12/19/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法vi a-b-eモデルその2

ロシターとパーシーのポジショニング3段階手法の3つめのモデルであるa-b-eモデルについての2回目です。前回は、このa-b-eモデルの特徴と属性へのフォーカスについて述べました。今回は、ベネフィットへのフォーカスと、情動へのフォーカスについてです。


ベネフィットにフォーカスする状況は、次の3つです。

①他社が模倣しにくいベネフィットを持つブランド

②情報として負の動機づけになるブランド

③情動による強固な態度に対して論理的に攻撃する場合


①については、消費者にとっての主観的価値であるベネフィットを、他社が模倣できないのであれば、そのベネフィットにフォーカスすることは当然であり、まさにそれはマーケティングの王道です。

消費者からすれば、差別化された属性が、差別化されたベネフィットになるとは限らず、また、情動による差別化は、ベネフィットよる差別化と比べて、継続して行うことは難しいと、両氏は述べています。

②の負の動機づけによるブランド選択、つまり問題を取り除いたり軽減したりすることに関係する購買動機に基づくものは、まず始めに負の情動になる問題を、大きく訴え、次に、解決策として得られるベネフィットを提示するのが適切なながれとなります。

なお、ベネフィットが実現された後に、正の情動を表現するかどうかについては任意とされています。昔、日本のTVCMでよく見られた洗濯後にひどい汚れがきれいにとれていることで喜ぶ主婦の姿というのは、この典型といえるでしょう。

③は、消費者が現在、継続的に使っているブランド、中でも強固に支持しているブランドを他のものに変更することには、リスクありと考え、抵抗される、時には頑ななまでに拒否、拒絶されてしまうことは珍しくありません。

このような場合には、使用中のブランドに対して、情動的アプローチではなく、論理的に使用中のブランドを攻撃していくことが、当該消費者の行動変容を促せる唯一のアプローチであると両氏を述べ、わかりやすい例として、10代の喫煙、ドラッグなどの社会問題を挙げています。


情動にフォーカスする状況は、以下の3つです。

①模倣がたやすくできるようなベネフィットを持つブランド

②情報として正の動機づけになるブランド

③属性に従った強固な態度に対して情動的に攻撃する場合


①は、多くのブランドは競合ブランドと基本的に同じベネフィットを持ち、均一の商品カテゴリーの中で競争している状況を前提にすれば、独自のベネフィットがなくても、情動的に訴求し続けることが、効果的な手段であるとしています。

本来は、属性に立ち返ってベネフィットを再考すべきでしょうが、現実的には実効性がないことが大半なのかもしれません。なお、このやり方は、商品単価の高低、消耗品や耐久消費財、モノやサービスなどに限らず、多くのことに適用できるでしょう。

②の正の動機付けとして、感覚的な満足感、知的刺激や充足感、社会的承認などが該当することは、これまでに述べたとおりです(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1)。なお、この正の動機付けについては、最後には必ず正の情動にならなければならないと、両氏は述べています。

③は、最終的にベネフィットに行き着くため、ベネフィットフォーカスのひとつに入れるべきかもしれませんが、最初の情動が極端に否定的である場合を対象とするため、情動へのフォーカスのひとつに分類しているとロシターとパーシーは述べています。

③の例として、旅行者が海外で盗難にあったり、本人含め家族の誰かが死亡したりする場合を挙げた保険の類いが挙げられています。負の情動である恐怖を、テレビやネットまたは対面などの場で、ある種あおるようなやり方で利用すれば、消費者は恐怖を取り除こうとすることに没頭しがちで、冷静に向き合って、反証や反論がしづらくなるという点で、一定の効果はあるでしょう。近年の健康・美容関連の問題なども、この典型例といえるのではないでしょうか。


12/13/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法v a-b-eモデルその1

ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーのポジショニング3段階手法について、これまでX-YZモデル(その1その2)と、I-D-Uモデル(その1その2)について概要を説明してきました。

今回は、3つめのa-b-eモデルについてです。このモデルは、X-YZモデルで消費者の頭の中におけるブランドのポジショニングを選択し、I-D-Uモデルで多数あるベネフィット(Z)の中で、強調するもの、言及するもの、省略するものを決定しました。最後は、選択の最終段階として、ベネフィットのどういった側面にフォーカスするかというミクロレベルでの意志決定となり、ここではa-b-eモデルを適用します。

このモデルは、マーケティング/ブランド担当者が望ましいと考えるブランドポジションを獲得するために、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスするかを決める時に役立つものです。3つの用語の意味は、以下のとおりです。


属性あるものに共通して備わっている性質などのことで、かたちのある商品であれば物理的な特徴を指し、サービスのようにかたちがないものではその性質のことをいいます。また、それが消費者や顧客を対象にしたものであれば、性別や年齢、家族構成や職業、収入、出身/居住地域や利用する交通手段、趣味嗜好などになります。

ベネフィット: ロシターとパーシーは、ベネフィットとは「購買者が望むもの(主観的な除去・軽減、もしくは主観的報酬)」と定義しています。ベネフィットについては、このReflectionsでもこれまで何度か述べてきました(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場ブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場R&Dと組織横断活動型活動 (1)はじめに③SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。 

情動: 両氏は、情動を「購買者が感じること」として、「ベネフィットが実現する前後に起こったり、ベネフィットとして独立して起こること」と説明しています。喜びや悲しみ、驚きや恐れ、怒りなどの感情で、急激なものであったり、一時的なもの、情緒とウィキペディアでは記述されています。このような感情的経験を刺激することで、購買に関する意欲を喚起します。

なお、動機については、消費者(購買者)が商品を望む理由のことで、負と正の購買動機があります(詳しくは、ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1をご覧ください)。

 

繰り返しますが、ミクロレベルのa-b-eモデルは、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスして、ポジショニングするかということに関する意志決定を支援します。

属性にフォーカスする状況には、主に、

①専門家がターゲットの場合

②提供するものが無形のサービスの場合

③同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合 

 

この3つがあるとロシターとパーシーは主張しています。通常、顧客ベネフィットを強調することがマーケティングセオリーといわれることが多い中で、この属性フォーカスの考え方は、ユニークであり、且つ優れたものだといえるでしょう。

3つの属性フォーカスの状況のうち、①の専門家については、属性から生じるベネフィットを専門家は(専門家であるが故に)すでに知っているためです。

②の無形サービスについては、ロシターとパーシーは、商品(製品、サービス)がより無形であるほど、そのプロモーションにはより具体的な属性が必要になるというリン・ショスタックのジャーナル・オブ・マーケティングとマーケティング・オブ・サービスの論文を引用し、このことは「具体的な属性が、未だ経験されないベネフィットの代理指標になるから」と述べています。

わかりやすい例として、たとえば、従業員が身なりを整え、整理が行き届いた清潔なレストランで食事をするほうが、意図せず雑然とした空間になっている店よりも、選ばれる可能性は高いといったケースなどが挙げられます。ある属性が、良質なサービスを提供する証拠として、消費者に提供されるということになります。

同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合については、同等のブランドが存在する場合には、小さな属性を追加したブランドを、消費者は選好する傾向が強いという幾つかの実験結果に基づいています。競合するブランドが同等のベネフィットを強調することが非常に多い日本においては、もっと注目されていい属性フォーカスといえるでしょう。

ベネフィットと情動へのフォーカスは、次回にまわしたいと思います。


12/07/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iv I-D-Uモデルその2

前回は、3段階手法でブランドのポジショニングを考える際、強調すべきベネフィットの決定には、消費者の購買動機に基づくI-D-Uモデルを用いて行うことを述べました。今回は、そのI-D-Uモデルの重要性(Important)、実現性(Delivery)、独自性(Uniqueness)について、概説していくことから始めたいと思います。


重要性とは、購買者のブランドを購入する動機と、ブランドを購入することによって購買者にもたらされるベネフィットとの関連性を指しています。なお、ここでいうベネフィットは、購買動機を当該ブランドが満足させる機能を有する場合に限ります。

ロシターとパーシーは、コーヒーのラベルを例として挙げています。たとえば毎日飲用するコーヒーブランドを選択する時には、感覚的満足が購買動機となり、コーヒーラベルが高級感を漂わせる必要はない一方で、来客用のコーヒーの場合には、社会的承認が必要となる場合が多いため、ラベルから高級感が感じられるという重要性が必要になることが多いとしています。

この例に従えば、たとえば今の時期の日本だと、一般的にいえば、アールスメロンを自宅で食べる場合には、高知県産や熊本県産などは味が良い割には、価格はそれほど(かなり?)高いものではないということになるかもしれませんが、進物にするメロンとなれば、社会的承認の高い静岡県産になるといったようなことが該当します。

ベネフィットの重要性は、購買動機を満たす全てのブランドについて当てはまります。この重要性は、知覚される競合ブランドの集合である市場や商品カテゴリーの区分において普遍的なものであり、ひとつのブランド特有のものではありません。


I-D-Uモデルでの実現性とは、主観的なものであって、客観的事実に基づくものとは限りません。該当するブランドが、ベネフィットを提供できることに関する知覚を指しています。従って、ブランドベネフィットの実現性は、常に知覚的なものとなり、購買者のいわば信念のようなものや確固たる考えに基づきます。先のアールスメロンの例でいえば、静岡県産のメロンは高級なものという消費者の知覚に依存しています。ですので、静岡県産メロンのベネフィットの実現性とは、それが有するベネフィットを実現することについての知覚を指しているということになります。


独自性とは、端的に言えば、差別化された実現性のことを指します。当該ブランドは、競合ブランドに比べて、より良くそのベネフィットを実現できると知覚されていること、他ブランドよりもより優れた実現性を持つと知覚されるもののことを表します。先のメロンの例でいえば、静岡、高知、熊本、各県産のアールスメロンが、ある特定のベネフィットについて等しい実現性を持つとすれば、そのベネフィットに沿って、購入するメロンを決定することはできません。同等に実現するベネフィットは、選択の基準にはなりえません。従って、各県産の間で知覚差異を生み出し、相対的な独自性を生み出せるひとつ、またはそれ以上のベネフィットを強調する必要があり、それが進物の場合であれば、一般的にいえば、高級感ということになります。


以上から、ロシターとパーシーは、ブランドは重要なベネフィットを実現しなければならず、少なくともひとつの重要なベネフィットについて、相対的に独自なかたちで実現しなければならないと説いています。ここで考慮すべき点は3つあります。ひとつめが重要なベネフィットを決めること、2つめが重要なベネフィットを実現すること、3つめがその実現は独自性を発揮しなければならないということになります。


I-D-Uモデルのルールは、まずブランド独自のベネフィットを強調することであり、これが最も重要なポイントです。次に、競合ブランドと同等のベネフィットに言及すること。そして最後が、自社ブランドが劣っているベネフィットを他のベネフィットで相殺してしまうか、省略してしまうということです。

もし、ブランドが独自に実現できる重要なベネフィット持っていない場合はどうすればいいか、それは何が何でも一つは見つけ出すこと、創り出さなければならないいうことになります。というのも、それができなければ、そのブランドは市場に埋没し、退場せざるをえなくなるからです。


最後に、ロシターとパーシーのブランド態度を明確にするための多属性戦略を引用して、I-D-Uモデルを終わりにしたいと思います。

1. ブランドベネフィットの知覚実現性を高める。

2. ブランドが独自に実現するベネフィットの重要性を高める。

3. 競合ブランドのベネフィットにおける知覚実現性を弱める。

4. ブランドが独自に実現できる重要なベネフィットを追加する。

5. 自分のブランドが有利になるように、ブランド選択のルールを変える。


次回はミクロレベルのa-b-eモデルについてです。


12/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1

ここまでの3段階手法では、マクロレベルのX-YZモデルについて概説してきました。(Xについてはこちら、YZについてはこちら)

今回は、メゾレベルのI-D-Uモデルです。このモデルは、ブランドをポジショニングする時に、どのベネフィットを強調すべきかを決定することに役立ちます。

I-D-Uモデルは、次の3つの単語の頭文字をとったもので、IはImportant(重要性)、DはDelivery(実現性)、UはUniqueness(独自性)です。このモデルは、商品は、それが保有するベネフィットの独自性を、消費者(ユーザー)が他のブランドの中から、識別できるようになっていなければならないということを表しています。


ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーは、ベネフィットを購買動機で考察することを薦め、購買動機は7つあるとしています。その7つは、次のとおりです。

1. 問題を除去するため

2. 問題を回避するため

3. 今のままでは満足できないため、或いは十分な満足が得られないため

4. ほかとの組み合わせで回避するため(接近と回避の混合)

5. 感覚的に満足できるため

6. 知的好奇心や刺激、習熟などが得られるため

7. 社会的承認が得られるため


1から4を負の購買動機、5から7が正の購買動機です。なお、現在使用しているブランドの中身がなくなったり(たとえばコーヒー粉が使用することでなくなったり、メロンを食べたのでなくなった場合)、消耗したり(たとえば使用しているバッテリーが耐用年数をこえた場合)、そういったことで再度、購入するという行為(動機)については、リピート購買に該当するため、つまりはじめて購入するブランドの選択ではないために、上記の購買動機には含まれるものではないと両氏は述べています。


この7つの購買動機に基づいたポジショニングする場合は、大半のケースにおいて、ブランドがまだそこにポジショニングしていない場合に限ります。また、それは最も重視される購買動機(一次的動機)に基づいてポジショニングするというのが、意思決定のルールになります。なお、もし他のブランドがすでにそこにポジショニングしている場合には、次に重視される購買動機(二次的動機)に基づいてポジショニングします。


ロシターとパーシーは、分かりやすい例として、歯磨き粉を挙げています。歯磨き粉の属性または広義のポジショニングには、味・舌触りと、虫歯予防があります。ただ、多くのベネフィットが7つの購買動機のどれにぴったり当てはまるのかははっきりとはしません。味・舌触りは、上記5の感覚的に満足できるという購買動機になるかもしれませんが、食べ物の後味などを除くためといった問題を除去するため(上記1)であったり、虫歯予防などの問題回避(同2)といったこともあります。また、米国の場合だと、クレストの人気が非常に高いため、問題回避というよりも、社会的承認(同7)から購入している人も一定割合はいるでしょう。このように購買動機には曖昧な部分があるため、定性調査を行う際には、心理学の専門家に一次的購買動機を識別してもらうことが重要になる場合があるとロシターとパーシーは補足しています。

ところで両氏が紹介したM.S.ロスの研究結果は、かなり興味深いものです。それは、最も成功している多国籍ブランドの2/3以上は、ひとつの一次的購買動機に集中させているということです。ある調査によると、特定の動機にフォーカスしたブランドのほうが、複数の動機に基づいたブランドよりも、販売数量、マーケットシェア、マージンいずれも高かったということです。


最も強い購買動機ひとつに集中することは、消費者の理解を容易くし、記憶にとどめやすくするということがあるのでしょう。歯磨き粉のように、最も強い購買動機(なんらかの問題を回避すること)が最も多くの購買者をひきつけるのであれば、その最も強い購買動機から離れることなくポジショニングすることが不可欠なことということになります。


ただ、マーケティングアプローチ(ブランディング (4)ターゲティング ③3つのアプローチ)には、ひとつまたはごく少数のセグメントに絞って、大きなシェア獲得を狙う集中型マーケティング、またはニッチマーケティングというのがあります。ニッチを狙うのであれば、最も強い購買動機ではないポジショニングを選択するのが得策かもしれないとロシターとパーシーは述べていますし、かもしれないというよりは、そうしなければニッチとして成立しないだろうと思います。

これについて、たとえば両氏は、サッカリンやホルムアルデヒトなどは使用せず、全て天然成分から作られたというベネフィットを訴求した歯磨き粉の二次的購買動機や、通向きのワインの例などを紹介しています。


ロシターとパーシーは、7つの購買動機について、「もし~ならば」というチェックリストとして活用することで、優れた水平思考的なポジショニング戦略を探ることに役立つとしています。(水平思考/ラテラルシンキングとは、既成概念や理論にとらわれずに、水平移動によって刺激を誘発することで、自由にアイデアを出す思考法のこと)

よく知られた例として、タイレノールが挙げられています。それは、頭痛を鎮めるという問題除去型のポジショニングをしていた大半のアスピリンに対して、タイレノールは頭痛を鎮めることを接近動機として、これに胃痛を回避するベネフィットを組み合わせ、接近・回避の混合動機を利用したとロシターとパーシーは述べています。

最後に、両氏は、各購買動機の幅は非常に広いために、大多数の消費者を引きつける購買動機の中にも、ブランドの差別化を可能にするような差別的なベネフィット機会があると強調しています。

続きは、次回とさせていただきます。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...