7/25/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位iv 文化と組織特性2つのアプローチ(下)

今回は「組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の4回目(組織文化と競争優位iv)で、前回の組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)の続きになります。これまでの内容については、以下をご覧ください。

i: 組織文化の定義と3つのレベル

ii: 組織文化の形成要素と顧客サービス

iii: 組織文化と組織特性2つのアプローチ(上)


キャメロンとクインの『組織文化を変える』では、4つの文化の特性とその代表的な企業が述べられています。 有能なリーダーの定義を①、組織が重視するものを②、組織を結束させるものを③、代表例として挙げられた企業を④として、少し大胆かもしれませんが、思いきってまとめると、次のようになります。


官僚文化/ヒエラルキー:

①組織における調整能力(但し、ルールの監督者といったニュアンスが強い) 

②組織を維持すること、計画遵守と業務の効率性 

③明確な規則と方針 

④マグドナルド

 

マーケット文化/マーケット  

競争優位獲得のための他組織との取引

高い収益性、高い目標 

競争優位と生産性

フィリップス、GE

 

家族文化/クラン:

①チームワークをファシリテーションする役割 

②チームワーク、事業活動に対する社員の深い関わり方、社員に対する企業のコミットメント、顧客は第一のパートナー、人間味のある職場環境の構築

③同じ価値観、信念、目標 

④ピープルエクスプレス航空 

 

イノベーション文化/アドホクラシー: 

①専門知識、柔軟性 

②革新的な製品/サービスの創出 

③個人の尊重、リスクテイキング、未来予想 

④コンサルティング会社、NASA


キャメロンとクインの競合価値観フレームワークをとおして、異なる組織文化の特性やイメージなどを、少し掴んで頂けたのではないかと思います。また、4つのタイプそれぞれに対して、該当するサービス企業を頭に浮かべた方もいらっしゃるのではないでしょうか。


ここで我々が気をつけなければいけないことは、基本的に、組織文化には良い・悪いというのはないということです。CVF(競合価値観フレームワーク、Competing Values Framework)に基づいた4つのタイプでいえば、たとえば福祉サービスを提供する企業Aの組織文化は家族文化/クランだから良くて、企業Bの組織文化が仮にマーケット文化/マーケットだからといって良くないということはない、ということです。 

そのサービス企業が提供するサービスの特性によって、適不適というのはあるかもしれませんが、あまり適していないように見える組織文化であったとしても、それが提供するサービスの内容にふさわしくないからといって、無理やり変えることがあってはなりません。会社の現在の業績がたとえ芳しくない状態にあったとしても、拙速に組織文化を変えようとすると、その会社は崩壊しかねません


仮に、経営トップが思い描いている理想の組織文化と、現状に大きな乖離がある時は、その原因を分析して、組織文化を変えていくことが望まれますが、その場合は、慎重に対処しなければいけません。とはいえ、トップの思う理想像と自身の言行不一致などがあることは珍しくないでしょう。

たとえば、顧客フレンドリーな態度で顧客に接することを経営陣が求めているにも関わらず、その経営陣は顧客と従業員に到底フレンドリーとはいえない言動で接しているといったものです。業績の伸び悩みや社内のぎくしゃくした関係などは、トップのこういった態度や行動が原因になっていることもあるため、より注意が必要です。


前大阪府立大学の北居教授は『学習を促す組織文化』のなかで、競合価値観フレームワークを含む5つの代表的な類型化モデルのレビューをとおして、高い成果をもたらす組織文化の共通特性を4つ挙げています。

(1)外部志向の文化が、良好な成果をもたらしている。 

(2)目標達成を強調する文化が、良好な成果をもたらしている。 

(3)内部の柔軟性を強調する文化は、従業員のモラルを向上させる。 

(4)内部の安定性を志向する文化は、有効ではない。


(1)と(2)については、日常をとおして、推察できるところがあるかと思いますが、(3)と(4)については少し意外に思われる方がいらっしゃるかもしれません。

次回は、組織文化を変えるものについて考えたいと思います。


7/19/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位iii 文化と組織特性2つのアプローチ(上)

組織文化は競争優位の源泉になっているか?」の3回目です。

1回目は、組織文化の定義と3つのレベル

2回目は、組織文化の形成要素と顧客サービス


差別化に基づいた競争優位の構築により、高業績を挙げたサービス企業にはどのような組織文化の特徴があるのでしょうか。これを考える時、私たちは、1980年代に大ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を思い出さずにはいられません。マッキンゼーのトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンは、超優良企業の共通項を次のように記しました。

1. 行動重視

2. 顧客に密着

3. 自主性と企業家精神

4. 人を通じての生産性向上

5. 価値観に基づく実践

6. 基軸から離れない

7. 単純な組織・小さな本社

8. 厳しさとゆるやかさの両面を同時にもつ


ビジネスのソフト面に焦点を当てた『エクセレント・カンパニー』は大変な反響を呼び、大いなる賞賛と、少なからぬ批判を浴びました。批判の幾つかは、次のようなものです。1982年に発表されたこのビジネス書の中で超優良企業とされた会社が、その後も引き続き超優良企業であり続けたわけではないとか、 超優良企業の組織文化や価値観に関して簡単な事例を載せているだけで、考察を体系的には行っていないといったものです。

超優良企業になるためのこれらの条件は、おそらく今日でも通用するものと思いますが、ただ、超優良企業であり続けるためには、8つの条件が必ずしも揃っていなくてもよいのではと思えるため、この点は注意が必要です。 


ピーターズとウォーターマンは、同書で、企業が信奉する2~3つくらいの価値観が、経営トップから組織のボトムラインにいる従業員まで浸透し、包括的な信念が形成されている状態を、強い文化と呼びました。  

強い文化とは、リーダーの行動が、コミュニケーションをとおして、配下にいるスタッフのコミットメントをとりつけ、組織を望む方向に導いていくことを可能にするもの、と筆者は考えます。 

ただ、これまでの組織文化研究における強い文化と高業績の関係は、フィリップ・コトラーとジェームス・ヘスケットの研究を含め、短期間であったり、一定の条件が揃えば成立する条件付きのものであったりというように、相関関係が希薄か、不十分なものと解釈されてきました。従って、組織文化と高業績の関係を「強い文化」に求めるのは、条件付きではありえますが、一般的にいえば少々無理があるというのが、このアプローチ(強度アプローチ)に対する学術上の研究結果です。それでは、組織文化の内容・タイプから考えるのはどうでしょうか。 


組織文化を類型化した研究(類型化アプローチ)で最もよく知られているのは、キムS.キャメロンとロバートE.クインによる競合価値観フレームワーク(CVF/Competing Values Framework)でしょう。CVFは、組織の有効性を判断する指標を分析し、2つの次元と4つのクラスターに分類しています。2つの次元とは「柔軟性・裁量権・独立性安定性・統制」と組織内部に注目する傾向と調和組織外部に注目する傾向と差別化」、4つのクラスターとは官僚文化・マーケット文化・ 家族文化・イノベーション文化、とキャメロンとクインの『組織文化を変える』に記載されています。

官僚文化は、英語原文でヒエラルキー/Hierarchyといいます。このタイプは、安定性と統制を重視、組織内部に注目する傾向と調和志向が強いとされています。 

官僚文化と同じように安定性と統制を重視しているものの、組織外部に注目する傾向と差別化志向が強いタイプが、マーケット文化(マーケット/Market)です。 

柔軟性と裁量権・独立性を重視し、組織内部に注目する傾向と調和志向が強いタイプが、家族文化(クラン/Clan)です。今日の日本企業は少し違うかもしれませんが、20世紀、特に1980年代頃までの日本によく見られたタイプといえるでしょう。

柔軟性と裁量権・独立性を重視し、組織外部に注目する傾向と差別化志向が強いタイプが、イノベーション文化(アドホクラシー/Adhocracy)です。アドホクラシーとは、時々の状況に合わせて柔軟に対応する姿勢またはそのような主義と言われており、和訳のイノベーションとはニュアンスがだいぶ異なります。

このまま続けると長くなっていきますので、続きは次回とさせていただきます。

7/12/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位ii 文化の形成要素と顧客サービス

前回の組織文化と競争優位iは、組織文化の定義と3つのレベルについて述べました。今回は、組織文化の形成に影響を与える要素と、競争優位の源泉との関係について考えてみたいと思います。

はじめに、競争優位の源泉ですが、これはマイケルポーターが1980年に『競争の戦略』で提唱し、その後今日まで世界中で活用されている基本戦略、つまりコストリーダーシップ、差別化、集中の3つに基づき、本稿では、差別化、なかでも卓越した顧客サービスにフォーカスすることにします。

次に、組織文化の形成に影響を与えるものですが、筆者はこれまでの事業会社における実務と、経営コンサルティング業務の経験から、組織文化は主として次の6つで形成されると考えています。

(1)ビジョン・目的・戦略

(2)競争環境

(3)リーダーの行動

(4)組織構造

(5)社員の行動

(6)業績評価


卓越した顧客サービスを提供をするためには、上記6つの形成要素はいずれも重要なものばかりですが、突き詰めていえば、サービス企業の場合、特に(1)ビジョン・目的・戦略と、(3)リーダーの行動、が最も重要で不可欠なものだと考えます。(5)社員の行動も極めて重要になるのは言うまでもないことですが、ここでは社員の行動に強い影響を及ぼすリーダーの行動に、人の行動を集約させて考えていきたいと思います。 上記の組織文化の形成に影響を与える6つの要素については、次のことがいえます。


組織文化を自社が望ましいと考えるものに変えていきたい場合は、文化の形成に大きな影響を与えている形成要素のいずれかを変えることによって、それが個人や組織に影響を与え、結果的に文化の変革を促進していくことができるようになります(組織文化 (2)文化の捉え方①)


サービス企業が卓越した顧客サービスを提供するためには、サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境の4つが一体となることが必要です(SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素)。ですが、つまるところは、卓越した顧客サービスを提供するには、優れたサービスコンセプトと、サービスに関わる優れた人々が必要ということに尽きると筆者は考えます。そして、その人たちの関わり合い方が、組織文化と呼ばれるものになります。

別の言い方をすれば、サービスの企画・設計と、それに命を吹き込む組織文化を体現する人、特にリーダーが、卓越したサービス提供には必要だということになります。読者の皆さんも、日々のサービス体験で、そういったことを何度か感じられたことがあるでしょう。たとえば、レストランやホテルなどの施設で、いろいろな小売の店舗で、飛行機やタクシーなどで、理容・美容院で、経営コンサルティング会社!などで、同じようなサービスを受けても、まったく異なる印象や結果になったり、十分満足できるものもあれば、不快になったりしたことが、あるのではないでしょうか。 


ところで、企業はゴーイングコンサーン、事業を永続的に発展さえていくためには、売上げ・利益・市場シェアなどを考える前に、まずは顧客を創造して、その維持に努めること。そのためには、顧客と長期にわたって継続的な関係を構築しなければならないといわれてきました。

顧客との関係性構築をとおして卓越した顧客サービスを提供している企業または施設で、真っ先に頭に浮かぶのが、ディズニーランドという方は今でもいらっしゃることでしょう。東京ディズニーランド(TDL)では、従業員のことをキャストと呼び、来場客であるゲストとのコミュニケーションを重視しています。TDLでは、キャストつまり出演者には何らかの役が与えられていて、顧客(来場客)はキャストたちが演じるショー全体を楽しむゲストという設定を、開園以来徹底して行っていて、これが強さの秘訣になっています。

人をとおして卓越した顧客サービスを提供する例として、もはや米国MBAの古典となった、サウスウエスト航空が挙げられます。同社は米国民が車で移動していた地点を、短距離フライト、格安料金、簡素なサービス(食事なし、映画なしなど)、先着順の座席割り当て、そしてユーモアに富んだ接客サービスで、フライトを楽しいものに仕立て上げたことで知られています。ホテル業界では、リッツカールトンのお客を待たせない応対サービスなどが度々紹介されています。

TDLと、旅客輸送やホテルは、人の心または人に作用するサービス(SMM(1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)ですが、物に作用するサービスでは、貨物輸送のヤマト運輸を挙げなければならないでしょう。今では当たり前となった宅急便ですが、これはそもそも一番最初にヤマト運輸が1970年代半ばに創り出したサービスです。個人宅であろうと、オフィスであろうと、何処へでも荷物受領に出向き、何処へでも荷物を届ける。現在では、日付指定に加え、ほぼ2時間枠での時間指定ができるのは誰もが知るところです。ここに至る過程で、ゴルフ宅急便、冷蔵冷凍のクール宅急便など、他社に先駆けて革新的な顧客サービスを次々と繰り出してきました。社会の変化に合わせて需要を創出するサービスコンセプトと、日時厳守や汚れの少ない状態で配送される商品などにみられるような安心できるサービスデリバリは、長年健在です。いつの間にか当たり前になってしまったサービスを、当たり前のこととして長く継続させていることは、見方によっては驚嘆すべきことだといえるでしょう。


卓越した顧客サービスは、一様ではありません。TDLのようなその場でしか体験できないことをとおして顧客を幸せにしたり、顧客ニーズに応えてその結果に必ず責任を持つクロネコヤマトの宅急便であったり、ほかにもいろいろなものが挙げられるでしょう。たとえば、(大企業のサービスであるにも関わらず)顧客を個客として扱うことでその人の満足を追求していくものだったり、顧客のライフステージに沿ったサービスを提供することで顧客と半ば永続的な関係性を築いていくようなものがあったり、なかには顧客を信者にするくらいのようなものまでと様々です。

このように卓越したサービス提供には、レジャー&エンターテインメント系に代表されるような場をとおして劇的な体験を提供するような1回限りのものもありますが、相対として、顧客が望むサービスを着実に提供し、その繰り返しによって、結果として、顧客がサービスの卓越性を感じるようになるといったもののほうが多いように思います。

その継続性をとおして、顧客とサービス企業の間に信頼関係が醸成され、最後にはそのサービス企業に対して、包括的な信頼を顧客が寄せるようになると筆者は考えます。

そして、顧客が購入しているものは、サービス企業の専門性という側面は勿論ありますが、それ以上に、サービス企業と顧客の間に生まれる、いわば人間関係に基づいた信頼関係に、顧客はお金を払っているといえるのではないでしょうか。

卓越した顧客サービスを継続して、たとえサービスを提供する人が変わろうとも、そう変わりなく提供できる組織の文化とはどういうものなのでしょうか。次回の本稿で考えたいと思います。


7/06/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位i 文化の定義と3つのレベル

サービス企業における大きな論点を、これまで4つ取り上げてきました。

1. 顧客の期待を理解しているか?

2. サービスコンセプトは明快か?

3. サービスデリバリのギャップは何か? 

4. コミュニケーションを組織的に行っているか?

 

5つめは、「組織文化は競争優位の源泉になっているか?」です。これについては、数回に分けて記述することにします。1回目は、組織文化とは何かということについてできる限りコンパクトに概説し、次回以降で組織文化と競争優位について、述べていくことにしたいと思います。


サービス企業においてこそ、組織文化は、他社が真似ることのできない最強の競争力の源泉になると筆者は考えています。(組織文化 (1)競争力の源泉)

サービス企業は、5つのサービス特性にみられるように(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)、かたちがなく、作り置きができず、また移転することもできないサービスを、多くの場合、顧客と共同で生産しているため、どうしてもサービスの品質にバラつきが生じてしまいます。

質の高いサービス品質を絶えず提供できるようにするには、個人個人が努力するだけでなく、組織全体が学習し続け、組織構成員がお互いに啓発しあえる関係を築くことが必要であり、この点において組織文化が極めて重要な役割を果たすことになると考えます。

組織文化の定義で、おそらく最もわかりやすいだろうと思えるものは、日本の経営学者の伊丹と加護野の両教授による「組織のメンバーが共有するものの考え方、見方、感じ方」という説明でしょう(組織文化 (1)競争力の源泉)。

これをはじめ、ほかの学者、研究者などの定義から、組織文化とは、組織における物事のすすめられ方と捉えることができ、それは組織構成員の思考や行動様式に長期にわたり強く影響を及ぼし、日常業務や意思決定などに反映されていくものだということができます(組織文化 (2)文化の捉え方①)。

ただ、残念ながら、組織文化を目に見えるかたちとして理解することは容易ではなく、それ故、現実のビジネス社会においては、真正面から捉えて考えるということが敬遠されがちです。ましてや、現場の従業員一人ひとりが、組織文化を個別に理解して、それをコントロールしていくなどといったことは、とてもできるものではなく、現実的ではありません。では誰がすべきなのかというと、経営トップをはじめとした組織の各リーダーが、まずは組織文化に向き合い、よく理解して、結果として、業績向上に活かせるようにしていくことが必要だということになります。


組織文化の大家エドガーH.シャインは、「リーダーが行う真に重要な唯一の仕事は、文化を創造し管理すること。リーダーとしての独自の資質は、文化を操作する能力」と述べています。そのシャインは、組織文化には3つのレベルがあるといっています。

レベル1. 人工の産物

レベル2. 公然と表明している信条と価値観

レベル3. 共有された暗黙の前提認識

レベル1の人工の産物には、目に見えるものと、観察された行動で構成されているものがあります。前者には物理的環境である建物であったり、服装、言語、組織構造などが含まれます。後者には、仕事の仕方など代表的なものといえるでしょう。

たとえば、組織Aのオフィスには仕切り壁がなく、開放的な雰囲気が漂っていて、そこで働く従業員は、熱気に満ち、少し騒がしいが、臨機応変に物事に向き合い、素早く処理していく。一方で、組織Bのオフィスは、部屋が細かく壁で仕切られていて、リーダーが着席している部屋の扉はいつも閉じられたまま。そこでの従業員は、物静かで、何事に対しても時間をかけて慎重に検討し、決められた手順を重視するといった感じです。こういったことは、少し観察をすれば知ることができますが、それは表面的なものといえ、これをもって組織文化を理解したとはいえません。


レベル2の公然と表明している信条と価値観は、組織が考える理想の姿とか願望などが対象になります。たとえば、組織Aでは、チームワークを大切にしているため、何を決めるにしても、全員の意見を聞き、皆が納得するまで話し合う。組織Bは、何か決める時には、リーダーが各人個別にヒアリングし、全員の意見や考えが一致せずとも、最後はリーダーが判断して、皆にフィードバックする。

コミュニケーションについては、どちらの組織も重視していることが窺い知れますが、AのほうがBより重視しているとは必ずしもいえないでしょう。何故なら、Bは各人のプライバシーを大切にし、且つ各人が使える自由な時間に、ヒアリング内容を事前にじっくり考える機会が与えられている。しかも全員が一同に介して話し合うことはスケジュール上難しいため、個別に打合せをして、各人の作業効率を妨げないにしているといったようなことが推察できるからです。ですが、仮に組織Cが、Bと同じようなステップで進めるものの、リーダーが下した判断について、フィードバックをしていなければ、それはコミュニケーションを重視しているとはいえないでしょう。

信条や価値観は、組織・会社によって、部屋に掲示されていたり、印刷物にしていたりすることがよくあります。仮に、AとBいずれのパンフレットにも、当社はコミュニケーションを大切にして、チームで仕事をしていますなどと書かれてあったとしたら、どうでしょうか(よくあることだと思います)。表明している信条や価値観は、両組織似通っているにも関わらず、仕事のスタイルや物理的環境である人工の産物は、明らかに異なります。つまり、このレベル2よりもさらに深く掘り下げたところでなければ、組織文化を正しく理解できないということになります。


レベル3の共有された暗黙の前提認識については、シャインは組織の歴史を考慮しなければいけないとしています。というのも、組織集団が繁栄を続けていく過程において、獲得されてきた価値観や考え方、行動の仕方といったものが、共有され当然視されるようになっていくからです。典型的な例では、強い信条を掲げる創業者の考えや意向に沿うことができない組織は消えていくといったことが挙げられます。また、その創業者が独自のやり方で大成功をおさめたとして、それが自社にとって成功するための唯一の方法だと創業者が信じ込むようになり、それを奨励する。周囲の者もそれが成功の鍵だと理解し、また、組織内でうまくやっていきたいと思い、時には盲目的にそれに従うことで、会社の業績を上げることができたならば、それはまさに暗黙の前提認識になっていくでしょう。


以上から、組織文化の本質にあるものは、時間をかけて学習され共有されてきた暗黙の前提認識であり、それは組織の底流にあるといえます。組織の構成要員である各従業員は、その前提認識をもとに日々、組織でのやり方を実践しているといっていいでしょう。

このように、組織文化は多重構造です。あまりにも単純化して、社内や社外に対してアピールしたり、表層的に活用するといったことは、重要な側面を見落としてしまうばかりでなく、特にサービス企業にとっては、信用を大きく傷つけかねないリスクをはらんでいます。

何故ならば、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったサービスの特性(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)ゆえに、サービスのパフォーマンスは、現場で働く従業員のスキルや裁量、取組み姿勢といったものに、大なり小なり左右されてしまいます。

サービス基準やマニュアルがある場合が多かったとしても、実際の現場で、サービスの活動内容を詳細に決めるのは、経験や考え方、受けた教育などが蓄積されて出来上がってきた現場従業員の内的な基準だからです。この点においてこそ、ものづくり企業以上に、サービス企業、なかでも労働集約的なサービス生産を行う企業は、組織文化の重要性を正しく理解し、適切に活用しなければなりません。

繰り返しとなりますが、内的基準に大きな影響を与えるのが組織文化であり、特にレベル3の共有された暗黙の前提認識については、慎重に考察することが必要です。事業会社に約10年在籍した当事者としての経験に加え、ビジネスコンサルティングサービスを様々なクライアント企業に提供してきたコンサルタントとしての経験から、組織文化の重要性と、また、その恐ろしさを実感しています。


7/01/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ④組織的なコミュニケーション

前回のSMMブログでは、サービス企業における大きな5つの論点の三つめ「サービスデリバリのギャップは何か?」について述べました。今回は、四つめの組織的なコミュニケーションについて考えたいと思います

はじめに、サービス企業のコミュニケーションを、何故、SMM(サービスマーケティングマネジメント)の大きな論点として取り上げたのかというと、それはマーケティングという組織こそが、企業内部のあらゆる組織と接点を持つからであり、且つ社外に対してはマーケティングコミュニケーションという役割を担っているからです。

論点①5つの大論点と顧客期待の理解でも述べましたが、サービス活動全体の良し悪しは、サービス品質で決まります。サービス活動全体を俯瞰できる業務を担っている組織が、マーケティングです。というのもマーケティングは、顧客の行動を観察し、顧客ニーズを踏まえたサービスコンセプトを策定して、現場でそれを擦り合わせ、マーケティングミックスを練り、サービスを利用した顧客の満足度を評価して、フィードバックする。こういったサービス活動全般に関係する組織が、マーケティングだからです。


さて、わたしたちはもう何年、何十年もの間、戦略が重要だ、ブルーオーシャンを見つけろなどといわれ続けてきました。ですが、そう簡単にブルーオーシャンを見つけることなどできないとわかり、かといって何もしないわけにもいかないので、結局は他社がやっていることを単に真似たり、コスト削減に走るといったことを繰り返してきたといえるでしょう。そして、ここに至っては、空前の物価高と企業への賃上げ要請で、大企業ならまだしも、大半の中堅中小企業の経営は、ますます容易ならざるものになっています。ものづくり企業もそうですが、多くのサービス企業は尚更厳しさを増しているように感じます。 

サービス企業こそ、現場が全てです。企業が提供するサービスには、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といった特性ゆえ(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)、このように断定できるでしょう。

本社、本部で策定した事業戦略を、現場で実行して、企業の狙いやゴールを実現させていく。戦略とはゴールを達成するために、競争優位を発揮できるものを整合的に束ねた打ち手のまとまりのことで、謂わばゴール達成のための仮説の束ともいえます。

仮説は、検証してはじめて、その良否や有効性がわかります。サービス企業の場合は、サービス5つの特性ゆえに、現場での仮説検証と、その後の本社・本部へのフィードバックが必要不可欠です。仮説に間違いがあれば、それを正し、次は精度の高い仮説が立てられるようにしていく、そういうことを繰り返し続けることが必要です。フィードバックを円滑に行うためには、コミュニケーションを継続的に皆が行うこと、仕組みとして、つまり組織的に行うことが何より重要です。さもなくば、サービス企業の場合は、戦略は絵に描いた餅となり、使えないものになってしまいます。


コミュニケーションを組織的に行っているか?

コミュニケーションを組織的に行っていない企業は多数存在します。一人ひとりの従業員はいい人であっても、同じ組織内で、Aさんは顧客の期待と満足をしっかり把握し、上長や本部へフィードバックを適切に行っているのに対し、Bさんはそういったことが殆どできていないとか、M組織は経営トップのビジョンやメッセージ、方針を共有して速やかに実行しているにも関わらず、N組織は情報共有や伝達が不十分というのは、よくあることです。 日本人ばかりの現場でも、こういったことは珍しくありません。ましてや、いろいろな外国から来ている人がいる現場では尚更のことです。

コミュニケーションが停滞したり、組織的なコミュニケーションができない理由には、以下のような4つのものが考えられます。それぞれにおいて、よくある現象を併せて記述します。

省察の場の不足(現場) 

職場での悩みを上司や同僚に相談できず、ひとりで抱え込む。 

上司との対話は成立せず、一方的な指示や伝達に終始する傾向が高い。 

部下の意見や改善提案などは軽視され、検討過程は不透明なまま、YesかNoの回答があるだけ。

業務支援の場の不足 (現場と本社/本部)

会社全体の方向や各支社/支店/営業所/施設内での事案に関する情報が伝達されない。たとえば、成功/不成功といったケースは共有されず、同じような現象が各現場で発生している。 

業務実態などに対する現場と本社/本部との認識のズレが大きく、調整機能も不在のまま(そもそも本社/本部が業務や課題などを詳細に把握していない)。

仕組みづくりの場の不足(本社/本部) 

会社全体の戦略が明確とはいえず、業務支援の場も不足しているため、結果的に本社/本部内の経営陣や執行役員、スタッフは具体的なアクションに落せない状況が発生している。 

そもそも仕組みづくりは、現場主導、或いは現場単体で行うべきものと本部/本社が考えている。

多様な出会いの場の不足(現場間) 

自身の業務やごく近しい職域についてのみしか情報を得ることができず、同僚や他組織のタスクや業務全般の情報に接する機会が殆どない。 

新たな発想や気づきを得る機会が乏しく、時代の空気や世の中の感覚とのズレが生じている。

  

こういった問題は、一朝一夕に解決することは無理ですが、時間をかけて体系立てて組織的に取り組めば、必ず解決することができます。

対外的には、どうでしょうか。サービス企業のマーケティングは、顧客に対して自社が果たす約束を提示します。それは、ホームページ、プレスリリースや広告宣伝、自社と仲介企業の営業パーソン、自社施設内のカタログやパンフレットなどをとおして行われます。口頭や文字などの視覚によるワンウェイコミュニケーションは、顧客の期待を高めることにつながります。 

顧客に示した約束と、顧客が抱く期待との間で不一致が起これば、 問題が発生します。こういった問題は、上述のものに加えて、不明瞭なサービスコンセプトや、十分に整っていないサービスデリバリ・システムに起因します。 

従業員と顧客、従業員同士、従業員と経営陣、そういった人と人との関係、人と人の間の相互作用を円滑にするには、その「場」におけるコミュニケーションが鍵となることは明白です。

企業はゴーイングコンサーン、これを前提にすれば、企業のコミュニケーションは組織的に行うことが必要です。コミュニケーションを組織的に行うためには、プロセスを中心とした場の目に見えない仕組みを構築すること、そしてそれを回し続けながら、仕組みの精度を上げていくことに尽きるといえるでしょう。

 

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5

マーケティングミックス2つめのP、価格についての5回めです。 前回は先発企業の差別化プライシングについて述べました( 価格 その4 ) 。 今回は、同じく先発企業の競争的プライシングと製品ラインプライシングについてです。 競争的 プライシング と、3つの消費者特性(差別化プライシ...