4/12/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその13

今回は前回からの続きで、コミュニケーションを効果的に行うための8ステップの最後になるコミュニケーションの効果測定」についてです。これまでの内容は、以下をご覧ください。

1「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」(プロモーションその7)

「コミュケーション目的の設定」(プロモーションその8)

「コミュニケーションの設計」(プロモーションその8)

「コミュニケーション・チャネルの選択」(プロモーションその9)

「コミュニケーション予算の決定」(プロモーションその10)

「コミュニケーションミックスの選択と予算配分」(プロモーションその11)

7「コミュニケーションの効果測定」(プロモーションその12)

8「コミュニケーションの評価」(プロモーションその12)



8「コミュニケーションの評価」(続き)

ケビン・レーン・ケラーは、コミュニケーションプログラムが効果的に統合されているか否か、IMCが機能しているかどうかを評価するには、以下の6つの基準を用いて判断するのがよいと『戦略的ブランドマネジメント』の中で述べています。(IMC、Integrated Marketing Communications/統合型マーケティング)


カバレッジ: コミュニケーションがターゲットオーディエンスに対して、どれくらい到達しているのか、その範囲や割合を指すものがカバレッジです。高いカバレッジは、より多くの対象に届いていることを表します。

貢献度: マーケティングコミュニケーションが、他のコミュニケーションの露出を受けていない消費者から、望ましい反応とコミュニケーション効果を引き出す力のことを、ケラーは貢献度としています。

共通性: 異なるコミュニケーション手段によって伝達される共通の情報が、コミュニケーション手段どおしで、どれくらい同じ意味を共有しているのかを示すもので、属性の共有ともいわれています。幾つものコミュニケーション手段が、どれだけ共通の連想を強化しているか、どれだけ容易に連想されるかなど、ブランドイメージの一貫性とまとまりを表すものとして重要な基準です。

補完性: コミュニケーションは、複数の手段と連携させて使うことで、効果が高まる場合が多いといわれています。補完性または相互補完性とは、異なる連想と関連性が、コミュニケーションを横断して強まる度合いのことを指しています。

バーサティリティ(多用途性): コミュニケーション手段が異なる消費者集団のいずれに対しても、効果的に伝えられるかということを表します。ある集団は、すでに当該ブランドに対して別のコミュニケーション手段で接したことがある一方で、別の集団はそもそも当該ブランドに関するコミュニケーション手段に接したことがない、そういった場合でも両方の集団に対して、コミュニケーションがうまく作用することを、バーサティリティが強いといいます。

コスト: 各コミュニケーション手段に要する費用のことで、各手段を比較検討します。


マーケティングコミュニケーションを判定する時は、たとえば、縦軸に各コミュニケーション手段(大分類として、広告、SP、PR、人的販売、ダイレクトマーケティング)、横軸に6つの基準(カバレッジ、貢献度、共通性、補完性、バーサティリティ、コスト)をおき、最も良いものを星3つ、次を2つ、適切でないものを1つといったように一覧化します。但し、大分類の広告だけでは判定できないため、テレビ、ラジオ、ニュースサイト、SNS、グーグル検索エンジン、新聞、雑誌、チラシといったように、手段は細分化していく必要があります。

この判定は、実際にコミュニケーションプログラムを実行する前に、各手段を評価し、優先順位付けを行います。リソースは有限ですから、事前に行うことが当然です。また、各コミュニケーション手段には、それぞれに仮説をおいて検討してきているはずですから、その確認の意味で必要でしょう。

評価については、上記6つの基準を適用し、コミュニケーションの目的達成に向けて、それぞれの有効性を予め判断しておきます。注意事項として、貢献度と補完性には固有の違いがあるとは限らないこと。各手段はそれなりにコストがかかることなどをケラーは挙げています。

優先順位付けについては、担当者の判定そのものが(どのようなやり方をしても)主観的にならざるをえないため、複数人による協議制で決めていくのがよい場合もあるでしょう。コミュニケーションの目的が明確であればあるほど、優先順位は適切に行われることになります。但し、ケラーは共通性と補完性、バーサティリティと補完性については、それぞれの関係がトレードオフになることがあるとしています。

このように、様々な手段があるコミュニケーションの優先順位付けを、IMCの観点で、6つの基準を用いてモレなくダブリなく行うこと自体、本来、少々無理がありますので、そこは完璧を求めず、判定していくというのが現実的だろうと思います。


4/02/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその12

今回は、コミュニケーションを効果的に行うための8つのステップの7番目コミュニケーションの効果測定」からです。前回までは、以下をご覧ください。

1「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」(プロモーションその7)

「コミュケーション目的の設定」(プロモーションその8)

「コミュニケーションの設計」(プロモーションその8)

「コミュニケーション・チャネルの選択」(プロモーションその9)

「コミュニケーション予算の決定」(プロモーションその10)

「コミュニケーションミックスの選択と予算配分」(プロモーションその11)


7「コミュニケーションの効果測定

コミュニケーションの計画を実行すれば、コミュニケーションメッセージの結果を測定する必要があります。メッセージは、コミュニケーションの目的やプロダクト/ブランドが獲得したいポジションを主張する言葉で表現されたものであるべきです。主張を明確にするためには、表現に関するアイデアやコンセプト、戦略が練られていなければなりません。

本来、プロダクトコンセプトには表現コンセプトが含まれているべきです。表現に関するコンセプトテストを行っていれば、その後のマーケティングミックスにおけるコミュニケーションの効果も測定しやすいものになります。

プロダクトの発売に先駆けて、エリア限定でテスト販売することはよくあることです。この段階で、効果を測定し、テスト結果が思わしくなければ、追加の資金を投入することなく、取組みを中止することもあるでしょう。このテスト販売で、選定したターゲットオーディエンスに、次のような内容でメッセージの効果を検証します。

メッセージを認識したか、ユニークさはあるか、何回見たか、覚えているか、どのように思ったか、気に入ったか、強い印象を感じたか、プロダクトは購入したか、誰かに薦めたか等々、メッセージの内容理解、好感、興味、全体の出来栄えなどを確認します。

ここで重要なことは、仮にテスト販売の結果が思わしくなかった場合、その理由が、主にメッセージや表現に問題があったからなのか、或いはそもそもプロダクト自体がターゲットオーディエンスの期待に応えられなかったのかということを把握しなければならないということです。

コミュニケーションの効果測定は、これまで多くの議論を呼んできました。というのも、調査の有効性についての判断が、人の立場によって大きく異なるためです。そういうこともあってか、日本ではあまり効果検証が十分に行われてきませんでした。

特に、クリエイティビティが非常に重視される広告の場合は尚更です。今でも実際に行われていることですが、某大手有名消費財メーカーの場合などは、商品のアイデア創出やコンセプト開発そのものを、大手広告代理店同士が競い合って行い、見事勝ち抜いた代理店がまるごと当該メーカーの広告を受注します。このような状況では、広告効果の把握は勿論のこと、コミュニケーション効果を、作り手(広告代理店ではなく、本件でいえばメーカー)の意志に沿って、検証することは不可能なことになるといわざるをえません。筆者もクリエーターの方は何人か知っていますし、自分の先輩が最大手の広告代理店に勤めていたり、後輩が今でも局長で頑張っていたりなど、知らないわけではないため、むやみに言うのもなんですが、クリエーター任せはもうやめるべきで、せめてUSP(Unique Selling Point)は自分たちで考えるべきだと思います。


8「コミュニケーションの評価

日常的な購買行動に該当することが多いルーチン的な関与(低関与)か、購買状況が広範囲に及ぶ関与(高関与)かによって、コミュニケーションは異なります(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその3)。

低関与(ルーチン的な関与)の場合、消費者はすでにプロダクトのカテゴリーをよく知っていて購入経験もあるため、コミュニケーションの役割は、消費者に試用してもらうというよりは、競合プロダクトから自社への変更や、自社プロダクトに対する購買習慣を強化することです。

高関与の場合は、競合プロダクトのベネフィット(機能的、情緒的、自己表現)を、消費者は調べています。そのため、ここでのコミュニケーションの役割は、消費者が、プロダクトについて学習し、自社に好感をもってもらい、購買につながるように、情報を提供することになります。このため、売上げが伸びるか、購買者数が増えるかが、主たる評価基準になります。

以上から、高関与の場合は、コミュニケーション投資が価値を生み出したかどうかの判断・評価は比較的容易といえるでしょう。一方、低関与の場合は、コミュニケーション支出の割には、売上げが目立って伸長することがそう多くないことが予想されるため、評価が難しいものになります。

とりわけ成熟化した、或いはコモディティ化した低関与のプロダクトカテゴリーでは、コミュニケーション予算を大きく減らしたとしても、売上げはさほど低下しないばかりか、利益が増大する可能性さえあります。こういった場合、財務部門や経営陣からマーケティング部門に対して、コミュニケーション投資の打ち切りや、予算の減額を要請されることがあるでしょう。もしそういう状況になれば、コミュニケーションの評価などまっとうにしなければよかったのにと思うことがあるかもしれません。それでも、そこは発想を少し変えて、次のように考えるてみるのも一案です。

会社が要請する短期的な利益改善に従えば、売上げの落ち込みはわずか(たとえば5%)かもしれません。単年度ではその程度で済むでしょうが、引き続きSPなどの投資さえしなくなるとすれば、売上げは下降の一途をたどるのは明らかで、そうなると小売店頭で確保している陳列スペースを手放すことになるのは時間の問題です。それでも、売上げは減り、市場シェアが低下しても、利益が出ているうちはいいかもしれません。ですが、2年目以降、維持できるのは利益率だけで、利益高も大きく前年割れとなり、キャッシュフローが大幅に減ることになれば元も子もありません

そうなることが予想できるのであれば、むしろ販売価格を引き上げて、プロダクトブランドのイメージを毀損させないようにするほうがいいでしょう。プロモーション投資を控えるばかりが、利益の維持または押し上げにつながるわけではありません。価格を見直すことのほうが、プロダクトとして生き残これる選択肢を多く持てるはずだと筆者は思います。

続きは、次回とさせていただきます。


3/24/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその11

前回は、コミュニケーションを効果的に行うための8つのステップの6番目コミュニケーションミックスの選択と予算配分」における「選択」について述べました。今回は、「予算配分」についてです。


6.「コミュニケーションミックスの選択と予算配分」(続き)

コミュニケーションミックスの予算配分は、次のaからeの要素によって決定されます。

a) 企業の目的

b)ターゲット市場の特性

c)プロダクトのタイプ

d)消費者の購買段階

e)プッシュ戦略とプル戦略


a)企業の目的: プロダクト市場での知名度向上を企図するのであればPRか広告を、多くの人に試用してもらいたいのであればプロモーションを、というように企業の目的によって、選択するコミュニケーション手段は変わります。

企業の市場ポジションも、目的設定を検討する上で重要な要素になります。リーダーとチャレンジャーやニッチャーでは、目的自体が異なるものになるはずです。あと、当然のことながら、企業に十分な資金があれば、マス広告は選択できますが、そうでなければ費用が少なくて済むPRをうまく使うことになるでしょう。


b)ターゲット市場の特性: ターゲット市場における見込み客の数が少なかったり、プロダクトの説明に十分な時間をかけるほうが実売につながる確度が高まるのであれば、訪問販売などによる人的販売が効果的です。数が多ければ、PRや広告のほうが適切でしょう。


c)プロダクトのタイプ: プロダクトが高額であったり、購入検討にあたり専門的な知識が求められる場合は、通常、人的販売のほうがより適しています。一方、日常で使用するバストイレタリー製品や、何処の家庭にでもある一般的な食品調味料などであれば、プロモーションや広告に注力するのが妥当でしょう。

プロダクトのライフサイクルも重要です。プロダクトがライフサイクルのどの段階にあるかで、コミュニケーション手段の効果が異なってきます。プロダクトの導入期であれば、全てのコミュニケーション手段が重要なものとなり、それらを効果的に組み合わせることが必要です。なかでも、広告とPRは、プロダクトの認知度向上に特に重要な役割を果たします。

成長期には、消費財製品などであれば、小売店頭での人的販売で試用機会を拡張させたり、口コミを活用するなどして需要をさらに広げていくことになります。この段階では、プロダクトの売上げが伸びていくために、小売流通企業に対する協力金などインセンティブの必要性は減少します。成熟期では、広告によるブランド力の維持に努めたり、イベントやSP、人的販売をとおして市場への浸透をはかります。衰退期では、SPは引き続き重要な手段として残りますが、それ以外は縮小または中止していくのが一般的です。


d)消費者の購買段階: コトラーとケラーは、プロダクトの認知段階では広告とPRが最も重要な役割を果たし、消費者の理解を求める段階では広告と人的販売が、消費者が確信する段階では人的販売が威力を発揮すると述べています。また、最終的に販売(リピート購入含む)を成立させるのは、主として人的販売とSPだとしています。


e)プッシュ戦略とプル戦略: プッシュ戦略とは、小売卸売企業への販促資金投下などのプロモーションを行うなど、流通チャネルをとおしてプロダクトをプッシュしていくやり方です。プル戦略とは、消費者の需要を喚起するために、広告やイベント、消費者向けのプロモーションを行い、流通チャネルをとおしてプロダクトをプルするやり方です。このプルというのは、消費者の需要が流通シャネルをとおしてプロダクトを引く或いは引きつける(プル)ためです。

多くの企業が、プッシュとプルの両方を用いますが、消費財の小事事業者はプル戦略のほうを多用しているように思われます。国内では、小売企業に対して販促資金などをそれほど提供しなくても、プル戦略によって、新商品のユニークなベネフィットをうまく訴求できれば、少なくとも一度は取扱いの機会を得られる可能性が高くなるからです。


コミュニケーション投資を効果的なものにするためには、コミュニケーションミックスの多様な要素を、共通の目的のもとに統合しなければなりません。このためには、マーケティング・コミュニケーションの予算を一本化し、コミュニケーション投資に責任を持つマネージャーを配置することが必要です。コミュニケーションチームを編成し、戦略策定と実行の方法を検討します。そして全社的な目標を基準にして、コミュニケーション戦略の結果を上席のディレクターが評価します。かつて最強と謳われた世界有数の広告主であったP&Gが、行っていたことのひとつがこのやり方でした。

次回は、7つめのステップ「コミュニケーションの効果測定」についてです。


3/16/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその10

今回は、コミュニケーション開発を効果的に行うための8つのステップの5番目と6番目についてです。4番目までのステップについては、以下をご覧ください。1市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化、2コミュニケーション目的の設定、3コミュニケーションの設計、4コミュニケーション・チャネルの選択


5「コミュニケーション予算の決定

マーケティング・コミュニケーションの予算は、業界によって、企業によってまちまちですが、多くは売上高の1%から20%くらいを占めています。ただ、化粧品業界の場合、国内企業であれば売上げの15-20%くらいを占めている一方で、海外企業では30-50%にもなるとのことで、業界特性があるとはいえ、その大きさには驚かされます。

コミュニケーション予算の決め方は、前年度の予算を一定割合で増額する増額予算法、現在の売上げまたは予測売上げに対して一定割合をコミュニケーションにあてる売上高比率法、競合他社の支出割合に合わせる競争者対抗法などがあります。

これら3つの手法は、コミュニケーション支出が売上げやキャッシュにどのような影響を及ぼすかということは考慮していません。とはいえ、キャッシュフローベースで予算編成を行うやり方では、キャッシュの確保を重視しがちになるために、積極的なコミュニケーション投資が抑制され、機会損失を招く可能性が高まったり、そもそも計算自体が複雑になるといったデメリットがあります。そこで、妥当性のある予算設定の方法として挙げられるのが目標基準法です。


目標基準法は、コミュニケーションの具体的な目標を設定し、目標達成のために行うタスクを考え、その実行に要するコストを推計するというやり方です。目標基準法のすすめ方は、次のようなものです。

市場シェアの目標値を定める。コミュニケーションで到達可能な市場比率を決める③新しいプロダクト/ブランドを認知し、実際に試用してもらう見込み客の比率を設定する。④試用率1%あたりのコミュニケーションの露出回数を決める。GRP(Gross Rating Point)を決定する。GRPに基づいた必要予算を確定する。

目標基準法の問題は、多くの場合、どのタスクがどの目標を達成するかを明確にすることが難しく、市場シェアの目標値、試用率、目標GRP等の設定に正当性を持たせることが容易ではないとされています。けれども、経営者は取り組まなければならないということにはなります・・・。


6.「コミュニケーションミックスの選択と予算配分

予算は、広告、SP(セールスプロモーション)、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングなどの様々なコミュニケーション・チャネルに配分します。IMCの考え方に基づけば、多様なプロモーションは、その組み合わせが調和を保てるように統合されなければなりません。広告、SP、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングについての特徴は、次のブログをご覧ください(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1プロモーションその2)。

ところでマーケティングの大家の一人であるアルライズは、2002年に米国で著した『ブランドは広告でつくれない』の中で、消費者からの信頼獲得と購入(または利用)の動機づけを狙いとしたブランド構築において、広告はもはや不適格なもので、PRこそがより優れたコミュニケーション手段であると述べています。また、ブランド構築を成功させるためには、PRのあらゆる可能性を試した後でなければ、広告は絶対に使用するなとまでいっています。

広告業界で頻繁に使われている言葉に、クリエイティビティがあります。ライズは、クリエイティビティの一般的な定義(新しくて今までになかったものを探求すること)に触れ、つまるところクリエイティビティは独創性を非常に重視するものだと指摘しています。けれども、この「新しくて、今までにはなかったもの」ではブランドを守ることはできず、消費者がブランドをひとたび認識すれば、消費者心理に共鳴することこそ必要であり、独創的であるクリエイティビティはブランドには不要であると述べています。

その事例(広告ではなくPRによるマーケティングの成功例)として、ライズはマイクロソフト、インテル、アマゾン・ドットコム、ヤフー、リナックス、スターバックス、ザ・ボディ・ショップなど、今日、世界的に知られているブランドの数々を挙げています。今となっては四半世紀前の主張ですが、現在でも十分通用するばかりか、ライズの主張を立証するより多くのエビデンスがあるように思います。

コミュニケーションミックスの予算配分については、次回にしたいと思います。


3/09/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその9

ここまでは、コミュニケーションを効果的に行うための8つのステップのうち、最初の3ステップについて述べました。1市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化、2コミュニケーション目的の設定、3コミュニケーションの設計。今回は、4ステップめのチャネルの選択についてです。


4「コミュニケーションチャネルの選択

プロモーションには多くの種類がありますが、組み合わせはどのようにすればよいのでしょうか。組み合わせ方のひとつに、前回(プロモーションその8)概説した心理上のプロセス(たとえばAIDMAなど)に沿って、つまり消費者の心理段階に合わせてプロモーションの方法を適用するというやり方があります。

たとえば、A(Attention)では、消費者の注意を引くため、認知度を上げていくために、広告やPRを使います。I(Interest)では、認知されても興味が薄いようであれば、広告やPR以外に、イベントやSPなども行いながら消費者の関心を惹きつけます。街角に著名人や芸能人が突然現れるといったイベントなどは、ターゲットの興味をかきたてるものです。

D(Desire)では、ニーズを喚起するため、SPやダイレクトマーケティング、人的販売などを組み合わせて、ターゲットセグメント毎にマッチするベネフィットをアピールしていきます。このDでは、販売現場の対応が重要になります。特に最寄り品をはじめ、シーズンに入ったばかりの衣料品、人気の高いAV機器やスマートフォンなどの新製品といった買回り品については、消費者の衝動買いや、ブランドの変更(ブランドスイッチ)が、売上げに大きな影響を与えます。そのため、店頭陳列の仕方、セールスパーソンの接客術、POP、景品、季節性を捉えた催事など、多様なSPを組み合わせることが必要で、他社との違いを見せていくことが重要です。(最寄り品、買回り品についてはこちらを参照してください→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3)

M(Memory)は、記憶を呼び覚ましたり、悩む消費者の背中を押せるような口コミや、SP、人的販売を用います。A(Action)は、購入/利用につながる具体的な機会を、SPや人的販売などで行います。心理段階でどれか1つのプロモーションだけを用いるということはまずなく、一般的には多くの手法を用いることが多いはずで、その典型が新車の販売になるでしょう。


或いは、上記のような一連の流れで捉えるのではなく、個別にチャネルを考えていくというやり方もあります。この場合は部署ごとにタスクをこなせるため、ある意味効率的ともいえ、実務では多く使われるかもしれません。ただ、最後にそれぞれを組み合わせて、ひとつのブレない、一貫性のあるメッセージにして発信することは難しくなるため、注意が必要です。


コミュニケーションの手段は、人的なチャネル、或いは非人的/ノンパーソナルなチャネルに分けて考え、そのいずれか或いは両方を選択します。

人的コミュニケーション・チャネルとは、コトラーによれば、複数、一対一問わず、対面、電話、eメール、手紙、チャット(AIによるものもこちらに含まれるものとします)、口コミなどの評価サイト、さらには企業や専門家のチャネルなども含めます。こういたチャネルを通したコミュニケーションは、消費者と直接コミュニケーションが行いやすく、且つフィードバックも得やすくなります。

非人的/ノンパーソナルコミュニケーション・チャネルとは、個人との直接的な接触やフィードバックは関係なく、コミュニケーションメッセージを届ける手段全般を指すものとコトラーはいっています。メディア、セールスプロモーション(SP)、イベントなどで、一人または複数の人に対するコミュニケーションの手段です。(なお、SPはやり方次第では、人的コミュニケーションになる場合もありますが、ここではノンパーソナルなチャネルとして捉えます。)

メディアには、新聞雑誌などの印刷媒体、テレビやラジオなどの放送媒体、衛星やケーブルなどのネットワーク媒体、ビデオなどの電子媒体、広告・看板・ポスターなどのディスプレイ媒体が挙げられます。セールスプロモーションには、サンプル、プレミア、クーポン、小売流通企業向けの販促奨励金などになります。

イベントとは、ターゲットオーディエンスに対して何らかのメッセージを伝達するために催されるもので、スポーツやアートなどの展示会をはじめ、招待/サービス/インセンティブ旅行、パーティ、広報による記者会見などが含まれます。イベントには人的側面が強く表れることがあるため、非人的コミュニケーション・チャネルという言い回しよりも、ノンパーソナル・コミュニケーション・チャネルという方がしっくりくるかもしれません。

なお、コトラーは、この非人的/ノンパーソナルコミュニケーション・チャネルに、雰囲気を含めていることがあります。プロダクトを購入/利用しようという気持ちにさせたりするような仕掛けや環境などを指しています。この雰囲気は、物理的環境/physical environmentという言葉に置き換えたほうが、よりふさわしいでしょう。メーカー以上に、サービス業ではコミュニケーションを行う上で、重視すべき不可欠な要素といえます(SMM (2)サービスの構成要素 ③サービスマーケティングミックス)。


人的、非人的問わず、コミュニケーションする相手が、自社または自社プロダクトをどのように見ているかによって、コミュニケーションメッセージの受け取り方は変わってきます。企業やプロダクトに対する信頼度が高ければ、メッセージを好意的に受けとめてくれるでしょうが、そうでなければ受け取り自体を拒否されることもあるため、コミュニケーション手段の選択には注意が必要です。

メッセージを伝達した後は、できればフィードバックを得たいものです。特に、重点ターゲットオーディエンスからでは尚更です。コミュニケーション担当者は、少なくとも、ターゲットの認知度と反応はおさえなければなりません。

たとえば、新興のITメーカーが発売したデバイスに関するウェブ広告を打った場合、フィードバック調査の結果、ターゲットに据えたある地域に住むアニメ好きの10代の85%がその広告を見て、そのうちの60%がそのデバイスを家電量販店などで試用したけれども、実際の購入にはその60%のうちの5%しかいなかったとしましょう。この場合は、プロモーション自体は認知度向上の点では成功しているといえますが、プロダクトの実売につながったとは言い難いでしょうから、製品自体を改善するか、或いは顧客接点を改良する必要があると考えられます。もしこれが仮に、10代の20%しか広告は見ていないが、その75%が購入しているという結果であったとすれば、実売につながるだけの魅力が製品にはあると判断できる一方で、認知度の大幅な向上を企図したプロモーションプログラムを練らなければならない必要があることがわかります。


IMC(統合型マーケティング/Integrated Marketing Communications)を提唱したといわれているドン・シュルツは、企業は多数あるコミュニケーション・チャネルを統合して、それぞれを調整しながら、一貫性のある説得力に富んだ明快なメッセージを発信しなければならないと説いています。ここでいうコミュニケーション・チャネルとは、主として、広告、セールスプロモーション、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングの5大要素を組合せたプロモーションミックス(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1)を指しますが、多種多様なチャネルを全てシームレスに統合することを、IMCは企図しています。ロシターとパーシーは、IMCは次の3点を行うことと簡潔に定義しています。

①適切なタイプの広告とプロモーションを選択的に組み合わせること(現実には、多くの企業が別々に行い、それぞれが意思決定している)。

②ブランド独自のマクロのポジショニングを支援するものであること。

③顧客に対しては、時間の経過による変化が起こっても、一貫したコミュニケーションを行うこと。


次回は、5番目のステップ「コミュニケーション予算の決定」についてです。



3/02/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその8

前回は、コミュニケーションを効果的に行うための8つのステップのうち、最初の「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」について述べました。今回は、2つめのステップ「コミュニケーション目的の設定」と、3つめの「コミュニケーションの設計」についてです。


2「コミュニケーションの目的設定」では、マーケティング/ブランド担当者は、コミュニケーションをとおして、ターゲットオーディエンスからどのような反応を得たいのかを、はじめにはっきりさせなければなりません。通常であれば担当者が望むオーディエンスの反応は、プロダクトの購入/利用になるはずです。けれどもコミュニケーションには一定の時間を要します。一般的に言って、メッセージの受信者が、すぐにプロダクトを購入/利用するということは稀なことです。このため担当者は、受信者の心理上のプロセスを見極めることが重要になります。


心理上のプロセスを検討するのに役立つものとして、よく知られているものにAIDMAというフレームワークがあります。Attention/注意、Interest/興味、Desire/欲求、Memory/記憶、Action/行動、これら5つの頭文字を取った用語で、アナログ時代の消費者行動を読み解く基本として活用されてきました。消費者は、まずプロダクトの存在を知り、興味を抱き、欲しいと思うようになり、それを記憶して、最終的に購入/利用に至るというもので、Attentionは認知の段階、Interest、Desire、Memoryは感情の段階、Actionは行動の段階になります。(なお、AIDMAのMを除いたAIDAというフレームワークもあり、人によってはこちらのほうがよりシンプルで使いやすいかもしれません。)

オーディエンスがプロダクトを知らなければ、Aでは、注意を引くように、認知度を上げていくようにしなければなりません。Iでは、認知されていても興味がないようであれば、興味を持ってもらえるように、プロダクトの特性などを訴求することで、関心を惹きつけるようにします。Dでは、興味があってもプロダクトを欲しいと思ってはいないため、ニーズを喚起していきます。Mは欲しいと思ったことを忘れてしまっているため、記憶を呼び起こす必要があります。そして、最後のAでは、購入/利用のアクションにつながる具体的な機会を提供することで、オーディエンスに行動を起こしてもらうようにします。

このように、マーケティング/ブランド担当者は、オーディエンスがどの段階にあるかを見極めて、コミュニケーションする必要があり、見込みのあるオーディエンスの頭(または心)の中に、ポジショニングできるようにしていきます。


アナログ的なAIDMAに対して、電通が提唱したAISASというインターネット上での購買行動の心理モデルがあります。Attention/注意、Interest/興味は同じですが、次にSearch/検索、その後Action/行動、最後にShare/共有というながれになります。

AIDMA、AISAS、または他のいかなるフレームワークを用いようとも、重要なことは、ターゲットオーディエンスが、購入/利用に至る過程で、今はどの段階にいて、次はどこへ持っていくのが良いのかを把握しておかなければならないということです。そうでなければ、的確なコミュニケーションなどできるはずがありませんし、ましてやプロダクト/ブランド・ポジションなど確立しようもないからです。


ポジショニングの3段階手法を提唱したジョン・R. ロシターとラリー・パーシーは、コミュニケーション目的の選択は、カテゴリーニーズ、ブランド認知、ブランド態度、ブランド購買意図、購買促進という5つの基本的なコミュニケーション効果に関する選択肢から行われると述べています。

(3段階手法については、こちらをご覧ください→ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法i X-YZモデルその13段階手法ii X-YZモデルその23段階手法iii I-D-Uモデルその13段階手法iv I-D-Uモデルその23段階手法v a-b-eモデルその13段階手法vi a-b-eモデルその23段階手法vii ポジショニング・ステートメント3段階手法viii まとめ)


3「コミュニケーションの設計」では、何を、どのように、発信するかを決めていきます。「何を」はメッセージ、「どのように」はクリエイティブで、この2つをいかに組み合わせるかということになります。

メッセージは、AIDMAのながれのように、消費者を惹きつけることができれば理想的でしょう。マーケティングコミュニケーション担当は、メッセージを創るにあたり、何を(メッセージの内容)、どのように(メッセージの構造と形式)語るのかを決めなければなりません。

コトラーはこれらについて、メッセージ特に広告には、機能訴求、情緒訴求、倫理訴求という3つの訴求があると述べています。

メッセージの構造では、3つの点を検討する必要があります。広告主が結論を引き出すのか、或いは問いかけをするにとどまり、購買者が結論を出すようにするのかが1点めです。2点めは、主張はプロダクトの良い点だけにするのか、または長短どちらも行うのか。3点めは、最も強い主張をはじめに持ってくるのか、最後にまわすのかということです。

メッセージや表現アイデアについては様々な理論がありますが、経営/ビジネスコンサルタントである筆者が述べるのはあまり適切なことだとは思いませんので(広告クリエーターの人たちが語るべき)、コミュニケーションの設計については、これで終わりにしたいと思います。次回は、4つめのステップ「コミュニケーションチャネルの選択」から始めます。


2/24/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその7

今回からは、プロモーションにおけるコミュニケーション開発について述べていきます。これまでのプロモーションに関する本ブログの内容は、次のとおりです。 プロモーションその1(プロモーションミックス①)その2(プロモーションミックス②)その3(コミュニケーションの前提)その4(マクロモデル)その5(購買者の意思決定プロセス①)その6(購買者の意思決定プロセス②)


マーケティング/ブランド担当者は通常、コミュニケーションを、自社の顧客とターゲットにしている消費者や見込客に対して、自社のプロダクト(製品、サービス)を購入/利用してもらうように説得するための手段として捉えています。


これを効果的に行うためには、以下の8つのステップで、コミュニケーションの開発をすすめ、管理していきます

1. 市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化

2. コミュニケーションの目的設定

3. コミュニケーションの設計

4. コミュニケーションチャネルの選択

5. コミュニケーション予算の決定

6. コミュニケーションミックスの選択と予算配分

7. コミュニケーションの効果測定

8. コミュニケーションの評価


1「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」ですべきことは、ターゲットに据えたオーディエンスが誰かということをハッキリさせることです。ターゲットが明確でなければ、効果的なコミュニケーションを成立させることはできません。


ターゲットにするオーディエンスについては、ざっくりいっても、既存顧客なのか新規なのか、既存であればどういった利用者なのか(たとえばヘビーかライトなど)、新規であれば対象とするプロダクトの認知度やイメージはどうなのか(どれくらい知っているのか、それとも聞いたこともないのかなど)、また、購入/利用についての意思決定権を持った人なのか或いはそうでないのかといったことが見えていなければなりません。もし見えづらいのであれば、そういった対象をイメージしておく必要があります。ビヘイビアルサイコグラフィックに関係するものは、必ずおさえなければなりません。それ以外のジオグラフィックデモグラフィックの基本的な変数(ブランディング (3)セグメンテーション ①主旨と要件)はいうまでもないでしょう

仮に、その対象が、新規でプロダクトや企業に対して、よくない印象を持っているとすれば、それを払しょくさせなければなりません。ただ、前回のブログで述べたとおり、人は第一印象をなかなか拭いさるのは難しく、またいったん身についた固定観念を捨て去るのは容易ではありません(プロモーションその6(購買者の意思決定プロセス②)。このため、悪い印象を吹き飛ばして、一新させることができるような情報を、状況に応じて受信者に影響力のある人を選定しながら、継続的に発信することが必要です。

コミュニケーションのプロフィールは、はっきりとさせなければなりません。それはとりもなおさず、コミュニケーションの受信者に対して、自社及び自社プロダクトはどのような強みを持ち、どういった弱みを克服しなければならないのかを明らかにしなければならないからです。そのためプロダクトの特徴やメッセージがどれだけ理解されているのか、どのように顧客が受けとめているのかをまず把握することが前提になります。


次に、購買プロセスをおさえて、ターゲット顧客に対する最適なメッセージとメディアに関する理解を、深めることが必要になります。メッセージを効果的に伝達する手段をつきとめることです。そのため、上記4つの大きな変数(ジオグラフィック、デモグラフィック、サイコグラフィック、ビヘイビアル)のうち、ビヘイビアル/行動をしっかりおさえることが重要となります。

ビヘイビアル変数は、(上記の繰り返しになる部分はありますが)購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライトなどの使用頻度、品質・サービス・プレステージ・経済性・利便性・迅速性などのベネフィットの捉え方、購買や返品に関するパターンや仕方等が含まれます。どういうタイプの人たちが、自社プロダクトを購入/利用しているのか、或いはしてもらいたいのか、何故それを購入/利用しているのかといった理由に加え、使用/利用方法とその頻度、場所などを調査する必要があります。

そして、当該プロダクトがおかれている現状がどういうもので、将来どれくらいの売上げ、利益、キャッシュを生み出せるのかを見極めます。これには、オーソドックスな手法にはなりますが、市場セグメントの魅力度とビジネスポジション(競争における差別化要因や優位性)で検討するのが、シンプルで分かり易いのではと思います(ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価iiiブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場)。


次のステップへ進む前に、マーケティング/ブランド担当者は、コミュニケーションの9つの要素である発信者と受信者、エンコーディングとデコーディング、メッセージと媒体、反応とフィードバック、ノイズについて再度確認しておいたほうがいいでしょう(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその4)。

次回は、コミュニケーション8つのステップの2つめにあたる「コミュニケーションの目的設定」から始めたいと思います。



2/16/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその6

前回(プロモーションその5)は、購買者の意思決定プロセスには5つの段階があり、最初の「問題認識(または、ニーズ認識)」、2つめの「情報探索」、3つめの「代替品の評価」について述べました今回は、残りの「購買決定」と「購買後の行動」についてです。


購買者の意思決定プロセス4つめの「購買決定」は、評価した代替品の中から1つのプロダクトを決めて、それを購入/利用する段階です。

ここでひとつ気をつけなければならないことは、現在のような異様な価格高騰が続いている状況下では、消費者は最も気に入った商品を購入するとは限らないということです。

また、今に始まったことではありませんが、日本国内の市場特性のひとつである人目を気にする消費者の存在にも注意を払う必要があります(ここでの人目を気にするというのは、何を買っているか、商品棚などで何を見ているかとか、それらの行為の最中に自分が周囲からどのように見られているのかといったこと)。

人目を必要以上に気にする消費者があまりにも多いため、自分が(心の中で)選んだもの(生活レベルに即して買うべきものや必要なもの)とは明らかに違うものを、結果的に購入/利用するという現象には留意すべきです。こういう状況が常態化すると、人目を気にする消費者は、始めからモノの評価(代替品の評価)をすることなく、周囲の購買行動に合わせるということになっていきます。


このような謂わば単純化されたやり方、ヒューリスティックな思考で、プロダクトの購買を決定することが、今日では珍しくありません(ヒューリスティックについては、問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠i)。コトラーとケラーは、消費者のメンタル・ショートカットとして、以下のヒューリスティックを紹介しています。

連結型ヒューリスティック: 消費者が最低限許容できる基準を設定し、それを満たすプロダクトがあれば購入するという選択の仕方

辞書編纂型ヒューリスティック: 消費者が最も重視する属性を備えたプロダクトの中で、最上位のものを選択するというやり方

属性排除型ヒューリスティック: 消費者にとって重要度の高い属性1つを取り上げてプロダクトを比較し、当該属性で許容水準に達しないプロダクトは排除するという方法

これら3つのヒューリスティック以外にも、今日のような極端なインフレが続いている社会状況では、低価格重視のヒューリスティックが存在すると筆者は思います。プロダクトが低価格であれば、迷うことなく、或いは自動的に、品質は度外視して選択するという購買スタイルです。何十年も前から存在していたとは思いますが、今日ではより顕著になっているといえるでしょう。


こういったヒューリスティックは、単純化された経験則やメンタルの近道のため、バイアス(偏見)を生むことが少なくありません。最もよく知られているものに、利用可能性ヒューリスティックがもたらすバイアスがあります(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠i③思考の罠v)。これは、想起しやすいもの、利用しやすい事柄を優先して判断することによるバイアスです。

たとえば、近年では季節をあまり問わずに食中毒が発生しています。仮に、個人経営のレストランか旅館で食中毒が発生したというニュースがあったとしましょう。これを見たある消費者が、個人経営は食中毒発生のリスクが高いと過剰に捉え、ある程度の規模を擁するチェーン形式のレストランや旅館を選択する方が安全だと考え、チェーン形式のほうを(内容をあまり検討することなく、ある意味やみくも的に)選択するといったことにつながります。

実際のところは、個人経営のほうがより多くの食中毒を発生させているかどうかはわかりません。けれども、その消費者にとっては、情報の新しさであったり、記憶の鮮度が高いといったことが思考に影響を与えることによって、チェーンを選ぶという意思決定につながります

ほかには、たとえばある特定の電気製品は3年を過ぎたら故障する可能性が高いとされているため(実際は、故障した製品が当該製品全体の0.1%にも満たない結果であったとしても)、5年の保証期間がついたものを消費者は選択したがるといったことも、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスの典型例として挙げられるでしょう。


利用可能性ヒューリスティックによるバイアス以外でよく知られているものに、代表性ヒューリスティックというのがあります。これは、人は特定の個人や物事に対して判断する時は、その人自身が持つ固定観念に合う特性を見つけようとする傾向があるということを表します。この代表性ヒューリスティックは、はじめにおおよそのところで正解の方向を示してくれるといわれている一方で、大きな誤りをもたらすこともあるとされています。また、このヒューリスティックは、意識、無意識に関係なく発動するともいわれており、人種差別などはその代表例に挙げられます。

人はデータや情報が不足している時のみならず、ほかに適切な利用可能な情報があったとしても、代表的な情報を信用してしまうといった深刻な誤りをもたらす、このようなバイアスで特定の人や物事を判断してしまうことが珍しくないといわれています。

たとえば、高齢で少しくたびれた感じの男性が、高級輸入車の販売店にやってきたとしましょう。その男性は毛玉とりを何度もしたかのようなウール地のカーディガンを着ています。そのカーディガンは、長年クリーニングに出し続けてきたかのようで、薄っぺらく着古されたものに、周囲には見えています。しかもその男性は、その店に、電車とバスを使って一人でやってきているとしたら、その店の営業パーソンはその人をどのように見るでしょうか。営業パーソンの何割くらいが、その男性に客としての魅力を感じるでしょうか。実はその男性は、神戸市東灘区に住む日本でも有数の資産家で、外出時はできる限り目立たないように振る舞っていたとすればどうでしょうか。もし、営業パーソンがその男性の着ている薄っぺらいカーディガンが最高級のカシミアであることに気づいていたら、応対の仕方は変わったかもしれません。一人で来店しているのも、いつもお付きの人がいるので、たまには一人で外出したかったのかもしれません。

別の例を挙げると、大手小売企業が販売しているものを、無条件で信用している人が一定割合存在しているのはよく知られていることです。けれども、(全ての大手がそうではありませんが)品質的には決して安心できるものではなかったり、賞味期限を改ざんしていたり、同一商品カテゴリーでもっと良い品があるにも関わらず、それらは商品仕入時の値入率(利益率)や条件が当該大手小売企業には良くないために店頭には並ばないといったようなことは珍しくありません。ですが、消費者はその小売企業が日本でも有数の規模で全国展開しているというただそれだけの理由で、盲目的なくらいに信用しているといったことも、代表性ヒューリスティックに起因するバイアスです。このように、代表性ヒューリスティックは、有用な意思決定の仕方であるといわれている一方で、多用しすぎると大きな機会損失やしっぺ返しなどにつながります。


もうひとつヒューリスティックのタイプを挙げると、感情ヒューリスティックというのがあります。人が行う判断の多くは、論理的に思考する前に(或いは、論理思考などはまったくせずに)、良し悪しとか、購入するしないを感情に頼って決めている場合が多くあり、昨今の日本市場では特に顕著に観察できるものです。そして、人は自分の得になることを過大に評価し、損失やリスク発生要因は過少に評価するか、そもそも見逃してしまいます。また、いつまでも第一印象に固執しやすいという研究結果もあります。普通に考えれば、時間をかけて相手のことがわかっていくにつれ、第一印象は薄れていきそうなものですが、そうでないケースが多くあるということです。

感情ヒューリスティックは人の低い次元の感覚に訴えて、対象の全体の姿や、複雑なシステムに内在されているマイナスの面を無視するといわれています。今日のデジタル時代では、ふつうに存在する何らかの意図をもった情報源の実態(恐ろしさ)、そういったものに気づいた時には、私たちは感情で即断してしまうのではなく、また第一印象で決めてしまうのでもなく、事実を積み上げて、全体像をしっかり見て判断する必要があります。このようなヒューリスティックについては、あらためて別の機会に取り上げたいと思います。


最後、5つめの「購買後の行動」とは、プロダクト購入/利用後に、感じた満足感や不平不満などに基づいて、消費者がとる行動の段階になります。どれくらいの満足を感じるか、或いは不満を抱くかといったことは、消費者がプロダクトの購入/利用前に思い描いた期待との差といえます。期待が大きかったにも関わらず、得られたものが少なければ大きな不満となるでしょう。

マーケティング/ブランド担当者がすべきことのひとつに、購買後の満足度の調査、モニタリングがあります。新規顧客の獲得は容易ではなく、既存顧客を維持し、継続購買につなげていくことが、安定的な売上向上とブランド構築の強化には欠かせません。本来であれば、プロダクトの購入/利用前に、消費者が期待する値をコントロールすることが望ましく、実際のプロダクトパフォーマンスどおりに、プロダクトをアピールしなければなりません。そう考えると、現在の企業や自治体、お店のホームページやプロモーションなどは、直ちに見直すべきということになるでしょう(あまりにも、極端な、見せかけだけのものが多すぎるからです)。

コンサルティングビジネスでは、シニアクラスのコンサルタントはクライアントの期待値をコントロールすることが、すべきことのひとつです。期待値をいかに管理していくか、これについては、また機会を見て触れてみたいと思います。次回は、消費者を対象としたコミュニケーションプロセスについてです。


2/09/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその5

前回(プロモーションその4)は、マーケティングコミュニケーションのマクロモデルと、知覚の3タイプ(選択的注意、選択的歪曲、選択的記憶)について述べました。知覚は消費者心理のひとつですが、ほかに、動機、学習、記憶があります。マーケティングプロモーションにおけるコミュニケーションの開発とそのながれについて検討していく前に、はじめに消費者心理について、簡単に触れておきたいと思います


消費者心理のながれは、最初が「動機」、次に「知覚」、その後に「学習」、最後が「記憶」です。動機は、人が持つ数あるニーズの中で、実際の行動を起こすレベルに達したものを指します。学習は、知識の習得など、様々な経験をとおして、行動が変化する過程のことをいいます。記憶は、脳に蓄積された過去の経験や情報を思い出すことです。消費者心理のながれをとおして、人は行動や学習によって、信念や態度を形成していくことがわかります。このように、消費者の行動というのは、多くのこと(4つの消費者心理と、文化的・社会的・個人的な消費者特性)から影響を受けることになります


それではここから、人がプロダクトを購入しようとする時、どのようにして決定するのかを見ていきます。

購買者の意思決定プロセスには、一般的にいえば5つの段階があるといわれています。「問題認識(または、ニーズ認識)」→「情報探索」→「代替品の評価」→「購買決定」→「購買後の行動」です。

但し全ての消費者が、プロダクト購入時に、必ずこのながれに従うというわけではありません。たとえば、いつもこだわって買っているポン酢があるとすれば、その場合は問題認識から一気に購買決定へと進むでしょう。ただ通常、この5段階はプロダクトに対して高い関与を持つ場合の全ての動きをおさえていると言われています。


購買プロセスは、問題やニーズを認識した時が起点となります。この時点で、消費者は、自分のおかれている状況と、望んでいる状況との違いを感じるということになります。なおこの「問題認識」には、空腹や眠気といったような自身の内的刺激と、人によりますが、たとえば映画を観て俳優が着こなすコートが欲しくなったり、知人が乗っているスポーツカーを羨ましいと感じたりするといった外的刺激の2種類があるとされています。

内的と外的に違いはありますが、どちらも問題認識が購買意欲を喚起するきっかけになる点で共通しています。この段階では、マーケティング/ブランド担当者は、どういう問題やニーズが起こっているのか、それらが生まれた背景にはどういったものがあるのかということを、仮説をもって調査を行い、明らかにする必要があります。こういう調査をとおして(仮説を検証する調査を行うことで)、自社プロダクトの購買/利用に対する消費者の動機を高められるマーケティング戦略を展開できるようになります。


2番めの「情報探索」では、問題やニーズを感じた消費者が、自ら情報を集める段階です。問題があっても、探索を一切しない人もいるでしょうが、ここでは通常、人は問題解決に向けたアクションである情報探索を行うことを前提として進めます。コトラーとケラーは、消費者の情報源には、個人的情報源、商業的情報源、公共的情報源、経験的情報源という4つに分類されると言っています。

以前は、マーケティング/ブランド担当者がコントロールできるものは商業的情報源であり、消費者の情報探索として最も効果的なものが家族、友人、隣人などの個人的情報源であると言われていました。今日、この個人的情報源に、見ず知らずの人のネット上の口コミを含めるとすれば、それは20世紀の個人的情報源とは、まったく質が異なるものになったといえるでしょう。

口コミを十羽一絡げに捉えるのはよくないにしても、それでも商業的な側面を否定することはできず、仮に口コミを商業的情報源に加えるとすれば、広告、ウェブサイト、販売員、ディスプレイなどを含めた商業的情報源が、現在では最も大きな情報源になるといえるでしょう。そう考えると、自社がターゲットにする消費者が重視する情報源が何で、何故それを重視しているのかを、予め把握しておくことが欠かせません。


3番めの「代替品の評価」は、消費者が情報を探索して選択した幾つかのプロダクトを評価する段階です。ここでのマーケティング/ブランド担当者にとっての問題は、評価の仕方は消費者ごとに異なることと、同じ消費者であってもプロダクトによって評価の仕方が変わってくるということです。そこで、我々が最低限気をつけなければならないことは、消費者の問題認識またはニーズ(購買者の意思決定プロセスの一番最初の段階)が、そもそもどういったものなのかを把握しておくことが不可欠であるということになります。

つまり、プロダクトの属性の一つまたはそれ以上の集まりがベネフィットを提供するという考え方に基づけば、どういったベネフィットを備えているプロダクトが評価対象になっているのかを、我々は調査しなければならないということになります。

ただ、ここで網羅的に属性やベネフィットを調べるというのは、あまり現実的とはいえないでしょう。というのも、消費者の多くはそもそも移り気です。仮にあれこれ考えたとしても、賢明な人は、結局、最も強い問題認識(またはニーズ)を解決しようとして、ひとつ(くらいのもの)に集中して評価する傾向があると、筆者は考えるからです。実際、多くの属性やベネフィットを訴求できたとしても、消費者に記憶されることは難しいからです。(属性とベネフィットについては、ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法v a-b-eモデルその1ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1)


次回は、「購買決定」から始めたいと思います。


2/02/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその4

前回までは、プロモーションミックスの5つの要素(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1その2)と、効果的なコミュニケーションを行う上でのおさえるべき事柄(その3)について概説しました。今回からは、幾つかのプロモーションを組み合せたコミュニケーションの開発とながれについて述べていきたいと思います。


開発とながれを検討する前に、コミュニケーションを構成する基本的な要素について、はじめに明らかにしておいた方がいいでしょう。フィリップ・コトラーとケビン・レーンケラーは共著『マーケティングマネジメント第12版』で、コミュニケーションプロセスのマクロモデルにおける要素を、以下のように9つ挙げています。

マクロモデルのフローは、発信者→エンコーディング→メッセージと媒体→デコーディング→受信者→反応→フィードバック→発信者、というサイクルです。


発信者とは、受信者にメッセージを送る者を指し、ビジネスの場合は多くが企業になります。受信者は、発信者から送られてきたメッセージを受け取る者で、消費者であったり、法人の顧客にあたります。

メッセージは、発信者が受信者に送る表現形態であり、企業のロゴやシンボルマークなども含まれます。メディアは、コミュニケーション媒体のことをいい、コミュニケーションツールであり、紙の雑誌やデジタルカタログなども含みます。

エンコーディングとは、データを一定の規則に基づいて目的の情報に変換する符号化のことで、発信者の思考を表現形態に変換する過程を表します。デコーディングは符号化された情報を元の状態に戻す処理のことをいい、受信者が言葉や絵などの表現形態を理解する過程を表します。

反応は、受信者が表現形態を理解した後に示す反応のことで、好きや嫌い、賛同や拒絶などで、その結果としてプロダクトを購入/利用したり、また、何もしないといったことを含みます。なお、表現をそもそも理解することができないといったことも、反応にあてはまります。

フィードバックは、受信者が受け取ったことについての反応を発信者に伝達するものを表します。

9つめのノイズというのは、発信者が意図したものとは異なるかたちで受信者にメッセージが伝達されてしまうような現象や、コミュニケーションを妨害するおそれのあるランダムな(規則性のない)主張であったり、競合他社のメッセージなどを指します。つまり、媒体や反応などに影響を与えるもののことをいいます。


このマクロモデルは、発信者がターゲットにする受信者に対して、どのような媒体をとおして、メッセージを伝達するのか、そのメッセージは受信者が理解できる内容に編集されているのか、また、その反応を得られるようにコミュニケーションのフィードバックチャネルは作られているのか、といったことなどを取り上げています。


ところで、マーケティングでは現実よりも知覚のほうが重要であるとコトラーとケラーは述べています。コトラーは、知覚とは、情報を選択、整理、解釈し、何らかの意味ある世界観を形成するプロセスだと説いています。


ここで重要な点は、同じ現実に対しても、人によって知覚は様々だということです。それ故、人がどのように行動するかは、現実をどのように知覚するかによって決まるということになります。このように、知覚は人の行動に影響を与えるため、マーケティングでは、知覚の方が現実よりも重要であるということになります。


この知覚には、選択的注意選択的歪曲選択的記憶という3つのタイプがあるとコトラーは述べています。


選択的注意というのは、日々膨大な量の情報を受け取る消費者(または法人企業の担当者)は、その全てに注意を払うことができないため、その多くを意識的、無意識的に除外している行為のことをいいます。このため、マーケティング/ブランド担当者は、人々の注意をひくことに、相当な注意を払う必要があります。

どういった情報や刺激に、人が最も反応するかということについては、コトラーとケラーは、「人は現在のニーズに関係のある刺激に反応する傾向がある」、「人は予想していた刺激に反応する傾向がある」、「人は通常よりも刺激の強いものに反応する傾向がある」の3つを挙げています。

なおここで言われている刺激とは、大別すれば2つあります。ひとつにはマーケティングによる刺激で、プロダクト・プライス・プレイス・プロモーションの4Pです。もうひとつは、その他の刺激として、経済的・技術的・政治的・文化的というものです。


選択的歪曲とは、受け取った情報や刺激を、受け手が自分に都合の良いように解釈することをいいます。これには先入観や思い込み、固定観念、プロダクトやその作り手またはその提供者に対して抱いているイメージなどであって、人は自分に合うように情報を歪曲するというものです。

この選択的歪曲は、強いブランドを持つ企業にとっては、消費者が好意的に情報を捉えてくれるため、有利に働くとされています。そのため、さしておいしくもないものをおいしいと感じたり、性能が凡庸な製品であっても、強いブランドを表すロゴがついているだけで、高性能だと捉えてしまうといったことが代表例として挙げられます。

つまるところ、人はいかにバイアスで物事を捉えているかということになってきますが、マーケティングを超えて、ビジネス全般のことでいえば、こういった現象は、認知バイアスと呼ばれています。認知バイパスとは、自身の経験による固定概念や先入観、思い込みなどによって、認識が偏って、合理的に行われなくなる心理現象のことをいいます(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠ii)。


選択的記憶とは、人は多くのことを忘れるが、自分の態度や信念を裏付けてくれる情報は記憶している傾向があるということを表します。この選択的記憶も、選択的歪曲同様に、強いブランドには有利に働きます。お気に入りのプロダクトの良い点はしっかり記憶している一方で、競合するプロダクトの長所は忘れてしまうといったことなどが挙げられます。このため、ターゲットオーディエンスの記憶に留まるために、メッセージは何度も何度も発信する必要があるということになります。

以上述べてきた知覚は、マーケティング上、消費者心理の1つの要素として数えられています。ほかの消費者心理である動機、学習、記憶については、次回で簡単に触れることにしたいと思います。


1/26/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその3

ここまでは、プロモーションミックスの5つの要素について述べてきました(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1その2)。今回は、幾つかのプロモーションを組み合せて、効果的なコミュニケーションを行っていく上で、前提としておさえておくべき事柄について述べてみたいと思います。


広告をはじめとしたマーケティングコミュニケーションの目的は、自社のプロダクトを買ってもらえるように、買い手(消費者、法人企業)に良い影響を与えることです。それぞれのコミュニケーションを的確に機能させ、良い影響を与えられるようにするためには、買い手の購買/利用行動(以下「購買行動」)に与える要因を、把握しておくことが必要です。

購買行動に影響を与える要因には、①購買者の背景と役割②購買者の経験③購買者の情報源の3つがあります。


①は、購買者の地理的、社会的、文化的、個人的といった背景がどのようなもので、どういった役割でプロダクトを購入しようとしているのかということです。

地理的というのは、日本の場合であれば、たとえば関東と関西、もっと絞り込めば東京と大阪では、行動様式や話のすすめ方などが大きく違います(筆者は大阪出身で東京に長く暮らしたため、そのあたりのことが皮膚感覚としてよくわかります)。大阪のほうが東京よりも、より直裁的、実利的に話をする傾向が高いといえますし、そもそも大阪人には今でも話好きの人がたくさんいます。また、最近では外国人が増えてきているため、宗教的・人種的という要素も考慮すべきでしょう。

役割というのは、自分のために買うのか、家族や第三者のために買うのかということです。これに加えて、同じ自分のためであっても、プライベートなのか、或いは仕事でなのかということも把握しておく必要があるでしょう。たとえば新幹線に乗る時、仕事であればグリーン、プライベートなら一般車両という人は少なくありません。

②の購買者の経験については、おそらく最もわかりやすい例のひとつとして、自動車の購入が挙げられます。はじめて車を購入する人と、何度も買い替えている人では、車に対する経験値が全く異なるため、車の購入にあたって、車の性能は勿論のこと、ディーラーに対して要求するサービスレベルも自ずと変わってきます。最寄り品の食品についても、家族に愛情を込めたおいしい家庭料理に作りたいと思っている人と、料理にはできる限り手間をかけずにできれば出来合いのもので済ませたいと思っている人とでは、全く違うのは明らかです。

③の購買者の情報源については、広告、SP、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングといったプロモーションミックスのような商業的情報源のほかにも、格付け機関のような(本来は?)半ば公的な情報源、家族や友人・知人などの人的情報源、また自身の購買等の経験で得た情報源などが挙げられます。このように見ると、プロモーションミックスに代表される商業的情報源が、必ずしも買い手に大きな影響を与えているとはいえないことがわかります。

SNSなどの口コミは、人的情報源のようなものといって差し支えないでしょうが、現在の口コミにみられるようなウソや欺瞞に満ちた状態、或いは特定者を攻撃するためにSNSが使われているような状況では、良識ある買い手は何を参考にすればいいのかわからなくなってしまったというのが実情で、それは売り手にとっても同じようなことでしょう。そう考えると、購買行動に影響を与える3つの要因のうち、①の購買者の背景と役割をしっかり把握し、②の購買者の経験を見極めることが、これまで以上に、売り手、買い手双方にとって、ますます重要なことになってきているといえます。


以上を踏まえつつ、マーケティングコミュニケーションをうまく機能させるには、購買者の意思決定における関与の仕方と、重視するベネフィットのタイプを見定めることです。


関与については、意思決定に要する時間や労力、関係する人の数と関わってきます。関与が、ルーチン的な問題解決にあたるものなのか、或いは広範囲に及ぶ問題解決なのかによって、違いが生まれるのは明らかです。前者であれば、たとえば1週間の食事の献立を考えて買物リストを作ること、後者であれば典型的なものとして住宅購入の検討が挙げられます。

ルーチン的な関与に対するコミュニケーションは、相対的にいえば既存顧客の維持が主たる目的になるでしょう。継続的なコミュニケーションにより、商品が繰り返し購入される可能性が高まります。コミュニケーションが途切れれば、顧客は当該商品を思い起こすことなく、他の商品を購入してしまうかもしれません。

広範囲に及ぶ関与に対するコミュニケーションでは、買い手に新商品を認知させ、商品の特性を理解してもらうことで購買につなげていくことが主な目的となります。謂わば買い手の購買を支援する学習プロセスのような働きを、コミュニケーションが担う役割になるといえるでしょう。


ベネフィットについては、買い手が最も重視しているものが何かを見極めることです。それは機能性なのか、情緒的なものなのか、或いは自己を表現できるものなのかといったことです(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。


ルーチン的な問題解決にあたる関与では、日常的な購買行動に該当することが多くなることから、一般的に言えば、機能的ベネフィットが最も重視されるといえるでしょう。仮に、日常的な購買行動のなかで、情緒的ベネフィット、または自己表現ベネフィットが重視される場合は、衝動的な買い方が行われる時で、これには商品に関する表現やメッセージが大きな役割を果たします。

一例として、ぶどうを絞った天然100%のグレープジュースは、飲みやすく(体に吸収しやすい)、カリウムを多く含んでいるため、高血圧予防によいとされています。ナトリウムを排出して、体内の塩分を調整することから、血圧を安定させるためですが、ほかにも、ポリフェノールを含んでいるため抗酸化作用(アンチエイジング)も期待されているのはよく知られているところです。また、ポリフェノール成分の一種であるアントシアニンも含んでいることから、最近ではスマホ疲れなど、眼精疲労の回復にも役立つことなどから、シニアから若者まで、幅広い人気があります。

上記文字のグレープカラーのところが、機能的ベネフィットに該当しますが、これを情緒的ベネフィットに変換すると、もっと健康的で、若々しい自分になれるというような表現ができると思います。これを自己表現ベネフィットに押し上げると、人それぞれかとは思いますが、自分らしくいられるとか、自分の理想に近づけるといった言い回しになるのではないでしょうか。仕事にたとえれば、幾つになっても、フットワークよく、効率的で、スマートなビジネスパーソンになれるなどといえるのかもしれません(R&Dと組織横断活動型活動(1)はじめに③)。


広範囲に及ぶ問題解決にあたる関与では、3つのベネフィットどれもが該当しますが、おそらく買い手が最も重視するのは、結果として、自己表現ベネフィットになると筆者は思います。高額品であればあるほど、その傾向は高まります。たとえば、住宅であれば、通常注文住宅が最も高額になります。買い手が仮に機能性を重視し追求していった結果が、その人のスタイル、つまり自己表現として、注文住宅が出来上がることになるからと言えるからです。

次回は、効果的なコミュニケーションの開発とながれについて考えていきたいと思います。


1/19/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその2

前回(プロモーションの1回め)は、広告と販売促進(SP)について述べました。今回は、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングについてです。


PR(Public Relations)は、通常はマーケティング部門に属さない機能で、日本語では一般的に、広報と訳されます(厳密にいえばPRと広報は目的や役割が少し異なります)。SNSが普及した今日、情報は双方向から多方向、多次元化しており、PRや広報を介しての包括的コミュニケーションの重要性が一段と増しています。

プロダクトや企業に対して好感を持ってもらったり、魅力を感じてもらうためには、優れたアイデアを生みだし、他者と的確にコミュニケーションができるビジネスパーソンが、これまで以上に求められているのは間違いありません。このようなことから、PRは今日では、プロモーション・ミックスというよりは、コミュニケーションミックスとして捉えたほうが適切でしょう。


人的販売は、メーカーなどのセールスパーソンや、小売業などの販売員などを指します。業種・業態によって、人的販売のやり方は異なりますが、営業/販売機会を把握し、その確度を評価して、事前準備をしながら、説明やデモなどで消費者(または法人企業担当者)に対応します。販売/成約、売り逃し/不成立、必要に応じてフォローアップというながれは、業種・業態を問わず、およそ共通しているものといえるでしょう。

ところで、商品をとおして人的販売を考えると、低価格のものは手間をかける必要はなく(営業/販売の活動量が少ない)、高価格のものは活動量が増えるということは必ずしも言えないことがわかります。というのも、相対的にいえば、高価格帯の商品ほど差別化しやすく、最寄り品のような低価格商品群については差別化が容易ではないという前提にたてば、差別化が難しいからこそ、人的販売で商品特性についてしっかり説明をしていく必要があるためといえるからです。

また、販売コストの観点からも、予め差別化がはっきりと出来ている商品に対しては、商品機能の専門的な説明を行う必要がある場合を除いて、活動をおもいきって減らすことができるとも言えるでしょう。なお人的販売については、プロモーションミックスの1つの要素として述べるには、あまりにも大きなトピックのため、別の機会で行いたいと思います。


ダイレクトマーケティングは、企業が消費者に直接つながるチャネルを利用してプロダクトを提供するマーケティング手法のことで、所謂D2C(Direct to Consumer)と呼ばれるものの1つです。これには、ECサイトをはじめ、eメール、ダイレクトメール、テレマーケティング、カタログ通販、TVショッピングチャネルなどが含まれます。

近年のファンマーケティングも、ダイレクトマーケティングの一種といっていいでしょう(但し、ファン同士がオンライン上で交流する場合のファンコミュニティは、企業が直接関わらない場合もあるため、ダイレクトマーケティングにはなりません)。

ダイレクトマーケティングの利点には、メッセージを消費者に合わせてカスタマイズしやすいこと、そのメッセージは即時的に伝達でき且つ相手の反応に合わせてアップデートできることなどが挙げられます。

ところで、千趣会やニッセンなどのカタログ通販の業績低迷が、10年ほど前から言われています。業績不振に陥った理由が、インターネットへの進出が遅れたためという論調をよく見かけます。一つの理由であることは間違いないでしょうが、それよりも取扱商品の内容や構成、その見せ方や顧客との接し方などが不振の根本原因ではないのかと思うのは、筆者だけではないでしょう。

ダイレクトマーケティングは、顧客との長期にわたる関係を築く上では、非常に優れたマーケティング手法です。営業パーソンを多数抱える費用は非常に高く、昨今の給与の上昇を考えると、ダイレクトマーケティングをもっと活用できないものかなどと筆者は思ってしまいます。業績が低迷している上記のような企業は、顧客の成長と共に、自らも大いに学習すれば、もっと成長できたのではないかと思えてしまい、残念な気持ちになってしまいます。


ここまでプロモーションミックス(広告、販売促進、PR、人的販売、ダイレクトマーケティング)のそれぞれについて見てきましたが、これらのプロモーションの組み合わせは、どのように決めればいいのでしょうか。次回は、プロモーションミックスをベースにして、効果的なコミュニケーションのあり方を考えてみたいと思います。


1/13/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1

マーケティングミックス4つめのP、プロモーションについてです。

プロモーションは、ブランディング (7)マーケティングミックス① 4P概論でも触れましたが、単なる販促と狭義に捉えるのではなく、プロダクトのメッセージをターゲット顧客に伝える全てのコミュニケーション手段として考えることが必要です。そのためには、広告セールスプロモーション(販売促進)PR、人的販売ダイレクトマーケティングという5つの要素を組合せたプロモーションミックスを効果的に行い、相乗効果を発揮させなければならないと、フィリップ・コトラーは『コトラーの戦略的マーケティング』のなかで述べています。


広告は、電波媒体(テレビ、ラジオ)、インターネット媒体/Webメディア(ニュースサイト、SNS、グーグル検索エンジン、企業サイト、ブログ等)、デジタル媒体(デジタルサイネージ等のディスプレイ、DVD/ブルーレイ、CD等)、紙媒体(雑誌、新聞、カタログ・チラシ等の冊子、ポスター、名簿等)の4つに大別できます。なお、媒体はメディアともいわれ、情報を対象者に伝達する手段の総称です。

20世紀の主力媒体は、誰もが知るように電波、特にテレビ広告でした。テレビ広告は、広く一般的に知ってもらうにはよい手段でしたが、ターゲットグループのみに訴えかけるということは通常できません。また、広告をしたからといって、大半のケースではすぐに売上げに直結するということもありません。デジタル媒体や紙媒体も、広告である限り、およそ同じようなものだといえるでしょう。

インターネット媒体については、電波媒体などと違って、ターゲット層にアプローチしやすく、費用が比較的安価で効果も得やすい上、データ分析も容易だといわれています。ただ、今日のような情報が氾濫している状況で相応の効果を得るのは、それほど簡単なことではないでしょう。一過性で終わらせずに続けられるかどうか。SNS上での話題づくりに成功して、一時的に売上げを上げることができたとしても、持続的な事業成長につなげられるかは、また別の問題です。プロダクトの購入/利用前に、ファンになってもらったとしても、継続してファンの期待値を超える、またはコントロールすることができるかどうかは、非常に難しい問題です。


セールスプロモーション(SP)は、広告と違い、消費者に直接的な行動を促すため、即時的な効果が見込めます。けれども消費者向けのSP、特売をいつも行っていると、通常価格と割引価格の違いが消費者には分からなくなるのは当然です。その結果、消費者はいつでも安い価格で商品が購入できると期待するようになります。そのためどのような消費者を相手にすれば、SPの効果をより高くできるのか、慎重に検討しなければなりません。

ここで重要になるのが、参照価格(ブランディング(7)マーケティングミックス③ 価格その11)と商品カテゴリーの関係です。ターゲット消費者の当該商品カテゴリーにおける購入サイクルを把握することが必要になります。仮に購入頻度が2ヵ月ごとであれば、毎週のようにSPをやっても効果は得られないばかりか、参照価格の低下を招くことになり、まったくの逆効果になってしまいます。通常、小売店舗内のSPは、ブランドスイッチを頻繁に行う消費者には大きな効果が見込めるため、店内チラシにクーポン付きで載せるなど、ターゲットを絞った工夫が必要です。

小売流通業向けのSP、所謂拡販費・協賛金の効果については、筆者が知る限り半世紀近く前からある懸案事項です。拡販費を投入すれば短期間で売上げを上げることはできますが、あくまでも期間限定の取組みに過ぎません。大事なことは、製販共に年間とおして安定的に売上げを確保することです。そうするためにはプロモーション全体におけるSPの割合は低めにおさえるべきで、価格が予め設定した価格帯の下限値を下回ることがあってはなりません。


ところで、広告及びSPと価格の関係はどのように捉えればいいのでしょうか。四半世紀以上前から米国を中心とした研究でよく知られていることは、比較的安価な消費財製品、たとえば食品関係であれば、量販店やコンビニなどで売られている即席麺や菓子類、冷凍食品、清涼飲料水やビールなどのアルコール類といった高頻度で購入されるもの、所謂最寄り品(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3)は、広告によって販売数量が増えるということです。つまり、広告が商品の需要における価格弾力性を大きくしているということです。

従って、シンプルに考えれば、広告を増やすことで、低価格商品の販売量は増やすことができるということになります。考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、高価格帯の商品であれば試し買いというのはなかなか難しい一方で、低価格帯のものであれば試してみるというのは十分ありえるからです。

そうなると、最寄り品については広告をすることを前提に、SPをいつ頃、どれくらいの頻度で、どういったチャネルを使って、どのように提供していくのかということが、買回り品や専門品以上に、重要になってくるといえるでしょう。但し、最寄り品とはいえ、明らかに他の商品とは異なり、差別化が効いたものであれば、広告をそれほど打たなくても、SPをうまくやるだけで販売量を増やせるかもしれません。というのも、明確に差別化された商品というのは、広告をたくさん出して、他商品との違いをあえて訴求する必要はないといえるからです。成熟しきったような商品カテゴリーでは、決して容易なことではありませんが、不可能なことではないと思います。

次回は、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングについてです。


12/15/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその5

前回(プレイスその4)の続きで、今回もチャネルを中心とした産業構造のレイヤー化についてです。はじめに、あらためてレイヤー構造化の定義をしておきたいと思います。

レイヤーとは、層や階層を表す言葉です。ビジネスにおけるレイヤー構造とは、ビジネスの要素であるデータや情報、プロダクト(製品、サービス)が層の如く重なり合うようにしてできあがっている状態のこと、また、それぞれを連携させる仕組みやシステムのことを指しています。端的な例が、スマートフォンやタブレット端末、パソコンです。


通常、産業におけるレイヤー構造化の意味合いは、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができるということです。

消費者を対象にしたビジネスでは、消費者がプロダクトを、直接、自由に組み合わせて選択し、購入することができるという点に大きな特徴があります。


産業構造を分析するフレームワークとして有名なバリューチェーン(従来型の単層的なバリューチェーン)とレイヤー構造化されたチェーンを、消費者視点で比較すれば、次のような違いがあります。

単層的なバリューチェーンの場合、消費者はバリューチェーンの最後に位置する企業からプロダクトを購入(または利用)します。一般的にいえば、食品であればスーパーやGMS、CVS、または百貨店などから、アパレルであれば左記にあるようなチャネルに加え、専門店などで買うことも多いでしょう。家電製品であれば家電量販店からというのが多くなるでしょう。車は自動車のディーラーからといった具合です。

消費者は、バリューチェーンの最終段階にある販売または営業、つまり店舗(リアル、ネット)以外、たとえば開発や製造、或いは物流といったチェーンの途中の段階から、購入することは通常できません。消費者にとってのチャネルは、最終段階にある販売(営業)チャネルしかありません。


一方、レイヤー構造化されたチェーンであれば、消費者はチェーンの途中段階にあるプロダクト、謂わば中間製品とでも呼べるものを直接選択して購入することが可能です。販売(営業)チャネルは、チェーンの最終段階だけでなく、中間の段階にも存在しています。

スマホ、タブレット、PCなどが代表例になりますが、ゲーム、音楽、映像、書籍や雑誌の記事、印刷物、自動車、電力なども該当します。レイヤーの構造は、ハードウェア、OS、アプリケーション、通信ネットワーク、IoTデバイス、データ蓄積などになります。各レイヤーが束ねられたレイヤー構造とは、消費者に対する選択肢、或いは消費者にとってのソリューションを提供する階層で構成されていると捉えることができます。

ところで余談になりますが、レイヤー構造化が良いか悪いかというのは、また別の話です。筆者からすれば、たとえば音楽に見られるような製作者の意図や主張とは別に、アルバムの楽曲を切り売りしている状態などはちょっと肯定できるものではありません。また、筆者の家族などは、モノやサービスが横や縦に広がって、からめとられているだけで、そこには一見自由があるようで、むしろなくなってしまっているようだと言っています。


産業のレイヤー構造化、プラットフォームビジネスでよく使われる言葉に、「エコシステム」というのがあります。プラットフォームを提供するプロダクトと、それを補完するプロダクトを合わせたものをエコシステムと呼びます。

チャネルを基点に考えると、オムニチャネル(Omunichannel)もエコシステムです。オムニ(Omuni)とは、「全て」とか「あまねく」といった意味をもつ接頭語です。マーケティングでは、オムニチャネルのことを、リアル、ネット問わず、全てのチャネルをつないで、利用者にとっての境界をなくしてしまう統合型チャネルのことをいいます。ここでは、支払いや配送・荷物の受取りなどのバックオフィスも含まれます。

利用者に一貫して最適な購買体験や顧客体験を提供するといわれているオムニチャネルは、各チャネルが独立して機能を果たし、統合や一元化がされていないマルチチャネルの進化系といわれてきました。

けれども、ネットで注文した商品をリアルの店舗で受け取ったり、或いは支払いを済ませたり、ネット上で取得したクーポンをリアル店舗で使うとかいったくらいでは、リアルとネット、または異なる業態間で、顧客がストレスを感じることなく、自由に行き来できる、そのようなことくらいで本当のオムニチャネルといえるのか、筆者には疑問です。また、もしそれで小売業が納得しているのであれば、随分と情けない話のように思います。これではエコシステムとか、ましてや産業のレイヤー構造化などというには、ほど遠いでしょう。


スマホで実現されている端末、OS、アプリなどの関係とまではいいませんが、顧客の問題解決(本当に顧客の問題を解決しているかどうかはともかくとして)をとおして、消費者との接点を担う小売業は、自らの富の源泉を生み出す、或いは富を移動させたり蓄積させるといった発想を持ったり、構想を組み立てていくことが重要です。

つまり、何処に利益が蓄積されやすいか、儲かるかといった視点で、事業を見直すことが必要です。強大で独創的なメーカーと異なり、小売業はあくまでもメーカーあってこそというのは否定できません。であれば、マーチャンダイジングやサービスなどを編集するようなコーディネーターとしての役割を、もっともっと追求していくことができるはずです。


コトラーは、「顧客サービスプロセスから協働による顧客ケア」へと説いています。ネットで接続された世界において、国内の小売業が、Amazonや楽天以上に、通常の品揃えの幅や利便性はじめ、今日の変わりゆく多くの消費者の購買行動を満たすことなど、できるはずもないでしょう。

そうであれば、従来のリアル店舗とECサイトに、顧客の生活全般、ヘルスとウェルネス、金融、エンターテインメントなどの場を、もっと大胆に取り込んで、もう少し、人々の暮らしを総合的な観点から、CX(Customer Experience、顧客体験)について考えてもらいたいと思います。レイヤーを細かく重ねていくことで、新しいソリューションを生み出せるのではないでしょうか。それは(当然のことながら)内製化させる必要はなく、何を外部に委託するかを判断すればよいだけのことです。

とりわけ衰退が続いている百貨店などは、さして各社固有の商品があるわけでもありません。モノを集積した販売だけで終わることなく、様々な垣根を超え、CXをとおして、CS(Customer Satisfaction、顧客満足)を高めることに最大限注力すること、まずは少なくともそれをしっかり自分の頭で考えてみることから、本当のオムニチャネルやレイヤー構造化の端緒につけるのではないかと思います。


12/08/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその4

前回(プレイスその3)は、コトラーのチャネルパートナーシップの4つの段階を中心に概説し、産業構造のレイヤー化にも少し触れました。本ブログのマーケティングミックスのプレイスについては、チャネルに絞って述べてきていますので、プレイスその4でもチャネルに限定して、産業構造のレイヤー化についてもう少し述べることにしたいと思います。


スマートフォンの普及と共に、一気に広まった感のある産業のレイヤー構造化は、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができる点に大きな特徴があります。

スマートフォンには、OS(オペレーティングシステム)があって、それを動かす端末(ハード)を提供する企業がいて、様々なアプリを提供する企業が存在し、そして通信事業者(キャリア)がいます。アプリひとつとっても、その企画や開発、運用を請け負う企業が多数存在し、大手から分野に特化したり、AIなどの最新技術を活用する中小、新興企業などがまさに星の数ほどあるといっても過言ではありません。

スマートフォンでは、消費者は、たとえば端末はiPhoneで、ニュースや情報、SNSなどのコミュニケーション、エンタメ、ゲーム、趣味関連など多岐にわたるジャンルから好きなアプリをダウンロードし、キャリアはドコモ(或いはau、ソフトバンクなど)を選択して組み合わせます。


かつて圧倒的な強さを誇っていたマイクロソフトは、このスマホの世界では、Windows OSの優位性を獲得できずに終わっています。また、それ以前にも、クラウドサービスの登場によって、パッケージソフトのOfficeの必要性も失っています。マイクロソフトの独占を崩したのは、新しいテクノロジーやプレイヤーの登場であるのは間違いありませんが、消費者がそういった新しいものを選択したという事実と、選択肢の幅が広がったということが重要であり、ここにレイヤー構造化したビジネスの特徴があるといえるでしょう。


モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化が、ビジネスをレイヤー構造化するように仕向けているともいえ、スマホやタブレット、PCといった広義のコンピュータ業界とその周辺及びそれに関係する業界、たとえばゲーム、テレビ放送、電子書籍、印刷、自動車、さらには2016年の電力小売の完全自由化に伴い消費者の選択肢が一気に広がった電力業界も例外とはいえないでしょう。

このようなレイヤー構造化は、従前の既成概念や慣習を打破し、業界を横断して、新たな産業を創り出してきました。この世界では、プロダクトの提供者と利用者を結びつける場/プラットフォームを介して、ビジネスが行われるものが多くあり、誰もが知るAppleやGoogleなどは、このプラットフォームで大きな成功を収めています。


Amazonも、企業や個人の出品者と購入者を、自社ECサイト上でつなぐ販売の場/プラットフォームを提供しています。今日、知らない人は誰もいないのではないかと思えるくらいです。規模は違いますが、国内の百貨店やGMSなどのインターネットショッピングも、多くが自社のプラットフォームで行っています。ただ、これをレイヤー構造化の例として挙げている専門家の方も時々いらっしゃいますが、筆者はあまりそうは思いません。何故なら、そのプラットフォームでは、消費者が商品またはそのパーツを自由に組み合わせて選択できるわけではないからです。

たとえば、百貨店の高島屋のサイトであれば、高島屋が扱う商品だけで(ほかの百貨店や小売業態のものを扱うわけではなく)、高島屋のサイトにある和菓子の鶴屋吉信は鶴屋吉信が提供する完成された最終商品だけであり、通常全く同じ商品が他の百貨店たとえば三越でも売られています。

ネット上で、消費者が好きな商品やサービスを選ぶことができるというのがレイヤー構造化というのであれば、リアルの店舗でも昭和やその前の時代からレイヤー化されていたということにもなりかねません。レイヤー構造化された産業の特徴が拡大解釈され過ぎていると筆者は思います。この点については、次回でもう少し述べることにしたいと思います。

その百貨店で、三越と伊勢丹が、4~5年前にウーバーイーツと出前館を活用したフードデリバリサービスを始めました。ウーバーイーツも出前館もインターネット上で、お店とメニューの選択により、多様な食をワンストップ的に行う食のデリバリという新しいレイヤーを作り出しました。両社とも、様々な飲食店やレストランと組むことで、非常に多くの選択肢を消費者に提供することには成功しています。但し、三越と伊勢丹の取組みが、うまくいっているかどうかはなんともいえませんが・・・。

続きは次回にしたいと思います。


12/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその3

フィリップ・コトラーが、マーケティング3.0を米国で発表したのが2010年、あれから15年が経ちました。マーケティング1.0が製品中心のマーケティング、2.0は消費者志向のマーケティング、そして3.0が価値主導のマーケティングです。


3.0では、企業のビジョン・ミッション・価値が、企業のマーケティング・ガイドラインになりました。1.0では製品の説明、2.0では企業の製品とポジショニングであったことを考えると、かつてなかった大きな変化です。実際、消費者との交流という観点では、1.0が1対多数の取引、2.0が1対1の取引、3.0では多数対多数の協働となっています。協働マーケティング、文化マーケティング、スピリチュアルマーケティングの融合が、マーケティング3.0であるとしています。

その後、コトラーは2017年にマーケティング4.0、2021年にマーケティング5.0を発表しました。いずれも3.0の延長線上にあり、人々の自己実現にフォーカスしたマーケティングの考え方を推し進めました。4.0は、「カスタマー・ジャーニーのあらゆる面をカバーするために、人間中心のマーケティングをどのように深化、拡大すればよいか」を論じています。そして、5.0では「人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めること」だと説き、デジタルテクノロジーの活用の新戦術まで踏み込みました。


このような3.0をベースにした価値主導型マーケティングへの転換は、マーケティングチャネルのあり方そのものにも大きな変化をもたらします。というのも、上記のとおり、3.0では消費者との交流、つまり消費者との接点であるチャネルが多数対多数の協働になるからです。

協働者としてのチャネルというというのは、チャネルパートナーの「目的・アイデンティティ・価値」が、自社のものと似通っていることが前提として必要になります。そういった適切なパートナーを見つけることから、チャネル管理が始まります。そして自社はパートナーと「統合してブランドストーリーにインテグリティを持たせる必要がある」と、コトラーは述べました。


そのコトラーは、チャネルパートナーシップには、4つの段階があるとしています。第1段階は単一チャネルの段階で、限定された地域内での全ての販売を自社営業部隊か単一のチャネルパートナーがカバーします。

第2段階では複数チャネルの段階です。この段階では、プロダクト、セグメント、地域によって、チャネルパートナーを使い分けることはしません。ここでの特徴は、買い手がプロダクトを手に入れやすくするため、流通企業や異なる販売チャネルの増大をとおして、販売地域を拡大したとしても、販売地域や販売相手の活動を制限することはないということです。このため、流通企業どうしやチャネル間でのコンフリクトが発生します。

第3段階は地域別チャネルの段階です。ここでは「自社の市場を地域、消費者セグメント、もしくは製品セグメントによって分割」します。この段階では、チャネル間のコンフリクト回避のために、流通企業やダイレクトチャネルの活動を明確な境界やルールを敷くことで区分します。

第4段階は統合型マルチチャネルの段階で、一つのセグメント市場や地域市場で異なる複数のチャネルが分業します。企業は様々なチャネルに仕事を分担させることで分業が成立し、共存、協働することを可能にしています。たとえば、需要喚起はウェブサイトで、消費者体験は直販店で、流通とサポートは再販業者で、法人顧客への販売と再販業者の紹介は営業部隊が行うといった例を、コトラーは挙げています。

第4段階では、企業はチャネルパートナーをとおして、プロダクトのストーリーを広めながら、チャネル・コンフリクトは起こさずに、買い手に対してプロダクトを提供しています。ただ、これを実現させるためには、自社に確固たる価値観や信念があることが前提になります。口先だけだったり、依って立つものがしっかりしていなければ、真のパートナーシップを築くことは難しく、いわば明確な規律の下に皆が動く戦略思考がそこには厳然と存在するということになります。


コトラーのいう限定された一つの市場で、異なる複数のチャネルが分業し共存する統合型マルチチャネルの概念と、考え方で共通するところがあるものに、産業のレイヤー構造化があります。レイヤーすなわち階層化とは、ビジネスの要素を複数の層(レイヤー)に分けて、それぞれを連携させる仕組みやシステムのことをいいます。これは、従来の単層的なバリューチェーンでは説明しきれない産業構造で、特にプラットフォームビジネスに代表されるものです。このレイヤー構造化された世界では、消費者が直接プロダクトを、自由に組み合わせて選択できる点に大きな特徴があります。

続きは次回にしたいと思います。


11/25/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその2

プレイスの2回めで、前回(プレイスその1)同様、チャネルに絞って進めます

前回で述べたとおり、チャネル戦略を考える時に重要なことは、ターゲット市場セグメントの需要の特徴を把握することです。

買い手が一般消費者の場合であれば、その需要の規模や大きさ、たとえばそれは地理的に分散しているのか、一定の地域に集中しているのかといったことなどを考えていかなければなりません。仮に、一般消費者が地理的に広く分散しているのであれば、リアルでいえば卸売企業、ネットであればアマゾンのような総合的な品揃えをしている小売企業のようなチャネルパートナーを活用することが前提になるでしょう。

ターゲット市場セグメントの需要の規模や特徴が掴めたら、次はそのセグメントに属する顧客は、自社のプロダクトをどのように購入/利用したいと思っているのかをおさえなければなりません。

たとえば、その顧客は幅広い品揃えを有する小売業態たとえば百貨店のようなところで、販売員と会話し、他社商品と比較検討しながら、購入したいと思っているのか。或いは、価格重視で、比較検討はさほどせずに、買物に費やす時間や手間をできる限り省きたいと思っているのか。この2つだけでも、購買行動は随分と異なります。

また、当該小売企業が立地する地域でも違いはあります。SMB(Small and Medium-sized Business/中小規模のビジネス)でよくあるパターンとして、地元での消費もほどほどにして(十分刈り取ることなく)、いきなり首都圏に進出しようとする企業が少なくありません。多くのケースにおいて、大規模市場にはたくさんの競争相手が存在し、また消費行動の変化もかなり激しいものがあります。そういった市場で、そもそも自社商品を目立たせ、購入/利用してもらい、リピート顧客を掴むといったことは、簡単ではありません。実際、自社商品が全体の中で埋没してしまい、1日にひとつも売れなかったというのは、そう珍しいことではないからです。

さらに、自社が希望する立地に店を構える小売企業が売上げを増やしたいために、値下げ販売を度々奨励するといったこともありえます。こういう場合には、そもそも自社の考え方、商品戦略やプライシングポリシーにまったくそぐわない可能性さえあるため、事前に確認しておくことが重要になります。

あと、選定したチャネルに対する商品供給に必要なコストは、どれくらいかかるのかということも検討しなければなりません。当たり前のことですが、自社が獲得できるであろう市場規模が経済的にかなり魅力あるものであれば、自ら進出することもありえるでしょうが、そうでない場合は、適切なチャネル仲介業者を活用して進出すべきです。ただ、チャネル仲介業者たとえば卸売企業の場合は、扱い品目が膨大な数になり、自社が売り込みたい商品は、当該卸売企業にとって多くの中の一つに過ぎません。そのため、積極的に売ってもらいたければ、それなりの販促金や、場合によっては卸売企業に対する投資的な活動といったような出費も必要になるでしょう。


チャネルとは、自社のプロダクトを買い手まで流通させる手段です。チャネルを介して、買い手に自社のブランドをしっかりと認知してもらい、ブランドのイメージを向上させるためのものでなければなりません。そのために、チャネルをどう活用し、管理していくかということです。

ケビン・レーン・ケラーは、ダイレクト・チャネル(郵便、電話、デジタル媒体、訪問、自社が単体で運営するリアルまたはネットの店舗)は、プロダクトの幅と深さ、プロダクトの多様性や、プロダクトの個性、明快な特性といったものを、買い手に十分認識してもらうことで、そのブランドエクイティを高めることができると述べています。

イン・ダイレクト・チャネル(卸売/流通企業、代理店、仲買人、自社が運営していない小売企業など)の場合は、小売業を含めた仲介企業による活動と支援、及び仲介企業が所有しているイメージや連想を、自社ブランドに移転することで、ブランドエクイティに良い影響を与えることができるとしています。

このように、チャネル戦略は自社が確立したい(またはもっと強固なものにしたい)ブランドイメージと、イン・ダイレクトの場合であれば小売企業のようなパートナー企業のイメージを最大限うまく組み合わせて、二次的ともいえるブランドイメージや連想を作り上げることが必要であることがわかります。そうするためには、チャネルの検討は、もっと慎重に、より幅広い選択肢から検討することが重要になるといえます。


ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその13

今回は前回からの続きで、コミュニケーションを効果的に行うための8ステップの最後になる 「 コミュニケーションの効果測定」 についてです。これまでの内容は、以下をご覧ください。 1 「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」(プロモーションその7 ) 2  「コミュケーション...