7/14/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その11

マーケティングミックス2つめのP、価格についての11回めで、今回は参照価格について取り上げます。ここまでのブランディング(7)マーケティングミックス③についての内容は、以下のリンクからご覧ください。

 価格その1(価格の多様性)その2(価格検討3つのレベル)その3(プロダクトレベルでの検討)その4(先発企業の価格戦略①)その5(先発企業の価格戦略②)その6(先発企業の価格戦略③と後発企業の価格戦略)その7(経営の意志)その8(ライフサイクル①)その9(ライフサイクル②)その10(消費者の価格概念)


参照価格とは、消費者それぞれの心の中にある価格イメージのことです。消費者は、自らの参照価格に照らして、商品の値段を高いと捉えたり、安いと判断したりします。この参照価格には、内的参照価格と外的参照価格の2種類があります(価格その6)。


内的参照価格は、消費者の過去の購入経験などが蓄積され、記憶として残っている参照価格のことをいい、所謂、値頃感のことです。外的参照価格とは、メーカー希望小売価格、ネット小売含めた店頭での通常価格、チラシやカタログなどに書かれている価格のことをいいます。

商品価格の高い、安いの判断基準になる内的参照価格は、外的参照価格や実際に販売されている価格(実売価格)の影響を受けるため、固定的なものではなく、いつも揺らいでいる価格といえます。

ただ、この内的参照価格には価格の幅が存在していて、それは消費者ごと、また、プロダクトのカテゴリーごとなどで異なります。異なる理由は、各消費者の購入/利用経験がそれぞれ異なるからといえるでしょう。つまり、消費者は、ある程度正確な価格知識を持っているプロダクトのカテゴリーもあれば、そうでないカテゴリーもあって、それは消費者によってまちまちだということです。


内的参照価格は多義的です。学習院大学の元教授である上田隆穂氏は、内的参照価格を細分化し定義した斉藤嘉一氏の研究論文を、次のように紹介しています。内的参照価格は、「消費者の記憶内に保持されており、実売価格が関連付けて捉えられる何らかの価格」とし、多義性のもとになる価格に以下のものを挙げています。

公正価格: 消費者が過去の購買履歴、知覚品質及び売り手の費用を考慮して、公正であると考える価格

受容可能な最低価格: 消費者がこれ以下の価格では品質が劣ると考える価格

受容可能な最高価格: 消費者がこれ以上では高すぎると考える価格

最低市場価格: 消費者が市場で観察したことがあると考える最低の価格

最高市場価格: 同、最高の価格

平均市場価格: 消費者が市場で観察した価格に基づいて考える平均的な価格

通常の価格: 消費者が市場で最もよく観察すると考える価格

期待された将来価格: 消費者が将来売り手によって提示されるだろうと考える価格


内的参照価格の幅について、上田氏は著作の中で、3つの点を指摘しています。

参照価格の高い人ほど、広い価格受容領域を持っている。
購買頻度の高い人ほど、価格受容領域は狭い。
ブランドロイヤルな人ほど、広い受容領域を持っている。


①については、より高い価格帯に内的参照価格がある人ほど、その参照価格の幅は広く、価格には敏感ではないことを意味しています。

②は、購買頻度の高い人ほど、価格知識が豊富で且つ正確なものとなるため、内的参照価格の幅は狭くなることを表します。

③では、ブランドロイヤリティの高い人は、価格よりブランドに重きを置く傾向があるため、少々値段が高くてもそれを受容するためで、内的参照価格の幅は広いということでできるとしています。

(『マーケティング価格戦略』P130、P135-136 上田隆穂著 有斐閣 1999年)


それでは、このような特性を持つ内的参照価格を活かして、プロダクトの値上げを検討する場合、どういったことが適用できるでしょうか。


たとえば、高島屋の通信販売のハイランドクラブが、昨年に2年間の会費3000円を4000円に上げる価格変更を行ったケースで考えてみたいと思います。

値上げが当たり前となっている時勢ではありますが、既存顧客の会費が一気に1000円も上がるわけですから、取り扱う商品や会員特典などにより魅力的なものを付加しない限り、高島屋によほど高いロイヤリティを持つ人を除いて、多数の顧客は離反するのはないかと思います。実際、会費の支払い時期が来る顧客に対して、丁重な電話連絡をして、離反を食い止めようとしているようですが、それくらい手間をかけるのであれば、何故、一気に千円アップにしたのか、どうしてはじめにもっと考えなかったのかと筆者は思います。また、新規顧客の場合なら、既存顧客ほどではないかもしれませんが、価格が1.5倍から2倍、さらには3倍以上も値上がりするような状況下で、あのクラブの内容に対して4000円を払って入会する人がどれくらいいるかは疑問です。

内的参照価格は、自身の過去の買物経験をとおした価格に影響されます。今回の値上げ幅をせめて500円くらいにしておいて、(1000円値上げする必要が本当にあるのであれば)しばらくしてからもう一度500円上げるというほうが、顧客の参照価格の上書きは500円ですみ、ロスしたような感覚は少なくて済むはずです。

続けて値上げするといっても、会員の期間は2年ですから、2年後にもう1回500円上げて4000円にすれば、その時の参照価格は3500円であるため、顧客の抵抗も和らぐはずです。もしどうしても1回で4000円にしなければならない理由があるのなら、参照価格を弱めるような要素を加えるべきでしょう。たとえば、魅力ある商品をもっと増やして変化を消費者に感じてもらうとか、クーポンの利用や期間限定で割引率を高めたり、無料のお試し品を開発するとか、組織が違ってもリアル店舗との連動企画を練るなど、いろいろできたはずです。

とはいえ、敢えて高島屋の側に立って考えるなら、コロナ禍以降の異様な原材料価格の高騰と小売価格の上昇に鑑みれば(たとえば精米など、消費者はおろか販売当事者や生産者にとっても説明つかないものが多数あることを考えれば)、はるかにましな方ではあるのですが・・・。


7/05/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その10

マーケティングミックス2つめのP、価格についての10回めで、今回は消費者の価格概念について取り上げます。

ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その1(価格の多様性)その2(価格検討3つのレベル)その3(プロダクトレベルでの検討)その4(先発企業の価格戦略①)その5(先発企業の価格戦略②)その6(先発企業の価格戦略③と後発企業の価格戦略)その7(経営の意志)その8(ライフサイクル①)その9(ライフサイクル②)


消費者の価格概念には10以上のタイプがあります。なかでも、参照価格、心理的財布、価格階層理論(または価格帯理論)、留保価格、名声価格、プロスペクト理論、グーテンベルク仮説、端数価格については、しばしば取り上げられるため、以下に簡潔にまとめてみることにします。


参照価格: 消費者の心の中にある価格イメージのことで、内的参照価格と外的参照価格の2種類があり、前者は所謂、値頃価格または値頃感という言葉に置き換えることができます。なお、参照価格については、次回で詳しく述べることにします。

 

心理的財布: お金を支出をする時、消費者は自らが持つ幾つかの心理的な財布から行うという考え方。たとえば、日常の買物用財布、プチ贅沢用の財布、自己啓発用の財布(最近ではほぼ死語になりましたが・・・)、旅行用の財布等々、挙げればたくさん出てきます。ここで重要なことは、プロダクトを提供する側が、消費者のどの財布にアプローチしていくか、どの財布の支出として認知してもらうかということです。とりわけ、コモディティ関連のプロダクトについては、ワンランク上の財布、またはコモディティの中でもカテゴリーをより細分化することで、消費者に価格の値頃感やお得感を感じもらえるようにすることが重要なポイントになります。

 

価格階層理論: 上位のブランドをいつも買っている消費者は、中低位ブランドの価格が大幅に値下げされたとしても、それを購入することはないという考え方。同様に、下位ブランドを割り引くことで下位の更に下のブランドを買う消費者を獲得することは出来ても、中位ブランドの消費者の需要を奪うことはできないという意味にもなります。 

たとえれば、上位ブランドをナショナルブランド、中位をプライベートブランド、下位をノーブランドということができます。 

また、たとえば日常でA5ランクの神戸牛を買っている人は、ほかの値下げされた和牛のA5ランクを買うことはないともいえるでしょう。売上げを拡大したい企業は、その売上げをどういった消費者から、いくらくらい持ってこれるかを考えなければならず、単に大幅値下げをしても、売上げは思ったようには伸びないということになります。なおここでの価格は、品質に置き換えて考えることも可能です。

 

留保価格: 消費者の価格に関する受け入れ可能な範囲の幅のことをいい、この範囲を超えると、消費者は価格に敏感になるという考え方。範囲の幅の下限を下回ると、品質への不信感が生じ、上限を超えると支出増、予算オーバーとなり購入を見送ろうとする現象を捉えたものです。

 

名声価格: 高価格ゆえにより大きな需要を獲得できるという考え方で、高品質のプロダクトで用いられる価格戦略。宝飾雑貨や高級ファッションの分野に多く、他者に高価なものだと認めてもらうことが主な用途で、象徴価格とも言われています。

 

プロスペクト理論: 心理学のフレーミング理論が土台となって、考えられたもので、価格の高低に関する消費者の反応の違いを表した考え方です。参照価格に照らして、高価格で損をしたと感じるほうが、低価格で得をしたと感じるよりもインパクトが強いとされています。(参考: 問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠vi)


グーテンベルグ仮説: 需要でmonopolistic interval(独占的範囲)と呼ばれるものを含んだ価格反応関数のことで、端的にいうと、プロダクトの売上げには価格の変化があまり影響しない範囲/価格帯があるという仮説が、グーテンベルグの仮説と呼ばれるものです。この仮説に従えば、価格が一定程度の範囲内で変動することを、消費者はさほど気にしない(または気づきにくい)ということになります。これは、プロダクト提供側からすれば、価格を少しくらい上げても需要がさほど変わらない範囲を把握することが非常に重要であるということになります。

独占的範囲を外れれば、需要は急に変化するわけですが、留保価格の受容可能範囲との違いは、 上田隆穂氏によると、その独占的範囲の外で、価格が低ければ売上げやマーケットシェアは突然伸びることになり、リピート購買など消費者が当該プロダクトの品質を熟知している時に生じるということです。


端数価格: 端数で価格を表示することで、消費者に割安感のイメージを与えようとする価格設定で、たとえば98円、498円などになります。、ふだんから私たちがいつも目にするものですが、これだけ至るところで目にしていると、今日、効果としてどこまで有効なものかは少々疑問です。


次回は、参照価格について詳説します。


7/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その9

前回(価格その8)は、プロダクトライフライクルの導入と成長のステージについて述べました

今回は、成熟と衰退のステージについてです。

成熟期: プロダクトライフサイクル上、市場規模は最も大きくなり、且つ大きな変化がなくなるこのステージでは、市場の成長が見込めない分、参入企業同士のパイの奪い合いが起こり、激しい競争が繰り広げられます。 

小売業によるPB商品も登場し、価格競争はピークに達するため、価格は通常、成熟期において最も低くなります。一般的なプロダクトの場合は、大半の時期をこの成熟ステージで費やすことになります。このステージでは、価格の自由度はかなり制限されることになりますが、生き残るための価格は効果的に設定しなければなりません。

消費者は似通ったプロダクトを比較できるようになり、価格感度は最も高まります。特に成熟後期では、価格に非常に敏感で他社プロダクトに価格次第で切り替える消費者と、価格はさほど重視しないブランドロイヤリティの高い消費者に大別できるようになります。割合は前者のほうが大きいため、価格競争がさらに激化することになります。 

このステージでは、参入企業は他社から売上げを奪うことでしか成長できないため、競争が価格の引き下げを誘発するばかりでなく、特に後期では弱小企業は市場からの撤退を余儀なくされるようになります。 

このステージでマーケットリーダーが存在する場合は、プライスリーダーとなります。プライスリーダーはコスト管理をはじめ、需要予測の精度改善、パッケージの簡素化、チャネルごとにプロダクトの多様化を推し進めるなどして、利益を確保、増大させていきます。小規模事業者は、成長期以上に、一段と細かい対応を、消費者に対して行う必要があります。

 

衰退期: 需要が下降傾向にあり、企業の生産と販売能力が過剰な状態にあるこのステージでは、消費者がプロダクトの購入/利用をやめ、企業の利益水準は低下し、退出する企業が増えていきます。 

私たちがふだん目にしやすい業界でいえば、百貨店や量販店(総合スーパー)などをすぐに思い浮かべる人がいることだと思います。現状のコストを低く抑え、新たな事業/プロダクトの開発原資を捻出することは必要ですが、現行コストで固定費の占める割合が大きければ、事業/プロダクトの差別化要素(たとえば対面販売や好立地、多数の品揃え、適正価格など)を大胆に見直すことができたとしても、自らの存在意義を失うことにもつながりかねず、市場の衰退による影響はかなり深刻なものがあります。 

 

メーカーでいえば、 LPレコードやカセットテープからCDに移行した音楽業界では、プロダクトからの撤退のみならず、姿を消したハードウェアメーカーも少なくなく、またレコードなどのソフトウェアも同様です。 

ただ、 このステージで消滅したプロダクトがある一方で、需要がいったん落ち込むものの、その後回復したタイヤ業界のような事例もあります。国内タイヤ業界は、1970年代の2回のオイルショック、80年代の世界同時不況、タイヤのラジアル化進行による需要減退、90年代のバブル崩壊など厳しい時期がありましたが、輸出の促進や、タイヤのサブスクリプション化をはじめとしたサービスビジネスの強化に加え、そもそも自動車産業の世界的な隆盛などから、一時的な低下で終わっています。 

衰退期におけるプロダクトの価格は、 下げ止まった状態から上昇することが珍しくありません。コレクターやマニアなど、そのプロダクトをどうしても欲しいという消費者が存在するためです。レコードの温かみのあるサウンドが好きという消費者は今でも多く、単なる懐古趣味ではなく、レコードのプレイヤーや針などの需要も一定数量あるのが事例のひとつに挙げられます。 

こういった業界では、競争も少なく、比較的小規模事業者でも、設備投資を極力せず、マーケティング費用もできる限り抑え、プロダクトのラインアップを縮小させて、キャッシュフローの最大化が図れるように価格を設定すれば、プロダクトを継続提供するための利益を創出することが可能となります。


次回以降は消費者心理について、初回は消費者の価格概念についてです。


6/20/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その8

今回は、価格をライフサイクルで考えます。ライフサイクルは、プロダクトとブランドで違いはあります。けれども、ブランドのライフサイクルマネジメントについて、プロフェッショナル、アカデミック両方のフィールドで公に認められた理論を筆者は知りませんので、ここではプロダクトのライフルサイクルで、価格を捉えることにしたいと思います。ちなみに、ブランドのライフサイクルがプロダクトのライフサイクルよりはるかに長いとされる理由は、たとえばソニーのウォークマンをみれば、分かりやすいのではないかと思います。

プロダクトという視点では、ウォークマンは1979年に発売された初代ウォークマンから2代目のウォークマンII、その後に続く薄型ウォークマンといったところになります。一方、ブランド視点では、左記のカセットタイプのウォークマンから始まり、CDやMDのウォークマン、ラジオウォークマン、DVDウォークマン、さらにはネットワークウォークマンなど、ウォークマンといっても時代の変化と共に様々なものがあり、これらは一括して、ウォークマンブランドと呼ぶことができます。このようにウォークマンをブランドで捉えれば、そのライフサイクルは半世紀近くにもなることがわかります。


プロダクト価格をライフサイクルの各ステージ(導入、成長、成熟、衰退)で捉えた場合、以下のような顕著な傾向があり、プロダクトライフサイクル理論の有効性が証明されています。


導入期: 買い手(消費者、または小売流通企業)は、新しいプロダクトに関する知識をまだ持ち合わせていないため、当該プロダクトに対する価格感度が低いのがふつうです。というのも、プロダクトが新しいために、競合他社の類似するプロダクトも少ないか、もしくはそもそも存在しないからです。このため、新しいプロダクトを提供する企業は、プロダクトの価値を、広告宣伝や販促などをとおして、買い手に伝えていく必要があります。この時に、需要を正しくおさえておくことができれば、価格は自由に設定することができるといえます。

 

成長期: 導入期を経て、買い手の認知度が高まり、市場規模が拡大していきます。他社の参入(単なる模倣品から新しい価値を付加したものまで)により、競争が激しくなるため、先発企業は後発企業の価格戦略に応じて、これまで述べてきた価格の打ち手を実行します(価格その4その5その6その7)。 

成長期では、価格は低下傾向にあり、またSNSなどでの口コミも広がるため、プロダクトを繰り返し購入する、または継続利用する消費者が増え、耐久消費財のようなカテゴリーでは商品の普及が進むことになります。 

大手企業であれば、プレミアムプライシング価格バンドリング理的プライシング(価格その5)などの手法を用いてプロダクトラインのバリエーションを広げたり、経時的ディスカウンティング(価格その4)でコストリーダーシップを強化していくことが多くなるといえるでしょう。特定の消費者セグメントなどに絞り込んだニッチの分野でプロダクトを提供する小規模事業者は、大手企業の干渉を回避するための差別化戦略を強める必要があります。 

 

成長期をうまく泳ぎ切り、次の成熟期で確実に生き残れるようにするために最も気をつけなければならないことは、強みを徹底的に活かしながら、且つ適度にバランスのとれた戦略を実行することです。 

独自性が大事だからといって、差別化戦略のみに注力したり、コストリーダーシップ戦略をとっているからといって、それだけすむことはまずありません。業界を横断した純粋な戦略というのは必要なく、あくまでも同業他社の戦略と比較して、独自性に強みがあるのか、コストリーダーがなしうる価格の安さなのかといったことを考えることが必要です。 

ふつうに考えれば(もしくは自分におきかえて考えれば)誰でもわかることですが、品質が良ければ価格は気にしないという消費者であっても、他と比べて常識をはるかに逸脱したような値段をつけたモノを購入する人は、まずいないでしょう(いたとしても、統計的にエラーの範囲に位置づけられるはずです)。同じように、安いからといって品質などどうでもいいとか、価格感度の最低セグメントに居る消費者がいつも必ず価格プレミアムを受け入れないということも少ないはずです。 

 

つまり、成長期ではその後に必ず来る成熟期に向けた準備をするためにも、独自性の確立に加え、コスト効率の良い方法を考え出さなくてはならないということです。そのためには、ひとつの市場セグメントだけでなく(市場の切り方、捉え方を工夫すれば、セグメントはひとつだけには終わらないはず)、複数のセグメントの需要に適合したプロダクトの特性と価格の組合せをバランスよくとることが非常に重要になります。 

成長期に参入する企業は、独自性が高いと消費者が考えるプロダクトをプレミアム価格で購入/利用しようとするような市場セグメントがあるか、または、規模の経済を追うことができるだけの価格感度が高い市場セグメントがあるかを自らに問うべきです。 

前者については、そういうセグメントが存在していれば、長期間のブランドロイヤリティを期待することができます。たとえば、新製品のハイスペックなiPhoneを買い続ける顧客とか、少し古くなりますがかつてのソニーのテレビとか、ハーレイダビットソンの大型バイクとか、悪路でも走破できるイメージを醸し出すジープなどが、筆者の頭には浮かびます。後者については、価格が安ければプロダクトを変更したり、購入したりする消費者がいる場合、浸透価格戦略を適用することができます。かつてのソフトバンクの携帯プランであったり、デルやコンパック(現ヒューレットパッカード)のPCなどが良い例といえるでしょう。

成熟と衰退のステージについては、長さの関係から次回にしたいと思います。




6/15/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その7

前回(価格その6)は先発企業のスキム価格と浸透価格、後発企業の4つの価格戦略(協調、適応、日和見、略奪)について価格その4価格その5では、テリスの理論をとおして先発企業の価格戦略について述べてきました。


ここまでいろいろと見てくると、価格については、先発であろうと後発であろうと、理論や研究では説明がつかないものが少なからずあり、検討の枠組みなどの精度の問題はあるにせよ、もっと本質的なことがそこにはあるように思います。

そこで筆者が考えるのは、市場でどういったポジションを獲りたいのかという経営の意志が、価格を決めるのではないかということです。


つまり、プロダクトの企画に基づいて、はじめに開発や設計を行い、次にコストが来て、最後に活動の結果として価格が形成されるというのではなく、はじめに市場で獲得したいポジションを明確にして、次にそれを実現させられる価格が決められ、その後にコストが算定されて、最後にプロダクトの開発や設計が行われるということです。優れた価格設定というのは、こういったながれにすべきですし、実際そのようになっていることが多いのだろうと思います。


端的にいえば、価格がコストを決定するのであって、コストが価格を決めるものではないということです。従って、コスト・プラス法のようなやり方では、市場の需要を満たすことはできないといえるでしょう。


じゃあなんでもかんでもやみくもにえいやーと価格を決めるのかというと、決してそうではありません。そもそも市場で狙いたいポジションにおける価格は、市場を丁寧に観察すれば、ふつうは自ずとそこでの価格帯・価格の幅が決まってくるでしょうし、その価格帯は必然として許容可能なコストの幅を、企業ごとに決めることができるはずだからです。


前回に触れた、後発企業のモスバーガーが市場リーダーのマグドナルドを上回る価格をつけて成功した事例や、我々がふだん目にする競争環境から推察できるように、価格競争については、価格帯の影響が大きく関係していることが考えられます。

プライシングで知られる経営コンサルティング会社のサイモン・クチャーアンドパートナーズを設立したハーマン・サイモンは、次のように述べています。

価格帯を横断する競争のほうが、同じ価格帯におけるものよりも、競争は緩やかである。

価格帯を横断する競争では、高品質のプロダクトを値下げして、低位にあるプロダクトの顧客を引きつけるほうが、低位のプロダクトを値下げして、高位のプロダクトの顧客を引き寄せるより容易である。


このように、競争環境下にあるプロダクトの、価格は、価格の幅、価格帯として捉えることが非常に重要であることがわかります。市場における自社と自社のプロダクトのポジションによって、つまり、プレイヤー間での競争の程度によっては、価格帯を変更することは効果的であり、同じ価格帯の競争相手からの影響を小さくすることができるということを意味しています。

次回は、ライフサイクルごとの価格についてです。


6/07/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その6

前回と前々回では、先発企業における価格検討の趣旨(差別化プライシング、競争的プライシング、製品ラインプライシング)と、消費者特性を組合せた価格戦略のオプションを見てきました(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4同価格その5)。今回は、まさに純粋な意味で最初に市場に参入する企業によくみられる2つの価格戦略について触れた後、後発企業の価格戦略について概説します。


革新的な新製品は、その登場自体が新市場の創出につながります。筆者がすぐに思い浮かべるのは、アップルのiPhone(ビジネスモデルとして捉えるべきかもしれませんが)、ネットスケープコミュニケーションズのネットスケープ・ナビゲーター(1994年にリリースされたウェブブラウザ)、ソニーのウォークマン、コダックのポラロイドカメラ、IBMのメインフレーム、日清食品のカップヌードルなどです。


革新的なプロダクトは、スキム価格(上澄み吸収価格、スキミング・プライシング)と、浸透価格(ペネトレーション・プライシング)という価格戦略を採ることができます。スキム価格とは、プロダクトの導入時点で高値をつけるやり方です。浸透価格とは、赤字を出さずに薄利多売を続け、自社の価格を業界標準的な価格にするプライシングのことです(価格その5)。

スキム価格については、競争相手がいない場合、高い利益を確保できることから魅力的なやり方に見えます。ですが、魅力的な市場ということは、他社の参入可能性も高まるため、高い利益を保持し続けることは難しくなります。その結果、プロダクトの成長後期になると、多数の参入企業が現れ、熾烈な価格競争となり、利益は急速に低下することになります。かつてのビデオデッキやCDコンポなどのAV機器などはその典型といえるでしょう。VHS/ベータのビデオからDVDプレイヤーへと技術革新が進む過程で、国内屈指ともいえるメーカーが消えていったことを思い出される方もいらっしゃるかと思います。

一方、浸透価格については初期段階では利益を得ることが難しいかもしれませんが、設定した価格が他社に対する参入障壁を築くことになるため、長期にわたり利益を獲得できる可能性が高まります。潜在的な市場規模が大きく、価格変動による需要への影響が大きい場合には、有効な価格戦略になります。たとえば、ユニクロのフリース、マグドナルドの100円バーガー、ソフトバンクの携帯料金プラン、比較的最近でいえば楽天モバイルなどが挙げられます。


ところで後発企業は、先発企業に対して、どういった価格戦略を用いることが有効なのでしょうか。学習院大学の元教授である上田隆穂氏は、トーマス・T・ネイゲル(米国シカゴ大学等の元教授)の4つの価格戦略(協調、適応、日和見、略奪)を紹介しています。


協調価格: 少数の大企業で構成される寡占的な市場でよくみられます。プライスリーダーが最初に価格を変え、他の企業が協調的に追随するというもので、高価格を安定的に生み出しやすいの特徴です。上田教授は、以前の鉄鋼業界やビール業界を代表例に挙げています。携帯電話料金もこの類いでしょう。

適応価格: 大企業が設定した価格を業界標準価格として、中小・零細企業がこれに倣うものです。大企業以外が価格を主導することはありません。但し各プレイヤーは、業界の需要量の変化を変化前と同じように分担することはせず、業界標準価格が変化する時に、生産量の調整などをして売上げの増大などを狙うのが特徴として挙げられます。

日和見価格: 市場シェアの増大を狙う競争的な価格戦略です。他企業が値上げした時は自社の値上げを遅らせたり値上げしなかったり、他社が値下げした時は直ちに追随するだけでなく、思い切った値下げを行ったりします。また、同価格で容量を増やしたり、おまけをつけたり、小売流通企業へのリベートを用いるなどして、競合が値下げで追いつけないようにすることもあります。競争相手よりもコスト構造が低かったり、未稼働の生産設備を持っていたりする企業が用いるやり方です。

略奪価格: 日和見価格よりもさらに競争的です。財務上、強い大規模企業が用いる手法で、破壊的な低価格を伴うことがあります。たとえば、小規模企業が価格を乱して値下げをした場合に、到底真似できないような価格まで大手が値を下げることで、小規模企業に業界価格を順守させようとするやり方です。

 

協調価格が最も競争が緩く、略奪価格が最も激しいこれら4つの価格戦略のうち、協調、適応、日和見の各戦略は、市場のフォロワーが採用し、略奪価格についてはリーダーかチャレンジャーがとる戦略とされています。なお、上田氏は、後発企業のモスバーガーが高品質な材料と出来たて感という価値を付加することで、市場リーダーのマグドナルドを上回る価格をつけて成功したことを引き合いに出し、マーケティングミックスと差別化の重要性を説いています。価格はあくまでも提供するプロダクトとの整合性の上に成り立つものと理解しておけば、上記4つの価格戦略を適用しなくてもよい状況を作り出せることになります。

つまり、先発企業のプロダクトよりも、後発企業のプロダクトの品質の方が大きく上回っていれば、たとえ後発企業であったとしても、高い価格で先発企業に対抗できることが可能ということになります。


6/02/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5

マーケティングミックス2つめのP、価格についての5回めです。前回は先発企業の差別化プライシングについて述べました(価格その4)今回は、同じく先発企業の競争的プライシングと製品ラインプライシングについてです。


競争的プライシングと、3つの消費者特性(差別化プライシング同様、大きい探索コストを持つセグメントがある場合、低い留保価格を持つセグメントがある場合、誰もが特別な取引コストを持つ場合)を組み合わせた時、先発企業は、価格シグナリング、浸透価格と経験曲線プライシング、地理的プライシングという価格戦略を成立させることが可能です。

探索コスト、留保価格、取引コストについては、以下のとおりです(前回分と同内容)。

探索コストの違い(消費者が価格を調べるのに要するコスト、つまり情報を探索するのに要するコストの違いによるもの。多忙な人や面倒くさがりの人は、情報探索に十分な時間をかけずに購入商品を決定することが多い。ネットを含め探索時間が短いほど、探索コストは小さくなる。一方で、商品の品質や原材料、産地、素材やデザイン性などじっくり調べる人や、どの店で買うのがお得なのかといったことをしっかり調べる人は、探索コストが大きくなる)

留保価格の違い(消費者が支払ってもよいと考える価格の上限の違いによるもの。消費者が商品の価格を適当なものと考える時の価格幅の上限を意味するのが留保価格で、これ以上は払わないという価格のこと。留保価格が低い=出せる金額が低い場合は、消費者は価格に敏感といえる)

取引コストの違い(消費者の商品入手に係る多様なコスト/取引コストの違いによるもの。商品購入のために要する交通費をはじめ、使い慣れた商品を他社製のものに変更する時に生じる金銭的・物理的・心理的障壁であるスイッチングコストであったり、購入後当該商品が不要になる場合や不良品であったりする時の謂わば投資リスク的なものなどを含む)

 

価格シグナリングx大きい探索コストを持つセグメントがある場合 

高品質は高価格で、低品質は低価格で販売/提供するのが当然のところを、低品質のものを高価格で提示するやり方。通常価格をわざと高く設定し販売時にXX%割引とするようなものも含みます。消費者が品質のことをよく分からなかったり、価格があまり知られていないような状況下で用いられる悪質なやり方です。店頭で特売やバーゲンなどというセール表示、198円や99円などと表示する端数価格や、最低保証価格なども価格シグナリングに含まれます。

 

浸透価格と経験曲線プライシングx低い留保価格を持つセグメントがある場合

浸透価格とは、赤字を出さずに薄利多売を続け、自社の商品価格を業界標準的な価格にしていくプライシング。他社を自社の価格に追随し続けることを難しくしたり、参入自体をあきらめさせることを狙う手法。 

経験曲線プライシングとは、生産コストを下回るような低価格で販売し、経験をとおして費用削減を図りながら、コスト低下後に利益を獲得していくことを狙うプライシング。原価割れのような値段で販売することで、より多くの顧客層を獲得することができるため、規模の経済が働きます。往年の国産PCによく見られたやり方です。

 

地理的プライシングx誰もが特別な取引コストを持つ場合 

地域ごとに異なる価格で販売するプライシング。競争過多の地域では価格を下げて、競争が緩やかな地域で利益の減少分を補填するプライシング。国内では日用品などによくみられます。都心で販売されている日用品の価格は安く、地方で売られる日用品は決して安くないものが多いというのはこのやり方によるものです。



製品ラインプライシングと、3つの消費者特性(高い探索コストを持つセグメント、低い留保価格を持つセグメント、誰もが特別な取引コストを持つ場合)を組み合わせた先発企業の価格戦略には、イメージプライシング、価格バンドリングとプレミアムプライシング、補完的プライシングが挙げられます。


イメージプライシングx大きい探索コストを持つセグメントがある場合 

同程度の商品を名前を変え別ブランドで展開し、高級イメージを付与することによって高価格で販売するプライシング。化粧品や日用品などでよく行われているやり方です。近年では、部品の共通化により同等程度のコスト構造の車を、人気車種は高い価格で、そうでないものは比較的低価格で販売するなど、国内外の自動車業界でもよく採用されています。サービスでは、PCやスマートフォン等のセッティングサービスや、インターネットプロバイダー等の多様なメニューなどが該当します。

 

価格バンドリングとプレミアムプライシングx低い留保価格を持つセグメントがある場合 

価格バンドリングとは、異なる商品タイプのものを組合せて、個別にそれぞれを購入すると高くなるものを組合せて提供することで安く販売するプライシングです。 

プレミアムプライシングは、レギュラーまたはスタンダードバージョンとプレミアムバージョンの2クラスのプロダクトを用意して、前者(レギュラーやスタンダード版)を価格に敏感な消費者、後者をそうでない消費者に販売し、両者を合わせた総額で利益を出していくプライシング手法です。価格に敏感な層が購入するものを、敏感でない層が補完していくことになるやり方です。車や家電製品のような耐久消費財関連で多くみられます。サービスであれば、ホテルのプレミアムルームや高級レストランのコースなどでも採用されています。

 

補完的プライシングx誰もが特別な取引コストを持つ場合 

補完的プライシングには、虜プライシングと2面プライシングというものがあります。 

虜プライシングまたはキャプティブプライシングと呼ばれるプライシングは、本体と付属するものをセットまたは別個に提供するやり方。これは、本体を安価で提供する一方で、付属するものを相対的に高い価格で提供する手法です。代表的なものに、複写機とカートリッジ製品やメンテナンス費用、車とスペアのパーツ、PCとソフトウェア、エレベータと保守点検などがあります。 

2面プライシングは、サービスによくみられるプライシングで、固定料金と変動利用料金に分けられることが多く、両者の組合せで利益を出していくやり方です。たとえば、携帯電話料金、アミューズメント施設などでの入場料と個別のアトラクション利用料や、両親と子供向けを組合せた料金、フィットネスクラブの料金体系などが挙げられます。

 

次回は、引き続き先発企業の価格戦略について述べた後、後発企業の価格戦略について触れることにします。


5/22/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1その2その3)。


最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することができます。先発企業ゆえに価格設定の自由度が高くなるわけですが、この自由度の高さは、価格において、多くの戦略オプションの検討機会があることを意味します。このオプション(代替案)については、学習院大学の元教授である上田隆穂氏に倣い、ジェラルドJ.テリスが提唱した9つの価格戦略で概説することにします。なお、ここでいう先発企業というのは、純粋な意味で最初に市場に参入する企業だけでなく、独自のポジショニングを構築して、消費者の頭の中に新たなプロダクトカテゴリーを想起させることができる企業なども含みます。


企業の価格設定(プライシング)には、3つのタイプがあります。

差別化プライシング(消費者セグメント間での異なる価格設定のため)

競争的プライシング(厳しい競争環境下での優位性獲得のため)

製品ラインプライシング(製品ライン間での価格バランス確保のため)


プライシングタイプの検討は、プロダクトの主旨に従って行われます。価格をはじめ、マーケティングミックスは、プロダクトの狙いに沿ってアライメントさせるべきで、これなくしてプロダクトの成功はありえません。ブランドが毀損する理由は、多くの場合アライメントの欠如にあります。

 

一方、価格を消費者の行動や価値観などの消費者特性で考えた場合には、以下のような3つの捉え方があるとされています。

探索コストの違い(消費者が価格を調べるのに要するコスト、つまり情報を探索するのに要するコストの違いによるもの。多忙な人や面倒くさがりの人は、情報探索に十分な時間をかけずに購入商品を決定することが多い。ネットを含め探索時間が短いほど、探索コストは小さくなる。一方で、商品の品質や原材料、産地、素材やデザイン性などじっくり調べる人や、どの店で買うのがお得なのかといったことをしっかり調べる人は、探索コストが大きくなる)

留保価格の違い(消費者が支払ってもよいと考える価格の上限の違いによるもの。消費者が商品の価格を適当なものと考える時の価格幅の上限を意味するのが留保価格で、これ以上は払わないという価格のこと。留保価格が低い=出せる金額が低い場合は、消費者は価格に敏感といえる)

取引コストの違い(消費者の商品入手に係る多様なコスト/取引コストの違いによるもの。商品購入のために要する交通費をはじめ、使い慣れた商品を他社製のものに変更する時に生じる金銭的・物理的・心理的障壁であるスイッチングコストであったり、購入後当該商品が不要になる場合や不良品であったりする時の謂わば投資リスク的なものなどを含む)


消費者セグメント間で異なる価格を設定する差別化プライシングと、3つの消費者特性(大きい探索コストを持つセグメントがある場合、低い留保価格を持つセグメントがある場合、誰もが特別な取引コストを持つ場合)を組み合わせた時、先発企業には、ランダム・ディスカウンティング、経時的ディスカウンティング、第2市場ディスカウンティングという3つの価格戦略のオプションが成立します。


ランダム・ディスカウンティングx大きい探索コストを持つセグメントがある場合 

商品購入前に、情報収集を熱心にする人としない人がいる場合に成立するプライシング。探索コストが大きい人は、希望どおりの商品を手に入れる可能性が高く、購入前の期待と購入後の満足が一致しやすい。このため、返品の可能性も低くなります。また、探索コストの大きい人は小さい人より、商品を安く買えることが多くなります。たとえば、小売業の曜日別または時間帯別割引サービスであったり、クーポンの発行などがこれに当てはまります。

 

経時的ディスカウンティングx低い留保価格を持つセグメントがある場合 

時間の経過と共に、価格を下げていくプライシング。たとえば、発売当初は高値で販売し、その後徐々にある程度の水準まで価格を下げていくやり方などが該当します。典型的なものとして、新製品のPCや周辺機器、映画のロードショーから2次封切、DVD発売、レンタルといった一連のながれなどが挙げられます。なお、商品発売当初に高く設定された価格を、スキム価格、或いは上澄み吸収価格といいます。

 

第2市場ディスカウンティングx誰もが特別な取引コストを持つ場合 

ここでは本来の市場を第1市場と呼び、第1市場で固定費は回収されたが生産余力があるため第2市場と呼ぶ新たな市場で同じ商品を割り引いて販売するプライシングのことをいいます。たとえば、鉄道などの学割や、オフシーズンでの航空運賃割引、高級ホテルでのランチサービスなどが該当します。

 

競争的プライシングと製品ラインプライシングについては、次回にしたいと思います。


5/10/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3

マーケティングミックス2つめのP、価格についての3回めです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1同その2)。


製品やサービスの特性は、価格の決定に影響を与えます。たとえは、モノは多くの場合、在庫が発生するため、納入先である流通業(卸・小売)が納入元であるメーカーに対して、価格決定の面で影響力を行使するのは珍しくないでしょう。サービスであれば、たとえば鉄道、バス、タクシー、飛行機といった交通機関は許認可制のため、価格決定には政府の影響力が大きなものになるのがふつうです。(SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)


モノを消費財生産財に分けて捉えるとどうでしょうか。消費財はその商品/プロダクトの特性によって価格決定についての主導権が大きく異なるため、最寄品、買回品、専門品に分けて考えたいと思います。生産財については、消費財のように膨大ともいえるメーカーの数は存在せず、またインターネット販売でダイレクトに最終消費者へ販売することも通常ありません。生産財メーカーは納入先である法人企業への継続取引をとおして事業を拡大させていくため、納入先が価格決定に対して大きな影響力を持つのが一般的でしょう。


最寄り品というのは、商品単価が比較的安く、日常生活の行動範囲内で繰り返し購入される消費財全般のことをいい、通常同一商圏内での販売価格に大差ありません。食品では一般的な牛乳、パン、調味料、加工食品、青果類、アルコール類など、日用品であればトイレットペーパーや洗剤、シャンプー、歯磨き粉などになります。ほかにも煙草や週刊誌などの大衆雑誌も含まれます。このような最寄り品を扱う小売業態は、食品スーパーやコンビニです。こういった一般的な最寄り品は、流通業に価格決定権があるのがふつうで、イオンやセブン&アイのような巨大小売企業であれば、PB開発などをとおして、価格決定力をさらに強大なものにし、もしメーカーが強気で価格交渉にのぞめば、当該商品が店頭に並ぶことは困難になります。

ですが、全ての最寄り品の価格決定権を流通業が有しているというわけではありません。たとえば地元産の高鮮度な青果類や特定の地域の高級な牛乳などは、最寄り品であっても、生産者が希望する価格で販売できることが多いといえるでしょう。また、パンについても、食品スーパーなどには納入せず、パンの作り手が自ら店舗を運営して販売しているところは、自由に価格を設定しています。

上記の最寄り品の定義はあくまでも一般的なものです。これを書いている筆者が言うのも何ですが、私の家族は最寄り品であっても、買回り品と専門品を購入するような購買行動をしています。それは、価格ではなく味と鮮度のためです。たとえば青果類だと、冬の時期であれば、白菜ひとつとっても、産地によって、味・鮮度・品質・日持ちなどがまったく違うといっても過言ではありません。このため、買う産地と買うお店を、筆者の家族は決めています。イチゴなど、よりデリケートなものになれば尚更です。また牛・豚・鶏・鴨などの精肉類全般については、買う銘柄とお店も決めています。はじめから店を決めていたのではなく、幾つも買い回っての結果、そのようになりました。何が言いたいのかというと、購買行動、消費行動は一様ではなく、人の嗜好によって異なるということです。

このため、差別化できず価格競争に陥りやすい商品、所謂コモディティ化(画一化)している商品、特に最寄り品などは差別化できなくても当たり前とされている一般的な認識は、およそ誤りだと筆者は思っています。実際、セオドア・レビットは、コモディティという概念は存在せず、差別化できない商品はないといっています。自身の生活を振り返れば、まさにそのとおりだと思います。こういった面から、最寄り品こそ、ブランディングの力が試されるといっていいでしょう。


買回り品は、商品購入のために、ネット上含め複数の店舗を見て回って、比較検討するような商品群で、商品単価は高めで購入頻度は比較的低いような衣服・雑貨、家電製品などが該当します。買回り品は、他社商品との違いを打ち出すこと、差別化が重要なポイントになります。ここでの価格主導権は、専門品ほどではないにせよ、少なくとも一般的な最寄り品ほど、流通業にはありません。

専門品は、商品単価が高く、消費者は購入までに相応の時間をかける高額な商品群のことをいい、たとえばハイエンドなファッション衣料雑貨や車、高額な家具や家庭用品、住宅であれば注文住宅(特に高額な注文住宅)などが当てはまります。専門品では、価格決定に対して流通業の影響力は殆どないといって差し支えないでしょう。実際、車であれば、メーカー系列のディーラーなど、高級車になればなるほど、メーカーの価格に対する支配力が大きくなります。


ここまで見てきたように、価格決定には、差別化による商品/ブランドの独自性が流通企業に対して優位性を発揮できるといえます。またここでは触れませんでしたが、市場シェアの占有率が高いほど、原材料を供給する企業(サプライヤー)に対しても優位性を発揮でき、所謂コストリーダーシップで競争優位を構築できる可能性が高まります。

但し、たとえば食品メーカーと香料メーカーの関係のように、差別化要素を創り出すために、特定の原料と技術をサプライヤーである香料メーカーに依存している場合は、たとえ食品メーカーの市場シェアが大きかったとしても、それが即、価格優位につながるとは言えない面があります。このことから、差別化による優位性は、技術的な優位性と深いつながりがあることが多いのが分かります。あと、小麦の買い付けなどに見られる政府による法規制について、規制が少なければ、価格決定の自由度は高まるのは周知のとおりです。

なお、価格の自由度が高いというのは、高い価格をつけることができるというだけで、実際に高い価格をつけることを意味するものではありません。以上、ここまでプロダクトの特性で価格を見てきました。


ほかにも、プロダクトのライフサイクルで価格を考えることができます。プロダクトの導入、成長、成熟、衰退の各ライフサイクルで、とるべき価格戦略が異なるという考え方です。現行商品/プロダクトを改良した新商品か、市場には存在しないような全くの新規商品かによって、価格の優位性は異なりますが、およそ共通して言えることは、新たに市場を開拓できるような新商品であれば、導入と成長期において、高い価格優位性を発揮することができ、成熟や衰退期に入ると、似たような商品が多数市場に参入するばかりではなく、自社商品にとって代わられるような新たな他社の新商品の登場によって、価格の優位性は失われていくことになります。


プロダクトの特性とライフサイクルで価格を考察するアプローチ以外に、消費者の特性や心理で価格を検討するものがあります。端的に言えば、最寄り品、買回り品、専門品のいずれであっても、それぞれに対して消費者にとっての値頃感というのがあります。これについては、後日詳しく述べたいと思います。

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その2

マーケティングミックス2つめのP、価格についての2回めです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1)。


価格やプライシングを検討する時、何から始めればいいのでしょうか。それは、いきなりミクロの観点から入っていくのではなく、マクロな観点でまずは全体を見ることです。こうすることが、その場しのぎの対応に陥ることなく、検討の抜け漏れを防ぐことにもなります。こういったことは、価格やプライシングに限ったことではなく、ビジネスシーンのあらゆる場面に適用できると筆者は思います(論理的思考(2) 論理的思考とは①論理的思考(2) 論理的思考とは②)。


価格の検討には、業界レベル製品・市場レベル取引レベル3つの視点を統合させて行うべきだと、マイケル・V・マーンをはじめとしたマッキンゼーのプライシングエキスパート(2004年当時)は述べています。


業界レベルでは、需給関係、コスト構造、法規制、技術革新、競争行動、新規参入の可能性等の要因を分析して、業界全体の価格水準を考えます。なかでも、需給とコストの価格水準に与える影響と、競合他社のコスト構造・設備投資・研究開発予算などをおさえて競合の今後の狙いを把握するのが重要だとしています。また、プライシングに長けた企業は、値上げのタイミングと値上げをすべきでない時期をよく理解しているとも述べています。


製品・市場レベルでは、自社製品を競合に対して適切に位置付けることを考えます。つまりターゲットにする市場セグメントで、自社を最適なポジショニングにする価格水準を、消費者の目線で価格とベネフィットのバランスを考慮して決めるのが、このレベルですべきことになります。併せて、消費者が他社と比較してどう考えているのかも理解する必要があります。価格を上乗せしてもよいのか、或いはもう少し下げて提供すべきなのかといったことは、他社に対する消費者の認知、認識などを知らなければ、最適な価格設定が困難になります。


取引レベルでは、製品・市場レベルで決定した価格を基本ラインとして、顧客ごとに、一つひとつの取引で、適切な価格を設定できるようにすることが狙いとなります。主として法人顧客、商品納入先が卸売業・小売業が対象になるレベルです。対象が消費者であれば、車をはじめとした主に高額商品のカテゴリーになります。


3つのレベルを統合させるというのは、はじめの業界レベルでは、業界全体の特徴を理解し、価格に影響を与える要因全てを掴んでおく。

次の製品・市場レベルでは、業界レベルでおさえた背景や傾向、要因を踏まえて、ターゲットセグメント固有の価値、ベネフィットに着目して、価格の基本ラインを設定する。

最後の取引レベルでは、各顧客、各取引ごとの価格を設定するということになります。これら3つのレベル全てで優れた企業というのは、たとえば業界で価格が上がりそうだと分かれば、低価格商品の投入を控えて、むやみに市場に値下げ圧力をかけないようにするというようなことができると、プライシングエキスパートは述べています。

次回は、価格をプロダクトレベルの特性で考えます。


5/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

現在、景気は大きな後退局面にあると言えるのではないでしょうか。賃上げにより(賃上げがあったとして)、名目賃金は増えても、モノの多くが1.5倍くらいはふつうに値上がりしているようなこの異常な価格高騰により、所得は実質目減りしています。消費者は価格に敏感にならざるを得ず、価格重視で商品を選別する人が多数を占めるようになるのは当然だろうと思います。価格を重視するタイプの消費者以外では、価格と品質のバランスを強く考慮する消費者と、プロダクト(商品)がよければいくらでも価格を支払う消費者というようなタイプが挙げられるでしょう。


メーカーであれ小売であれサービス業であれ、提示した価格が本当に最適なものだったのかどうかはわかりづらいものです。売上げが悪ければ当然ですが、たとえ売上げが良かったとしても、もう少し高い値段をつけるべきだったのかと思うことが誰しも一度くらいはあるはずです。価格の上昇は利益に直結するだけに、事業に与えるインパクトは非常に大きくなります。価格を1%上げて、販売数量が変わらなければ、利益は10%以上増えるというケースも少なくないようです。今日のような大きな景気後退局面では、よくあるパターンとして他社よりも安く売ってシェアを確保するというのもありでしょうが、残クレで高級車に乗るといったような(筆者には)考えられないような消費行動をとる消費者が増えているのも事実です。今日では、どういったタイプの消費者を、どういう商品で狙っていくのかが、ますます重要になってきています。


このようなことを考えると、価格設定の最も一般的なやり方であるコストプラス法(実際にかかったコストに、利益を上乗せして価格を算出する方式)というのは、消費者の心理や価格の弾力性、他社との競争の観点などから、あまり適切なやり方とはいえないでしょう。ブランドエクイティ構築のための価格設定として、ケビン・レーン・ケラーは、バリュー・プライシングと、長期間の値引き方針を決めるエブリデイ・ロー・プライスの2つのアプローチを挙げています(これについては、後日述べる予定です)。


価格の決め方は多様です。また、価格の捉え方もいろいろです。定価、希望小売価格、標準小売価格、オープン価格、基本料金、販促価格、割引価格、販売奨励金、ほかにも、一括払い、分割払い、レンタル、リース、ダイナミックプライシング、さらにはサブスクリプション、残価設定型クレジット(残クレ)等々。あまり複雑に考えるのはよくありませんが、価格と一口に言ってもいろいろあって、プロダクトの特性によって、幾つかを組合せることで、たとえ高価なものであっても、買い手に意識させずに、プロダクトを提供することが今日では可能になっています。


消費財は産業材と違って、消費者の主観的なものの見方や先入観などが、価格に大きく影響しますつまり、消費者がプロダクトを使用/利用する場面によって、価格に対する感じ方(価格感度)が異なるため、それを使って価格を考えていく、価格戦略を練るというやり方は効果的といえるでしょう。所謂TPOのOであるオケージョン/場面を想定するというものです(Time、Place、Ocassion)。但し、プロダクトコンセプトの策定段階で、こういったオケージョンが特定されていることは珍しくないため(というか、特定されているべきだと思いますが)、当該コンセプトに従って行う必要はあります。


飲食店を例に挙げれば分かりやすいでしょう。朝食、昼食、夕食、夜食などの時間帯別オケージョン。店内で食べる、テイクアウトする、宅配してもらうといった空間別オケージョン。個人、友人、職場の同僚や上司・部下、恋人、夫婦、家族などの利用者別オケージョンなどが、すぐに想起されることだと思います。ただ、ここで気をつけなければいけないことは、オケージョンを幾つも挙げることができても、プロダクトでフォーカスしたものに従って、実現可能なオケージョンを選択しなければ意味がありません。

飲食店の例を続ければ、時間帯は昼食、空間は店内飲食として、商圏内の他店を調査すれば、およそどれくらいの価格帯でメニューが構成されているかはすぐに掴めます。これに主な利用者をたとえば職場の同僚とすれば、自ずと競争相手を絞り込みやすくなるはずです。


但し、利用者の属性には注意が必要です。たとえば、利用者がメタボで食事を改善しなければならないような状況にあったとすれば、塩分控えめで野菜中心のランチを選択するかもしれず、その場合はランチ代が少々高くなってもやむなしと考えるかもしれません。また、同僚とのランチの時には、周囲の目を気にせず仕事の話をしたい人もいるでしょう。こういった場合には、事前に予約をして、落ち着いた雰囲気の店を選ぶかもしれません。こういった場合には、支払う代金が高くつくものになってしまっても気にしない人がいるはずです。オケージョンばかりに気をとられて、肝心の利用者の属性・タイプを軽視するようでは、本末転倒なことになりかねません。マーケティングミックスにおいて、プロダクトでフォーカスすることになったものを、価格は後押しするものでなければなりません。

では価格はどのように捉えるのがよいのでしょうか。次回以降で述べていくことにしたいと思います。


4/18/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス② プロダクト

前回のブランディング (7)マーケティングミックス① 4P概論では、マーケティングミックスの4P全体について述べました。今回は、最初のPのプロダクトについて、少し掘り下げてみたいと思います。

いかなるビジネスでも、通常、プロダクト(商品、製品/サービス)を提供することで、ビジネスを成立させています。プロダクトが高付加価値であろうとなかろうと、コモディティであっても、自社のプロダクトと他社のものとの違いを明らかにし、つまり差別化して、より優れたものであることを示して、買い手に提示しています。誰もが、ターゲット顧客に好印象を与え、少しでもプレミアムな価格や条件で購入してもらいたいと考えています。

そのためには、自社プロダクトと他のプロダクトとの違いを際立たせるもの、差別化につながる要素や要因を特定しなければなりません

これにはプロダクトが持つ(或いは発揮する)パフォーマンスの違いで、差別化するというのが最もオーソドックスなやり方です。そしてそれが買い手のベネフィットにつながるものでなければなりません。ブランドの観点でいえば、買い手の頭の中にポジショニングできるものでなければならず、そのためには競合プロダクトを徹底してリサーチする必要があります。


プロダクトのパフォーマンスは、プロダクトのカテゴリーによって中身が自ずと変わってきます。たとえば、食品関係ではおいしさや味覚であったり、使用する食のシーンであったりします。機械類であれば性能や耐久性、信頼性などがはじめに考えられるでしょう(ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法i 商品の機能による差別化ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法ii サービスによる差別化)。

ただ、ブランディングの観点からいえば、こういったパフォーマンスは、買い手が知覚できなければ全く意味を成さないことになります。上記の多くは機能的な意味合いが強いものですが、正確さや丁寧さ、迅速性や親切心、礼儀正しさや倫理観の高さといったことも、パフォーマンスに含めて考えるべきです。とはいえ、近年の国内市場では、こういったことが必要以上に重視されているように思え、本来の機能性(食品でいえば、おいしさ)などが軽視されている、または消費者には見えなくなってしまっているように思うのは、筆者だけではないでしょう。


マッキンゼーは、従来の機能的ベネフィット以外に、プロセス・ベネフィットリレーションシップ・ベネフィットという2つのベネフィットが、買い手を長く引きつけておく上で、非常に重要であるといっています。プロセス・ベネフィットは、プロダクト情報へのアクセスのしやすさ、幅広いプロダクトの品揃えとシンプルなプロダクトの選択/意思決定、手を煩わせることなくプロダクトを購入できる手軽さなどを表します。

リレーションシップ・ベネフィットは、個客ごとのサービスで得られる価値、情報共有をとおして獲得できる価値の交換、差別化されたロイヤルティ報酬などが含まれます。筆者は個人的に、製造業であろうとサービス業であろうと、アフターサービスまたはアフターフォローといったプロダクトの購入/利用後のサービスが、リレーションシップ・ベネフィットの決め手になると思っています。


ただ、ここで気をつけなければならないことは、こういった上記のような差別化のもとになるものは、マーケティングミックス前のプロダクト(商品、製品/サービス)コンセプトの策定段階で検討しておくべきものだということです。

つまり、マーケティングミックスにおけるプロダクトの検討段階では、特定した差別化要素や要因を掘り下げて、実体のある姿、形に仕上げていくということを行うことになるわけです。


それは具体的には、形態や形状、大きさ/サイズ、デザイン、色、パッケージ、プロダクト名などで、こういったものをここで決めていくことになります。また、必要に応じて、プロダクトの提供方法や付属品、保証や返品、アフターサービスなどを含めたサービスについても、ここで検討して決めていきます。すなわち、この段階で、買い手から見たプロダクトのイメージが出来上がっていくわけです。


繰り返しになりますが、プロダクトのコンセプトで検討された差別化ポイントを具体的にどのように表すのかを考えて決めることを、このマーケティングミックスのプロダクトで行うことになります。


また、当たり前のことですが、並行あるいは事前に、プロダクトで使用する原材料の特徴が差別化につながるものであれば、調達の安定性や安全性などを考慮しなければなりません。開発技術や生産技術に関するものであれば、これまで蓄積した技術の適用範囲や、設備投資の要不要、外部委託の可否などについて検討しなければならないでしょう。特許に関する検討も行わなければなりません。


業務の活動が広範囲に及ぶと、タスクも様々で、各部署が勝手に動いたり、各人が独自に考え、自分に都合の良い解釈をすることは珍しくありません。活動がバラバラに進行していきがちな状態に歯止めをかけ、ひとつに束ねていくのがブランディングです。


業務が複雑に進めば、意思決定も複雑になりがちです。何に重点を置いて決めるべきか。プロダクトの狙いは何か、主旨がシンプルであれば意思決定も素早くシンプルにできるはずです。業務も意思決定も、そもそもの狙いも、できる限りシンプルにすること、そのためには差別化するものを絞り込むこと、フォーカスするものを明確にすることが重要で、万人受けを狙ってはいけません

言い方を変えれば、論点は絞り込んで、ハッキリさせなければならないということです。また、誤解をおそれずにいえば、優れたプロダクトは品質が良いのは当たり前で、買い手は通常それを疑いません。であれば、このマーケティングミックスのプロダクトの段階では、買い手に良いイメージを持ってもらえるようにすることをより重視すべきです。


絞り込むのは前提で、何に絞り込むのかに知恵を絞らなければなりません。さもなくば、買い手の頭の中には留まりにくい、またはそもそも頭の中に入ることさえ難しいでしょう。フォーカスするものをシンプルにしてこそ、記憶される可能性が高まります。買い手の選択肢にプロダクトが入らなければ、何も始まりません。

今となっては古典的事例ですが、分かりやすいものに車が挙げられます。安全性を訴えたボルボの車、BMWはスポーティで高機能な車、ベンツは高いプレステージ性といったものです。品質と一口にいっても様々ですし、社会的承認に関係するものもあります。


最後に、プロダクトの名称について少し触れて終わりたいと思います。早稲田大学の恩蔵教授は、良い名称の条件を3つ挙げています。1つめは短くて簡潔であること。2つめは愛称があったり、構造が単純であること。3つめは韻を踏んでいたり、意味を持っていること。最近は、読み方が分かりにくかったり、覚えられないプロダクトの名称が多すぎるように思います。名称は全てのブランド要素(名称、ロゴ、シンボル、スローガン、キャラクター、パッケージデザイン、サイネージ、URLなど、自社プロダクトを他社のものと差別化するための情報)のなかで、中心的な存在であることを忘れてはなりません。

次回は2つめのPである価格についてです。


4/11/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス① 4P概論

セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングのながれで、差別化のポイントを明確にしたら、差別化のための具体的な打ち手を、マーケティングミックス(所謂4P、Product/プロダクト、Price/価格、Place/プレイス、Promotion/プロモーション)で行います。

マーケティングミックスは、上記の4Pが基本形です。サービス業では、service Product/サービスプロダクト、Price and other user outlays/価格とその他の支出、Place and time/場所と時間、Promotion and education/プロモーションと教育、という4つのPに加えて、People/人、 Physical environment/物理的環境、service Process/サービスプロセス、Productivity and quality/生産性とサービス品質、という新たな4つのPを加えて、8Pで検討することが一般的です(SMM (2)サービスの構成要素 ③サービスマーケティングミックス)。

なおツーリズム、特にデスティネーション関連では、Physical Product Elements/形のあるプロダクト、Programs/プログラム、Packages/パッケージ、People/ピープルという4つのPで検討することがあります(ツーリズム (2)プロダクトとしてのデスティネーション ①4つのP)。


ほかに4Pに関係するものに、4Cがあります。Customer solution/顧客ソリューション、Customer Cost/顧客コスト、Convenience/利便性、Communication/コミュニケーション、という4つのCで、顧客視点のフレームワークとして知られています。

このように、マーケティングミックスには幾つかの種類がありますが、本稿(ブランディングのマーケティングミックス)では、最もポピュラーで汎用性の高い4P(Product、Price、Place、Promotion)を用いて話を進めていくことにします。

この売り手の4Pは、買い手の4Cに対応しているとされています。プロダクトは顧客ソリューションに、価格は顧客コストに、プレイスは利便性に、プロモーションはコミュニケーションにです。実際、フィリップコトラーは、マーケティング/ブランド担当者は、はじめに顧客視点の4Cで考え、それを4Pに置き換えてマーケティングミックスを作ることを薦めていた時期がありました。なお、コトラーはマーケティングミックスは、戦術レベルの取組みだといっています。

何故なら、4Pを検討する段階では、ターゲットが選定されていて、ポジショニング戦略が決まっていなければならないからです。


ところで、ケビン・レーン・ケラーは、マーケティング戦略は、プロダクトそのものを超えて、消費者とのより強い絆を作り出すものでなければならず、そのためにはブランド・レゾナンスを最大化させる必要があると説いています。ブランド・レゾナンスとは、顧客がブランドにどれだけ同調しているかを示すもので、①「行動上のロイヤルティ」、②「態度上の愛着」、③「コミュニティ意識」、④「積極的なエンゲージメント」に分類できるとケラーは定義しています(ブランディング (2)ブランド用語②)。

上記①から④は、所謂ワン・トゥ・ワン・マーケティング、パーミッション・マーケティング、経験価値マーケティングといった手法の考え方に基づいたものです。ういった一連の手法を用いた活動は、リレーションシップ・マーケティング、またはカスタマー・リレーションシップ・マーケティング(CRM)といわれ、2000年代にはよく話題に上がったものです近年では、デジタル技術の進展、SNSの浸透などにより、コミュニティ・マーケティングやファン・マーケティングが盛んに取り上げられています。


もはや4Pや4Cだけでは、現代のマーケティングを語ることはできないということになってくるのですが、そうはいっても、昨今のマーケティングプログラムの状況は、あまりにも手法に依存(より厳密に言えば、ツールに依存)し、やり方だけを追求している感が強すぎます。

そもそもパーソナライズしたブランド体験を、顧客に継続的に提供することが技術的に可能なのか、プライバシー・データセキュリティの面で安全なものといえるのか、仮にそうであったとしても、顧客が自らの嗜好などに相手が継続して入り込んでくることに抵抗感はないのか。抵抗がない人もいるでしょうが、そのパーソナライゼーションは果たして本当に、顧客を真に、継続して理解しているものなのかといったことには、大きな疑問が残ります。


顧客を真に継続的に理解しようとするのであれば、それは本来、範囲を限定しても、ホリスティックな観点、つまり物事を全体的に、包括的に見て行うべきものということになるのですが、そこまでの投資にふさわしいと企業が判断できる顧客がいったいどれくらいいるのか。たとえ、新規顧客獲得は既存顧客の満足度を維持させることより数倍以上のコストがかかるとか、顧客の離反率を少し減らすだけで利益が大きく(場合によっては倍近く)増えるといったことをわかっていたとしてもです。加えていえば、パーソナライゼーションに対するレベル(高低、広狭)の捉え方次第ではあるものの、他社と同じことをしていては、競争に勝ち抜けません。頭でわかっていても、いざ実行の段階になって、他社より先んじて、または他社よりもずっと長い期間取組み続けることが、今の日本企業にできるかというと、相対的にいって難しいと言わざるをえないでしょう。これについては、マーケティングミックスのプロモーションのところで、少し触れたいと思います。


さて、ブランディングの主旨は、プロダクトが売れ続ける仕組みづくりと捉えれば、最初のPであるプロダクトが最も重要な要素であり、基点になるのは当たり前といえるでしょう。最初のPであるプロダクトでは、消費者や法人企業などに提供するプロダクト(商品、製品/サービス)の具体的な中身を決定します。ここで最も重要なことは、自社プロダクトの独自性、差別化要因を具体的に形作るということです。


2つめのP、プライスについては、プロダクトの値決めになりますが、これはプロダクトのベネフィットと価格のバランスをどう考えるかということです。平たく言えば、お買い得なのか、割高なのか、価格相応なのかといったことになります。コトラーは、ベネフィットと価格の関係を、バリューポジショニングと呼んで、5つに分けています(ブランディング (5)ポジショニング ⑥バリュー・プロポジション)。

3つめのPであるプレイス(流通経路)では、消費者や法人企業といった自社の顧客に、プロダクトをどのような方法で提供するのか、アクセスやアプローチの仕方を決めていきます。リアル、バーチャルのいずれか、或いは両方を検討する前に、プロダクトを顧客へ直接販売するか、或いは卸などの流通業者を通して販売するかを決めることも必要です。

最後のPであるプロモーションは、販売促進などの単なる販促と狭義に捉えるのではなく、プロダクトのメッセージを顧客、特にターゲット顧客に伝える全てのコミュニケーション手段が対象になります。それは、広告、PR、セールスプロモーション(販売促進)、ダイレクトメールやインターネットを含めたダイレクトマーケティング、営業パーソンを含めた人的販売が主なものになります。

次回は、4Pの最初のプロダクトについてです。


4/01/2025

ブランディング (6)日本市場の特殊性⑥

正直者はバカを見るという言葉がありますが、今日では、正直者は死ぬと言い換えてもいいのではないかと思う時があります。この正直者は死ぬというのは、筆者より20才くらい年配のアナリティクスの大家だった方が、かれこれ15年くらい前に、都内をタクシーで一緒に移動した時に言っていたものです。

日本に限ったことではありませんが、巷の一部で言われているように、エコはエゴになりました。食品スーパーや百貨店などで、ビニールは環境に良くないからといってレジ袋は有料になり、その後、環境に悪くないはずの紙でできたショッピングバックも有料になりました。紙は勿論ですが、ビニール袋も、物置などに長年放置しておくと、ボロボロになります。レジ袋はプラスチックから出来ています。

小売業では(小売業に限りませんが)なんでもかんでもエスカレートして、25年2月1日から、高級食品スーパーの成城石井が、それまで無料だった小さな保冷剤を1つ11円で、商品につけるようにしました。顧客がそれを望まなければ、生ものを買っても保冷剤はなしということです。

商品の販売者責任というのは、どうなっているのでしょうか。しかも高級食品を定価で販売している小売企業です。春から秋にかけて、要冷蔵/冷凍品を買ったお客に対してどう説明するのか、その感覚が筆者には理解できません。民法はバランスと知人の法律家が以前言っていたのを思いだします。このバランス感覚を欠いた保冷品の販売姿勢に対しては、訴訟のやり方次第で、成城石井側は敗訴するのではないかとさえ思ってしまいます。成城石井はブランドになったなどと評されている向きもありますが、少し驕りがあるのではないでしょうか。


事業に対する基本的な考え方や、依ってたつところのものがないか、または著しく希薄なために、このようなことが平然で行われると筆者は考えます。これは、成城石井の例に限らず、日本の企業や日本人は、大変残念なことではあるのですが、相対的にそういえることが多いと感じています。自分はどう考えるか、自分の部署や会社はどうかということが、欧米と比べてあまりにもなさすぎるというのが、長年働いてきた者の実感です。


ビジネスとは直接関係ありませんが、横断歩道を渡る時もそうです。日本では、たとえ絶対車が来ないような状況下で、自分が進む方向の信号が赤だったら、その横断歩道を渡る人は殆どいないでしょう。筆者が見てきた欧米はそうではありませんでした。かといって、イタリアのナポリのように、赤でも青でも関係なく、横断歩道を渡るというのも問題ですが・・・。

決められたことをとにかく守るというのは聞こえがいいかもしれませんが(とはいえ、人が見ていないところでルールを無視する人が一定数いるのも事実です)、皆がそうするから、しているから、自分もそうするというのは、みんなで渡れば恐くないというのと同じものです。自分だけ渡ることは決してしない国や企業、そこで働く人々というのは、少し想像しただけでも恐ろしいものがあります。出る杭は打たれるといった没個性化と同じで、欧米から理解されるはずはなく(実際のところは理解される必要はないのですが)、欧米と対等に議論して物事を決めていくということは出来なくてふつうでしょう。


日本の企業では、自分はどう考えるかという"What"を抜きにして、どうやるかという"How"さえ気にしていれば、これまで仕事で不自由することなく、どうにかやってこれました。経験やスキルといったものは、非常に限定的なものでよく、むしろ幅広い視野や知見を持っている者のほうが、疎んじられてきたといえるでしょう。

このような歯止めがきかず、何事もなし崩しに進んでいく現象は、どうすればいいのでしょうか。思考が停止し、無思考状態にあるこの現状をどうすれば打開できるのか。考える力を養えといっても、一朝一夕にはできず、随分と時間がかかります。


企業には信頼が必要で、事業に成功するためには信頼は不可欠といっても、もはやそれは戯言と言わざるをえません。信頼は必要ですが、それがあるからといって成功するわけではなく、むしろ一見して悪いことを見えないようにして取り繕うといったことが、(悲しいことですが)成功には必要になっているようです。

じゃあ、せめて信頼できるリーダーのもとで仕事をしたいといったところで、そのリーダーが本当に信頼に値するかは、すぐにはわかりません。人は見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じるという確証バイアス(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠ii③思考の罠vi)が邪魔をします。また、自分だけはそうじゃないと思う人も少なからずいるはずです。答えは簡単にでてきません。


では、どうすればいいのか。(結局そうなるのかと思われるかもしれませんが)考える力を一人ひとりが身につけていくことと併せて、組織のガバナンスを作り変えて、組織単位を小さくしていき、考えることのできる人をたくさん増やす、特定のリーダーに依存せず、必要以上に大きな権限を持たせないというのが、一つの答えとしてあるでしょう。中央で、本社でなんでも決めるのではなく、もう少しローカライズすべきです。東京と地方では、人々の暮らしや意識、考え方は大きく違います。そして、一人ひとりが、あきらめることなく、頑張って続けるということしかないのだろうと思います。自分らしくあり続けるということを、いつも考えて、それを実行していくしかないと思います。


ブランディング (6)日本市場の特殊性⑤

日本の市場はガラパゴス化していると言われてきました。欧米のような市場と比べて、製品の仕様・技術、サービスに対する日本人の要求が大きく異なるため、商品全般が独自の進化、たとえば過剰なまでの高機能化を遂げたため、そのように言われています。その代表格が以前は携帯電話の端末で、販売は国内のみで、輸出はほぼゼロでした。ちなみに、ガラパゴスは太平洋の赤道下にあるエクアドル領の島々を指し、独自の生態系で進化した生物がたくさんいるとされていますが、哺乳類は存在しないそうです。

21世紀初頭くらいまでなら、たとえば日本の電機メーカー数社が、国内で製品の機能やデザイン、或いは価格などで熾烈な競争を繰り広げていても、国内の市場規模が米国に次いで世界第2位であったため、ガラパゴスを徹底して追求することでも生存できたわけです。ところが国内人口の減少、可処分所得の低下などによる市場の縮減とそれに応じた売上げの伸び悩みや成長の鈍化、また、欧米企業のM&Aによる超巨大化、米国の新しいITジャイアントと中国企業の台頭、事業の統廃合や企業再編による国内事業者の巨大化等々によって、ガラパゴスではもはや生き残ることができなくなりました

とはいえ、全ての国内産業がそうかというと、そういうわけではありません。たとえば、機械ものと違って、地域に根差した様々な食の数々、これを作る多くの中小規模の食品メーカーは、規模を拡大することが、資金面での問題ではなく、自らのあり方を否定することにつながる場合もあるために、無理な成長を志向することはありません。日本国内の多様な食の嗜好に基づき(或いは自らもそれを創り出して)、商品の特殊性や独自性を追求することで事業を成立させることができました。


こう考えると、日本市場の特殊性は悪いことばかりではなく、日本固有の良さや伝統を活かした事業などは、ある意味ガラパゴス的な生き方を成立させることができると言えるのではないでしょうか。

ガラパゴス的なものをローカル志向(またはナショナル志向)、世界標準的なものをグローバル志向とすれば、どちらを選択するかは企業次第です。一律、グローバルとか、グローバリゼーションというのはありえません。

それでは日本の消費者はどうなるのかというと、欧米では当たり前とされている確立された個人の価値観、それはたとえば「自分はこう考える」「何故なら、〇〇だから」「故に、このように行動する(行動している)」といった思考と行動を、グローバル、ローカル問わずもっと行っていくべきです。他者の目を軽視するわけではありませんが、令和の今は、他者の評価が介入しすぎです。


最後に、電気自動車のことについて、少し触れて終わりにしたいと思います。米国ロサンゼルスのことですが、ロス警察が2020年くらいに警察車両を全て電気自動車に切り替える政策を進めていました。ですが、それは実現できなかった。1回の充電で警察車両は100km走行できたそうですが、ハイウェイは渋滞が常態化しているためすぐに電気が目減りし60kmくらいしか走れない。また、音がでないため現場へ急行する途中で、一般人が警察車両に気づかず、飛び出してきたりして警察がその人をひき殺してしまうなど、警察本来の機能が果せなくなるリスクが著しく高まり、大きな問題となりました。そのため、ガソリン車の電気自動車への変更は中止となり、今は鑑識が犯行現場への検証のためだけに使われているそうです。

日本はどうでしょうか。とてつもなく長い時間をかけて物事を決めて、いったん決めたら、それが不適なものであったとしても、とりやめることなく、全てがなし崩しで進んでしまうこういったことでは、本来、グローバル志向などできるはずがありません。ローカルの方はどうでしょうか。ローカルの良い点を活かして、小さく生きていくというのはありではないでしょうか。何のためのグローバルなのか、何のために消費するのかを、再考すべき時がしばらく前から来ていると筆者は強く感じています。


3/13/2025

ブランディング (6)日本市場の特殊性④

ソロ活は、飲食、旅行、ドライブ、スポーツ・レジャー、読書、美術、映画、音楽、演劇、ショッピング、エステ関連などの分野にあると言われています。まあ何でもソロ活にできるのかもしれませんが、これらの活動には、モノの消費というよりは、コト消費の面が強いのは明らかです。自分へのご褒美というのは随分前から言われていますが、ふだんと少し違う環境に自分をおいたり、いつもと同じ暮らしの中でわずかでも変化が感じられる体験をするといったことなど、そういった要素が盛り込まれていて、たとえ束の間でも自分だけのために時間を使うことができるといったことがポイントになるのだろうと思います。

人はモノやサービスに接する際、あまり考えずに買ってしまうことが時々あります。それはモノやサービスを提供する側が、購入者の感情に訴えかけるマーケティングを行っていることがあるためです。人の感情への訴えかけを強めるマーケティングを、エモーショナルマーケティング(または感情マーケティング)といい、筆者が知る限り、21世紀になる少し前くらいから、この名称で存在しています。ただ、筆者には、今と昔では、感情や感性、感受性といったものは、かなり違うものになってしまったように感じています。今の方々には、少し申し訳ないのですが、昭和の時代のほうが、多くのことに対してもっとおおらかで、豊かな感性と繊細な感受性がそこにはあったと思います。


人の感情、なかでも欲求(ウォンツ)に訴えかけて刺激するエモーショナルマーケティングは、ウェブやSNSなどが人々の生活に深く入り込んだ今日の消費社会において、必須のマーケティング手法になっています。パッケージデザイン、キャラクター、広告のキャッチコピーなどで感情へ訴えかけるとことは、今日、至るところで見ることができます。

ただ、たとえばホームページを美しく、おしゃれに整えるのは事業規模の大小問わず大半の会社がやっていることですが、中身が伴っているかどうかは、あまり問われることはないようです。こういった現象は、企業規模が小さくなればなるほど、また、人口流出が止まらないような地方自治体ほど、多く散見されるように筆者は思います。


周りがやれば自らもすぐさま倣うというのは、まさに日本の特殊性といっていいでしょう。同じであればあるほど、ほかとの違いが分からず、人々の検討対象にならない、所謂考慮集合に入らなくなるにも関わらず、まるで競い合うように同じようなものにする、真似をして没個性化していくというのは本当にいただけません。

こういった社会では、つまるところはじめに(稚拙なレベルで)好きとか嫌いとか、他人の目から見て格好いいとか悪いといった感情が来ることになります。考える、思考するというのは、感情の後に来る。もしくは、感情の後は行動があって、最後に思考が来るのかもしれません(もしくは思考するというのは存在しない・・・)。思考がまともに行われないということは、多くの場合、他者に分かるように説明できないことになります。仮に、自分のとった行動が説明のつかないものであったとしても、無理やりでも(?)コミュニケーションで正当化するような欧米のスタイルとは異なります。

ちょうど2年程前にこのReflectionsのブログ(論理的思考(2) 論理的思考とは①)で、常に感情が先行していると、正しい判断や、そもそものところで正しいものの見方などできるはずがなく、はじめに感情が来て、その後、一気に結論・決定になることが多いと書きました。わずか2年しか経っていませんが、この間でも、感情で判断し行動する消費は一段と進んでいるように思いますし、多くの事業体もそれに倣うかのように、感情で判断して決定することが増えているように感じます。成功しているかどうかではなく、あそこでもやったからうちでもやってもらおうといった事例志向もこの一種です。


筆者は20年程前に担当したファッションアパレル系メーカーのプロジェクトで、外向的に自己を実現させようとする「なりたい自分」と、内在的な自己実現として「ありたい自分」というものをつくり、当時の消費者を27のタイプに分類したことがあります。その頃は、なりたい自分になるため、ありたい自分でいるために、少なからず努力する人々が相当程度いたと思います。ところが、今日の消費社会では、それはかなり異なるものとなってしまい、できもしないことや到底すべきでないこと(或いは、それをやっても何にもならない意味のないこと)をやって、なりたい自分になる、そのように見せるということが珍しくないと感じています。ソロに限ったことではありませんが、たとえば特に地方で顕著に見られる現象のひとつに、自分の年収の何倍もする車を残価設定で購入する(但し所有権はその消費者にはない)人たちがその典型だといえるでしょう。


ロシターとパーシーの3段階手法におけるX-YZモデル(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法ii X-YZモデルその2)で、購買動機が社会的承認にあたる商品の場合は、ベネフィットに基づいてポジショニングするのではなく、消費者をポジショニングするほうが効果的だと述べました。

この社会的承認を少し拡大解釈することになるかもしれませんが、高級車に乗る人は、他者から、相応の生活力があって豊かな暮らしをしている、社会的ステータスが高い、人生(?)に成功している人、といったように見てもらいたい、そう評価して欲しいから、または、そう思われている人たちの仲間入りをしたい、こういったものが購入の動機にあるのでしょう。成功したから、高級車に乗るというのではないのです。実際の暮らしぶりは、まったくその逆であっても、そんなことは一見すれば分からないから(といっても、分かってしまうことが多いのですが・・・)構うことはありません。こういった姿や場の空気感といったものは、筆者にはまさに特殊な日本のあり様として映ります。このような社会的承認に対する欲求というのは男女で違いはありますが、自分を無理に肯定するかのような消費行動と、それを狙ったブランディングも、日本市場の特殊性といえると筆者は思います。


ブランディング (6)日本市場の特殊性③

日本は「単独世帯」(1人暮らし)、所謂おひとりさまであるソロ(1人)の世帯が急増しています。内閣府の男女共同参画白書の令和6年版では、2020(令和2)年には、単独世帯が全体の38%を占め、全世帯で最も大きな割合となり、1985(昭和60)年の20.8%から大幅に増加したとあります。また、単独世帯と「ひとり親と子供世帯」を合わせると、47%と全体のほぼ半数を占めるようになっています。

おひとりさまが増えているのは、結婚しない若者が増え続けていることが大きな理由といわれています。「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」によると、20代の女性で配偶者や恋人がいない人が51.4%、20代の男性では65.8%。「これまでの恋人の人数・デートした人数」では、恋人がゼロ人でデートした人数もゼロ人の20代女性はおよそ25%、男性の場合は(信じられないことに)40%ほどもあるわけですから、ある意味頷けるように思います。ただ、荒川和久氏によると、40年前も今も、年齢に応じたデート経験率は同じとのことで、特に今の世代は、コロナ禍で、外出できず、デートもできなかったからではないかと指摘しています。

結婚しない人が増え続けている理由には、将来の生活に希望が持てない、結婚という形に縛られたくないとか、結婚という形にこだわる必要がないというのが主だったもののようです。みずほリサーチ&テクノロジーズの調査によると、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合をいう「生涯未婚率」は、男女ともに1985年まで5%以下で推移していたものが、1990年以降は急激に上昇し、男性の生涯未婚率は2015年に23.4%になったとのことです。


未婚率や離婚率の上昇による単独世帯の増加は、我々の暮らしや消費、産業社会、経済全般に大きな影響を与えることは明らかです。日本の人口は減少し続ける一方で、世帯数は増加の一途をたどるとすれば、さしずめ住宅や、食品・飲食、小売、旅行・観光などに関係する産業は、前提にしていた需要の形態が変わることで、非常に大きな影響を被ります(というか、すでに影響を受けています)。なかでも住宅は、戸建て、集合住宅に関わらず、商品や売り方、サービスのあり方を抜本的に見直さざるをえません。最大手の大和ハウス工業が、事実上、注文住宅から撤退し、建売・分譲住宅に大きくシフトしたことは、部材の高騰や住宅購入者の世帯(または世帯主)収入の低下だけが理由ではないでしょう。


2020年の国税調査に基づき、20~50代に限定してのソロ消費の市場は家族消費市場を上回り、その内訳はソロ活市場が3964万人以上、独身市場は2787万人、家族市場は3407万人になると、荒川氏はソロ度4象限の市場規模を算出しています。

こういったソロ社会の出現は、所得や資産の多少が大きく影響しているのは間違いないでしょう。ただ、高所得ゆえに結婚しない女性が増えてきていることなどを考えると、所得が少ないから結婚しないというのが一番大きな理由になるとは必ずしも言えません。女性の人口が男性よりも多い現状を踏まれれば、女性の市場をどのように捉えていくかが今後さらに重要なものになります。

ソロについて評論したり、研究する人の中には、世代ごとの価値観やライフスタイルなどを考えてマーケティングすることはもはや無意味とする人がいますが、それは違うだろうと筆者は思います。経済力の有無や、取り巻く人間関係含めた環境が重要であることは間違いありませんが、それはおひとりさまマーケティングがここまで注目されるようになるずっと前から、可処分所得や生活環境の違いが重要視されてきたからです。また、一足飛びにこれからはマスマーケティングではなく、パーソナライゼーションだと言う方もいらっしゃいますが、筆者にはそうは思えません。形は変えながらマスは存在し続けるわけで(マスの定義にもよりますが)、マスが消滅するわけではないと思います

おひとりさまを対象にしたマーケティングでは、一人暮らしなのか、家族と暮らしているのか、家族と暮らしていてもひとり感が強いのか或いはそれを大事にしているのか、所得や資産はどれくらいなのか、あと、性別と年代、暮らしている地域などを考えることが少なくとも必要だと思います。



3/01/2025

ブランディング (6)日本市場の特殊性②

失われた30年でそうなってしまったのか、終戦でそれまでの価値観が覆されたからなのか、或いは、そもそも農耕民族だからなのかはわかりませんが、相対として、日本人の多くの行動、特に消費行動については、ハッキリとした各人固有の価値観がないように感じます。このため、他者がどう思っているのか、あの人が買っているから私も、彼や彼女たちがそうしているから自分もそうしなければいけないというような感じで、自分の消費に他人の軸が絶えず介在することがふつうに起こります。

明確な判断基準がない、または希薄なため、表層的な対応というか体裁を整えることには余念がありません。流行りものには皆が競い合うように飛びつくけれど、すぐに飽きてしまうか、忘れてしまって、しばらくすると何もなかったかのように皆がもとのように振る舞う。こういった考え方や消費行動は以前から続いているようで、結果的に価値観やライフスタイルはさして大きく変わることはないというのが平成以降の動きのように感じています。


消費者を相手にする企業でも同じようなことが言えます。今でいえば、デジタルへの取り組みがその典型です。大企業に限らず、中堅・中小零細企業、国から地方自治体まで、皆が一様に同じようなことを言い、行動しています。マーケティングについても同じです。10年くらい前なら、経営などからはマーケティングなど殆ど見向きもされなかったか、余計なものくらいにしか見られていなかったにも関わらず、今では誰もがマーケティングの重要性を説いています。

ただ、そのマーケティングは、短期的な売上獲得を重視するプロモーション系のことばかりです。マーケティングを根本から理解して、経営の中心に置くということにはまずなりません(口ではそのように言っているかもしれませんが)。飽きたら、また新しいものを取り込んでいく。このため、表面的なものしか変わらず、ブームが過ぎれば、またいつもの顔を出して元に戻るといった感じです。


このような国内市場では、ポジショニングをどのように考えるのが適切なのでしょうか。今日のように一見すると複雑多様化したような市場においては、理解することが難しいように思える消費者行動も、シンプルに捉えれば、それほどとっつきにくいものではないように思います。

心理的な動機づけを見つけて、同調できる集団(準拠集団)を探していく。その集団は消費者が識別できる集団でよく、友人、知人などお互いが関係のある集団である必要はありません好き嫌いは別にして、経済格差や社会的慣習などに起因する階層意識は日本でも厳然と存在します。あまり良い表現ではないかもしれませんが、社会の階層もしくはソーシャルクラスで消費者を分類し、各クラスでのライフスタイルを考察して、消費行動を予測していくことは有益であるに違いありません。

たとえば上流階級またはアッパークラスが、週末は美術館に行ったり、美術品や骨董品に投資したりするとします(あくまでも例えの話です)。大事なことは、このアッパークラスの行動に憧憬するミドルやローワークラスの人たちをも対象にする、もしくはこの人たちを実際のターゲットにしていく。同じような可処分所得であったとしても、支出先は異なります。ソーシャルクラスによって、収入がどのように使われるのかはある程度推測できるはずです。大事なことは、最初にそのクラスの人たちの頭の中に入っていく方法を見つけ出すことです。

最初であるため、その商品には市場はなく、自ら創造していくことになります。ジャックトラウトとアルライズが述べているとおり、マーケティング競争における勝者と敗者を観察すれば、成功した商品は市場のながれに逆行したものが多い。大きいモノが流行っている時には小さいモノを、手間がかからないモノが主流の時には敢えて手間暇かけたモノを、といった具合です。


1億総中流の時代はとうに終わっていて、二極化はおろか、社会の階層化がどんどん進んでいると捉えれば、多くの消費者はより高い生活水準にある集団に憧れたり、真似たりすることが頻繁に起こっていることは推察に難くありません。勿論、消費者の関心は一様ではなく、多方面に広がっているとも捉えられるため、特定のブランドを志向する人々に的を絞り、または想定して、まずは商品(モノとサービス)のベネフィットを徹底してアピールしていくことが重要でしょう。今日では、自己表現的な因子や優越的な因子が強いのだろうと思います。

いっそのこと、ターゲットにする人のことなどはいったん忘れて、商品のベネフィットだけを考え抜いたほうが、今日のようなバランスを欠いているといっていい時代には、適しているようにも思います。


ブランディング (6)日本市場の特殊性①

日本は随分前から、世界一厳しい市場とか、他先進国と違って効率性よりも、おもてなしを重視する世界一シビアな国などといわれてきました。お客様は神様という言葉は今でも生きているばかりか、なお一層強まっているように筆者は感じます。

1960年代後半くらいから言われ始めた1億総中流時代、実際に存在していたかどうかはともかく、意識としては間違いなく信じられていたといえるでしょう。では今日はどうかというと、この1億総中流時代はとっくに終わっていると筆者は思いますし、そのように思っている人も多いはずです。それどころか、むしろ1億総中流などというものは、もともと無かったのではないかと言えるかもしれません。


筆者は人生の大半を都会で暮らしてきましたが、3年近く前にオフィスを東京に残したまま、地方へ移住しました。地元で採れた新鮮な野菜や果物、天然が半ば当たり前になっている魚など、筆者と家族にはうれしいことがたくさんあって、それは田舎で暮らす者にとっては、当たり前の日常的な光景です。

その一方で、東京の中央区日本橋や目黒区祐天寺で暮らしていた頃のマンション住人やその地で生まれ育った人々の間では、決して見られなかった消費行動をとる人たちが、田舎にはかなりの割合で存在しています。自分自身を実態とはかけ離れてよく見せようとしている人たち、平たく言えば、(極端な?)いい格好しいがたくさんいて、それは男女を問いません。個人的な印象では、それは20代から30代に特に多く、40代以上でも一定数存在しています。

そういった消費行動は、いろいろな場面で見れるのですが、その典型は、(世帯主ではなく)世帯収入の2倍から3倍、なかには5倍以上の車に乗っているという現象です。そうするために、躊躇なく残価設定ローンで車を購入(というか、所有権は基本的に自動車メーカーか信販会社にあるため、厳密にいえば購入ではない)しています。2人からせいぜい5人くらいの家族なのに、バカでかいアルファードやヴェルファイア、或いは大型のレクサスや欧州の特別大きなSUVに乗っていて、その数は日毎に増えているように感じます。

こういった現象は、筆者には到底理解できるものではありません。仕事も含め、何かに熱中して取り組むことがないのか、自分を表現することがほかに何もないのか、ただ優越感に浸りたいのか、よくわかりませんが、あまりにもそういう人たちが多すぎることに愕然とします。


このような例はほかにも幾つか挙げられます。たとえば、地方にある百貨店の化粧品売場へ行くと、ポイントの還元率が高い時などは、若いというか幼すぎるくらいに見えるような女性たちでごった返しています、特にクリスチャンディオールの前などは人が群がっているという感じです。

若いころの通過点としてみれば、それはそれでよいのかもしれませんが、問題はその人たちの服装や持ち歩いているバッグ、身につけているアクセサリーです。何故、そこまで貧相に(と言えば失礼ですが)、または場違いのように見える格好なのか・・・。化粧も含め、ファッションはトータルコーディネートです。1点だけ、豪華なんてものはありえないと筆者は思います。そういった女性たちは、だいたいルージュ系の口紅を1本買って、ディオールの袋に入れてもらっています(ネット上では、その無料の袋にプレミア価格がついて売られたりしています・・・)。男女のカップルで来ている人たちには申し訳ないですが、男のいでたちがもっさすぎる・・・。せめて、もう少しきれいな格好で来れないものかなどと、60代の筆者は思ってしまいます。


都会でも、このようなことは形をかえて存在します。顕著なのが、百貨店の食品売場で、それは生鮮の鶏肉売場などへ行くとよくわかります。鶏肉は、価格の高い順でいうと、地鶏、銘柄鶏、地養鶏、若鶏(ブロイラー)で、地鶏が仮に売場の冷蔵ケースに向かって一番左側に陳列していれば、若鶏は一番右側になるのが普通です。左側で鶏肉を買う人が出す百貨店カードはふつうのシルバーカード、右側の人のカードはゴールドカードです。しかも、ゴールドカードの人が買う量は、ほんの少しの若鶏だけです。筆者などは、わざわざ並んでまでして、ここで買わなくてもいいのにと思ってしまうのですが、店頭で接客対応している販売員は、そういったことには手慣れたものです。消費者行動の実態の一端を知りたければ、店頭販売員の人たちに尋ねればすぐにわかります。

このようにみると、大都市も地方もそう変わりないじゃないか、程度の差だけだろうということになるのかもしれませんが、都会で若鶏を買う人が都会に暮らしてるとは限りません。


このようないびつでアンバランスな消費行動は、日本特有のものだと筆者は随分前から強く感じるようになりました。欧米ではこういった消費行動はまったくないなどとはいえないでしょうが、日本では異常なまでに多いのは事実です。

ご存知の方も少なくないだろうと思いますが、米国だと、車がその人の社会的ステータスを表すと今でも言われています。欧州であれば、たとえばルイヴィトンのバッグ、日本で1970年から80年代に大流行しました。ヴィトンのバックは大きなものになるとかなり重たかったものですが、本国フランスでは、その重さをバッグの所有者は誰も厭いません。何故なら、そのバッグはサーバント(召使)が持ち運ぶからです。欧米では身分や立場によって、ファッションはまったく異なります。だからといって、たとえば米国で労働者階級の人たちが、窮屈に暮らしているかというと、全然そうではなく、逆に人生をエンジョイしているように見受けられました。米国で約7年間暮らした筆者の率直な感想です。

少し長くなってきましたので、続きは次回とさせていただきます。


2/22/2025

地方生活者にとっての3つの重大な問題①

地方創生、地域課題解決の事案にあたればあたるほど、地方で進められていることの多くが矛盾に満ち、主催者にとって虫のいいことばかりを考えていることが多い現状に閉口してしまいます。

そこでの問題解決は、まさにコインの裏返しです。コインの裏返しとは、問題のある状況下での解決策が、その問題を裏返しただけのものでしかないこと、つまり問題の表層だけを見て解決策を決めることをいいます。たとえば、売上げが下がっているから売上げを上げるとか、利益が低下しているから高利益商品を売るといった問題対処の仕方です。原因には踏み込まず、表層的とさえ言えないような打ち手に終始している状態です。

人口が減少しているから子供の数を増やすとか、若者が出て行っているから若者を呼び込むとか、若者が親しみを感じられるであろう仕事がないからITのスタートアップに来てもらうとか、といった具合です。スタートアップ誘致にいたっては、いきなり有償でサテライトオフィスを貸しだすという感じで、あきれるばかりです。仕事を担うべき若手から中堅(中年)の多くに、出て行かれてしまったまちが、何故そうしたことを簡単に言えるのか。当事者の言動は、筆者にはまるで他人ごとのように映ります。そう感じているのは、私だけではないでしょう。


筆者は、大阪で生まれ育ち、長い期間を東京で暮らしました。通勤で時間を無駄にしたくなかったため、できる限り職場に近いところに住みました。はじめは目黒、その後は日本橋です。そういうこともあって、地方の現状は実体験として、何も知りませんでしたが、住まいを地方に移してからは、日々、驚きの連続です。

まず何より愕然とさせられたのが、病院・クリニックは、まちにたくさんあるにも関わらず、救急病院がないということです。筆者が現在住んでいるまち(市)は人口7万人くらいですが、その程度でも救急病院がないのです。正確に言うと、救急対応するといっていながら、夜間に専門の医師が不在のため、事実上、救急対応の役割を果たせていないのです。まわりのまちなどは、ここより人口も少なく、救急病院まで車で2時間程度はかかるのがふつうです。小さい子供を抱えている家庭などは不安で仕方ないのではと思いますが、各市は子供人口を単に増やすことばかりを奨励しているように見えます。そういうことを初めから分かっていれば、誰がそんなところに越してくるというのでしょうか。なお、救急ヘリ(ドクターヘリ)はありますが、配備数に限りがあるのと、夜間や悪天候では飛ぶことができません。

加えていえば、医院の数がどれだけたくさんあっても、必要な治療を素早く、正確にできなければ何の意味もありません。たとえば、歳がある程度いけばよく見かけるといっていい目の病気の緑内障や白内障などは、山のようにあります。都内の有名国立病院などへ行けば、良い治療を受けることはできますが、それは地方の人にはなかなか難しいでしょう。地方ではそういった治療ができる専門医はごくわずかか、まったくいないかといった状況です。地方では総合病院をうたっていても、信じられないことですが、そう珍しくもないのに、治療できない病気がたくさんあります。であれば、デジタルを活用するのはどうか。大半の地方自治体がデジタル化に取り組んでいます。が、何故、こういったものがないのか。デジタルによる遠隔治療で、予防や初期的症状の場合であれば対応できるはずです。何故、そういったことに取り組んでいこうとしないのか。地方自治体における施策を立案する時の基本的な考え方や、施策の優先順位付けなどはどうなっているのか。


交通インフラも深刻です。筆者が住んでいるまちは、まだ良いほうです。JRは2路線入っています。ですが、バスはありません。10年くらい前までは、バスは走っていたそうですが、自家用車に皆が乗るので、バス路線は廃止されたとのこと。今は、市の乗り合いタクシーと、民間のタクシー会社が、手軽な移動手段となっています。

若者の車離れが言われて久しいですが、地方ではまったくその逆だと感じています。とにかく車が多いのです。1軒の家に2台は普通で、多いところだと5台です。しかも、高価格の車がとにかく目につきます。推定される世帯収入からは到底購入できないであろう車がたくさん走っています。20代から50代の多くの人たち、特に20代・30代・40代は、車をとおしてしか自分を誇示できないのでしょうか。一方で、60代以上の大半はそうではなく、70代も後半ともなってくれば、免許を持っている人は、そう多くないように見受けます。


2世代、3世代が一緒に暮らしている家は珍しくありませんが、シニアの人たちは自転車で近隣の食品スーパーへひとりで買い物に行っています。筆者が住んでいるところは、まだましなほうですが、そうでないところに住む人たちのほうがるかに多く、買物難民的な状態になっていることは想像に難くありません。残念ながら、食品スーパーなどによる生鮮関連のネット販売と自宅への配送サービスなどは基本的には存在せず、リアルの店舗で買い物をするか、はたまた野菜などを自宅で栽培するしかありません。

車がなければ何もできないのか。そんなことはないでしょう。車に依存しないまちづくりが、今、本当に求められていると痛感しています。こういった問題について、追々考えていきたいと思います。






ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その11

マーケティングミックス2つめのP、価格についての11回めで、今回は参照価格について取り上げます。 ここまでの ブランディング(7)マーケティングミックス③についての内容は、以下のリンクからご覧ください。   価格その1(価格の多様性) 、 その2(価格検討3つのレベル) 、 その...