9/23/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法iii 人による差別化

差別化5つの方法として、前々回は商品の機能による差別化前回はサービスによる差別化について述べました。今回は、人による差別化です。

人による差別化

日本でも言わずと知れた人による差別化を実現させたのがディズニーです。同社では従業員をキャストと呼び、国内外問わず、明るく元気に顧客に接する姿は、ほかのアミューズメント施設とは大きく異なります。 

古典的な事例では、サウスウエスト航空を挙げるべきでしょう。米国のMBAプログラムでも、度々取り上げられました。 同社は米国民が車で移動していた地点を、短距離フライト、格安料金、簡素なサービス(食事なし、映画なしなど)、先着順の座席割り当て、そしてユーモアに富んだ接客サービスで、フライトを楽しいものに仕立て上げたことで知られています。同じ航空業界では、シンガポール航空が客室乗務員によるサービスの良さで非常に高い評判を得てきました(筆者は乗ったことはありませんが)。 

ホテル業界では、セントレジスのバトラー制度(これは本当に素晴らしい)、リッツカールトンのお客を待たせない応対サービスなどが挙げられるでしょう。

人による差別化は、比較的高単価な商品カテゴリーに、多くの事例を見出すことができます。ハイエンドなファッション衣料、たとえば紳士服のオーダーや、カラーコーディネートに関して卓越したアドバイスが欲しい顧客は、必ずといっていいほど高度な接客技術を持つ販売員と顔見知りになって、いつもその店で品物を選ぶことにしているのが珍しくありません。10年以上前のことになりますが、女性向けの衣料雑貨の店舗で、カリスマ店員という言葉が流行りました。このような店舗は、人の良し悪しがリピート需要に直結するだけに、人による差別化を徹底して重視します。また、何度も購入するわけではないですが、ハウスメーカー、特に注文住宅などは、営業パーソンの能力の高低で、全てが決まるといっても過言ではありません。

弁護士事務所や会計事務所、経営コンサルティング会社などのプロフェッショナルファームも、人による差別化が会社の業績を大きく左右します。あの人がいるから、あのファームに頼むということが、当たり前のこととして起こります。医療の世界でも同様でしょう。あのドクターがいるから、あそこの病院で診察を受けるといった具合です。  

人による差別化は、個人のやる気や努力、能力などに多くを依存している企業と、組織的な取り組みを重視している企業に分けられます。前者の場合であれば、やる気や努力を継続している人の多く(もしくはほぼ全員)が、自分の仕事が好きだから続けられるでしょうし、故に、顧客の課題を自分事として捉えている人が多くを占めていると筆者はいつも感じています。

後者のタイプ、組織的な取り組みを行っている企業では、平均レベルの従業員(普通の人々)が質の高いサービスを実践できる仕組みを作り上げています。これについては、別途、サービスマーケティング&マネジメント(SMM)のブログで取り上げていきたいと思います。

サービス企業の場合は、特に組織や企業の文化が、サービスクオリティの高低や継続性に大きな影響を与えています。組織文化とは、「ある集団がその歴史の中で環境に対して生き残り、またお互いが協力していく中で蓄積していった知識」(組織文化(1)競争力の源泉)と、組織文化の大家、エドガーH.シャインは述べています。 

そのシャインは、文化を「創造物」「行動」「共有された基本認識」という3つの要素に分けて、捉えています(SMM(4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位i 文化の定義と3つのレベル)。 

その上で、社内の行動パターンを変えたければ、人々の思考を変えなければならず、人々の思考を変えるためには、思考の土台にある基本認識を変える必要があるとしています。ディズニーやシンガポール航空、ヤクルトといった企業は、他社よりもうまく構築された組織的な仕組みによって、人による差別化を実現しているといえるでしょう。

 次回は、チャネルによる差別化についてです。


9/16/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法ii サービスによる差別化

差別化5つの方法として、前回は商品の機能による差別化について述べました。今回は、サービスによる差別化です。

サービスによる差別化

メーカーの差別化で古典的事例として挙げたいのが、米国アウトドア用品を製造販売するLLビーンです。同社は100%の満足を保証し、購入者が満足できなければいつでも返品ができることを長年うたってきました。実際、筆者は90年代に7年近く米国に滞在し、LLビーンの普通ではない保証(100%の顧客満足保証)を実体験しました。ついつい買いたくなるようなモノが溢れているカタログには、高機能で高品質な商品の用途やストーリーと、安心感(同上)が載っていたのを、今でも覚えています。当時、カジュアルウェアのエディバウアーも似たような保証を行っていたと思います。  

こういった100% Guaranteedは、90年代の米国では、ホテルやレストランなど、多くのところで見たように記憶していますが、ほんものの保証となると、当時はごくわずかだったように思います。 

ところで、100%保証とは異なりますが、論理的に説明すれば即座に、顧客の問題を解決してくれるのが、今のアマゾンではないでしょうか(昔はそうではなかったですが、時間が経つにつれて、大きく改善してきました)。日本企業はサービスが良いと今でもよく言われていますが、筆者はあまりそうは思いません。一例として、詳しくは述べませんが、アマゾンとの対比として、楽天のサービスを思い浮かべると、納得される方も多いのではないでしょうか。 

ほかにも、永遠にリペア(修理)してくれるルイヴィトンのバッグも有名です。個人的には、自社製品に対する愛情に満ちているといっていいパナソニックが頭に浮かびます。随分古い話になりますが、終売したワープロの修理を、同社担当者が親身になって対応してくれたことには感激したものです。同じ家電メーカーのシャープは、2000年代だったと思いますが、アフターサービスを抜本的に見直し(昔はサービスが低いことで有名だった)、売上げ拡大につなげました。 

それ以外では、たとえば必ず定刻に荷物を届けてくれるのがクロネコヤマトの宅急便。フライトで、定刻どおり現地に到着したいのならルフトハンザ航空等々。サービスによる差別化が、競争力の源泉になっている例は、たくさんあります。 

B2Bの領域で、サービスによる差別化がグローバルで成功したケースに、IBMのソリューションサービスが挙げられます。90年代初頭に破綻しかけていたIBMを、外部から招へいされたルイス・ガースナーが、コンピューター製造企業から、ITを使って顧客のビジネス課題を解決するソリューション企業へと変貌させ、驚異的な復活を成し遂げました。これは、サービスによる差別化の事例ですが、それ以上に、ビジネスモデル転換の成功例といったほうが、より適切かもしれません。というのも、IBMはこれ以前にも、サービスの良さには定評があったといわれています。ただ、そのサービスとは、製品と一体化したサービスであり、たとえばそれは行き届いた製品修理サービスのようなものでした。 

ガースナーが推進したのは、顧客ニーズを対象としたサービスであり、製品とは切り離したサービス、たとえばデータセンターやアウトソーシングなど、従前では考えられなかったIBMと競合する製品をも扱うことになったからです。ちなみにガースナー退任後、CEOとなったサミュエル・パルミサーノが、プライスウォーターハウスクーパースの経営コンサルティング部門(当時PwCコンサルティング)をグローバルで一括して買収し、サービスビジネスへの大きな転換を完成させました。

余談ですが、そのガースナーは、IBMのトップに就任する前は、マッキンゼー、アメリカンエキスプレスのサービス企業、RJRナビスコの製造企業で働いた経験を持っていますが、サービス企業を経営することのほうが、製造企業よりもはるかに難しいと述べています。

このIBMの変容が契機となって、国内のNECや富士通といったIT企業も同様の手法を採用したことはよく知られているところです。また、このソリューションサービスは、ITの分野にとどまらず、その他多くのB2Bの分野へ広がることにもなりました。

建機メーカーのコマツもサービスビジネスを展開し、大きく成功した企業です。営業赤字になった2001年から経営改革を断行した同社は、KOMTRAX(コムトラックス)という建機の稼働管理システムを構築しました。これにより、世界中の建機の稼働状況をリアルタイムに把握し、正確な需要予測を実現させたことは、当時、業界の革命とまでいわれたほどです。今日、IoTがほぼ当たり前になりましたが、2000年代に完成させたのは驚嘆に値することです。

複写機メーカーの富士ゼロックス(当時、現富士フイルムビジネスイノベーション)やリコーは、複写機本体の販売から、複写機をリースにして使用料に応じた課金システムを構築、その後、顧客企業のプリント環境の一括管理による印刷コストの削減へと、サービスを大きく発展させました。 

販売からリースによる課金体系構築への転換は、タイヤのミシュランの事例も有名です。もはや古典的事例といってよいかと思いますが、走行距離に応じて代金を支払う従量課金型は今日、ブリジストンでも大きく展開しています。 

このようなサブスクリプション・ビジネスは、サーキュラーエコノミー(CE)の広がりもあって、大きく成長してきました。CEモデルの大きな特徴であるモノのサービス化、所謂PaaS(Product as a Service、サーキュラーエコノミー事例③サーキュラーエコノミー6つのモデルと事例①サーキュラーなアプローチ①)は、オランダのフィリップスの子会社であるシグニファイは照明器具を売るのではなく、明るさを売るサービスビジネスを展開しています。同様に、パナソニックも多様な製品でサブスクリプション型のサービスを行っています。スウェーデンのエレクトロラックスは、掃除機の販売だけでなく、掃除した面積に課金することをしています。 

ハードウェア系だけでなく、ファッション衣料雑貨でも、米国のレント・ザ・ランウェイが2009年からファッションアイテムのレンタルを始め、当初は大きな話題となり、成功も収めたことで、米国内はもとより、米国外の他企業へも飛び火しました。今日、PaaS型ビジネスは、シェアリングビジネスなどと併せて、一定の市場規模を確立しましたが、逆にミーツー(me too)企業も多数現れたことなどから、差別化し競争に勝ち抜いていくには、さらなる改良や創造が必要になっているといえるでしょう。

 

9/09/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法i 商品の機能による差別化

ポジショニングとは、自社プロダクトが他とはハッキリ異なる点、すなわち差別化のポイントや、利用者にとっての主たるベネフィットを、潜在顧客の頭または心の中に刷り込んでいく活動のことをいいます。(ブランディング (3)セグメンテーション ①主旨と要件)

また、他社との棲み分けをしっかり行える場所を確保して、消費者が競合を想起しないようにもっていくことができるのが、優れたポジショニングです。(ブランディング (1)ブランディングとは②)

要するに、ポジショニングでは、差別化の方向をハッキリさせて、自社プロダクトを確実に選んでもらうために何をすればいいのかを考えなければならないということです。


それでは、差別化の方法には、主にどういったものがあるのでしょうか。マイケルポーターは、競争優位の戦略で、差別化には、製品の特徴、機能間の連携、タイミング、地理的ロケーション、製品の品揃え、他企業との関係性の強さ、評判(ブランド)という7つの源泉があるといいました。これまで、本ブログでは、製品/サービスを一括りにしてプロダクトと呼んできましたが、サービスという言葉から連想されるやや曖昧な捉え方を避けるために、本稿では、「商品」に統一したいと思います。なお、ここでのブランディングは、はじめにお断りしたとおり、コーポレート・ブランディングには主眼をおかず、商品を中心としたプロダクトブランディングのポジショニングに関するものとなります。

差別化について、筆者は大括りとして以下にある5つの方法を挙げたいと思います。

商品の機能による差別化

サービスによる差別化 

人による差別化 

チャネルによる差別化

イメージによる差別化 


これら5つの方法は、ブランディングのポジショニングについて、顧客(消費者、企業)との接点が生まれるところに、差別化の機会があるということを示しています。

セオドア・レビットは、競争の観点からいえば、差別化できない製品など存在せず、全ては差別化であり、実際、現実に殆ど全てのものが差別化されていると述べました。(Marketing Success Through Differentiation-of Anything, HBR, Jan-Feb 1980)

とはいえ、いずれの製品も十分な差別化ができているかというとそうとはいえず、企業はコストとのバランスを考慮しながら、差別化する方法を慎重に検討しなければなりません。ですので、差別化はポイントを絞って、それを徹底して磨き上げることによって、他社とは異なる独自のもの(差別化のポイント)を、顧客から瞬時に識別されるようにすることが重要です。

また差別化のポイントは、顧客が識別できることが前提ですが、その差別化ポイントを顧客が望ましいものと捉えてくれることが必要です。その上で、顧客が、その商品を提供する企業には、それを実現する組織的な能力が備わっているとイメージしてくれることが非常に重要で、それは謂わば企業に対する信頼感のようなものだといえるでしょう。


商品の機能による差別化 

これは、商品のパフォーマンス、商品の使用をとおして、その働きから得られる効果によって差別化するものを指します。

ここでよく出てくるのが少し古い例ですが、安全な車ならボルボというものです(筆者は乗ったことがありませんが)。一方で、故障しにくい車ならトヨタ(もしくは日本車)です。 今だと、軽自動車の概念を変えたホンダのN-BOXなどになります。ほかに乗り物でいえば、大型バイクのハーレーダビッドソンが挙げられます。

商品のパフォーマンスについて、筆者の独断でほかに幾つか書かせて頂くと、たとえばタッチーキーの感触が良く、安定性高くしかも頑丈すぎるほど頑丈なPCやタイプライターならIBM(今はもう生産していませんが)。壊れにくいといえば、テレビやビデオデッキをはじめとしたパナソニックのものがあります。そのパナソニックがかなわないのが、見やすく操作しやすいインターフォンを作っているアイホン(AIPHONE)です。同じく住設機器で、もうひとつ挙げれば、座り心地の良いトイレのTOTOでしょう。 

ほかにも、ソフトな消費財関連でほぼ意見が一致するだろうものには、たとえば、まるでオーダーしたかのような履き心地の良い靴をつくるイタリアのサルバトーレフェラガモ。そのフェラガモがジッパーで採用する多くのものがYKK(当然でしょうが)。イタリアのトマトは最高ですが、日本だと熊本県産が甘くて赤い。食品は地域性もあり、中小零細企業に非常に優れたものが多いため、ここで記載するのは少々不適かと思いますので、1点だけ挙げると、誰もが知る加工食品のロングセラーブランドで、最も簡単においしい中華が作れる味の素のクックドゥ。まだまだほかにも挙げられます。

デザインも差別化が可能です。洗練されたおしゃれなデザインで一世を風靡したのが旧ソニーのVAIO。これより少し前の時代になりますが、カラフルでファッショナブルな腕時計で一大ムーブメントを巻き起こしたスイスのスウォッチ。親しみやすい操作性と美しいデザインで、多くの人を魅了したアップルコンピュータ。そのアップルは、iPhoneでシンプルで直観的な操作を可能にし、多くのアプリを生み出して、人々の暮らしを変えてしまいました。

このように商品の機能による差別化には、性能や信頼性、耐久性、おいしさや味覚といった品質面でのものを挙げることができます。ほかにも、大きさや形状などの物理的な構造、デザイン、色スタイルなどの働きによって得られる効果で、差別化することができるといえます。

品揃えも含めなければならないでしょう。たとえば、生活で必要なものは何でも揃えているアマゾン(アマゾンはサービスでも特筆すべき差別化ポイントがあります)。店舗面積がわずか50~60坪のところに約3500アイテムを揃えているセブンイレブン(ほかのコンビニとは商品の集積力がやはり違うと思います)。あと小売業でいえば、各地域で多くの品揃えをする地域一番店の各食品スーパーなどが該当するでしょう。 ドン・キホーテの品揃えも、大きな差別化ポイントです。圧縮陳列された多種多様な商品に加え、まるでジャングル(?)の中を見て回るような商品配置は、品揃えによる差別化を超えて、レイアウト自体もほかの小売企業と大きく異なり、差別化の一端を担っているといえます。

メーカーについても品揃えは差別化の要素になりうるといえますが、デジタルカタログが当たり前になった今日、たとえば住設機器メーカーのカタログには一見すると無限大ともいえるくらいの製品アイテム/SKUが掲載されています。日本特有の現象でしょうが、バイヤーや消費者にとっての分かりやすさという点では改善点があるように思え、これだけの品目数を生産・在庫する手間やコストのことなどを考えると、できるだけたくさんものを揃えるというのが、果たしてどこまで、競争優位につながっているのか、個人的には検証が必要だろうとは思います。

このように、商品の機能による差別化には多くのものを挙げることができます。人によって捉え方は少し異なる場合もあるでしょうが、今日のデジタル社会では、それほど大きな違いを生む商品があるとは思えないもののほうが多いのではないでしょうか。いずれにせよ消費者にとって、機能による差別化というのは、捉えやすい差別化であることには変わりありません。というのも、消費者がその差別化のポイントを捉えにくい場合は、商品提供者がそれをわかりやすく、時にはやや誇張して(?)、伝えることで、理解をたやすくすることもできるからです。

長くなってきましたので、サービス、人、チャネル、イメージによる差別化については、次に回したいと思います。



9/01/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位ix 私が組織文化にこだわる理由(下)

筆者が在籍した2つの会社での経験をもとに、組織文化についての学び、Lessons Learnedをここで書き留め、サービス企業における組織文化に関する大論点を終えたいと思います。(私が組織文化にこだわる理由(上)はこちら、同(中)はこちら)


1. 企業は外見で判断してはいけない。

PwCコンサルティング在籍時に、統合に際し、日本IBMの社員と接した時の印象から、私がIBMに対して抱いたことは、本質的には、決して正しいものではありませんでした。組織に横たわる強さや弱さといったものは、そう簡単に読み取れるはずがなく、ましてや多様な社員で構成されているグローバルカンパニーであれば尚更です。共有された暗黙の前提認識を、慎重に考察することが必要です。


2. 組織文化は会社の成長と共に、見直していかなければならない。

企業の成長、事業の成熟化に伴い、マネジメントの仕方も進化させていかなければならず、それには、取り巻く外的内的環境を踏まえ、必要に応じて組織文化も変えていかなければなりません。ましてや、会社のオーナーが神格化された創業者で、その人が一線から退こうとしている時などは、組織文化の変革が必要になるといえるでしょう。

変革にあたり、肝に銘じておくべきことは、組織は、創業者と創業者を取り巻くリーダーの信条や価値観から導き出された複雑な構造であるということ。その構造を深く理解せずして、組織文化の変革はありえないということですまた、正しく理解できたとしても、変革の方向とその実現に向けたアプローチが的確でなければ、成功はありえません。誤った取組みを避けるためには、常日頃から、経営トップが自ら、会社の組織文化の今を知っておくことが、前提として必要になります。こういったことを、某大手企業の経営陣の方にお話すると、そのようなアセスメント的なものは10年前にやったとか、5年前にしたからもういいだろうということを仰られる人が少なくありません。毎年しなければいけないものではありませんが、5年前ではその結果は適切なものとはいえないでしょう。


3. 組織文化は短期間で変えられない。

およそ10年程度、本業で大きな成功を収めている企業の組織文化は、他者から見ればそこに看過できないよう欠陥(たとえば当たり前のことを当たり前のようにできないなど)を内包していたとしても、企業が成長を続ける限り、組織全体は、安定的で堅固な状態を維持するではないでしょうか。

組織文化を変革するには、少なくとも5年くらいは先を見据えたロードマップのもと、人を含めた詳細な計画の手順と、進捗を客観的に判断できる組織体を作ることが不可欠です。これまでも何度か触れてきましたが、文化の変革は時間を要します。ただ、もし時間をあまりかけられないというのであれば、人の入れ替えを大胆に行い、変革の契機を見いだせる場合があります。というのも、一般的にいえば、職務に自信のある社員を変えることは難しくても、自信がない社員はそれほど時間をかけずに変えることができることがあるからです。


4. 新しい試みには、象徴的なことを加えるべきである。

経営トップが明確なビジョンを示したり、自身の考えを表明する時などは、新しい方向に進む組織にとって、象徴的なこと、シンボリックな出来事を加えることで、非常に大きな効果をもたらすことがよくあります。

たとえば、PwCと日本IBMのケースでいえば、知識の共有による両社共通のアセット構築、両社オフィスの相互利用、両社間をまたがる人の異動、両社によるクライアント企業への共同提案、社内外でのマーケティングと広報活動ならびにブランディング、業務プロセスと情報システムの統合、両社共同の能力開発制度の設計などが挙げられます。こういうことを、前もって計画的にアナウンスして公開していく、そういったことが両社の社員に一種の安心感とモチベーションを維持・強化していくことにつながるのは明白といえるでしょう。


5. 継続的な対話が、道を開くきっかけになる。

最小単位の組織で、その組織が直面する課題について対話を続けること。そしてその課題が明確になれば、その組織の文化のやり方で解決していく。仮に、その組織文化が課題解決の障害になるようであれば、その時点で、文化を少し変えてみることを検討する、こういったことがそれぞれの現場で、日頃から継続的にすべきことです。

但し、組織文化に弱いところがあっても、その文化において、強みが依然発揮されている組織であれば、その弱みは放置しておいてもいいかもしれません。弱みを克服して文化を変えていこうとするよりも、強みを活かしたやり方を優先して考えた方が良いと筆者は考えます。人の個性や癖などと同じようなものだと思います。

対話は言うまでもなく、双方向です。必ずそこにフィードバックがなければいけません。最小単位の組織から、もう一段範囲を広げた大きな組織、更にその上の大きな組織へと、対話の場を設けていく、コミュニケーションサイクルをまわしていくことが、草の根的かもしれませんが、組織には有効だと思います。それにはかなりの忍耐も必要になるでしょう。ただ、そうしておくことで、ある日突然、晴天の霹靂のように、やり方をこれまでと全く違うものに変えるなどと言われることも、なくなるか、少なくとも相当程度に弱まるだろうと考えます。



組織文化は、ある面では、その組織の「らしさ」ということができます。そのらしさを奪うことなく、組織・会社を永続的に発展させていくためには、どうすればいいのでしょうか。やり方は幾つか考えられますが、少なくとも、先がよく見えないまま、拙速に取り組みを進めることは、良い結果を生みだすことにはつながらないと言い切れます。

組織は戦略に従うというのは、チャンドラーの名言です。一方で、戦略は組織に従うという主張もあります。ただ、その戦略も組織も、組織文化のなかで共有されてきた価値観や信念から導き出されたものといえるでしょう。であるとすれば、自ずととるべき打ち手は、ある程度限られたものになってくるのではないでしょうか。

人間の性格は人それぞれです。人を伸ばしたければ、その人にあったやり方をしなければなりません。幼少の時でもある程度はそういえるわけですから、成年になれば当たり前のことです。状況に応じて行うことが重要です。人が集まって構成された組織の文化も、同じことだと思います。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3

マーケティングミックス2つめのP、価格についての3回めです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 同その2 )。 製品やサービスの特性は、価格の決定に影響を与えます。たとえは、 モノ は多くの場合、在庫が発生するため、納入先である流通業(卸・小売)が納...