10/25/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③差別化の留意点i 始めに問うべきこと(下)

ポジショニング戦略を立案する際、ジャックトラウトとアルライズの「6つの自問」を用いて、はじめに自問自答しておくことが極めて効果的です。前回の始めに問うべきことでは、ひとつめ「自社の現在のポジションは?」とふたつめ「どんなポジションを築きたいのか?」について触れました。今回は、残りの4つの問いについてです。


3. ライバルは誰か?

自社だけで市場を独占することは、資本市場社会においてはありえません。必ず競争相手が存在します。相手をよく理解し、どのように向き合うか。トラウトとライズは、市場のリーダーに対して、勝負を挑むのではなく、迂回しろと説いています。そして、まだ誰も手にしていないポジションを掴めといっています。 

ここでいうライバルとは、自社にとっての競争相手というよりは、消費者の頭の中で自社と戦う競争相手という理解が正しいでしょう。つまり、自社はライバル視していない相手が、ライバルである可能性があるということになります。ひとたびライバルがわかれば、トラウトとライズは、次の4つのパターンに言及しています。 

 

トップブランド(企業)がすべきことは防衛戦 

二番手は積極攻撃 

規模で劣る場合は側面攻撃 

ローカルブランド(企業)であればゲリラ戦

 

戦う場所は、リアルであろうとネットであろうと、小売りの店舗ではありません。消費者の頭(または心)の中でライバルと戦うわけです。それは一見して目に見えないため、かなりやっかいです。多変量解析などを用いた市場調査を行うことで、頭の中をマッピングしなければなりません。 

トラウトとライズは、消費者は単に商品を買うのではなく、選び取っていて、ブランドの長所や短所よりも、ポジショニングを重視すべきだと述べています。また、市場全体のポジションを切り崩して、仕切り直すことを薦めています。


4. 資金は十分か?

トラウトとライズは、消費者の頭のなかのシェアを獲得するには、(当たり前といえば当たり前のことですが)お金がかかるといっています。資金が限られているのであれば、地域を限定して広告を打つべきといっています。一例として、ニューヨークは全米で一番スコッチウイスキーの消費量が多いため、ニューヨークでNo1スコッチというポジションを獲得できれば、そのスコッチを全米に拡大できるとしています。


5. 同じことを続けられるか?

人の記憶には限りがあります。相手にわかりやすく要点を伝えたければ、3、5、7といった奇数にするといったことは知られています。但し、9つとなった途端に、理解に混乱が生じます。場合によっては、5つでも多いといわれることがあります。また、人は忘れがちな上、頭は混乱することを嫌います。加えて、周囲の環境が変化するため、自社のブランドを際立たせようと思えば、ひとたび決めたポジションとそのメッセージを、消費者に対して繰り返し伝える、同じことを言い続けることが必要です 

ライバルも積極的に活動していることでしょう。このため、消費者に覚えてもらい、一番に想起してもらうためには、独自性に富んでいることは勿論ですが、シンプルで分かりやすいことが重要です。わかりづらいことはご法度だと筆者は思います。 

本ブランディングのブログでも触れましたが、消費者は自分たちが経験してきたプロダクトの利用状況などから、利用可能な代替できるプロダクト、つまりとってかわることのできるベネフィットを常に検討しています(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場)。これにはいろいろな理由が考えられるでしょう。情報過多の時代において、自分に自信が持てない人たちは、他人が買うものを買う傾向が高いことが挙げられます。たとえば、何故これほどまでにSUVの車が多いのか。SUVを本当に必要としている、または乗ることを楽しんでいる人はそう多くないように思います。自分では選べないから、あの人たちが選んだもの・おすすめのものを購入する。理性的に考えたらすぐにわかるようなことでも、都度、感情に流されてしまうため、いつも心が揺れているということになるのでしょう。 

とはいえ、一方では、人の気持ちや心、ましてや頭の中にいたっては、そう簡単には変わりません。何に焦点を当てればいいのか。それは、自分たちが獲得したいポジションのコンセプトを、消費者がわかるように、繰り返し訴え続けることに尽きるといえるでしょう。トラウトとライズは、「ポジショニングとは、累積的なコンセプトである」と述べています。「長期的に広告し続けてこそ効果がでる」として、「何年間も同じことにこだわり続けなければ意味がない」といっています。


6. 自社にふさわしい広告を作っているか?

世の中、販売されている商品と広告が驚くほど釣り合わないものが多いと感じるのは筆者だけではないでしょう。ましてや会社の体質や文化、雰囲気などと、正反対の広告に出会うことも少なくありません(該当する会社の中の本当の姿を知る機会を得る人は、そう多くはないでしょうが)。プロダクトのポジションと広告がマッチしていることは重要と捉えるのがふつうのはずだと思えるのですが、意外とアンマッチのものが散見されます。人は、事実ではなく、イメージで判断する、ポジショニングも消費者の頭の中の少し具体的なイメージであるとすれば、広告には代理店丸投げではなく、もっと積極的に関与してもいいのではないでしょうか。

 

まず、現実を直視すること。自社のおかれている状況を、少し時間をかけて、一から順に見直すことが、最初にすべきこと。一足飛びに、課題解決の打ち手や、ポジショニング戦略を考えるのは、避けなければなりません。


10/20/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③差別化の留意点i 始めに問うべきこと(上)

ポジショニング戦略を考える前に、ジャックトラウトとアルライズは、以下の「6つの自問」をすべきとしています。


1. 自社の現在のポジションは?

2. どんなポジションを築きたいのか?

3. ライバルは誰か?

4. 資金は十分か?

5. 同じことを続けられるか?

6. 自社にふさわしい広告を作っているか?


要は、自分・自社をハッキリさせるということに尽きます。実際、自分(自社)の行先が分からない人に、ついていく人はまずいないでしょう。


1. 自社の現在のポジションは?

ビジネスにおいて、現状を正しく認識することは極めて重要であることは言うまでもありません。課題の設定や戦略の立案、オペレーションの改善や改革など、何かを始める時には、まずはじめに現状を把握することが重要です。 

そのためには、ファクト(事実)を洗い出すことが不可欠です。 これまでの自分たちの経験や勘に頼ることなく、思い込みや固定観念といったバイアスを排除して、多方面からファクトを集め、分析することが必要です。また、ファクトを積み上げても、正しく評価されるとは限りません。会社や上司の面子、業界通念、過去の成功体験などに引きずられて、評価そのものが歪められてしまうといったことは少なくありません。 

我々は、日常生活においても、何処かへ行くためにグーグルマップを見れば、まず自分の現在地が示されます。グーグルマップに限らず、施設やホールなどでの館内で案内図を見る時にでも、自分の現在地が明示されています。現在地を正しく知るからこそ、目的地への行き方がわかるようになります。ビジネスでも、同じことだといえます。

なおトラウトとライズは、ポジショニングの現在地は、企業サイドからではなく、消費者の側からのものでなくてはならないといっています。つまり、消費者の頭の中で、自社がどういったポジションを築いているかを知らなければならないということです。 

現在のポジショニングをリサーチする方法には、多変量解析によって、ポジショニングを決定することができます。但し、選定した調査対象者の特徴と数に結果が影響を受けるため、サンプル抽出には偏りがないように注意すること、多数の代表性のあるサンプルを確保することが重要です。ポジショニングによく用いられる多変量解析技法には、因子分析、判別分析、主成分分析、数量化理論II類、数量化理論III類、数量化理論IV類、コレスポンデンス分析、多次元尺度構成法(MDS)などがあります。

どういった技法や手法を使うかは別にしても、トラウトとライズは、我々がすべきことは、すでに消費者の頭の中に存在しているものに、自社のプロダクトやそのコンセプトを関連付ける方法を探すことだとしています。

 

2. どんなポジションを築きたいのか?

ポジションの構築において、最も重要なことは何でしょうか。様々な解析技法や理論、フレームワークや方法論をたくさん知っていることでしょうか。創造性や全体を構想する力、或いは解決策などをまとめ上げていくような論理力でしょうか。いずれも必要な条件だと思います。 

ですが、筆者は「これが進むべき道」と皆に示し、それを必ず実現させようとする強固な意志こそが、最重要なものだと思います。この点において、意志のないままに過去の取組み事例や成功した結果を単に踏襲するといったような考え方では、新しいポジショニングを成功させることなど到底できないといえるでしょう。 

トラウトとライズは、手に入れたいポジションを考える時は、欲張らずに、絞り込めと説いています。大きすぎるポジションは、たとえ手に入れることができたとしても、守りきれなくなると忠告しています。 

ひとつ例を挙げるとすると、少々古くなりますが、筆者にはキリンビールのラガーが頭に浮かびます。アサヒビールのスーパードライの爆発的ブームから、1990年前後を境に、ビール市場は生一色といった感じになりました。キリンビールは一番搾りを発売し、これが同社にとって久しぶりの大ヒットになったこともあってか、スーパードライの追撃態勢をより本格化するためだったのか、驚くことに、なんとラガービールを非加熱処理した生ビールしてしまいました。これにより、ラガービール特有の味は消え失せ、同時にラガービールの確固たるポジションは消滅してしまいました。往年のラガービールファンも去ってしまったのはいうまでもありません。 

 

大半のプロダクトにおいて、万人受けするような商品を開発し販売したところで、結局は誰にも認められないということです。ほかの消費者にも買ってもらいたいなどというのは厚かましいというか、無謀な考え方です。他とは異なる差別化のポイントや、突出した何かを検討したり、練り上げることをせずに、安易に妥協した産物を作ってはなりません。フォーカスするところを決める、絞り続けるべきで、このためには、長期的な視点を持って、手に入れたいポジションを考え続けることが必要です。

長くなりそうなため、続きは次回とさせていただきます。


10/14/2024

ブランディング (5)ポジショニング ②差別化のすすめ方

差別化のすすめ方は、どのようにすればいいのでしょうか。ジャック・トラウトは、ロジックによる差別化が肝要といい、クリエイターによる創作に任せるべきではなく、差別化にクリエイティビティや想像力の豊かさは関係ないといっています。また、大半のケースで、マーケティングが失敗する理由は、論理性の欠如だと述べています。


トラウトの差別化に向けたステップは、次の4つです。

1. 取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探す。

2. 差別化のアイデアを探す。

3. 主張の根拠を示して、信頼を獲得する。

4. あらゆるコミュニケーションの場で、アピールを徹底する。


1の取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探すことについて、トラウトは、重要なことは頭にすぐに浮かぶこと、よく考えないとわからないようなことでは駄目だといっています。ターゲット顧客が、競合他社の強みと弱み自社の強みと弱み、この2点をどのように見ているかということ、これをいち早く把握する必要があると述べています。

トラウトがよく用いたやり方は、対象になるカテゴリーに関係する基本特性を列挙し、各項目について、ターゲット顧客に対して、競合他社ごとに、10点満点で採点してもらうというものです。これを行うことで、当該カテゴリーにおいて、誰がどう感じているかを把握することができ、これに基づき、社内で議論を発展させていくというものです。


2の差別化のアイデアを探すことについては、ほかとはハッキリ違うこと、差別化できること、独自性であること、兎にも角にもこれを見つけ出して、顧客に魅力を感じてもらえるようにすることだといっています。この差別化や独自性は必ずしも商品そのものの特徴である必要はないとのこと。これについては、本ブランディングブログの差別化の方法を参考にしていただけるはずです(i商品の機能による差別化iiサービスによる差別化iii人による差別化ivチャネルによる差別化vイメージによる差別化)

そして、トラウトは差別化するためには、カテゴリーを自ら創り出して、そこに一番乗りすることだと述べています(ブランディング (1)ブランディングとは②)。一番手は永遠に一番手で、独自性なき後発は消えると指摘しています。実際、米国でいえば、コピーのゼロックス、ジーンズのリーバイス、ティッシュペーパーのクリネックス、ゼリーのジェロ、翌日(または翌朝)配達のフェデラル・エクスプレス等、カテゴリーに1番乗りして成功したブランドは、その後の市場シェアで優位性を保持し続けることが多いはずです。

ただ、一方で、必ずしも一番乗りが優位とはいえないのも事実です。たとえば、インターネット黎明期のネットエスケープ社のネットエスケープ・ナビゲーターというウェブブラウザーが後発のマイクロソフトのインターネットエクスプローラーに駆逐されてしまうケースや、パソコンOSの先発Macに対して後発のWindowsが市場を制した例、家庭用VTRで後発のビクター&松下連合のVHSが先発ソニーのベータを市場から退場させたことなど、いろいろ挙げることができます。

つまるところ、一番手のブランド/企業は、市場参入後の打ち手次第で、先発優位を維持し続けることは可能であるのは事実といえるでしょうし、実際のところ、先発ブランドが後発ブランドのポジショニングに対して、極めて大きな影響を与えることは間違いありません。

トラウトは、また、一番手の商品名がトップブランドであり続ける理由に、商品名が一般名詞化することも挙げています。ゼロックス、バンドエイド、サランラップ、ゴアテックス、ファイバーグラス等々です。


3の自分たちの主張の根拠を示して信頼を獲得することについては、世論という法廷の場に立っているくらいのつもりで、消費者が納得できるエビデンスを提示しなければならないといっています。建て前と本音、広告でうたっていることと実態の違いが、あまりにも多いことに我々は随分前から気づいています。消費者、ひいては自社従業員からの信頼を得るために、客観的なエビデンスや明確な根拠を提示する。これが、本来のあるべきブランドプロミスといえるでしょう(ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位ii 文化の形成要素と顧客サービス)。

信頼の裏付けとして、専門性を見せるというのはひとつの有効なやり方です。たとえば、プロフェッショナルファームにみられる豊富な知識と多様な経験・実績から導きだせる問題解決における引き出しの多さなどが挙げられます。メーカーが自社の研究/技術開発力を誇示するのであれば、特許件数はひとつの有力な裏付けになるでしょう。専門性を少し拡大解釈することになりますが、歴史や伝統も、信頼の裏付けになるのではないでしょうか。宮内庁御用達、数百年以上変わることなくこだわり続けてきた製法や原材料といったものになります。レストランの格付けも、信頼の裏付けに該当することが多いと思います。これらは、次のステップ4で展開することになります。


4のあらゆるコミュニケーションの場でアピールを徹底するというのは、仮に良い商品を創ることが出来たとしても、それだけでは決して売れないからです。トラウトは、米国レンタカー業界のエイビスの「(当社は業界の)No2だからこそ、我々は頑張っています」といった広告をとおして、社員がモチベーションを上げた例を紹介しています。

大勢の人に選ばれ続けていることは、アピールできることです。多くの人が選んでいるからこそ、消費者は安心します。人が買うから自分も買うということです。今日の口コミは、やらせも多いようですが、アピールが徹底できるという点で、非常に強力なツールであることに間違いありません。著名人や多くの人が憧れるような人が選ぶ製品やサービスも、強力なアピールになります。多くのアスリートが選ぶナイキなどはその典型でしょう。他人が買うものを買いたがる人は多くいます。


ところで、トラウトは、ボールのあるところでプレーしろと説いています。所謂Think Globally, Act Locallyです。ゴルフはグローバルスポーツで、ゴルファーはこれを心得ているが、マーケターはそうでないといっています。この例として、ビールのハイネケンは世界中どこでも同じ味だが、マーケティングは標準化せずにローカルニーズを踏まえた多様な形態をとっているとしています。

ただ、グローバル化が進行し続けている今日では、画一的なメッセージを世界中に発信することが必ずしも通用しないとはいえません。地球温暖化、SDGs、ESG経営、ブランドパーパス等々、少し遡ればWindows95なども、画一的なメッセージだったように思います。一方で、ウォルマートは米国以外の国では、うまく事業成長ができずにいます。マグドナルドは現地に適したハンバーガー、たとえばインドの羊バーガーなどを提供しています。


日本の国土の約26倍の面積を持つ米国、その人口は日本の3倍もありません。米国は地域によって、考え方や行動様式などが大きく異なります。面積が大きいから、移民が作った国だから、それは当然という見方があります。一方で、日本はどうでしょうか。世界の大都市東京と地方では、人の意識やものの見方・考え方はかなり違うと筆者は強く感じています。少し大袈裟にいえば、国が違うくらいの感さえあります。同じ大都市でも、東京、大阪、名古屋でも随分異なります。こういったことを考えると、頭(または心)の中にポジショニングするやり方も、ターゲット市場が何処で、狙いたい顧客は誰か、そして競争相手は誰で何をしているかといったことについて、今まで以上にはっきりとさせておかなければいけならないということになります。


最後に、トラウトは何度も繰り返し説いています。大事なことは、自分が何を望むかではなく、競争相手との関係で何ができるかということ。そのためには、競争相手をしっかりと理解し、消費者の頭(または心)の中で相手がどういう場所を占めているかをまず理解しなければならないということを強調しています。決して忘れてはならない金言です。


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10/06/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法v イメージによる差別化

差別化の方法の5回目は、イメージについてです。(商品の機能による差別化サービスによる差別化人による差別化チャネルによる差別化)


イメージによる差別化

消費者からみて、他社と同じように映る製品やサービスであっても、ブランドに対する心象で差別化することを、イメージによる差別化といいます。フィリップコトラーによると、イメージによる差別化は、シンボル、メディア、雰囲気、イベントなどをとおして行われるとしています。なお、このイメージによる差別化は、一般的にいわれるところのブランドイメージとは異なるもの、或いは狭義の概念と捉えるべきです。 

というのも、ブランド・イメージとは調査などによって明らかにされた消費者が実際に認識しているブランドの姿のことを指すからです(ブランディング(2)ブランド用語①)。消費者がブランドをどのように見ているかを表すものがブランドイメージであるため、そのイメージを構成する要素には、自ずと商品やサービス、人、チャネルといった差別化の方法になるものが含まれ、そこには5つめの差別化の方法であるイメージも入るためです。

 

シンボル(またはロゴ)といえば、ナイキを思い浮かべる人は少ないないはずです。ナイキは、製品の機能以上に、多くのアスリートの心に、格好いい姿、スマートな自分といったようなイメージをロゴマークから想起させることに成功しました。こういったシンボルをとおしたイメージの確立に、マイケルジョーダンが果たした役割は、非常に大きいものがありました。ほかにも、3M、P&G、 Unilever、FedEx、インテル「intel inside」等々、国内外で高い評価を得ているものがたくさんあります。

自動車のレクサスも、シンボルマークによる差別化を実現したといえるでしょう。 米国において、レクサス前のトヨタ車には、性能が高く、故障しにくい優れた車という評判はゆるぎないものだったのでしょうが、それはあくまでも大衆車としての認識にとどまるるものでした。そこで、(それまでのトヨタがあまり得意とはしてはいなかった)デザイン性に優れた高級車として開発したのがレクサスだったわけです。レクサスはトヨタブランドとは一線を画したブランド展開を行い、今日レクサス(のシンボル)=ラグジュアリーな高級車というイメージを定着させ、世界的に成功を収めています。

SONYのロゴは、(世代によるかもしれませんが)シャープでスマートな製品というイメージを今でも想起させます。今日のソニーは、エンターテインメントの分野でも巨大な存在で、イメージセンサーにおいても大きな強みを発揮しているコングロマリット的なメーカーです。 

20世紀のことになりますが、SONYの4文字は、まさに性能の高い先進的な製品というイメージを、人々に与え続けていました。その代表格が(かなり古いかもしれませんが)ウォークマンです。筆者は学生時代の1981年に、米国で音楽旅行をした際、プレスマン(ほぼウォークマンのサイズで、録音機能が備わっているもの)を携行し、ニューヨークのジャズバーでミュージシャンに録音許可をした際、プレスマンを見せ、「こんな小さな機械が、良い音で録音できるのか」と言われ、実際に聞いてもらい、音の良さに相手も驚き、そのまま快諾されました。また、大陸横断バスのグレイハウンドの車中でプレスマンで音楽を聴いていると、黒人の子供から「雑音を聞いているの?」と言われ、ヘッドフォンを渡して音を聞かせると、驚嘆していたのを、不思議なことに今でも鮮明に覚えています。こういった場面では、いずれの人たちもSONYのロゴを、まじまじと眺め、それが脳裏に焼き付いたのではないでしょうか。そういったロゴによるイメージが、SONYにはありました。今の若い世代が、ソニーのロゴを実際のところ、どのように捉えているかはわかりませんが、以前と比べて、極端な差はないのではないかと思っています。

 

シンボルに含まれるであろうものにキャラクターがあります。不二家のキャラクター、ペコちゃんも同社のシンボルでしょう。もともとミルキーの販売促進のために練られていたキャラクターは、何故かミルキー発売の前年に、不二家レストランの店頭に登場しました。ママの味のミルキーという存在を超えて(ミルキーはもはやそれほど売れていないそうです)、永遠の6歳のペコちゃんは、70年以上も多くの人たちに認知され、親しまれています。 

ペコちゃんは架空の人物ですが、実在した人物がキャラクターになっているものに、ケンタッキーフライドチキンの創業者カーネルサンダース、煙草のマルボロのカウボーイなどもよく知られたキャラクターです。動物では、三越本店のライオン、ブルドッグソースのブルドック、そしてミッキーマウスやハローキティといったところでしょうか。

 

テレビをはじめとしたマスメディアによる差別化は、もはやあまり効かなくなってしまったといっていいでしょう。そのマスメディアをとおした差別化では、サントリーの伊右衛門が、今でも筆者の頭に浮かびます。京都宇治・福寿園の寛政2年創業、創業200年といったような老舗感、或いは本格的なイメージが付加された伊右衛門のメッセージは、当時、非常に印象的でした。今日、サントリーや京都福寿園といったコーポレートブランドの下ではなく、単独で伊右衛門ブランドを展開しています。コーポレートの冠をつけたメディア展開から伊右衛門単独になるまで、少し時間がかかったのかもしれませんが(わざと時間をかけていたと思いますが)、筆者には比較的短期間で強いブランドに育てられたと感じています。なお、マスメディアによる差別化以外に、ファンサイトを含めたネットメディアによる差別化については今回の対象外とし、別途、機会をみて触れてみたいと思います。


雰囲気による差別化については、最高級のホテルや旅館、レストランなどが幾つも挙げられます。もっと身近なところで、誰もが目にするものでいえば、スターバックスを挙げるべきでしょう。1971年に米国シアトルで誕生した同社は、当時、米国には存在しなかった本格的なコーヒーを提供するカフェとして登場したと、筆者は理解しています。日本には2003年に、自分らしい時間をゆったりと過ごせる自宅や職場とは異なる第三の場所「サードプレイス」というコンセプトで登場しました。米国と異なり、日本には至るところに喫茶店があったわけですから、提供するコーヒーをはじめ、提供の仕方や喫茶の空間全体を、ほかの喫茶店・カフェとは大きく違うイメージで展開する必要がありました。そのやり方が成功し、今では国内だけで1900店舗を超える規模に成長しました。


イベントによる差別化については、たとえばミニッツメイド社の名を冠したMLBヒューストンアストロズの球場(ミニッツメイド・パーク)や、国内では福岡PayPayドーム、京セラドーム、日産スタジアムなど、数が増えました。少し前であれば、サントリーホールが有名でしょう。ただ、これは実際に、森ビルとサントリーホールディングスが所有しているため、上記のようなネーミングライツ(命名権)とは異なります。


次回のブランディングブログは、差別化のすすめ方についてです。


10/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法iv チャネルによる差別化

差別化の方法4回目は、チャネルによる差別化です。3回目までは、商品の機能による差別化サービスによる差別化人による差別化について述べました。


チャネルによる差別化

日本特有のチャネルに、自動販売機があります。海外で、日本ほど自販機が至るところにある国はありません。今日ほど、コンビニが多くなかった時代には、自販機は非常に重要なチャネルでした。これで大成功したのが日本コカ・コーラです。20世紀には、何処にでもコカ・コーラの自販機はあるという状況だったため、好き嫌い問わず、必然の結果として製品は売れ続けていました。 

コンビニといえば、店舗数で依然、他社を大きく引き離しているのがセブンイレブンです。同社のドミナント戦略により、ある地域には何処を見ても、セブンイレブンだらけで、結果的にセブンで購入するという人は今でも多いのではないでしょうか。 

グリコのオフィスを対象にした置き菓子サービスのオフィスグリコは、2000年代前半からサービス展開を本格化させ、2021年時点で約10万台のサービス拠点を保有しています。同社によると、仕事の合間にお菓子を食べてリフレッシュ、BCP対策の一環、また、コロナ禍での利用など、様々な効果があったとしています。

コンピュータ製品を製造販売し、サービスビジネスも展開するデルは、今日、ITの世界の巨人です。同社は、もともとはエンドユーザーに直接、製品をカスタムメイドで提供する直販モデルで成長を遂げた企業です。デルの成功により、その後、各IT企業がこぞって直販モデルを取り入れました。

文房具のプラスは、コクヨによるチャネル支配に対抗するため、アスクルを設立し、直販モデルによる成功を収めました。

生活協同組合の生協は、組合員からの出資金で運営する形態をとり、食品などの宅配を行う点で、チャネルによる差別化の先駆けといえるでしょう。価格は必ずしも安いわけではなく、食材などの安全や安心を重視すると同社はうたい、現在では、共済、福祉、介護といったサービスも展開しています。 

ヤクルトレディによる訪問販売は、知らない人がいないくらい有名です。乳酸菌飲料のヤクルトは、ヤクルトレディと呼ばれる販売員が個別に各家庭を訪問し、ヤクルトの各商品を販売しています。このスタイルは、今から60年以上前に始まりました。ヤクルトレディを構成する人の多くは主婦で、訪問先の多くの消費者が主婦でもあったため、信頼関係を構築しやすかったのだろうと思います。同社には、「愛の訪問活動」というのがあり、ヤクルトの販売会社と地方自治体の間での契約に基づき、安否確認を兼ねてヤクルトレディが一人暮らしの高齢者の自宅を定期的に訪問しながら、商品を届けるという取組みが継続して行われています。 そのヤクルトは、10年以上も前に、日本と同じやり方で、ベトナムなどへも進出し、今では世界40ヵ国近い地域で活動しています。国内で行ってきたやり方を海外に持ち込み、事業の成長を可能にしました。

化粧品の訪問販売には、ポーラ、ノエビア、メナードなどのものが挙げられます。「ビジネスに参加した人がさらに参加者を広げていく取引」として知られるのが、ネットワークビジネスです。上記の化粧品会社3社が、厳密にネットワークビジネスかというと、必ずしもそうとはいえない点があり、解釈は人によって違いがあるでしょう。ネットワークビジネスは、事業拡大の仕方や取扱商品特性など、各社それぞれ異なるようですが、米国で創業されたアムウェイやシャクリー、国内では栄養補助食品の三基商事、国内で女性用下着などを扱うシャルレなどは、比較的よく知られているように思います。人と人の関係性を活用したチャネルによる差別化を行う企業は多数存在しています(但し、筆者には各社が実際のところ、どういったやり方でビジネスを展開しているのか、どれくらい成功しているのかということはわかりません)。 

ネットワーク的なビジネスから事業をはじめ、カタログ通販で会社を大きく成長させたのが千趣会です。ネットビジネスにも比較的早く取り組んだ同社ですが、消費行動の変化、競争相手の増大などにより、会員数は減少し、売上げも低迷するようになりました。また、扱う商品アイテムが増えたことで、販売経費などもかさみ、現在、利益は大きく縮減したものになりました。世情に合わせて、比較的安価なものをおしゃれに売ろうとして、当初は成功していましたが、時代の変化を読み切れず(たとえば1億総中流といわれた時代が終焉したタイミングや終焉の仕方、今日の状況など)、ターゲティングとそれに合わせた商品構成が、結果から見れば、中途半端なものになってしまったといえるのでしょう。 

チャネルによる差別化は、ネット販売が今日のように当たり前となる以前から、カタログ通販会社の増大とその多様化、特定のカテゴリーに特化した小売業態、たとえばにユニクロに代表されるようなファストファッションを売り物にするSPA(speciality store retailer of private label apparel、製造小売業)、100円ショップ、家電量販店、さらには街中にある衣料雑貨専門店の品揃えの変化など、消費者行動のみならず、時代の変化を捉え、業界の潮流を読んで、機敏に、自社のMD、商品企画、製造などに反映させ続けることで、差別化を継続して行えるのだろうと思います。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その4

マーケティングミックス2つめのP、Price/価格についての4回め、今回は先発企業の価格戦略についてです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 その2 、 その3 )。 最初に市場に参入する企業(先発企業)は、プロダクトの価格をほぼ自由に設定することが...