2/09/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその5

前回(プロモーションその4)は、マーケティングコミュニケーションのマクロモデルと、知覚の3タイプ(選択的注意、選択的歪曲、選択的記憶)について述べました。知覚は消費者心理のひとつですが、ほかに、動機、学習、記憶があります。マーケティングプロモーションにおけるコミュニケーションの開発とそのながれについて検討していく前に、はじめに消費者心理について、簡単に触れておきたいと思います


消費者心理のながれは、最初が「動機」、次に「知覚」、その後に「学習」、最後が「記憶」です。動機は、人が持つ数あるニーズの中で、実際の行動を起こすレベルに達したものを指します。学習は、知識の習得など、様々な経験をとおして、行動が変化する過程のことをいいます。記憶は、脳に蓄積された過去の経験や情報を思い出すことです。消費者心理のながれをとおして、人は行動や学習によって、信念や態度を形成していくことがわかります。このように、消費者の行動というのは、多くのこと(4つの消費者心理と、文化的・社会的・個人的な消費者特性)から影響を受けることになります


それではここから、人がプロダクトを購入しようとする時、どのようにして決定するのかを見ていきます。

購買者の意思決定プロセスには、一般的にいえば5つの段階があるといわれています。「問題認識(または、ニーズ認識)」→「情報探索」→「代替品の評価」→「購買決定」→「購買後の行動」です。

但し全ての消費者が、プロダクト購入時に、必ずこのながれに従うというわけではありません。たとえば、いつもこだわって買っているポン酢があるとすれば、その場合は問題認識から一気に購買決定へと進むでしょう。ただ通常、この5段階はプロダクトに対して高い関与を持つ場合の全ての動きをおさえていると言われています。


購買プロセスは、問題やニーズを認識した時が起点となります。この時点で、消費者は、自分のおかれている状況と、望んでいる状況との違いを感じるということになります。なおこの「問題認識」には、空腹や眠気といったような自身の内的刺激と、人によりますが、たとえば映画を観て俳優が着こなすコートが欲しくなったり、知人が乗っているスポーツカーを羨ましいと感じたりするといった外的刺激の2種類があるとされています。

内的と外的に違いはありますが、どちらも問題認識が購買意欲を喚起するきっかけになる点で共通しています。この段階では、マーケティング/ブランド担当者は、どういう問題やニーズが起こっているのか、それらが生まれた背景にはどういったものがあるのかということを、仮説をもって調査を行い、明らかにする必要があります。こういう調査をとおして(仮説を検証する調査を行うことで)、自社プロダクトの購買/利用に対する消費者の動機を高められるマーケティング戦略を展開できるようになります。


2番めの「情報探索」では、問題やニーズを感じた消費者が、自ら情報を集める段階です。問題があっても、探索を一切しない人もいるでしょうが、ここでは通常、人は問題解決に向けたアクションである情報探索を行うことを前提として進めます。コトラーとケラーは、消費者の情報源には、個人的情報源、商業的情報源、公共的情報源、経験的情報源という4つに分類されると言っています。

以前は、マーケティング/ブランド担当者がコントロールできるものは商業的情報源であり、消費者の情報探索として最も効果的なものが家族、友人、隣人などの個人的情報源であると言われていました。今日、この個人的情報源に、見ず知らずの人のネット上の口コミを含めるとすれば、それは20世紀の個人的情報源とは、まったく質が異なるものになったといえるでしょう。

口コミを十羽一絡げに捉えるのはよくないにしても、それでも商業的な側面を否定することはできず、仮に口コミを商業的情報源に加えるとすれば、広告、ウェブサイト、販売員、ディスプレイなどを含めた商業的情報源が、現在では最も大きな情報源になるといえるでしょう。そう考えると、自社がターゲットにする消費者が重視する情報源が何で、何故それを重視しているのかを、予め把握しておくことが欠かせません。


3番めの「代替品の評価」は、消費者が情報を探索して選択した幾つかのプロダクトを評価する段階です。ここでのマーケティング/ブランド担当者にとっての問題は、評価の仕方は消費者ごとに異なることと、同じ消費者であってもプロダクトによって評価の仕方が変わってくるということです。そこで、我々が最低限気をつけなければならないことは、消費者の問題認識またはニーズ(購買者の意思決定プロセスの一番最初の段階)が、そもそもどういったものなのかを把握しておくことが不可欠であるということになります。

つまり、プロダクトの属性の一つまたはそれ以上の集まりがベネフィットを提供するという考え方に基づけば、どういったベネフィットを備えているプロダクトが評価対象になっているのかを、我々は調査しなければならないということになります。

ただ、ここで網羅的に属性やベネフィットを調べるというのは、あまり現実的とはいえないでしょう。というのも、消費者の多くはそもそも移り気です。仮にあれこれ考えたとしても、賢明な人は、結局、最も強い問題認識(またはニーズ)を解決しようとして、ひとつ(くらいのもの)に集中して評価する傾向があると、筆者は考えるからです。実際、多くの属性やベネフィットを訴求できたとしても、消費者に記憶されることは難しいからです。(属性とベネフィットについては、ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法v a-b-eモデルその1ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1)


次回は、「購買決定」から始めたいと思います。


2/02/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその4

前回までは、プロモーションミックスの5つの要素(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1その2)と、効果的なコミュニケーションを行う上でのおさえるべき事柄(その3)について概説しました。今回からは、幾つかのプロモーションを組み合せたコミュニケーションの開発とながれについて述べていきたいと思います。


開発とながれを検討する前に、コミュニケーションを構成する基本的な要素について、はじめに明らかにしておいた方がいいでしょう。フィリップ・コトラーとケビン・レーンケラーは共著『マーケティングマネジメント第12版』で、コミュニケーションプロセスのマクロモデルにおける要素を、以下のように9つ挙げています。

マクロモデルのフローは、発信者→エンコーディング→メッセージと媒体→デコーディング→受信者→反応→フィードバック→発信者、というサイクルです。


発信者とは、受信者にメッセージを送る者を指し、ビジネスの場合は多くが企業になります。受信者は、発信者から送られてきたメッセージを受け取る者で、消費者であったり、法人の顧客にあたります。

メッセージは、発信者が受信者に送る表現形態であり、企業のロゴやシンボルマークなども含まれます。メディアは、コミュニケーション媒体のことをいい、コミュニケーションツールであり、紙の雑誌やデジタルカタログなども含みます。

エンコーディングとは、データを一定の規則に基づいて目的の情報に変換する符号化のことで、発信者の思考を表現形態に変換する過程を表します。デコーディングは符号化された情報を元の状態に戻す処理のことをいい、受信者が言葉や絵などの表現形態を理解する過程を表します。

反応は、受信者が表現形態を理解した後に示す反応のことで、好きや嫌い、賛同や拒絶などで、その結果としてプロダクトを購入/利用したり、また、何もしないといったことを含みます。なお、表現をそもそも理解することができないといったことも、反応にあてはまります。

フィードバックは、受信者が受け取ったことについての反応を発信者に伝達するものを表します。

9つめのノイズというのは、発信者が意図したものとは異なるかたちで受信者にメッセージが伝達されてしまうような現象や、コミュニケーションを妨害するおそれのあるランダムな(規則性のない)主張であったり、競合他社のメッセージなどを指します。つまり、媒体や反応などに影響を与えるもののことをいいます。


このマクロモデルは、発信者がターゲットにする受信者に対して、どのような媒体をとおして、メッセージを伝達するのか、そのメッセージは受信者が理解できる内容に編集されているのか、また、その反応を得られるようにコミュニケーションのフィードバックチャネルは作られているのか、といったことなどを取り上げています。


ところで、マーケティングでは現実よりも知覚のほうが重要であるとコトラーとケラーは述べています。コトラーは、知覚とは、情報を選択、整理、解釈し、何らかの意味ある世界観を形成するプロセスだと説いています。


ここで重要な点は、同じ現実に対しても、人によって知覚は様々だということです。それ故、人がどのように行動するかは、現実をどのように知覚するかによって決まるということになります。このように、知覚は人の行動に影響を与えるため、マーケティングでは、知覚の方が現実よりも重要であるということになります。


この知覚には、選択的注意選択的歪曲選択的記憶という3つのタイプがあるとコトラーは述べています。


選択的注意というのは、日々膨大な量の情報を受け取る消費者(または法人企業の担当者)は、その全てに注意を払うことができないため、その多くを意識的、無意識的に除外している行為のことをいいます。このため、マーケティング/ブランド担当者は、人々の注意をひくことに、相当な注意を払う必要があります。

どういった情報や刺激に、人が最も反応するかということについては、コトラーとケラーは、「人は現在のニーズに関係のある刺激に反応する傾向がある」、「人は予想していた刺激に反応する傾向がある」、「人は通常よりも刺激の強いものに反応する傾向がある」の3つを挙げています。

なおここで言われている刺激とは、大別すれば2つあります。ひとつにはマーケティングによる刺激で、プロダクト・プライス・プレイス・プロモーションの4Pです。もうひとつは、その他の刺激として、経済的・技術的・政治的・文化的というものです。


選択的歪曲とは、受け取った情報や刺激を、受け手が自分に都合の良いように解釈することをいいます。これには先入観や思い込み、固定観念、プロダクトやその作り手またはその提供者に対して抱いているイメージなどであって、人は自分に合うように情報を歪曲するというものです。

この選択的歪曲は、強いブランドを持つ企業にとっては、消費者が好意的に情報を捉えてくれるため、有利に働くとされています。そのため、さしておいしくもないものをおいしいと感じたり、性能が凡庸な製品であっても、強いブランドを表すロゴがついているだけで、高性能だと捉えてしまうといったことが代表例として挙げられます。

つまるところ、人はいかにバイアスで物事を捉えているかということになってきますが、マーケティングを超えて、ビジネス全般のことでいえば、こういった現象は、認知バイアスと呼ばれています。認知バイパスとは、自身の経験による固定概念や先入観、思い込みなどによって、認識が偏って、合理的に行われなくなる心理現象のことをいいます(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠ii)。


選択的記憶とは、人は多くのことを忘れるが、自分の態度や信念を裏付けてくれる情報は記憶している傾向があるということを表します。この選択的記憶も、選択的歪曲同様に、強いブランドには有利に働きます。お気に入りのプロダクトの良い点はしっかり記憶している一方で、競合するプロダクトの長所は忘れてしまうといったことなどが挙げられます。このため、ターゲットオーディエンスの記憶に留まるために、メッセージは何度も何度も発信する必要があるということになります。

以上述べてきた知覚は、マーケティング上、消費者心理の1つの要素として数えられています。ほかの消費者心理である動機、学習、記憶については、次回で簡単に触れることにしたいと思います。


1/26/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその3

ここまでは、プロモーションミックスの5つの要素について述べてきました(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1その2)。今回は、幾つかのプロモーションを組み合せて、効果的なコミュニケーションを行っていく上で、前提としておさえておくべき事柄について述べてみたいと思います。


広告をはじめとしたマーケティングコミュニケーションの目的は、自社のプロダクトを買ってもらえるように、買い手(消費者、法人企業)に良い影響を与えることです。それぞれのコミュニケーションを的確に機能させ、良い影響を与えられるようにするためには、買い手の購買/利用行動(以下「購買行動」)に与える要因を、把握しておくことが必要です。

購買行動に影響を与える要因には、①購買者の背景と役割②購買者の経験③購買者の情報源の3つがあります。


①は、購買者の地理的、社会的、文化的、個人的といった背景がどのようなもので、どういった役割でプロダクトを購入しようとしているのかということです。

地理的というのは、日本の場合であれば、たとえば関東と関西、もっと絞り込めば東京と大阪では、行動様式や話のすすめ方などが大きく違います(筆者は大阪出身で東京に長く暮らしたため、そのあたりのことが皮膚感覚としてよくわかります)。大阪のほうが東京よりも、より直裁的、実利的に話をする傾向が高いといえますし、そもそも大阪人には今でも話好きの人がたくさんいます。また、最近では外国人が増えてきているため、宗教的・人種的という要素も考慮すべきでしょう。

役割というのは、自分のために買うのか、家族や第三者のために買うのかということです。これに加えて、同じ自分のためであっても、プライベートなのか、或いは仕事でなのかということも把握しておく必要があるでしょう。たとえば新幹線に乗る時、仕事であればグリーン、プライベートなら一般車両という人は少なくありません。

②の購買者の経験については、おそらく最もわかりやすい例のひとつとして、自動車の購入が挙げられます。はじめて車を購入する人と、何度も買い替えている人では、車に対する経験値が全く異なるため、車の購入にあたって、車の性能は勿論のこと、ディーラーに対して要求するサービスレベルも自ずと変わってきます。最寄り品の食品についても、家族に愛情を込めたおいしい家庭料理に作りたいと思っている人と、料理にはできる限り手間をかけずにできれば出来合いのもので済ませたいと思っている人とでは、全く違うのは明らかです。

③の購買者の情報源については、広告、SP、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングといったプロモーションミックスのような商業的情報源のほかにも、格付け機関のような(本来は?)半ば公的な情報源、家族や友人・知人などの人的情報源、また自身の購買等の経験で得た情報源などが挙げられます。このように見ると、プロモーションミックスに代表される商業的情報源が、必ずしも買い手に大きな影響を与えているとはいえないことがわかります。

SNSなどの口コミは、人的情報源のようなものといって差し支えないでしょうが、現在の口コミにみられるようなウソや欺瞞に満ちた状態、或いは特定者を攻撃するためにSNSが使われているような状況では、良識ある買い手は何を参考にすればいいのかわからなくなってしまったというのが実情で、それは売り手にとっても同じようなことでしょう。そう考えると、購買行動に影響を与える3つの要因のうち、①の購買者の背景と役割をしっかり把握し、②の購買者の経験を見極めることが、これまで以上に、売り手、買い手双方にとって、ますます重要なことになってきているといえます。


以上を踏まえつつ、マーケティングコミュニケーションをうまく機能させるには、購買者の意思決定における関与の仕方と、重視するベネフィットのタイプを見定めることです。


関与については、意思決定に要する時間や労力、関係する人の数と関わってきます。関与が、ルーチン的な問題解決にあたるものなのか、或いは広範囲に及ぶ問題解決なのかによって、違いが生まれるのは明らかです。前者であれば、たとえば1週間の食事の献立を考えて買物リストを作ること、後者であれば典型的なものとして住宅購入の検討が挙げられます。

ルーチン的な関与に対するコミュニケーションは、相対的にいえば既存顧客の維持が主たる目的になるでしょう。継続的なコミュニケーションにより、商品が繰り返し購入される可能性が高まります。コミュニケーションが途切れれば、顧客は当該商品を思い起こすことなく、他の商品を購入してしまうかもしれません。

広範囲に及ぶ関与に対するコミュニケーションでは、買い手に新商品を認知させ、商品の特性を理解してもらうことで購買につなげていくことが主な目的となります。謂わば買い手の購買を支援する学習プロセスのような働きを、コミュニケーションが担う役割になるといえるでしょう。


ベネフィットについては、買い手が最も重視しているものが何かを見極めることです。それは機能性なのか、情緒的なものなのか、或いは自己を表現できるものなのかといったことです(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。


ルーチン的な問題解決にあたる関与では、日常的な購買行動に該当することが多くなることから、一般的に言えば、機能的ベネフィットが最も重視されるといえるでしょう。仮に、日常的な購買行動のなかで、情緒的ベネフィット、または自己表現ベネフィットが重視される場合は、衝動的な買い方が行われる時で、これには商品に関する表現やメッセージが大きな役割を果たします。

一例として、ぶどうを絞った天然100%のグレープジュースは、飲みやすく(体に吸収しやすい)、カリウムを多く含んでいるため、高血圧予防によいとされています。ナトリウムを排出して、体内の塩分を調整することから、血圧を安定させるためですが、ほかにも、ポリフェノールを含んでいるため抗酸化作用(アンチエイジング)も期待されているのはよく知られているところです。また、ポリフェノール成分の一種であるアントシアニンも含んでいることから、最近ではスマホ疲れなど、眼精疲労の回復にも役立つことなどから、シニアから若者まで、幅広い人気があります。

上記文字のグレープカラーのところが、機能的ベネフィットに該当しますが、これを情緒的ベネフィットに変換すると、もっと健康的で、若々しい自分になれるというような表現ができると思います。これを自己表現ベネフィットに押し上げると、人それぞれかとは思いますが、自分らしくいられるとか、自分の理想に近づけるといった言い回しになるのではないでしょうか。仕事にたとえれば、幾つになっても、フットワークよく、効率的で、スマートなビジネスパーソンになれるなどといえるのかもしれません(R&Dと組織横断活動型活動(1)はじめに③)。


広範囲に及ぶ問題解決にあたる関与では、3つのベネフィットどれもが該当しますが、おそらく買い手が最も重視するのは、結果として、自己表現ベネフィットになると筆者は思います。高額品であればあるほど、その傾向は高まります。たとえば、住宅であれば、通常注文住宅が最も高額になります。買い手が仮に機能性を重視し追求していった結果が、その人のスタイル、つまり自己表現として、注文住宅が出来上がることになるからと言えるからです。

次回は、効果的なコミュニケーションの開発とながれについて考えていきたいと思います。


1/19/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその2

前回(プロモーションの1回め)は、広告と販売促進(SP)について述べました。今回は、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングについてです。


PR(Public Relations)は、通常はマーケティング部門に属さない機能で、日本語では一般的に、広報と訳されます(厳密にいえばPRと広報は目的や役割が少し異なります)。SNSが普及した今日、情報は双方向から多方向、多次元化しており、PRや広報を介しての包括的コミュニケーションの重要性が一段と増しています。

プロダクトや企業に対して好感を持ってもらったり、魅力を感じてもらうためには、優れたアイデアを生みだし、他者と的確にコミュニケーションができるビジネスパーソンが、これまで以上に求められているのは間違いありません。このようなことから、PRは今日では、プロモーション・ミックスというよりは、コミュニケーションミックスとして捉えたほうが適切でしょう。


人的販売は、メーカーなどのセールスパーソンや、小売業などの販売員などを指します。業種・業態によって、人的販売のやり方は異なりますが、営業/販売機会を把握し、その確度を評価して、事前準備をしながら、説明やデモなどで消費者(または法人企業担当者)に対応します。販売/成約、売り逃し/不成立、必要に応じてフォローアップというながれは、業種・業態を問わず、およそ共通しているものといえるでしょう。

ところで、商品をとおして人的販売を考えると、低価格のものは手間をかける必要はなく(営業/販売の活動量が少ない)、高価格のものは活動量が増えるということは必ずしも言えないことがわかります。というのも、相対的にいえば、高価格帯の商品ほど差別化しやすく、最寄り品のような低価格商品群については差別化が容易ではないという前提にたてば、差別化が難しいからこそ、人的販売で商品特性についてしっかり説明をしていく必要があるためといえるからです。

また、販売コストの観点からも、予め差別化がはっきりと出来ている商品に対しては、商品機能の専門的な説明を行う必要がある場合を除いて、活動をおもいきって減らすことができるとも言えるでしょう。なお人的販売については、プロモーションミックスの1つの要素として述べるには、あまりにも大きなトピックのため、別の機会で行いたいと思います。


ダイレクトマーケティングは、企業が消費者に直接つながるチャネルを利用してプロダクトを提供するマーケティング手法のことで、所謂D2C(Direct to Consumer)と呼ばれるものの1つです。これには、ECサイトをはじめ、eメール、ダイレクトメール、テレマーケティング、カタログ通販、TVショッピングチャネルなどが含まれます。

近年のファンマーケティングも、ダイレクトマーケティングの一種といっていいでしょう(但し、ファン同士がオンライン上で交流する場合のファンコミュニティは、企業が直接関わらない場合もあるため、ダイレクトマーケティングにはなりません)。

ダイレクトマーケティングの利点には、メッセージを消費者に合わせてカスタマイズしやすいこと、そのメッセージは即時的に伝達でき且つ相手の反応に合わせてアップデートできることなどが挙げられます。

ところで、千趣会やニッセンなどのカタログ通販の業績低迷が、10年ほど前から言われています。業績不振に陥った理由が、インターネットへの進出が遅れたためという論調をよく見かけます。一つの理由であることは間違いないでしょうが、それよりも取扱商品の内容や構成、その見せ方や顧客との接し方などが不振の根本原因ではないのかと思うのは、筆者だけではないでしょう。

ダイレクトマーケティングは、顧客との長期にわたる関係を築く上では、非常に優れたマーケティング手法です。営業パーソンを多数抱える費用は非常に高く、昨今の給与の上昇を考えると、ダイレクトマーケティングをもっと活用できないものかなどと筆者は思ってしまいます。業績が低迷している上記のような企業は、顧客の成長と共に、自らも大いに学習すれば、もっと成長できたのではないかと思えてしまい、残念な気持ちになってしまいます。


ここまでプロモーションミックス(広告、販売促進、PR、人的販売、ダイレクトマーケティング)のそれぞれについて見てきましたが、これらのプロモーションの組み合わせは、どのように決めればいいのでしょうか。次回は、プロモーションミックスをベースにして、効果的なコミュニケーションのあり方を考えてみたいと思います。


1/13/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1

マーケティングミックス4つめのP、プロモーションについてです。

プロモーションは、ブランディング (7)マーケティングミックス① 4P概論でも触れましたが、単なる販促と狭義に捉えるのではなく、プロダクトのメッセージをターゲット顧客に伝える全てのコミュニケーション手段として考えることが必要です。そのためには、広告セールスプロモーション(販売促進)PR、人的販売ダイレクトマーケティングという5つの要素を組合せたプロモーションミックスを効果的に行い、相乗効果を発揮させなければならないと、フィリップ・コトラーは『コトラーの戦略的マーケティング』のなかで述べています。


広告は、電波媒体(テレビ、ラジオ)、インターネット媒体/Webメディア(ニュースサイト、SNS、グーグル検索エンジン、企業サイト、ブログ等)、デジタル媒体(デジタルサイネージ等のディスプレイ、DVD/ブルーレイ、CD等)、紙媒体(雑誌、新聞、カタログ・チラシ等の冊子、ポスター、名簿等)の4つに大別できます。なお、媒体はメディアともいわれ、情報を対象者に伝達する手段の総称です。

20世紀の主力媒体は、誰もが知るように電波、特にテレビ広告でした。テレビ広告は、広く一般的に知ってもらうにはよい手段でしたが、ターゲットグループのみに訴えかけるということは通常できません。また、広告をしたからといって、大半のケースではすぐに売上げに直結するということもありません。デジタル媒体や紙媒体も、広告である限り、およそ同じようなものだといえるでしょう。

インターネット媒体については、電波媒体などと違って、ターゲット層にアプローチしやすく、費用が比較的安価で効果も得やすい上、データ分析も容易だといわれています。ただ、今日のような情報が氾濫している状況で相応の効果を得るのは、それほど簡単なことではないでしょう。一過性で終わらせずに続けられるかどうか。SNS上での話題づくりに成功して、一時的に売上げを上げることができたとしても、持続的な事業成長につなげられるかは、また別の問題です。プロダクトの購入/利用前に、ファンになってもらったとしても、継続してファンの期待値を超える、またはコントロールすることができるかどうかは、非常に難しい問題です。


セールスプロモーション(SP)は、広告と違い、消費者に直接的な行動を促すため、即時的な効果が見込めます。けれども消費者向けのSP、特売をいつも行っていると、通常価格と割引価格の違いが消費者には分からなくなるのは当然です。その結果、消費者はいつでも安い価格で商品が購入できると期待するようになります。そのためどのような消費者を相手にすれば、SPの効果をより高くできるのか、慎重に検討しなければなりません。

ここで重要になるのが、参照価格(ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その11)と商品カテゴリーの関係です。ターゲット消費者の当該商品カテゴリーにおける購入サイクルを把握することが必要になります。仮に購入頻度が2ヵ月ごとであれば、毎週のようにSPをやっても効果は得られないばかりか、参照価格の低下を招くことになり、まったくの逆効果になってしまいます。通常、小売店舗内のSPは、ブランドスイッチを頻繁に行う消費者には大きな効果が見込めるため、店内チラシにクーポン付きで載せるなど、ターゲットを絞った工夫が必要です。

小売流通業向けのSP、所謂拡販費・協賛金の効果については、筆者が知る限り半世紀近く前からある懸案事項です。拡販費を投入すれば短期間で売上げを上げることはできますが、あくまでも期間限定の取組みに過ぎません。大事なことは、製販共に年間とおして安定的に売上げを確保することです。そうするためにはプロモーション全体におけるSPの割合は低めにおさえるべきで、価格が予め設定した価格帯の下限値を下回ることがあってはなりません。


ところで、広告及びSPと価格の関係はどのように捉えればいいのでしょうか。四半世紀以上前から米国を中心とした研究でよく知られていることは、比較的安価な消費財製品、たとえば食品関係であれば、量販店やコンビニなどで売られている即席麺や菓子類、冷凍食品、清涼飲料水やビールなどのアルコール類といった高頻度で購入されるもの、所謂最寄り品(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3)は、広告によって販売数量が増えるということです。つまり、広告が商品の需要における価格弾力性を大きくしているということです。

従って、シンプルに考えれば、広告を増やすことで、低価格商品の販売量は増やすことができるということになります。考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、高価格帯の商品であれば試し買いというのはなかなか難しい一方で、低価格帯のものであれば試してみるというのは十分ありえるからです。

そうなると、最寄り品については広告をすることを前提に、SPをいつ頃、どれくらいの頻度で、どういったチャネルを使って、どのように提供していくのかということが、買回り品や専門品以上に、重要になってくるといえるでしょう。但し、最寄り品とはいえ、明らかに他の商品とは異なり、差別化が効いたものであれば、広告をそれほど打たなくても、SPをうまくやるだけで販売量を増やせるかもしれません。というのも、明確に差別化された商品というのは、広告をたくさん出して、他商品との違いをあえて訴求する必要はないといえるからです。成熟しきったような商品カテゴリーでは、決して容易なことではありませんが、不可能なことではないと思います。

次回は、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングについてです。


12/15/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその5

前回(プレイスその4)の続きで、今回もチャネルを中心とした産業構造のレイヤー化についてです。はじめに、あらためてレイヤー構造化の定義をしておきたいと思います。

レイヤーとは、層や階層を表す言葉です。ビジネスにおけるレイヤー構造とは、ビジネスの要素であるデータや情報、プロダクト(製品、サービス)が層の如く重なり合うようにしてできあがっている状態のこと、また、それぞれを連携させる仕組みやシステムのことを指しています。端的な例が、スマートフォンやタブレット端末、パソコンです。


通常、産業におけるレイヤー構造化の意味合いは、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができるということです。

消費者を対象にしたビジネスでは、消費者がプロダクトを、直接、自由に組み合わせて選択し、購入することができるという点に大きな特徴があります。


産業構造を分析するフレームワークとして有名なバリューチェーン(従来型の単層的なバリューチェーン)とレイヤー構造化されたチェーンを、消費者視点で比較すれば、次のような違いがあります。

単層的なバリューチェーンの場合、消費者はバリューチェーンの最後に位置する企業からプロダクトを購入(または利用)します。一般的にいえば、食品であればスーパーやGMS、CVS、または百貨店などから、アパレルであれば左記にあるようなチャネルに加え、専門店などで買うことも多いでしょう。家電製品であれば家電量販店からというのが多くなるでしょう。車は自動車のディーラーからといった具合です。

消費者は、バリューチェーンの最終段階にある販売または営業、つまり店舗(リアル、ネット)以外、たとえば開発や製造、或いは物流といったチェーンの途中の段階から、購入することは通常できません。消費者にとってのチャネルは、最終段階にある販売(営業)チャネルしかありません。


一方、レイヤー構造化されたチェーンであれば、消費者はチェーンの途中段階にあるプロダクト、謂わば中間製品とでも呼べるものを直接選択して購入することが可能です。販売(営業)チャネルは、チェーンの最終段階だけでなく、中間の段階にも存在しています。

スマホ、タブレット、PCなどが代表例になりますが、ゲーム、音楽、映像、書籍や雑誌の記事、印刷物、自動車、電力なども該当します。レイヤーの構造は、ハードウェア、OS、アプリケーション、通信ネットワーク、IoTデバイス、データ蓄積などになります。各レイヤーが束ねられたレイヤー構造とは、消費者に対する選択肢、或いは消費者にとってのソリューションを提供する階層で構成されていると捉えることができます。

ところで余談になりますが、レイヤー構造化が良いか悪いかというのは、また別の話です。筆者からすれば、たとえば音楽に見られるような製作者の意図や主張とは別に、アルバムの楽曲を切り売りしている状態などはちょっと肯定できるものではありません。また、筆者の家族などは、モノやサービスが横や縦に広がって、からめとられているだけで、そこには一見自由があるようで、むしろなくなってしまっているようだと言っています。


産業のレイヤー構造化、プラットフォームビジネスでよく使われる言葉に、「エコシステム」というのがあります。プラットフォームを提供するプロダクトと、それを補完するプロダクトを合わせたものをエコシステムと呼びます。

チャネルを基点に考えると、オムニチャネル(Omunichannel)もエコシステムです。オムニ(Omuni)とは、「全て」とか「あまねく」といった意味をもつ接頭語です。マーケティングでは、オムニチャネルのことを、リアル、ネット問わず、全てのチャネルをつないで、利用者にとっての境界をなくしてしまう統合型チャネルのことをいいます。ここでは、支払いや配送・荷物の受取りなどのバックオフィスも含まれます。

利用者に一貫して最適な購買体験や顧客体験を提供するといわれているオムニチャネルは、各チャネルが独立して機能を果たし、統合や一元化がされていないマルチチャネルの進化系といわれてきました。

けれども、ネットで注文した商品をリアルの店舗で受け取ったり、或いは支払いを済ませたり、ネット上で取得したクーポンをリアル店舗で使うとかいったくらいでは、リアルとネット、または異なる業態間で、顧客がストレスを感じることなく、自由に行き来できる、そのようなことくらいで本当のオムニチャネルといえるのか、筆者には疑問です。また、もしそれで小売業が納得しているのであれば、随分と情けない話のように思います。これではエコシステムとか、ましてや産業のレイヤー構造化などというには、ほど遠いでしょう。


スマホで実現されている端末、OS、アプリなどの関係とまではいいませんが、顧客の問題解決(本当に顧客の問題を解決しているかどうかはともかくとして)をとおして、消費者との接点を担う小売業は、自らの富の源泉を生み出す、或いは富を移動させたり蓄積させるといった発想を持ったり、構想を組み立てていくことが重要です。

つまり、何処に利益が蓄積されやすいか、儲かるかといった視点で、事業を見直すことが必要です。強大で独創的なメーカーと異なり、小売業はあくまでもメーカーあってこそというのは否定できません。であれば、マーチャンダイジングやサービスなどを編集するようなコーディネーターとしての役割を、もっともっと追求していくことができるはずです。


コトラーは、「顧客サービスプロセスから協働による顧客ケア」へと説いています。ネットで接続された世界において、国内の小売業が、Amazonや楽天以上に、通常の品揃えの幅や利便性はじめ、今日の変わりゆく多くの消費者の購買行動を満たすことなど、できるはずもないでしょう。

そうであれば、従来のリアル店舗とECサイトに、顧客の生活全般、ヘルスとウェルネス、金融、エンターテインメントなどの場を、もっと大胆に取り込んで、もう少し、人々の暮らしを総合的な観点から、CX(Customer Experience、顧客体験)について考えてもらいたいと思います。レイヤーを細かく重ねていくことで、新しいソリューションを生み出せるのではないでしょうか。それは(当然のことながら)内製化させる必要はなく、何を外部に委託するかを判断すればよいだけのことです。

とりわけ衰退が続いている百貨店などは、さして各社固有の商品があるわけでもありません。モノを集積した販売だけで終わることなく、様々な垣根を超え、CXをとおして、CS(Customer Satisfaction、顧客満足)を高めることに最大限注力すること、まずは少なくともそれをしっかり自分の頭で考えてみることから、本当のオムニチャネルやレイヤー構造化の端緒につけるのではないかと思います。


12/08/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその4

前回(プレイスその3)は、コトラーのチャネルパートナーシップの4つの段階を中心に概説し、産業構造のレイヤー化にも少し触れました。本ブログのマーケティングミックスのプレイスについては、チャネルに絞って述べてきていますので、プレイスその4でもチャネルに限定して、産業構造のレイヤー化についてもう少し述べることにしたいと思います。


スマートフォンの普及と共に、一気に広まった感のある産業のレイヤー構造化は、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができる点に大きな特徴があります。

スマートフォンには、OS(オペレーティングシステム)があって、それを動かす端末(ハード)を提供する企業がいて、様々なアプリを提供する企業が存在し、そして通信事業者(キャリア)がいます。アプリひとつとっても、その企画や開発、運用を請け負う企業が多数存在し、大手から分野に特化したり、AIなどの最新技術を活用する中小、新興企業などがまさに星の数ほどあるといっても過言ではありません。

スマートフォンでは、消費者は、たとえば端末はiPhoneで、ニュースや情報、SNSなどのコミュニケーション、エンタメ、ゲーム、趣味関連など多岐にわたるジャンルから好きなアプリをダウンロードし、キャリアはドコモ(或いはau、ソフトバンクなど)を選択して組み合わせます。


かつて圧倒的な強さを誇っていたマイクロソフトは、このスマホの世界では、Windows OSの優位性を獲得できずに終わっています。また、それ以前にも、クラウドサービスの登場によって、パッケージソフトのOfficeの必要性も失っています。マイクロソフトの独占を崩したのは、新しいテクノロジーやプレイヤーの登場であるのは間違いありませんが、消費者がそういった新しいものを選択したという事実と、選択肢の幅が広がったということが重要であり、ここにレイヤー構造化したビジネスの特徴があるといえるでしょう。


モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化が、ビジネスをレイヤー構造化するように仕向けているともいえ、スマホやタブレット、PCといった広義のコンピュータ業界とその周辺及びそれに関係する業界、たとえばゲーム、テレビ放送、電子書籍、印刷、自動車、さらには2016年の電力小売の完全自由化に伴い消費者の選択肢が一気に広がった電力業界も例外とはいえないでしょう。

このようなレイヤー構造化は、従前の既成概念や慣習を打破し、業界を横断して、新たな産業を創り出してきました。この世界では、プロダクトの提供者と利用者を結びつける場/プラットフォームを介して、ビジネスが行われるものが多くあり、誰もが知るAppleやGoogleなどは、このプラットフォームで大きな成功を収めています。


Amazonも、企業や個人の出品者と購入者を、自社ECサイト上でつなぐ販売の場/プラットフォームを提供しています。今日、知らない人は誰もいないのではないかと思えるくらいです。規模は違いますが、国内の百貨店やGMSなどのインターネットショッピングも、多くが自社のプラットフォームで行っています。ただ、これをレイヤー構造化の例として挙げている専門家の方も時々いらっしゃいますが、筆者はあまりそうは思いません。何故なら、そのプラットフォームでは、消費者が商品またはそのパーツを自由に組み合わせて選択できるわけではないからです。

たとえば、百貨店の高島屋のサイトであれば、高島屋が扱う商品だけで(ほかの百貨店や小売業態のものを扱うわけではなく)、高島屋のサイトにある和菓子の鶴屋吉信は鶴屋吉信が提供する完成された最終商品だけであり、通常全く同じ商品が他の百貨店たとえば三越でも売られています。

ネット上で、消費者が好きな商品やサービスを選ぶことができるというのがレイヤー構造化というのであれば、リアルの店舗でも昭和やその前の時代からレイヤー化されていたということにもなりかねません。レイヤー構造化された産業の特徴が拡大解釈され過ぎていると筆者は思います。この点については、次回でもう少し述べることにしたいと思います。

その百貨店で、三越と伊勢丹が、4~5年前にウーバーイーツと出前館を活用したフードデリバリサービスを始めました。ウーバーイーツも出前館もインターネット上で、お店とメニューの選択により、多様な食をワンストップ的に行う食のデリバリという新しいレイヤーを作り出しました。両社とも、様々な飲食店やレストランと組むことで、非常に多くの選択肢を消費者に提供することには成功しています。但し、三越と伊勢丹の取組みが、うまくいっているかどうかはなんともいえませんが・・・。

続きは次回にしたいと思います。


12/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその3

フィリップ・コトラーが、マーケティング3.0を米国で発表したのが2010年、あれから15年が経ちました。マーケティング1.0が製品中心のマーケティング、2.0は消費者志向のマーケティング、そして3.0が価値主導のマーケティングです。


3.0では、企業のビジョン・ミッション・価値が、企業のマーケティング・ガイドラインになりました。1.0では製品の説明、2.0では企業の製品とポジショニングであったことを考えると、かつてなかった大きな変化です。実際、消費者との交流という観点では、1.0が1対多数の取引、2.0が1対1の取引、3.0では多数対多数の協働となっています。協働マーケティング、文化マーケティング、スピリチュアルマーケティングの融合が、マーケティング3.0であるとしています。

その後、コトラーは2017年にマーケティング4.0、2021年にマーケティング5.0を発表しました。いずれも3.0の延長線上にあり、人々の自己実現にフォーカスしたマーケティングの考え方を推し進めました。4.0は、「カスタマー・ジャーニーのあらゆる面をカバーするために、人間中心のマーケティングをどのように深化、拡大すればよいか」を論じています。そして、5.0では「人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めること」だと説き、デジタルテクノロジーの活用の新戦術まで踏み込みました。


このような3.0をベースにした価値主導型マーケティングへの転換は、マーケティングチャネルのあり方そのものにも大きな変化をもたらします。というのも、上記のとおり、3.0では消費者との交流、つまり消費者との接点であるチャネルが多数対多数の協働になるからです。

協働者としてのチャネルというというのは、チャネルパートナーの「目的・アイデンティティ・価値」が、自社のものと似通っていることが前提として必要になります。そういった適切なパートナーを見つけることから、チャネル管理が始まります。そして自社はパートナーと「統合してブランドストーリーにインテグリティを持たせる必要がある」と、コトラーは述べました。


そのコトラーは、チャネルパートナーシップには、4つの段階があるとしています。第1段階は単一チャネルの段階で、限定された地域内での全ての販売を自社営業部隊か単一のチャネルパートナーがカバーします。

第2段階では複数チャネルの段階です。この段階では、プロダクト、セグメント、地域によって、チャネルパートナーを使い分けることはしません。ここでの特徴は、買い手がプロダクトを手に入れやすくするため、流通企業や異なる販売チャネルの増大をとおして、販売地域を拡大したとしても、販売地域や販売相手の活動を制限することはないということです。このため、流通企業どうしやチャネル間でのコンフリクトが発生します。

第3段階は地域別チャネルの段階です。ここでは「自社の市場を地域、消費者セグメント、もしくは製品セグメントによって分割」します。この段階では、チャネル間のコンフリクト回避のために、流通企業やダイレクトチャネルの活動を明確な境界やルールを敷くことで区分します。

第4段階は統合型マルチチャネルの段階で、一つのセグメント市場や地域市場で異なる複数のチャネルが分業します。企業は様々なチャネルに仕事を分担させることで分業が成立し、共存、協働することを可能にしています。たとえば、需要喚起はウェブサイトで、消費者体験は直販店で、流通とサポートは再販業者で、法人顧客への販売と再販業者の紹介は営業部隊が行うといった例を、コトラーは挙げています。

第4段階では、企業はチャネルパートナーをとおして、プロダクトのストーリーを広めながら、チャネル・コンフリクトは起こさずに、買い手に対してプロダクトを提供しています。ただ、これを実現させるためには、自社に確固たる価値観や信念があることが前提になります。口先だけだったり、依って立つものがしっかりしていなければ、真のパートナーシップを築くことは難しく、いわば明確な規律の下に皆が動く戦略思考がそこには厳然と存在するということになります。


コトラーのいう限定された一つの市場で、異なる複数のチャネルが分業し共存する統合型マルチチャネルの概念と、考え方で共通するところがあるものに、産業のレイヤー構造化があります。レイヤーすなわち階層化とは、ビジネスの要素を複数の層(レイヤー)に分けて、それぞれを連携させる仕組みやシステムのことをいいます。これは、従来の単層的なバリューチェーンでは説明しきれない産業構造で、特にプラットフォームビジネスに代表されるものです。このレイヤー構造化された世界では、消費者が直接プロダクトを、自由に組み合わせて選択できる点に大きな特徴があります。

続きは次回にしたいと思います。


11/25/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその2

プレイスの2回めで、前回(プレイスその1)同様、チャネルに絞って進めます

前回で述べたとおり、チャネル戦略を考える時に重要なことは、ターゲット市場セグメントの需要の特徴を把握することです。

買い手が一般消費者の場合であれば、その需要の規模や大きさ、たとえばそれは地理的に分散しているのか、一定の地域に集中しているのかといったことなどを考えていかなければなりません。仮に、一般消費者が地理的に広く分散しているのであれば、リアルでいえば卸売企業、ネットであればアマゾンのような総合的な品揃えをしている小売企業のようなチャネルパートナーを活用することが前提になるでしょう。

ターゲット市場セグメントの需要の規模や特徴が掴めたら、次はそのセグメントに属する顧客は、自社のプロダクトをどのように購入/利用したいと思っているのかをおさえなければなりません。

たとえば、その顧客は幅広い品揃えを有する小売業態たとえば百貨店のようなところで、販売員と会話し、他社商品と比較検討しながら、購入したいと思っているのか。或いは、価格重視で、比較検討はさほどせずに、買物に費やす時間や手間をできる限り省きたいと思っているのか。この2つだけでも、購買行動は随分と異なります。

また、当該小売企業が立地する地域でも違いはあります。SMB(Small and Medium-sized Business/中小規模のビジネス)でよくあるパターンとして、地元での消費もほどほどにして(十分刈り取ることなく)、いきなり首都圏に進出しようとする企業が少なくありません。多くのケースにおいて、大規模市場にはたくさんの競争相手が存在し、また消費行動の変化もかなり激しいものがあります。そういった市場で、そもそも自社商品を目立たせ、購入/利用してもらい、リピート顧客を掴むといったことは、簡単ではありません。実際、自社商品が全体の中で埋没してしまい、1日にひとつも売れなかったというのは、そう珍しいことではないからです。

さらに、自社が希望する立地に店を構える小売企業が売上げを増やしたいために、値下げ販売を度々奨励するといったこともありえます。こういう場合には、そもそも自社の考え方、商品戦略やプライシングポリシーにまったくそぐわない可能性さえあるため、事前に確認しておくことが重要になります。

あと、選定したチャネルに対する商品供給に必要なコストは、どれくらいかかるのかということも検討しなければなりません。当たり前のことですが、自社が獲得できるであろう市場規模が経済的にかなり魅力あるものであれば、自ら進出することもありえるでしょうが、そうでない場合は、適切なチャネル仲介業者を活用して進出すべきです。ただ、チャネル仲介業者たとえば卸売企業の場合は、扱い品目が膨大な数になり、自社が売り込みたい商品は、当該卸売企業にとって多くの中の一つに過ぎません。そのため、積極的に売ってもらいたければ、それなりの販促金や、場合によっては卸売企業に対する投資的な活動といったような出費も必要になるでしょう。


チャネルとは、自社のプロダクトを買い手まで流通させる手段です。チャネルを介して、買い手に自社のブランドをしっかりと認知してもらい、ブランドのイメージを向上させるためのものでなければなりません。そのために、チャネルをどう活用し、管理していくかということです。

ケビン・レーン・ケラーは、ダイレクト・チャネル(郵便、電話、デジタル媒体、訪問、自社が単体で運営するリアルまたはネットの店舗)は、プロダクトの幅と深さ、プロダクトの多様性や、プロダクトの個性、明快な特性といったものを、買い手に十分認識してもらうことで、そのブランドエクイティを高めることができると述べています。

イン・ダイレクト・チャネル(卸売/流通企業、代理店、仲買人、自社が運営していない小売企業など)の場合は、小売業を含めた仲介企業による活動と支援、及び仲介企業が所有しているイメージや連想を、自社ブランドに移転することで、ブランドエクイティに良い影響を与えることができるとしています。

このように、チャネル戦略は自社が確立したい(またはもっと強固なものにしたい)ブランドイメージと、イン・ダイレクトの場合であれば小売企業のようなパートナー企業のイメージを最大限うまく組み合わせて、二次的ともいえるブランドイメージや連想を作り上げることが必要であることがわかります。そうするためには、チャネルの検討は、もっと慎重に、より幅広い選択肢から検討することが重要になるといえます。


11/17/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその1

前回まではマーケティングミックスの価格について論じてきました。(参考: ブランディング(7)マーケティングミックス③価格24(プライシングまとめ①)価格25(プライシングまとめ②))

今回は、3つめのPのプレイス(Place)についてです。

フィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーは、プレイスの変数には、チャネル、流通範囲、品揃え、立地、在庫、輸送があるといっていますが、今回のこのブログでは、チャネルに絞って述べていきたいと思います。


消費者にとって、プロダクトを購入/利用するためのチャネルは増え続けています。リアルの店舗か、ネットか、(ダイレクトマーケティングなどの)メールか郵便か電話か、テレビなどの通販、或いは訪問か等々、多数の選択肢があります

プロダクトの提供側でも、自社が直接行うのか、或いは卸売/流通企業を通すのか、代理店や仲買人などの中間業者を活用して販売するのかといったことを検討しなければなりません。ただ、どのチャネルを選択しようとも、基本的に共通していえることは、プロダクトコンセプトに合致したチャネルを選定することと、そのチャネル(リアル店舗か、ネットか、カタログかなど)をマネジメントすることが必要であるということです。

ここで基本的としているのは、一部の食品や日用雑貨品、特にバス・トイレタリー用品のようなカテゴリーに属するいわゆるコモディティ化が大きく進んだ商品の場合は、チャネル選択を厳密に行うことなく、流通のカバー率を向上させる施策、差別流通的なやり方で商品を販売してきたメーカーや卸が一定数存在してきたからです。今日では限定的な選択流通が増えてはいますが、無差別流通がなくなるわけではありません(また、なくす必要もないでしょう)。こういった理由から、基本的にとしています。


ところで、プロダクトコンセプトに合致したチャネルというのは、マーケティングミックスの観点でいえば、消費者とどういうコミュニケーションをしたいのかということに行き着きます。つまり、プロダクトコンセプトに基づいて設定したターゲットオーディエンスは、どういうメディアで、どのような行動をしているかを推定した上で、コミュニケーションメディアを選択するということです。この観点からすれば、マーケティングミックスにおける意思決定では、プロダクトからプライスへ進み、次はプレイスではなく、プロモーションを考えてから、そのプロモーションを実現するにふさわしいプレイスは何処かを決めるほうがより適しているともいえるかもしれません。


チャネルは、チャネルごとに提供する価値が異なります。リアル店舗であれば業態(売り方)の選択がある上、出店エリアも決めなければなりません。今日では、1種類のチャネルしか持たない企業は少なくなりました。市場で存在感を発揮するために、どのチャネルを活用するかは慎重に検討しなければなりません。1つのチャネルだけというのも問題ですが、多すぎると管理に手間取るばかりか、チャネル同士の対立が生まれる可能性があります。コンフリクトが発生すると、エンドユーザーのイメージ悪化が起こり、ブランドを存続・強化させていくことが困難になることも想定できます。

また、選択したチャネルによっては、プロダクトの価格帯を調整する必要があります。たとえば、飲料やアルコール類、特にビールなどは、同一商品であっても通常の販売価格が、小売業態によって30%以上の違いがあることが珍しくありません。さらに同じ業態であっても、食品スーパーやGMSの場合であれば、多くが商品をハイ&ローで提供していますが、食品スーパーのオーケーや、GMSの西友、また業務用スーパーなどはEDLPで商品を提供しています。(EDLPについてはこちらをご覧ください→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その14)

このように顧客接点を持つ小売企業でやり方(ハイ&ローかEDLP)が異なる場合、仮にメーカーが商品を時々大幅値引きで販売していれば、ハイ&ロー型の小売企業では問題がなくても、EDLPの方では、同様の展開はできません。したがって、メーカーは自社ブランドの価値を高められるチャネルを慎重に選択するのは勿論のこと、選択したチャネルに対して支援を継続して行う必要が生まれるということになります。


大手企業であれば、経営資源も豊富にあり、いろいろなやり方を試すこともできますが、中小・零細企業(以下「SMB」、Small and Medium-sized Busines)であればそんな余裕はないでしょう。SMBであれば、優れたプロダクトの企画と提供を実現できるニッチ市場に特化できるチャネルを選択したり、買い手ごとにきめ細かい対応ができるようなチャネルにフォーカスするほうが賢明です。

まずはひとつの領域に焦点を絞り、そこで突出する(いわば消費者からみて目立つ)ことをしなければなりません。但し、選択したチャネルでフォーカスするのは、プロダクトそのものではなく、差別化につながる顧客へのベネフィットであることを忘れてはなりません。

このチャネル選択で最も重要なことは、当該プロダクトの潜在顧客がどこにいるかを見極めることです。そして、どういったやり方でその潜在顧客に、自社のプロダクトを知ってもらうかということに尽きるといえるでしょう。

ブランドの観点でいえば、選択するチャネルが自社のブランド戦略に合致していなければなりません。自社ブランドが果たす約束を、当該チャネルで実行できるかどうかが、ブランドには問われます。このように考えると、基本的には卸売企業や仲介業者に一任するというのはありえないでしょう。

B2CのSMBであれば、チャネルが提供している価値やイメージを消費者がどのように見ているのか、そのチャネルの中で自社プロダクトの役割はどうあるべきかを、必ずおさえておかなければなりません。

続きは次回といたします。


11/06/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その25

以下はプライシングの5原則です。

1. 価格は、コストプラス法にみられるような生産コスト上乗せ方式ではなく、プロダクトが買い手に提供する価値に基づいて設定する必要がある。

2. 価格は、買い手がプロダクトに見出す価値の相違によって、カスタマイズすべきである。

3. 価格は、買い手の心理(特に参照価格とその変化)を考察して設定する必要がある。

4. 価格は、買い手の価格心理の理解に加えて、競合他社がどのような長期目標と戦略を立てているかを慎重に分析し、且つ自社の動きに対して、競合がどのように反応するかを見極めて設定する必要がある。 

5. 上記4つを実践するためには、はじめに自社プロダクトの市場におけるポジショニングを明確にして、自社の目標と整合性のある価格を設定しなければならない。


前回(価格その24)は、プライシングの原則1から3までを述べました。今回は、原則4と5についてです。ここまでのブランディング(7)マーケティングミックス③価格については、以下のリンクからご覧ください。

 価格その1(価格の多様性)その2(価格検討3つのレベル)その3(プロダクトレベルでの検討)その4(先発企業の価格戦略①)その5(先発企業の価格戦略②)その6(先発企業の価格戦略③と後発企業の価格戦略)その7(経営の意志)その8(ライフサイクル①)その9(ライフサイクル②)

その10(消費者の価格概念)その11(内的参照価格①)その12(内的参照価格②)その13(バリュープライシング)その14(EDLP)その15(価格の測定尺度)その16(プライス・カスタマイゼーション①)その17(プライス・カスタマイゼーション②)その18(プライス・カスタマイゼーション③)

その19(プライシングのセグメント①)その20(プライシングのセグメント②)その21(プライシングのセグメント③)その22(新商品のプライシング①)その23(新商品のプライシング②)その24(プライシングまとめ①)


原則4は、「 価格は、買い手の価格心理の理解に加えて、競合他社がどのような長期目標と戦略を立てているかを慎重に分析し、且つ自社の動きに対して、競合がどのように反応するかを見極めて設定する必要がある」です。

ここでは、競合企業の数と競合企業間の差異に着目します。通常、競合企業の数が多ければ競争は激化します。ただ、数が多くても、たとえば建設業界のようなスーパーゼネコン5社のように、各社1兆円以上の売上げがあり、大規模プロジェクトの多くを請け負い、5次くらいまでの系列があるような場合には、実態として最適価格での契約がどうしても難しくなることがあります。談合とまではいかなくても、暗黙のうちに価格設定の面で協調し合うような関係が生まれます。

このようなケースを考慮すれば、つまり競合企業間の差異については、コスト構造、市場シェア、プロダクト構成、技術基盤の相違が大きければ、競争は激しさを増す傾向が高まるということがいえるでしょう。


次に、価格を下げることで短期的利益をどれくらい上げられるかを考えるべきです。当然のことながら、大きな短期的利益が見込める場合は、価格競争が起こる可能性が高まります。実際、囚人のジレンマにあるとおり、価格競争は簡単に生まれることに注意しなければなりません。

また、売上げやシェアを伸ばすことを目的としたもの以外にも、たとえば過剰生産によって在庫がだぶついていたり、プロダクトどうしが似通っていてどちらか片方に買い手をシフトさせる必要があれば、価格の引き下げは起こります。ケースはいろいろありますが、いずれにせよ競争の観点から、業界全体の価格水準を考えることが重要です(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その2)


競合他社の動きを予測するためには、他社プロダクトの戦略上の目的を理解しなければなりません。とりわけ当該プロダクトの将来における重要性をおしはかって、売上げやシェアにどれくらい拘っているのかを見極めることが重要です。この時、競合のコスト構造と財務上の強さを推定して、どれくらいまでなら価格を引き下げることが可能なのかを掴むことです。

ピーター・ドイル(イギリスのウォーリック・ビジネススクール元教授)は、以下のようにして、競合他社の価値を評価することを薦めています。

①フォーカスグループによるプロダクトの属性を把握し、品質を多角的に評価するための要素(次元)を明確にする。

②品質の次元を重みづけし、顧客が最も重視する属性を決める。

③属性に基づき競合他社を評価する。特に最も重視している属性について、顧客が競合他社のオファーをどう評価しているかを調査する。

④望ましい価格と品質の組み合わせを顧客にランクづけしてもらい、その選好にしたがって顧客をセグメントする。

つまり、顧客は最高の知覚価値を提供してくれるプロダクトを選ぶということを前提に、顧客が知覚するプロダクトの品質を高めるか、価格を引き下げるかということになります。但し調査をする時には、あらゆる市場がセグメント化されている状況下であっても、全ての買い手が同じ価値の組み合わせを望んでいるわけではないため、特定のセグメントごとに価値を設定しなければならないと、ドイルは注意を促しています。

企業の先発後発の価格戦略については、テリスの9つの価格戦略(価格その4価格その5価格その6)で、プロダクトのライフサイクルステージについては価格その8価格その9で詳説しています。



原則5は、「 上記4つ(原則1から原則4まで)を実践するためには、はじめに自社プロダクトの市場におけるポジショニングを明確にして、自社の目標と整合性のある価格を設定しなければならない」です。

つまり、価格設定は、自社が望む市場でのポジション→価格→コスト→設計開発というながれであるべきで、従来からの多くのながれ(上記のながれの逆)であってはならないということです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その7)。

ポジショニングを明確にして、目標と整合性のある価格を設定することは、そう簡単にはいかないこともあるでしょう。というのも、プライシングが組織間の対立を招くことが珍しくないからです(そもそもマーケティングや新商品開発自体が、自社内各組織間のコンフリクトを生みやすい活動です)。

商品企画/マーケティング、研究開発、生産、営業、財務、経営/事業企画、物流などが目指す方向や機能の違いによって、プライシングは直接的な影響を被ります。とりわけ商品回転率の高い一般消費財メーカーにおいて一時的な値下げを行う場合などは、生産や物流に過度な負担を強いることが珍しくなく、半ば恒常的に感情面の対立に発展することがあります。


プライシングは小手先のテクニックでは乗り切れません。包括的、全体俯瞰的なアプローチが必要であり、プライシングに責任を負うマネージャーを配置することに留まることなく、経営の意思統一とリーダーシップによって進められるべきです。

効果的なプライシングを行っていくためには、関係各部署とそこで働く従業員に対して、プライシングの目的とメリットなどを明示し、教育をとおした周知徹底が何より重要です。

そのためには、プライシングについて的確な意思決定が行えるよう、中核となるタスクを定義し、プライシングプロセス特にプライシング計画立案のプロセスを標準化させることがまず必要でしょう。併せて、各部署と密に連携するプライシングチームを配置し、プライシングの最高責任者を導入することも、取組みの効果を大きくすることになるはずです。

こういった一連の取組みでは、トップマネジメントのコミットメントを確保することが不可欠です。局所的、部分最適に終わらず、部門横断的または部門を超えて、包括的、全体最適な意思決定が必要になるからです。また、納入先や顧客からの圧力に屈しないためにも、トップのコミットメントは避けてとおれません。


プライシングは、単なるマーケティングミックスの一要素として捉えるのではなく、ブランドのコンセプトそのものであり、ブランドを構築するうえで、極めて重要な方策であることを再認識することが重要です。何故なら、プライシングこそが、企業の利益と売上げにすぐさま直結するものだからです。


次回からは、マーケティングミックス3つめのPのプロモーションについてです。


11/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その24

マーケティングミックス2番めのPの価格について、半年間、論じてきました。その内容を簡潔に要約すると、次の5つの原則に集約されます。


1. 価格は、コストプラス法にみられるような生産コスト上乗せ方式ではなく、プロダクトが買い手に提供する価値に基づいて設定する必要がある。


2. 価格は、買い手がプロダクトに見出す価値の相違によって、カスタマイズすべきである。


3. 価格は、買い手の心理(特に参照価格とその変化)を考察して設定する必要がある。


4. 価格は、買い手の価格心理の理解に加えて、競合他社がどのような長期目標と戦略を立てているかを慎重に分析し、且つ自社の動きに対して、競合がどのように反応するかを見極めて設定する必要がある。


5. 上記4つを実践するためには、はじめに自社プロダクトの市場におけるポジショニングを明確にして、自社の目標と整合性のある価格を設定しなければならない。


マーケティングミックスで、収益を直接生み出すのは、2つめのPである価格だけで、それ以外は全てコストといえます。

価格以外のマーケティングミックスの変化、つまりプロダクト・プレイス・プロモーションの中身を変えることによる利益と売上げへの影響、特に短期的なインパクトについては、価格の変更による影響よりも、はるかに小さなものです。価格の変更・調整は、プレイスやプロモーションにおける方針転換、プロダクトの新規開発・導入よりも、ずっと短い期間で実行できるのは明らかです。


市場は複雑化しています。社会のデジタル化と共に、販路は多様化し、市場のセグメント化は一段と進行しています。ひとつのタイプやブランドだけを提供して事足りるという時代は終わっています。企業は製品やブランドの組み合わせ、それらの相互依存性を考慮して価格を設定しなければ、もはや競争に勝ち抜くことはできません。グローバル競争であれば尚更であることから、プライシングの重要性はかつてないほど大きなものになっているといえるでしょう。


上記原則1については、買い手がプロダクトに対して支払ってもよいと考える価格、つまり買い手が得られる価値で、プロダクトの価格は決めなければならないということを表しています。というのも、通常買い手は、ある商品がほかのものと大差ないと感じた場合、安いほうを購入(または利用)するのが普通です。そのため、ほかとの差異を感じられる価値が重要になります。


買い手は、プロダクト特性の違いから生じるベネフィットを理解することで、満足感をおぼえます。経済性は無視しえないものですが、B2Bの場合は、経済的価値に加え、機能的価値を重視する傾向が一般的です。B2Cの場合は、経済性の次に、情緒的価値または自己表現的価値が、今日ますます重要になっています(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場R&Dと組織横断型活動 (1)はじめに③)。

このことから、価格がコストを決定するのであって、コストが価格を決めるものではないということがわかります(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その7)。なお、価格の測定については、 価格その13価格その15をご覧ください。



原則2の価格カスタマイズ(プライス・カスタマイゼーション)は、非常に重要な考え方です。というのも、プロダクトの購入/利用に対して、買い手を取巻く環境や、態度・嗜好は様々であるため、必然として買い手がプロダクトに見出す価値も異なります。買い手のセグメントが違えば、プロダクトを同一価格で提供するよりも、違いのある分だけ異なる価格で提供するほうが効果的であるのは明白です。

また、プロダクトを全ての市場に対して同一価格で提供することは、全ての市場を同質的なものと捉えているともいえ、買い手や、サプライヤーなどの協力企業、従業員や経営者、株主に対して、価値創造の機会を逸していることにもなるといえるでしょう。

このように非常に重要なプライス・カスタマイゼーションについては、主に、ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16価格その17価格その18で、また、価格その19価格その20価格その21で詳説しています。



原則3の買い手の価格心理、特に参照価格とその変化を考察することは、マーケティング/ブランディング活動の成否を左右すると言っても過言ではありません。効果的なマーケティング/ブランディング活動を計画し実行するためには、買い手の購買心理(広くは購買行動)の理解が欠かせません。とりわけ一般消費者を対象にするB2Cの場合では尚更です。

参照価格を中心とした買い手の価格心理については、ブランディング (7)マーケティングミックス③価格その10 価格その11 価格その12で述べています。


原則4と5については、長くなるため次回にしたいと思います。





10/24/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その23

新商品についてのプライシングのすすめ方は、次のとおりです。

1. 新商品の位置付けの明確化

2. 新商品のベネフィットの評価

3. 新商品の価格帯の決定

4. 市場規模の予測

5. 新商品の価格提示と価格帯の調整


前回(価格その22)は、上記1の「新商品の位置付けの明確化」ですべきことは、当該新商品が革新型、改良型、模倣型のどれに該当するかを判断することです。要は、市場における当該新商品の位置付けをハッキリさせるということです。

この1で、どのタイプ(型)に該当するかが決まれば、次は2の新商品のベネフィットの評価へと進みます。


2の「新商品のベネフィットの評価」では、当該品がどういった種類のベネフィットをうたっているのか、機能なのか、プロセスなのか、リレーションシップなのかといったことを評価します。但し、差別化のもとになるベネフィットは、マーケティングミックス前のコンセプト策定時点で検討を終えていなければなりません(ブランディング (7)マーケティングミックス② プロダクト)。

新商品の評価は、関係者の勝手な思い込みを鵜呑みにすることなく、データや情報を集めて、できる限り定量的に行うことが重要です。一般的な消費者調査では、コンジョイント分析や、PSM分析(Price Sensitivity Measurement, 価格感度測定)になります。ほかにも、定量手法として、価格設定に関する実証実験(新商品が実在している場合に限定)、ヒストリカルデータを用いた市場取引分析(過去における商品の価格変動や取引量等の時系列データ分析、既存商品には有効)などがあります。

専門家による判断については、専門家次第の感はありますが、相対的にいって今日では、(筆者だけかもしれませんが)その判断が妥当性を欠くことが珍しくありません。むしろ見込み客となりうる消費者(或いは法人企業など)を慎重に選定して、無料で新商品を一定期間試してもらうほうがはるかに効果的でしょう。但し、パイロットテストをとおして、見込み客には忌憚ない意見をしっかり語ってもらうことがが前提です。


3の「新商品の価格帯の決定」は、新商品の通常価格以外に、上限の価格と、いくらまでなら値段を下げてもいいかという下限の価格の範囲を決定します。食品でいえば、特に嗜好性の強い菓子や飲料などは、魅力的な価格設定を行うことで、市場規模の拡大が比較的やりやすい商品カテゴリーであるため、価格帯の決定は非常に重要です(消費者を惹きつける広告宣伝や販売促進は、もちろん別途必要ですが)。

このような商品カテゴリーでは、価格帯の幅を少し広めにとることがポイントになります。嗜好性の強い菓子や飲料は、リピート購買がふつうで、また、ファン化もしやすいため、単価を下げて販売すれば利益は減りますが、売上げ数量は増やすことができ、トータルで利益額を押し上げていくことができるからです。

但し、価格帯の上限値を高く設定できるのは、強いブランド力を持つ商品または企業に限られるのがふつうでしょう。ブランド力が弱かったり、そもそも認知されていなければ、価格帯の範囲はやや狭めにして、通常価格は中程度かやや低めに設定するほうが賢明です。なお、適正な下限値を設定するためには、甘い市場予測の下でコストを低めに見積もったり、コストを過大に見積もったりしないように、コスト分析を精緻に行うことが必要です。

ここで気をつければいけないことは、改良型の新商品の場合は特に、競合の反応を慎重に見極めなければならないということです。もしかなり安い価格で競合他社のシェアを奪いとるようなことをすれば、後戻りのできないような価格競争に陥る可能性があるからです。自社に置き換えて考えればわかりやすいと思いますが、みすみす自社のシェアが奪われていくことを見過ごすことなど、ふつうはできないでしょう。もし、その商品が自社の看板商品の地位を脅かすようなことがあれば尚更です。逆に、高めに価格設定をすれば、シェアよりも利益重視の姿勢を示せることで、他社はしばらく様子見をする可能性が高い(つまり価格競争にはならない)といえるでしょう。

革新型の新商品の場合は、他社の模倣型新商品が必ず登場してくるため、それまでの時間をどれくらい見込むか、また、他社が参入しにくくするような打ち手をどのようにとるかを考えなければなりません。浸透価格経験曲線プライシングなどは、大手企業であれば用いやすいでしょう。また、他社の参入を招きやすくなりますが、スキム価格も十分ありえる価格戦略でしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5価格その6)


4の「市場規模の予測」では、3の新商品のベネフィットの評価に基づき、消費者(または法人企業)セグメントごとに市場規模を算出します。これにより、どのセグメントが新商品を高く評価してくれて、どのセグメントがそうでないかを把握できるようになります。また、価格帯ごとに市場規模を予測することができれば、それぞれの価格と売上数量にふさわしいプライシングモデルが見えてくるはずです。PSM分析をセグメントごとに行えば、価格の受容範囲を探ることが可能です。(PSM/Price Sensitivity Measurement、価格感度測定)


5の「新商品の価格提示と価格帯の調整」については、一般的にいえば、販売チャネルの種類と競合の動きを考慮して行われていますが、このブログで論じてきたような消費行動をもっと重視する方向に転換できれば、より大きな売上げと利益の創出機会を獲得できるはずです。

そのためには、新商品の売り手企業が買い手である消費者や法人企業に対して、新商品のベネフィットや価値を的確に伝えられるマーケティングコミュニケーション能力をもっと磨いていくことが必要で、革新型の場合は尚更です。適切な販売チャネルの選定、効果的なプロモーション手法の選択とその実行頻度の検討が求められます。販売チャネルとプロモーションについては、プライシングの後に続けて行う予定です。


10/19/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その22

新商品の価格はどのように決めるのがいいのでしょうか。

コロナ禍以降、モノの値段は高騰(または暴騰)し、根拠のないめちゃくちゃな値付けになってしまったのものが少なくありません。なかでもお米はその代表格といえるでしょう。たとえば、大分県産のひとめぼれの特Aが、2024年の秋だと10kgで4,280円だったものが、25年には値段が上がり続け、筆者の知る限りで最高値の時には14,000円にもなりました。その後、値段は一定せず、11,000円くらいまで僅か1日くらいで下がったかと思えば、また上がったりするなど、消費者をバカにしたような値段がつけられ続けています。

野菜農家や果物農家、または畜産農家などと違って、米農家が生産する米の値段が、短期間で、1.5倍や2倍どころか、3倍以上にもなるというのは狂気の沙汰で、説明などつくはずがありません。何故なら、たとえばハウス栽培をする野菜や果物農家にかかる電気代とか、多くの肥料を輸入に頼るような畜産農家などと違って、米農家にはそういったインフラや原材料などに係るコストがないからです。勿論、まったく要らないというわけではありませんが、極めて小さいものに過ぎません。

このように近年のプライシングには、常識とか倫理といったものが通用せず、事業のあるべき姿やビジネス上のセオリーなどは消失した感があります。ですが、いつまでもこのような状態が続くわけでもなく、いずれそういった事業者は淘汰されることになるでしょう。


新商品のプライシングは、市場における当該商品の位置付けを考えて決めるというのが、おそらく最も適切なやり方です。モノであろうとサービスであろうと、新商品は、次の3つのいずれかに該当します。

革新型: 比較できる類似品が存在しない、まったく新しい商品

改良型: 機能強化、サービス付加など、既存品の延長線上にある商品

模倣型: 他社商品と比べ目新しさのない商品


自社が新たに開発している新商品が、上記3タイプのどれに該当するかを正しく判断することが、はじめにすべきことです。


革新型であれば、自由な値付けが可能ですが、そもそも買い手が当該品のベネフィットを理解してくれるかどうかはわからず、適正価格の設定とその後の価格コントロールは、参入してくる可能性のある企業を想定しながら行う必要があるため、非常に難しいものがあります。

革新型の価格戦略には、スキム価格浸透価格を適用することができます(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その6)。但し、自社新商品の価値を、経営者や担当者が過大に評価するケースは珍しくないため、何が革新的なのか、本当に革新的なのか(実は改良型に過ぎないものを革新型として売り込もうとしていないのかとか、実際のところは他社追随型の模倣品であるにも関わらず経営層向けの受けを狙ったものではないのかなど)を、見極めなければなりません。


改良型では、改良によって買い手が得られるベネフィットが適切なものか、また、そもそも買い手は改良を望んでいるのかといったようなことを正しく把握しなければなりません。また、当然のことですが、競合の動きは慎重に見極めなければならず、無用な価格競争に陥っては元も子もありません。やり方としては、差別化プライシング競争的プライシング製品ラインプライシングの3つに大別できます(価格その4価格その5)。


模倣型の場合は、買い手からすると、目新しいベネフィットは見当たらないため、費用構造を念入りに分析し、考えなければなりません。また、自社のブランドイメージを毀損するような値付けだったり、市場ポジショニングと乖離した値付けをするようなことになると、取り返しのつかない失敗につながる可能性もあるため、細心の注意を払って行う必要があります。模倣型では、協調適応日和見略奪という4つ価格戦略のいずれかを用いることができます(価格その6)。


繰り返しになりますが、新商品のプライシングは、対象となる新商品が革新型なのか、改良型なのか、模倣型なのか、どれに該当するのかを慎重に見極め、その新作の位置付けを明確にすることから始めます

注意しなければいけないことは、いきなり細かい点から入ってあれこれ論じたり、いくらにすれば損をせずに済むかといったような、謂わば局所的な検討や、リスク回避的ともいえるような思考や行動は避けなければならないということです。新商品の可能性を自ら狭めたり、むやみに広げたりすることがあってはなりません。まずは、高いところから考える、全体を見るといった思考アプローチで、新商品のタイプ(革新型、改良型、模倣型)を考えることが必要です。


位置付けを明確にしたら、次は当該新商品のベネフィットを評価することになります。これについては、次回にしたいと思います。


10/13/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その21

前回の価格その20は、ネイゲルとホールデンの7つのプライシング・セグメントの2つめから4つめまで、「購入場所によるセグメント化」、「購入時間によるセグメント化」、「購入数量によるセグメント化」について触れました。今回は、残りの3つについてです。


5つめの「製品デザインによるセグメント化」は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの「製品ラインアップによるフェンス」のなかの一つに含めることができるでしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16)

ネイゲルとホールデンは、このセグメント化の例として、航空会社のビジネストラベラー向けフライトスケジュールの調整が容易いタイプの航空券と、多くの観光旅行者向けのフライト日程変更不可の航空券の違いや、石油会社の精製コストは、レギュラーガソリンとプレミアムでは殆ど変わらないにも関わらず、販売価格には一定の違いがある例などを挙げ、売り手が再販を制限できるプロダクトを扱う場合には、このセグメント化は容易に行うことができるとしています。


6つめの「製品とりまとめによるセグメント化」は、7つめの「抱き合せ販売によるセグメント化と測定」と併せて、サイモンとドーランの「取引特性によるフェンス」(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18)のなかの一つに含まれます。

グロッサリーストアやファストフード店などでの商品購入で得られるスピードくじ、レストランで単品注文よりもお得なセットメニューなど、日本でもお馴染みのものですが、米国では一層ポピュラーなもので、食品や日用品などの最寄り品でよくみられるセグメント化です。

専門品の代表的な商品である車では、たとえば新車購入時に、モノやサービスなど様々なオプションをつけて販売しています。とりまとめて一括購入すると、個別に購入するよりも、安く、何より手軽に手に入れられるのが買い手からはメリットでしょうし、売り手もあまり手間をかけずに売上げを伸ばすことができます。パッケージ旅行商品にあるオプショナルツアーなどもこれに含まれ、選択可能な付加価値的とりまとめをするセグメント化といえるでしょう。


最後の「抱き合せ販売によるセグメント化と測定」は、おそらく最もよく知られるものに、製品とメンテナンスサービスの組合せが挙げられます。日本でも、マンションなどの集合住宅や業務用エレベーターなどは、その代表例といえるのではないでしょうか。ほかにも複写機とインクカートリッジや、PCとソフトウェア、また、DVDでの人気ソフトとそうでないものとの組合せなどがあります。ところで、この7つめのセグメント化での「測定」というのは、製品の使用頻度をモニタリングし、サービスを付加して、つまり抱き合せて提供するということが、このセグメント化の目立った特徴(但し、全てがそうではありません)であるためです。固定費が高い業界では、このセグメント化は効果的といえるかもしれません。


プロダクトの何処に着目すれば、より利益を生み出すプライシングが可能になるのか、優れたセグメント化が実現されるのかといったことは、マーケティングマネージャーの卓越した市場インサイトにかかっているといえるでしょう。


10/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その20

前回の価格その19は、プロダクトの提供方法の変更をとおして、異なる価格設定の重要性について述べました。そのなかで、ネイゲルとホールデンの7つのプライシング・セグメントの有用性について触れ、1つめの「買い手の身元確認によるセグメント化」について概説しました。


今回は、2つめの「購入場所によるセグメント化」から始めます。このセグメント化は、日本でも広く行われている一般的なやり方です。なお、このセグメント化は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のひとつである利用可能性によるフェンス」の購入場所の限定と同じ考え方です(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その17)

価格その17の内容と重複しますが、場所によるセグメント化の例として、たとえば、ホテル客室内のミニバーや冷蔵庫にある飲料などが通常価格より大幅に高いこと、宅配ピザと同じピザを店内で食べた時の価格の違い、外国人が日本以外の居住地で日本国内の列車チケットを購入する時の割引料金、競争の激しいエリアとそうでないところの同一小売チェーンが扱う同一商品の価格の差異、オフィス街にある自販機で売られている飲料の価格とリゾート地やへき地などでの価格の違い、地域によって送料が異なるケースなどが挙げられます。

また、グローバル化が進行しているとはいえ、同じ商品でも国によって取り巻く競争環境が異なるため、価格に大きな差異が生じていることは珍しくありません。広く知られているコカ・コーラやマグドナルドのハンバーなどが、為替や物価水準を差し引いても、国や地域よってかなりの違いがあるのはこのためです。


3つめの「購入時間によるセグメント化」は、サイモンとドーランのプライス・カスタマイゼーションの「取引特性によるフェンス」のひとつに該当します(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18)飛行機や列車、ホテルなどの早割、高速道路の深夜割引をはじめ、自動車保険等の契約更新前の早期割引、電気やガスなどのインフラ料金の時間帯別割引などが挙げられます。ほかにも、ファッション衣料雑貨のシーズン終了後のバーゲン価格や、型番が古くなったPCほかのIT関連製品、車のモデルチェンジ直前の現行モデルのディスカウント、さらにはレストランでのランチタイムのお得価格なども該当するでしょう。


4つめの「購入数量によるセグメント化」も、「取引特性によるフェンス」のひとつに数えられます。価格その18ではFSPなどのポイントアップ・プログラムについて触れました。ネイゲルとドーランは、購入数量割引には、「ボリューム割引」、「オーダー割引」、「段階的割引」、「二重価格」の4つの種類があるといっています。

両氏のいうボリューム割引とは、基本的に法人の大口顧客向けで、ビジネスを継続させるために適用されるものです。一般消費者向けは、オーダー割引という名称となり、少しでも多くの量を、注文金額をより大きなものにするために行われるものです。たとえば、飲料やアルコール類の1ケース売り、菓子類の4袋まとめ売り、最近ではアマゾンの4点買うと5%オフなどになるでしょう。

段階的割引は、指定数量を上回って購入した場合に割引が適用されるものをいいます。両氏は、電気料金を例に説明していますが、日本ではあまり一般的とはいえません。おそらく最も知られているものは、ポイントアップ・プログラムで、年間購入金額が一定額を上回ると、ポイント還元率がアップするというものでしょう。リアル、ネット問わず、この段階的割引の仕組みを取り入れている企業は少なからずあります。

ここでの二重価格とは、ひとつのプロダクトの消費に対して、異なる2つの請求をすることをいいます。基本料金と個別の利用量、たとえば、スポーツジムやフィットネスクラブの年会費と時間帯別利用料金、比較的高額なレストランでのメニュー料金とサービス手数料などが代表的ではないでしょうか。

両氏は、二重価格によるセグメント化は、高頻度利用者には有利に働く一方で、低頻度利用者にも魅力あるサービス提供を維持継続させることを可能にするとしています。フィットネスクラブを頻繁に利用する人は、年会費を利用回数で割ると1回当りの額が低くなり、あまり利用しない人にとってはいつも使っている人でも飽きがきにくい設備・仕様環境を楽しめるからということになるのだろうと思います。

5つめの「製品デザインによるセグメント化」以降については、次回といたします。


9/22/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その19

企業は商品の差別化をとおして、できる限り高い価格を設定したいと努めます。そのため、自社プロダクトのベネフィットを評価してくれる買い手を、少しでも多く獲得したいと考えます。何故なら、自社商品をいつも評価してくれる買い手は、そうでない人たちより、より多くの対価を支払ってくれるからです。

買い手によって異なる価格感度は、参照価格の違いによるものが大きいことは、これまで見てきたとおりです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その11その12)。(価格感度の説明については、こちら→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その15)


それでは、基本的に同じプロダクト(製品、サービス)において、どのようにすれば異なる価格を設定することができるのでしょうか。全く同じ環境下で、同一のプロダクトを、異なる価格で提供することは、通常できないでしょう。けれども、プロダクトの提供方法を変えたり、プロダクトの購入(または利用)時の条件を変更すれば、たとえ同じプロダクトであっても、異なる価格を設定することが可能になります。


買い手の特性に合わせて価格をカスタマイズするプライス・カスタマイゼーションについては、ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その16その17その18で述べました。


このほかにも、トーマス・T・ネイゲル(米国シカゴ大学等の元教授)とリード・K・ホールデン(ホールデン・アドバイザー創業者、プライシングエキスパート)の7つのプライシング・セグメントという考え方があり、これも大変有効なものです(呼び名が違うだけで、買い手の特性に従い、異なる価格を設定するという考え方は、プライス・カスタマイゼーションと基本的に同じもの)。

両氏は、プロダクトにおける価値の相違と連動するプライシング・メトリクスを確立することは、様々な買い手を獲得することにつながると述べていますセグメント化されたプライシングで成功するためには、それぞれの業界の状況に即したアプローチを選択し、的確なプライシング・メトリクスと、価格感度の相違で買い手を区分するプライシング上のフェンスをいかに作るかにかかっていると説いています。

買い手の身元確認によるセグメント化

購入場所によるセグメント化

購入時間によるセグメント化

購入数量によるセグメント化

製品デザインによるセグメント化

製品とりまとめによるセグメント化

抱き合せ販売によるセグメント化と測定


買い手の身元確認によるセグメント化」は、よくあるセグメント化といえるでしょう。日本で典型的なものには、学生割引、シニア割引、クーポン利用による割引があります。なかでも、クーポンの活用は、異なる価格セグメントの消費者を惹きつけたり、プロダクトブランドの変更や新規顧客獲得の契機になり得ます。かつての携帯キャリアの乗り換えなどは、その典型例といえるでしょう。ほかにも、会員割引、提携先や提携カードメンバーへの割引、誕生日や結婚記念日等のアニバーサリー特典などが挙げられるでしょう。

この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、サイモンとドーランが説いたプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のひとつである「購買者特性によるフェンス」(ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その18)と、基本的に同じ考え方です。


ところで、この「買い手の身元確認によるセグメント化」は、価格感度の高い買い手に対して有効なやり方ですが、身元を確認できるものを提示してもらうことが前提となるため、個人情報の開示を好まない人には通用しません。

このため、どんな商品の買い手でも価格感度を示してもらうためには、予め高い価格、たとえば定価や正規料金を提示し、身元確認をとおして割引するようにもっていくことと両氏は述べています。けれども、買い手はプロダクトの購入/利用をとおして学習します。時間の経過と共に、その手の情報には長けるようになり、選択肢の幅を広げていくことになります。このため、プロダクトの提供側は、こういった買い手の変化をいち早く察知し、セグメントの見直しや広義のコミュニケーションスキルを磨いていかなければなりません。同じやり方がいつまでも通用するということはまずないからです。

ところで、このセグメント化における両氏の興味深い分析として、価格感度の高い買い手は、提示された価格や提供されたサービスに対して不満を述べることは少ないが、価格感度の低い買い手はそうとは限らないばかりか、むしろしばしば不満を相手に伝えるというものです。筆者も、この記述には思いあたるところが多く、プライシングによるセグメント化を検討する上で、非常に参考になると思います。

購入場所によるセグメント化以降については、次回にしたいと思います。


9/13/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その18

前回はプライス・カスタマイゼーションの4つの方法のうち、2つめの「利用可能性によるフェンス」について述べました(1つめは「製品ラインアップによるフェンス」)。今回は、残り2つの「購買者特性によるフェンス」と「取引特性によるフェンス」についてです。


(3)の購買者特性によるフェンスは、属性ごとに異なる顧客価値に沿って、価格をカスタイマイズする方法で、ジェラルドJ.テリスの9つの価格戦略の第2市場ディスカウンティング(価格その4)に相当します。遊園地や映画館での子ども割引、一部の食品スーパーで行われている高齢者割引、PCソフトなどでみられるアカデミック割引などが代表的なものとして挙げられます。ここで重要なことは、コストをできる限りかけずに購買者の特性を識別できるようにすることです。その属性には、以下の4つがあります。

年齢(子供や高齢者の割引)

組織特性(エンドユーザーと小売流通企業)

ユーザー特性(新規購入者と既存顧客)

支払能力(大学の奨学金受給学生とそうでない学生)


なお、②組織特性については、エンドユーザーの商品選択を主導的に決めることができる大口顧客(たとえば問屋など)に対して、価格を下げることで、当該大口顧客の商品変更の余地をなくしてしまうことなどが該当します。サイモンとドーランは、このフェンスの例として、米国における医薬品業界の卸売企業による薬局薬店などの小売企業に対する例を挙げています。



(4)取引特性によるフェンスは、デジタル機器の活用により、現在ではふつうに行われている価格をカスタマイズする方法です。これには主に、①購入/利用時期、②購入/利用量、③購入/利用するプロダクトの組合せという3つのタイプが挙げられます

購入/利用時期: 飛行機や鉄道・バス・フェリーなどの早割、高速道路の深夜割引、車の保険やメンテナンスの特定期日前の契約による割引などは、よく知られています。また、電気やガスなどもインフラでも時間帯別割引料金を導入しています。 

 

購入/利用量: 取引特性によるフェンスの中で、このタイプが最も一般的です。国内では今日、もはや殆ど聞くことがなくなってしまったFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)が該当します。FSPは、小売企業が顧客の購入履歴を分析して、優良顧客を囲い込むための手法で、もともとは航空会社のFFP(フリークエント・フライヤー・プログラム)を真似たものだったかと思います。FSPは、航空会社が顧客の搭乗距離に合わせて、マイレージポイントを貯められるようにして、一定マイルに達すると様々な特典を付与するもので、呼び名はともかく、今日では当たり前のサービスとして流通しています。 

FSPやFFPなどに代表されるポイントプログラムは、データ分析による顧客の囲い込みと選別にとどまることなく、蓄積したデータを活用して、自社提供サービスの改善や開発につなげることが狙いだったはずです。ところが、ポイントプログラムが年々、複雑多様化することで、分析は後回しとなり、プログラムは単なる割引制度になってしまったというのが、国内市場の状況だといえるでしょう。

 

購入/利用するプロダクトの組合せ: 価格バンドリングと呼ばれるこのやり方は、束ねるという意味のバンドリングが表すとおり、幾つかのものを組合せて販売します。最も一般的なものは、本体と一緒に付属品を購入すると、付属品の価格が安くなるというもので、たとえばPCとソフトウェア、複写機とカートリッジ、新車購入時の様々なオプション、昼食時の食事と食後のコーヒー、ハンバーガーとポテトといったものが代表的でしょう。 

また最近では、コンテンツサービスのバンドリングも多数見られるようになりました。アマゾンプライム、ネットフリックス、ユーチューブプレミアム(YouTube、YouTube Music、YouTube Kids)などが該当します。こういったサブスクリプションをひとまとめにしたセット販売には、ユーザーが1つのプラットフォームで提供されるサービスへ一元的にアクセスでき、支払いも済ませられるということに、利用者が利便性を見いだしているのでしょう。こういったサービスは、エンターテインメントに限らず、ゲーム、教育、更には電力をはじめとしたエネルギーや金融などまで広がり、業界を横断してサービス提供が進められようとしています。筆者個人としては、やはりプライバシーやセキュリティなどが気になりますし、また、そこまでの利便性は必要ないと感じています。 

こういったバンドリングの一方で、コンテンツ産業では以前からアンバンドリングも存在しています。以前であれば1枚のCDに収められていた音楽を、オンライン上で曲ごとにダウンロード購入できる楽曲販売が代表的なものです。


プライス・カスタマイゼーションは利益を増大させる可能性のある有用な手法です。サイモンとドーランは価格をカスタマイズするにあたり、重要なポイントを次のように述べています。

1. 顧客ごとに異なる知覚価値(商品やサービスに対して感じる価値)を把握し、違いが発生する要因を特定すること


2. 知覚価値の異なる顧客ごとに、棲み分けできるフェンスを構築すること。つまり、知覚価値に見合った価格を設定しなければならないということです。顧客を知覚価値によって分類し、その分類がプロダクトの特性に適合している必要があります。このためには、プライス・カスタマイゼーションのベース(製品ラインアップ、利用可能性、購買者特性、取引特性)を明確にしなければなりません。


3. プライス・カスタマイゼーションによってもたらされる利益のみならず、計画し実行する上でのコストにも十分注意する必要があります。複雑なプライス・カスタマイゼーションには多大な運用コストがかかります。円滑に進めていくためには、一気に価格をカスタマイズしていくのではなく、徐々に進めていくこと。最初に2段階の価格を設定して、その後効果が高く実行可能と判断できる割引を付加していくこと。


4. プライス・カスタマイゼーションに関する法的環境を理解しておくこと。特に、顧客が価格に対して不公平感を抱くことがないように、顧客に対する公平性に気をつけること。顧客の不公平感は重大な問題に発展する可能性があるからです。



ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその5

前回(プロモーションその4) は、マーケティングコミュニケーション のマクロモデルと、 知覚の3タイプ (選択的注意、選択的歪曲、選択的記憶)について述べました。知覚は 消費者心理 のひとつですが、ほかに、 動機、学習、記憶があります。マーケティングプロモーションにおける コミュ...