタルによる遠隔治療で、予防や初期的症状の場合であれば対応できるはずです。何故、そういったことに取り組んでいこうとしないのか。地方自治体における施策を立案する時の基本的な考え方や、施策の優先順位付けなどはどうなっているのか。


交通インフラも深刻です。筆者が住んでいるまちは、まだ良いほうです。JRは2路線入っています。ですが、バスはありません。10年くらい前までは、バスは走っていたそうですが、自家用車に皆が乗るので、バス路線は廃止されたとのこと。今は、市の乗り合いタクシーと、民間のタクシー会社が、手軽な移動手段となっています。

若者の車離れが言われて久しいですが、地方ではまったくその逆だと感じています。とにかく車が多いのです。1軒の家に2台は普通で、多いところだと5台です。しかも、高価格の車がとにかく目につきます。推定される世帯収入からは到底購入できないであろう車がたくさん走っています。20代から50代の多くの人たち、特に20代・30代・40代は、車をとおしてしか自分を誇示できないのでしょうか。一方で、60代以上の大半はそうではなく、70代も後半ともなってくれば、免許を持っている人は、そう多くないように見受けます。


2世代、3世代が一緒に暮らしている家は珍しくありませんが、シニアの人たちは自転車で近隣の食品スーパーへひとりで買い物に行っています。筆者が住んでいるところは、まだましなほうですが、そうでないところに住む人たちのほうがるかに多く、買物難民的な状態になっていることは想像に難くありません。残念ながら、食品スーパーなどによる生鮮関連のネット販売と自宅への配送サービスなどは基本的には存在せず、リアルの店舗で買い物をするか、はたまた野菜などを自宅で栽培するしかありません。

車がなければ何もできないのか。そんなことはないでしょう。車に依存しないまちづくりが、今、本当に求められていると痛感しています。こういった問題について、追々考えていきたいと思います。






2/17/2025

ブランディング (5)ポジショニング ⑦リ・ポジショニング

ジャック・トラウトは、競争、変化、危機への対処として、リ・ポジショニングを挙げ、消費者の頭の中(または心)を変えるのではなく、消費者の頭の中の認識を少しずつ調整していくことが、リ・ポジショニングだと述べています

リ・ポジショニングは、競合企業やme-too企業の増大、世の中を一変させるような技術革新による大きな環境変化をはじめ、自社の成長に伴い進行する組織の肥大化や官僚化、製品/サービスの品質不良やトラブルなどによる自社への誹謗中傷、さらには市場の長期トレンドを見誤った時や、短期事業計画の大幅未達の場合など、様々な状況で行われます。

トラウトは、リ・ポジショニングは競合他社を念頭において行うものであって、自社が何をしたいかではなく、競合が自社に何をさせるかが重要だと述べています(ポジショニング自体がそもそもそういうものです)。というのも、競合他社の打ち手次第で、自社のリ・ポジショニングがうまくいかなくなることがあるためです。

リ・ポジショニングには相応の時間がかかります。ただ、そのリ・ポジショニングの狙いには、消費者の当該ブランドに対する当たり前となった認識を再度、強みを強調することで改めさせるといったようなこともあれば、品質は良いがややもすると時代遅れの感となってしまったようなイメージを今日的なものにアップデートさせる場合であったり、より強い差別化ポイントを作り出すためであったりというように様々なため、はじめにリ・ポジショニングの主旨を明確にして、関係者の間で間違いのないようにしっかり確認しておくことが不可欠となります。


ブランド要素を少し変えることで、イメージがかなり変わるということは少なくなありません。ブランド要素には、名称、ロゴ、シンボル、スローガン、キャラクター、パッケージデザイン、サイネージ、URLなどが挙げられます。ケビン・レーン・ケラーは、自社製品やサービスを他社のものと差別化するための言語的或いは視覚的な情報がブランド要素になると定義しています。

ブランド要素を変更することは、イメージが良くなる場合もあれば、悪くなることもあるため、注意が必要です。ケラーは、ブランド要素の選択基準には、記憶可能性、意味性、選好性、移転可能性、適合可能性、防御可能性の6つがあると述べています。


リ・ポジショニングで最も気をつけなければならないことは、自社の独自性、差別化ポイントをないがしろにして、万人受けを狙うようなことは決してしないことです。何のためのリ・ポジショニングなのか、そもそも自社のポジショニングとはどういったものだったのかということを思い返せば、こういった間違いは起こらないはずですが、残念なことにリ・ポジショニングの失敗は少なくありません。

トラウトは、ポジショニングも、リ・ポジショニングも、考えすぎ、調査のしすぎは禁物、単純でわかりきったことがうまくいくといっています。そのためには、ふだんから、現実に向き合い、観察を怠らないということに尽きるのだろうと思います。

2/08/2025

ブランディング (5)ポジショニング ⑥バリュー・プロポジション

フィリップ・コトラーは、ブランドの完全なポジショニングをブランドのバリュープロポジション(提供価値、価値提案)とよび、それはバリュープロポジションの根拠となる顧客ベネフィットを全てミックスしたものと定義しています。

消費者や企業などの買い手は、支払う金額に見合うものが得られるかどうか、その価値を考えます。売り手は自らのブランドを、そのものが持つ価値の観点からポジショニングする必要があり、コトラーは、それを検討する時には、以下のものを考えるべきだと述べています。

ベネフィットでポジショニング

用途または適用でポジショニング

ユーザーの属性でポジショニング

顧客企業との違いでポジショニング

品質または価格水準でポジショニング

商品カテゴリーにおける企業の位置付けやプレゼンスでポジショニング

企業の特性や特徴などでポジショニング


また、コトラーは上記のようなポジショニングを検討する際、企業は次のような間違いを犯さないように注意しなければならないといっています。

アンダーポジショニング(購買動機や核となるベネフィットを的確に訴求していない)

オーバーポジショニング(ポジショニングを狭く捉えすぎたために潜在顧客を逸失してしまう) 

混乱を招くポジショニング(相反する幾つかのベネフィットを同時に主張する) 

的外れなポジショニング(気にもとめられないようなベネフィットを訴求する) 

疑わしいポジショニング(企業または当該ブランドの実態と乖離したベネフィットを訴求する)


ところで、買い手の購入予算が無尽蔵などということは通常ありえませんが、売り手は意外とこの点を忘れがちになることがしばしばあるようです。自分が買い手の場合だと、売り手が提供する商品については、値段が高いとか、品質がイマイチなど、あれこれ言っているのに、自分が売り手になった途端に、平気で高値をつけたり(少しでも高く売りたいから)、品質をちょっと落としたり、容量などを減らしたりしている(少しでも多く儲けたいとか、損は絶対したくないとか、はじめに製造原価ありきなど)ように思います。

コトラーは、売り手は自らのブランドをその価値に基づいてポジショニングしなければならないとし、これをバリューポジショニングと呼んでいます。このバリューポジショニングには、以下の5つのタイプがあります。

1. ベネフィットが多くて価格が高い

2. ベネフィットが多くて価格が同じ

3. ベネフィットが多くて価格が安い

4. ベネフィットが同じで価格が安い

5. そこそこのものをはるかに安い価格で


1は、最高級の車たとえばフェラーリであったり、最高級のホテルたとえばリッツカールトンの1室1泊200万円であったり、クリスチャンディオールの十数万円はするプレステージという化粧品などがそうでしょう。各カテゴリーには必ずといっていいほど、最上級の品質と他に類を見ない優れたスタイルやデザインを、最高の価格で提供している商品(モノ、サービス)があります。

コトラーはこの「良いものをより高い価格で」については、同じ品質を持った廉価な模倣品による攻撃を受けやすく、経済の後退局面では消費者が支出に敏感になるため、リスクが大きくなると指摘しています。

2については、コトラーは米国でのレクサスのマーケティング活動を例に挙げています。ベンツなどの高級車と比較したキャンペーンは、四半世紀ほど前のことになりますが、今でも参考になる点は多々あるのではないでしょうか。最近の車でいえば、フォルクスワーゲンのティグアン(2代目)が該当するように思います。ドイツはじめ欧州で圧倒的に売れたSUVです。

3は、消費者から歓迎されるのは当たり前でしょう。但し、その価値が本当に長続きするかどうかはわかりません。カテゴリーキラーの代表格だったかつてのトイザらスやホームデポ、ウォルマートなどをコトラーは挙げています。また、80年代に一世を風靡したベネトンや21世紀初頭くらいまでの(?)デルなどが、そうではなかったかと思います。

4については、主に小売業、特に(かつての?)GMSや、ディスカウントストアなどをイメージして頂ければわかりやすいように思います。また、アマゾンも基本サービスについてはここに該当するでしょう。製造業の例として、コトラーはパーソナルコンピュータにおけるかつてのIBMやアップルのようなリーダー商品の互換機を、両社より20-30%程度安くして販売した多くのPCメーカーを挙げています。

5は、LCC(格安航空会社)がまさに該当します。随分前のことになるかもしれませんが、小売業のプライベートブランドや、90年代くらいまでの(?)無印商品とか、少し前までの台湾などに代表される電気製品などもここに入ってくるのだろうと思います。


つまるところ、バリュープロポジションとは、「何故、あなたのところから買うのがよいのか」という買い手の問いに対して、売り手が答えるべきものを表します

バリュープロポジションの観点に従えば、自社が競合に勝つための考え方は、突き詰めると、次の2点になります。

より安い価格をつけるか

ベネフィットをさらに増やすか

前者については、実際の販売価格を低めに設定するもの(これが一般的でしょう)と、販売価格は安くないが買い手の総コストが安くなるものに分けることができます。総コストを安くするケースとして、たとえば故障が少ないとかメンテナンスに時間がかからないなどのランニングコストの安さとか、提供サービスの活用でより大きなコスト削減が期待できるといった場合などが挙げられます。

消費者相手であろうと、法人企業であろうと、持続的成長を志向するのであれば(実は当たり前のことではあるのですが)、今日ほど、バリュープロポジションをはっきりと打ち出すことが求められていることはなかったと感じています。


2/01/2025

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法viii まとめ

今回は、昨年11月中旬から7回にわたり取り上げてきたジョン・R・ロシターとラリー・パーシーのブランドポジショニングに関する3段階手法を、要点を簡潔にまとめて終わりたいと思います。

両氏の3段階手法は、はじめに、ブランドのポジションをX-YZモデルで決定します。このモデルは、そのブランドは何で[X]、誰を対象にして[Y]、何を提供するのか、つまりどういったベネフィットをYにもたらすのか[Z]を説明します。

ここでは、当該ブランドを、カテゴリーの中心に据えるか、差別化したポジショニングにするかのどちらかを選択しなければなりません(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法i X-YZモデルその1)。

商品カテゴリー自体または商品カテゴリーにおけるニーズを表すXの選択は次のとおりです。先発ブランドや、先発ブランドでなくてもマーケットリーダーであれば、中心的ポジショニングを選択します。

後発の模倣ブランドは先発ブランドやリーダーと同等のベネフィットを低価格で提供できる場合は、ポジショニングは中心的なものに据えるのが正攻法といえます。

それ以外のブランドは全て、差別的なポジショニングを選択しなければなりません。というのも、そうしなければ生き残ることが出来ないからです。

Xが決まれば、次はY(消費者など)とZ(ベネフィット)の選択へすすみます(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法ii X-YZモデルその2)。

ここでは、マーケティング/ブランド担当者は、YとZの両方を選択するのではなく、YかZのどちらかを決めることになります。Yは基本的に、ターゲットユーザーが技術的な商品の活用にあたり初心者である場合か、商品の購買動機が社会的承認に該当する場合に限定されます。したがって、大半のケースにおいて、担当者はZである商品のベネフィットに基づいて、ポジショニングを行うことになります。


X-YZモデルでXYZそれぞれが決まると、次は、ブランドが持つベネフィットのうち、何を強調するかをI-D-Uモデルで決定します(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1)。

Iは重要性(Important)、Dは実現性(Delivery)、Uは独自性(Uniqueness)を表しています(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iv I-D-Uモデルその2)

ロシターとパーシーは、ベネフィットを7つの購買動機で考察することを推奨しています。7つのうち、4つが負の購買動機、3つが正の購買動機になりますが、いずれの動機であろうとも、ポジショニングを検討する時は、ブランドがまだそこにポジショニングしていない場合に限定されます。

つまり、ブランド独自のベネフィットを見つけ出して、それを強調することが、ここでの最も重要なポイントになります。

その後、競合ブランドと同等のベネフィットに言及して、最後に、自社ブランドが劣っているベネフィットを他のベネフィットで相殺してしまうか省略するというながれになります。

このことは最も重視される購買動機(一次的動機)に基づいてポジショニングしなければならないということになりますが、仮にその独自の一次的購買動機を作り出すことができなければ(他のブランドがすでにそこにポジショニングしている場合には)、次に重視される購買動機(二次的動機)に基づいてポジショニングします。


I-D-Uモデルの後は、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスして、ポジショニングするかをa-b-eモデルを使って決定します(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法v a-b-eモデルその1ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法vi a-b-eモデルその2)。

属性へのフォーカスは、ターゲットが専門家、提供物が無形サービス、同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスする場合の代替案、以上3つの状況で行うことが望ましいとロシターとパーシーは述べています。

ベネフィットへのフォーカスは、他社が模倣しにくいベネフィットをブランドが保有している場合、ブランドが情報として負の動機づけになる場合、情動による強固な態度に対して論理的に攻撃する場合に行うことが有効であり、なかでも他社が模倣困難な場合は必ずベネフィットへフォーカスすべきとしています。

情動へのフォーカスは、模倣がたやすくできるようなベネフィットを持つブランド、情報として正の動機づけになるブランド、属性に従った強固な態度に対して情動的に攻撃する場合の3つがあり、簡単に真似されてしまうベネフィットしか持たないブランドには、情動にフォーカスすることが薦められています。


ポジショニングを決めることこそ、マーケティング活動の中で、最も重要な意思決定といって差し支えないでしょう。

ポジショニングは、そのブランドが何で、誰のために、何を提供するのかを明示するものです。ただ、ロシターとパーシーも述べているように、どうやってそれを見せたり、伝えたりするのが最もよいやり方かといったことまでを、ポジショニングが示すことはありません。それは媒体の領域になります。このため、何をどう表現するかによって、ポジショニング戦略の結果(実行による成否)が大きく左右されることには注意しなければなりません。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...