11/22/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法ii X-YZモデルその2

前回は、ロシターとパーシーのポジショニング3段階手法におけるX-YZモデルのXについて述べました。ここで重要なことは、商品カテゴリーで当該ブランドをどのようにポジショニングするのか(Xの決定)、そのXには4つの選択肢があって、そのうちのどれを選択するかは慎重に決めなければならないということです。今回は、このX-YZモデルのYとZについてです。


X-YZモデルのYとZでは、競合ブランドに対してどのように自社ブランドをポジショニングするのか(Y,Zの選択)を考えます。これは、消費者(ユーザー)を表すYについてポジショニングするのか、或いは商品ベネフィットであるZに基づいてポジショニングするのかのどちらかを決めるということです(本稿では消費者を念頭において記述しているためユーザーと表記せず、消費者と記載しています)

ブランド/マーケティング担当者は、このYとZの2つのどちらを対象にするかを決めなければならず、これがX-YZモデルにおける2回目の意志決定になります(1回目の意志決定は、Xの決定を指します)。


X-YZモデルのYは、消費者に関するポジショニングです。このポジショニングの選択肢には、次の2つがあります。

Y. 消費者に関するポジショニング: 

Y1. ターゲット消費者が初心者(技術的商品の活用)

Y2. 購買動機が社会的承認にあたる商品


企業(または事業単位や商品ライン)は、特定した市場の専門家や、特定商品の専門家である必要があり、このためには特定の市場や商品に特化しなければならないロシターとパーシーは述べています。そして、この状況が適用できる時には、Y1かY2を選択すべきだと説いています。


Y1のターゲット消費者が初心者については、およそ初心者というのは商品の属性を十分理解できるかというと、そうでない場合が多いはずです。また、それが技術的な商品であれば尚更で、それは日本に限ったことではないでしょう。このため、技術的な商品であればあるほど、企業は商品特性への言及はほどほどにして、商品の消費者に焦点を当てるべきということになります。たとえば、今日の例でいえば、3Dプリンターやブロックチェーンによるビットコイン、複雑な金融商品などが、まさに当てはまるでしょう。

ロシターとパーシーは、ターゲットとなる初心者が本当に初心者となるのは、商品が性質的に技術的なものであり、実際、多くの初心者が新規のカテゴリーユーザーではあるが、その逆は必ずしも成立しないといっています。つまり、多くの新規商品カテゴリーが技術的なものではないため、初心者というのは当てはまらない(もしくは当てはまりにくい)としています。


Y2は、本来的にはZの要因になりますが、消費者の承認が重要なものとなるため、Yの要因として扱われています。当時の米国では、ファッション衣料や高級車などの商品カテゴリーでは、社会的承認が最大の購買動機であると捉えられていました。また、それは今でもそう大差なく通用するのだろうと思います。

日本と異なり米国の場合は、身につける衣料や雑貨、自家用車などが、各消費者の社会における地位やステータス、立場を表します。わかりやすくストレートにいえば、米国ではたとえば、世帯主の収入がさほど多くない人はレクサスのような高級車には決して乗りません。一方で、今日の日本ではまったくそうではなく、レクサスに限らず、アルファードやベルファイヤーといった高価格帯帯の車に、世帯主収入はおろか、世帯収入が車の半分や1/3以下の家庭が、こぞって乗っています。ですので、このY2要因を適用させるのは少し難しいように思えます。両国に共通するものでいえば、ひとつには、たとえば脱炭素やサーキュラーエコノミー関連の商品群などが代表的なものになるでしょう。


X-YZモデルのZは、商品のベネフィットに従ってポジショニングするもので、その他全ての状況があてはまるものとしています。

Z. 商品べネフィットに基づいてポジショニング

Z1. その他全ての状況


その他全ての状況と説明されていますが、実際は殆どのブランドがここに該当します。商品のベネフィットは、消費者ではなく、商品と関連付けられ、ひとつまたはそれ以上のベネフィットに、商品特性のメッセージと共に位置付けられます。


消費者、商品ベネフィット、どちらのポジショニングの場合でも、どのベネフィットが強調されるべきかを決める必要があり、これにはI-D-Uモデルを用いて検討します。これについては次回で概説することにします。


11/17/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法i X-YZモデルその1

ポジショニングについて、ジョン・R. ロシターとラリー・パーシーが、ブランドコミュニケーションの観点から、マクロレベル、メゾレベル、ミクロレベルの3段階手法というモデルを、およそ四半世紀前に提唱しました。今日においても効果のある枠組みだと筆者は思いますが、近年ではあまり語られることがないように思えるため、このブランディングブログで概説していきたいと思います。


ポジショニングの3段階手法は、次の3つのモデルで構成されます。

X-YZモデル (マクロレベル)

I-D-Uモデル (メゾレベル)

a-b-eモデル (ミクロレベル)


X-YZモデルは、ポジショニング上の位置づけを目的としたもので、3段階手法に基づいたポジショニングはこのモデルから始まります。

I-D-Uモデルは、X-YZモデルの次に来るもので、ベネフィットを選択するために適用されるモデルです。

a-b-eモデルは、I-D-Uの後に来る最後のモデルで、ベネフィットをミクロレベルでフォーカスするために用いられるモデルです。

以下に、それぞれのモデルを数回に分けて、できる限り簡潔に説明していきたいと思います。


マクロレベルのX-YZモデル

X、Y、Zはそれぞれ次のものを表します。

Xは、商品カテゴリーにおいて、対象にする自社のブランドをどう位置付けるかを決める因子で、商品カテゴリー自体か、商品カテゴリーにおけるニーズを表します。つまり、そのブランドはいったい何なのかを端的に表現するものになります。

Yは、ユーザーを表し、競争相手のブランドに対して、自社ブランドをどう位置付けるかを決める因子で、そのブランドは誰のためのものを表します。ユーザーとは消費者や法人などの利用者を指しますが、本稿では消費者を念頭においているため、以降はユーザーの代わりに、消費者として記述していきます。

Zは、ベネフィットを表し、Y同様、競合ブランドに対する自社ブランドの位置付けを決めるものです。ブランドのベネフィットを示すため、そのブランドは何を提供するのかということを表します。

まとめると、X-YZモデルは、そのブランドは何で[X]、誰を対象にして[Y]、何を提供しているのか即ちどういったベネフィットをYにもたらすのか[Z]を説明し、これをもってマクロレベルのブランドポジションを表します。

このX-YZモデルの後に、I-D-Uモデルとa-b-eモデルの2つが続くことになります。ロシターとパーシーは、このX-YZモデルを、ブランドポジションについて、消費者の頭または心の中に、当該ブランドは何で、誰を対象にし、どういったものを提供するのかを位置付けるもので、「上位のコミュニケーション効果」と述べています。


X-YZモデルのXは、上記のとおり、カテゴリーそのものかカテゴリーのニーズを表すもので、その決定に関する選択肢はハイレベルでXaとXbの2つ、それぞれが更に2つに分かれて、計4つの選択肢になります。

Xa. 中心的ポジショニング: 

Xa1. 先発ブランドか市場リーダー 

Xa2. 模倣ブランド(但し、ベネフィットがXa1と同等と消費者が判断でき、且つXa1より低価格で提供できる場合に限定)

 

Xb. 差別的ポジショニング

Xb1. その他全てのブランド 

Xb2. 後発の模倣ブランド


はじめにブランド/マーケティングの担当者は、ポジショニングを中心的か差別的かのどちらかを選ばなけれななりません。

選ぶ基準は、上記のとおり、カテゴリーに1番乗りするブランドは、自ずと中心的ポジショニングを選択することになります。というのも、その最初のブランドが、当該カテゴリーそのものを定義することになるからです。

定義するものは、商品カテゴリーの属性、属性の望ましい水準、ターゲット顧客による属性の組み合わせ方(または選択の仕方)です。こういったことは、後発ブランドに非常に大きな影響を与えるため、当該カテゴリーにおける主要なベネフィットを提供し、消費者が実感し続ける限り、先発ブランドは優位性を獲得し続けることができるといえます。


Xa1かXa2以外のブランドは全て、差別的ポジショニングを選択しなければいけないと、ロシターとパーシーはいっています。


Xb1はXa2になれないブランド、つまりXa1の先発リーダーか市場リーダーが提供するブランドのベネフィットが、消費者からみて同じものと認識されることに加え、価格が先発ブランドより低価格で提供することができること、この両方を実現できないブランドがXb1ということになります。これは後発の模倣ブランドも差別化する必要があるということにつながるため、Xb2はXb1の差別化ブランドを模倣するということになります。

4つの選択肢は、Xa1、Xa2、Xb1、Xb2の順で検討していきます。何事もそうかもしれませんが、最初が肝心です。ここでのポジショニングに関する意思決定(どの選択肢にするかを決めること)は、ポジショニング全体を考える上で、非常に重要な部分になります。というのも、これまで繰り返し触れてきましたが、ポジショニングは消費者の頭(または心)の中を対象にするため、一度決めた選択肢を後から変更することは容易ではなく、下手をすればブランドの存在価値自体が否定されることにつながりかねないため、慎重に検討しなければなりません。

X-YZモデルのYとZについては、次回にまわしたいと思います。


11/11/2024

ブランディング (5)ポジショニング ④差別化と疑似化

ケビン・レーン・ケラーは、ポジショニングを決める上で、差別化のポイントと疑似化のポイントを的確に選択することが非常に重要であると述べています。

差別化のポイントとは、端的にいえば、競争相手の商品との違いを表すベネフィットのことで、ここでのベネフィットとは消費者が買いたくなる要因です。

疑似化ポイントとは、競合商品と共通する機能や特徴のことを踏まえ、自社商品の価値が競合商品の価値と、同等であるとみなされるポイントのことをいいます。ケラーは、英語の原文ではポイント・オブ・パリティと呼んでいます。


従って、優れたポジショニングとは、競合商品との差別化ポイントに留まることなく、疑似化ポイント(ポイント・オブ・パリティ)についても、十分考慮されているということになります。

ケラーに従えば、ポジショニングを決めるための大まかなながれは、以下の2つです。


1. 競争上のフレーム・オブ・レファレンスを規定する。

2. 差別化と疑似化それぞれのポイントを確立する。


1のフレーム・オブ・レファレンスとは、競合商品と比較できる基準となる枠組みのことをいいます。ここですべきことは、自社ブランドの競争相手になる商品(または商品群)を決めて、それらが消費者にどのように見られているのか、位置付けられているのかを理解することです。ケラーは、適切なフレーム・オブ・レファレンスを規定すれば、具体的な差別化ポイントと疑似化ポイントの切り口が定められるといっています。なおケラーは、対象になる商品をカテゴリー・メンバーシップと呼んでいます。

ただ、このフレーム・オブ・レファレンスを規定するのは、そう簡単ではありません。たとえば、新しい清涼飲料を考える場合、レファレンスを狭義に捉えれば他の清涼飲料ということになりますが、単純に飲料に広げた場合だけでも、ミネラルウォーター、日本茶や中国茶、アイスコーヒーやアイスティー、フルーツ系飲料、スポーツドリンク、栄養飲料等々、コンビニや自販機で購入できるものだけでもいろいろあります。これに、もし飲食店や自宅で作れるものまで含めるとなると、膨大なレファレンスとなります。従って、当然のことながら、自社商品の企画段階、たとえばコンセプト開発時点での主旨を明確にしておく、仮説をしっかり出しておくことが非常に重要なタスクになります。


2の差別化のポイントと疑似化のポイントを確立することについては、差別化ポイントを選択する上で、最も考慮すべきことは、消費者からみた望ましさや好感度と、その望ましさの実現性であるとし、ケラーはそれぞれに以下のような基準を設けています。


好感度の基準

関連性: 差別化ポイントは自身と個人的に関連があるか。

独自性: 差別化ポイントは他に存在しない唯一のものか。

信用性: 差別化ポイントは信頼に値するか。

実現性の基準

実行可能性: 差別化ポイントを創出できるか。

伝達可能性: 差別化ポイントは消費者の知識と合致するか。

持続可能性: 差別化ポイントを維持・強化していくことができるか。


ケラーは、疑似化ポイントを他のブランドと共有されている連想と意味づけ、これにはカテゴリーと競争という2つがあり、カテゴリー疑似化ポイントは、ブランド拡張する際、カテゴリーの非疑似性が強いほど、カテゴリーの疑似化ポイントを確立しておくことが重要だと述べています。

競争的疑似化ポイントは、競争相手の差別化ポイントの効力を失わせるために作られる連想のことをいい、相手が優位になっている領域においてブレークイーブンに持ち込み、ほかの領域で自社が優位に立つために行うもの、一例としてミラービールのライトのおいしさはそのまま残してカロリーを控えめにしたケースで説明しています。


なおケラーは、差別化ポイントと疑似化ポイントは、その属性やベネフィットの面で、負の相関関係にあることが多いため、注意が必要といっています。たとえば、高品質と低価格、低カロリーとおいしさ、安全性とパワーといった具合です。また、それぞれの属性やベネフィットが、長短両方を有していることもあると述べています。たとえば、伝統は経験や専門性をほのめかすプラスの面がありながらも、一方で旧態依然とした時代遅れの産物などと、マイナスの要素として捉えられてしまうといった一面があるとしています。

映画007でお馴染みのBMWは、ラグジュアリーでありながら高度な機能を誇っていることで知られています(ただ近年のBMWの動きを見ていると、もしかしたら、それはもうすでに過去のことになってしまったのかもしれませんが・・・)。筆者がニューヨーク州イサカで勉強していた時は防水なのに通気性に優れた軽量のゴアテックス素材を用いたLLビーンのダウンジャケットをいつも愛用していました。相矛盾するかのようなものを両立させるには、技術だけでなく、消費者にそう思わせることが必要で、それができてはじめて相手のブランドを凌駕できるようになる、そのためにはケラーのいう差別化ポイントと疑似化ポイントをうまく確立させることが重要だということになります。


11/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③留意点ii 忘れてはならないこと

前々回の「差別化の留意点i 始めに問うべきこと(上)と、前回の「始めに問うべきこと(下)」では、ポジショニング戦略を考えていく前に、はじめに、自社の現状をしっかりと見ることの重要性とすべきタスクについて触れました。今回は、私たちが決して忘れてはならないことについて、簡潔に記述しておきたいと思います。それは、一言で表すと、


人は見たいものしか見ない

言い方を変えると、

人は自分が信じたいものを信じる

ということです。


これは、日本に限ったことではなく、米国でも欧州でも、その他アジアの国々でも、当てはまることだと思います。論理的に考えて行動しようとしても、数々のバイアス、たとえば、ハロー効果、バンドワゴン効果、後知恵バイアス、正常性バイアス、自己奉仕バイアスといったようなものが邪魔をします。(思考の罠i罠ii罠iii罠iv罠v罠vi)


加えていえば、昨今の(というか、実は随分昔からあった)多くのフェイクニュース、平気でうそをつく人々、無数にあるにせ情報、こういった類いのものは、悲しいことですが、インターネットの浸透によって、非常に多くなったと思います。このような環境下で、我々はどうすればいいのでしょうか。

残念ながら特効薬のようなものを、筆者は挙げることができません。ただ、我々は、次のようなことであれば、理解し実行することができると思います。たとえば、

ターゲットにする消費者は、どのブランドを支持しているのか。

当該ブランドは、その消費者の頭(または心)の中で、どのような場所を占めているのか。


支持されているブランドが自社のものでない場合は、我々は競争相手を深く理解しなければなりません。そして、自社がその競争相手に対して、何ができるかを注意深く検討し、攻撃すべき弱点を見つけることです。

次に、競合商品に対して差別化できるポイントを探して、自社が主張できる根拠を、ターゲットに対して示すこと

あとは、ぶれることのないメッセージを、繰り返し伝え、コミュニケーションをし続けること


そして、忘れてはならないのは、市場リーダーのポジションが、どういうものかを正しく把握すること。それは、多くのケースにおいて、自社のポジションを確認すること以上に重要といえるでしょう。何故ならば、リーダー企業が保有するブランドを消費者が最も支持しているからであり、通常、2位以下の企業には、それを簡単にひっくり返すことはできないからです。自社がどう考えるかではなく、消費者がどのように見ているかという点が重要だからです


つまるところ、消費者が今、考えている枠組みや前提といったようなものを、時間をかけて少しずつ壊していかなければならないということに行き着きます。それは、ある意味、競争のルールを変えていくということにもつながります。


トラウトとライズは、このように述べています。消費者の頭の中に梯子のようなものがあって、その梯子のひとつがある商品分野に該当する。梯子の各階段にはその消費者にとってのブランド名が刻まれていて、最上段が最も消費者の頭(または心)を占有している。新しい商品を市場に投入して、新市場を開拓したければ、新しい梯子を持ってくる必要があるということになります。


最後に、トラウトとライズの言葉を、少し長くなりますがそのまま引用したいと思います。「バカも休み休み言うべきだ。誤解は広告や営業努力でやすやす変えられるものではない。先入観のない人はいない人は広告や営業マンの説得に接すると自らの先入観に照らして、同意したり却下したりする。今日のマーケティングで何が無駄な努力といって、人の考えを変えようとすることほどバカげていることはない。人が一度何かを思い込んだら、それを変えようとするのは不可能に近い。そもそも、真実って何だ? それは見込み客の頭の中にある認識である。あなたにとって納得のいかないものかもしれないが、避けて通る道はない。事実は事実として受け入れて、付き合っていく他はないのである。」


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...