12/19/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法vi a-b-eモデルその2

ロシターとパーシーのポジショニング3段階手法の3つめのモデルであるa-b-eモデルについての2回目です。前回は、このa-b-eモデルの特徴と属性へのフォーカスについて述べました。今回は、ベネフィットへのフォーカスと、情動へのフォーカスについてです。


ベネフィットにフォーカスする状況は、次の3つです。

①他社が模倣しにくいベネフィットを持つブランド

②情報として負の動機づけになるブランド

③情動による強固な態度に対して論理的に攻撃する場合


①については、消費者にとっての主観的価値であるベネフィットを、他社が模倣できないのであれば、そのベネフィットにフォーカスすることは当然であり、まさにそれはマーケティングの王道です。

消費者からすれば、差別化された属性が、差別化されたベネフィットになるとは限らず、また、情動による差別化は、ベネフィットよる差別化と比べて、継続して行うことは難しいと、両氏は述べています。

②の負の動機づけによるブランド選択、つまり問題を取り除いたり軽減したりすることに関係する購買動機に基づくものは、まず始めに負の情動になる問題を、大きく訴え、次に、解決策として得られるベネフィットを提示するのが適切なながれとなります。

なお、ベネフィットが実現された後に、正の情動を表現するかどうかについては任意とされています。昔、日本のTVCMでよく見られた洗濯後にひどい汚れがきれいにとれていることで喜ぶ主婦の姿というのは、この典型といえるでしょう。

③は、消費者が現在、継続的に使っているブランド、中でも強固に支持しているブランドを他のものに変更することには、リスクありと考え、抵抗される、時には頑ななまでに拒否、拒絶されてしまうことは珍しくありません。

このような場合には、使用中のブランドに対して、情動的アプローチではなく、論理的に使用中のブランドを攻撃していくことが、当該消費者の行動変容を促せる唯一のアプローチであると両氏を述べ、わかりやすい例として、10代の喫煙、ドラッグなどの社会問題を挙げています。


情動にフォーカスする状況は、以下の3つです。

①模倣がたやすくできるようなベネフィットを持つブランド

②情報として正の動機づけになるブランド

③属性に従った強固な態度に対して情動的に攻撃する場合


①は、多くのブランドは競合ブランドと基本的に同じベネフィットを持ち、均一の商品カテゴリーの中で競争している状況を前提にすれば、独自のベネフィットがなくても、情動的に訴求し続けることが、効果的な手段であるとしています。

本来は、属性に立ち返ってベネフィットを再考すべきでしょうが、現実的には実効性がないことが大半なのかもしれません。なお、このやり方は、商品単価の高低、消耗品や耐久消費財、モノやサービスなどに限らず、多くのことに適用できるでしょう。

②の正の動機付けとして、感覚的な満足感、知的刺激や充足感、社会的承認などが該当することは、これまでに述べたとおりです(ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1)。なお、この正の動機付けについては、最後には必ず正の情動にならなければならないと、両氏は述べています。

③は、最終的にベネフィットに行き着くため、ベネフィットフォーカスのひとつに入れるべきかもしれませんが、最初の情動が極端に否定的である場合を対象とするため、情動へのフォーカスのひとつに分類しているとロシターとパーシーは述べています。

③の例として、旅行者が海外で盗難にあったり、本人含め家族の誰かが死亡したりする場合を挙げた保険の類いが挙げられています。負の情動である恐怖を、テレビやネットまたは対面などの場で、ある種あおるようなやり方で利用すれば、消費者は恐怖を取り除こうとすることに没頭しがちで、冷静に向き合って、反証や反論がしづらくなるという点で、一定の効果はあるでしょう。近年の健康・美容関連の問題なども、この典型例といえるのではないでしょうか。


12/13/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法v a-b-eモデルその1

ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーのポジショニング3段階手法について、これまでX-YZモデル(その1その2)と、I-D-Uモデル(その1その2)について概要を説明してきました。

今回は、3つめのa-b-eモデルについてです。このモデルは、X-YZモデルで消費者の頭の中におけるブランドのポジショニングを選択し、I-D-Uモデルで多数あるベネフィット(Z)の中で、強調するもの、言及するもの、省略するものを決定しました。最後は、選択の最終段階として、ベネフィットのどういった側面にフォーカスするかというミクロレベルでの意志決定となり、ここではa-b-eモデルを適用します。

このモデルは、マーケティング/ブランド担当者が望ましいと考えるブランドポジションを獲得するために、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスするかを決める時に役立つものです。3つの用語の意味は、以下のとおりです。


属性あるものに共通して備わっている性質などのことで、かたちのある商品であれば物理的な特徴を指し、サービスのようにかたちがないものではその性質のことをいいます。また、それが消費者や顧客を対象にしたものであれば、性別や年齢、家族構成や職業、収入、出身/居住地域や利用する交通手段、趣味嗜好などになります。

ベネフィット: ロシターとパーシーは、ベネフィットとは「購買者が望むもの(主観的な除去・軽減、もしくは主観的報酬)」と定義しています。ベネフィットについては、このReflectionsでもこれまで何度か述べてきました(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場ブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場R&Dと組織横断活動型活動 (1)はじめに③SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。 

情動: 両氏は、情動を「購買者が感じること」として、「ベネフィットが実現する前後に起こったり、ベネフィットとして独立して起こること」と説明しています。喜びや悲しみ、驚きや恐れ、怒りなどの感情で、急激なものであったり、一時的なもの、情緒とウィキペディアでは記述されています。このような感情的経験を刺激することで、購買に関する意欲を喚起します。

なお、動機については、消費者(購買者)が商品を望む理由のことで、負と正の購買動機があります(詳しくは、ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1をご覧ください)。

 

繰り返しますが、ミクロレベルのa-b-eモデルは、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスして、ポジショニングするかということに関する意志決定を支援します。

属性にフォーカスする状況には、主に、

①専門家がターゲットの場合

②提供するものが無形のサービスの場合

③同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合 

 

この3つがあるとロシターとパーシーは主張しています。通常、顧客ベネフィットを強調することがマーケティングセオリーといわれることが多い中で、この属性フォーカスの考え方は、ユニークであり、且つ優れたものだといえるでしょう。

3つの属性フォーカスの状況のうち、①の専門家については、属性から生じるベネフィットを専門家は(専門家であるが故に)すでに知っているためです。

②の無形サービスについては、ロシターとパーシーは、商品(製品、サービス)がより無形であるほど、そのプロモーションにはより具体的な属性が必要になるというリン・ショスタックのジャーナル・オブ・マーケティングとマーケティング・オブ・サービスの論文を引用し、このことは「具体的な属性が、未だ経験されないベネフィットの代理指標になるから」と述べています。

わかりやすい例として、たとえば、従業員が身なりを整え、整理が行き届いた清潔なレストランで食事をするほうが、意図せず雑然とした空間になっている店よりも、選ばれる可能性は高いといったケースなどが挙げられます。ある属性が、良質なサービスを提供する証拠として、消費者に提供されるということになります。

同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合については、同等のブランドが存在する場合には、小さな属性を追加したブランドを、消費者は選好する傾向が強いという幾つかの実験結果に基づいています。競合するブランドが同等のベネフィットを強調することが非常に多い日本においては、もっと注目されていい属性フォーカスといえるでしょう。

ベネフィットと情動へのフォーカスは、次回にまわしたいと思います。


12/07/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iv I-D-Uモデルその2

前回は、3段階手法でブランドのポジショニングを考える際、強調すべきベネフィットの決定には、消費者の購買動機に基づくI-D-Uモデルを用いて行うことを述べました。今回は、そのI-D-Uモデルの重要性(Important)、実現性(Delivery)、独自性(Uniqueness)について、概説していくことから始めたいと思います。


重要性とは、購買者のブランドを購入する動機と、ブランドを購入することによって購買者にもたらされるベネフィットとの関連性を指しています。なお、ここでいうベネフィットは、購買動機を当該ブランドが満足させる機能を有する場合に限ります。

ロシターとパーシーは、コーヒーのラベルを例として挙げています。たとえば毎日飲用するコーヒーブランドを選択する時には、感覚的満足が購買動機となり、コーヒーラベルが高級感を漂わせる必要はない一方で、来客用のコーヒーの場合には、社会的承認が必要となる場合が多いため、ラベルから高級感が感じられるという重要性が必要になることが多いとしています。

この例に従えば、たとえば今の時期の日本だと、一般的にいえば、アールスメロンを自宅で食べる場合には、高知県産や熊本県産などは味が良い割には、価格はそれほど(かなり?)高いものではないということになるかもしれませんが、進物にするメロンとなれば、社会的承認の高い静岡県産になるといったようなことが該当します。

ベネフィットの重要性は、購買動機を満たす全てのブランドについて当てはまります。この重要性は、知覚される競合ブランドの集合である市場や商品カテゴリーの区分において普遍的なものであり、ひとつのブランド特有のものではありません。


I-D-Uモデルでの実現性とは、主観的なものであって、客観的事実に基づくものとは限りません。該当するブランドが、ベネフィットを提供できることに関する知覚を指しています。従って、ブランドベネフィットの実現性は、常に知覚的なものとなり、購買者のいわば信念のようなものや確固たる考えに基づきます。先のアールスメロンの例でいえば、静岡県産のメロンは高級なものという消費者の知覚に依存しています。ですので、静岡県産メロンのベネフィットの実現性とは、それが有するベネフィットを実現することについての知覚を指しているということになります。


独自性とは、端的に言えば、差別化された実現性のことを指します。当該ブランドは、競合ブランドに比べて、より良くそのベネフィットを実現できると知覚されていること、他ブランドよりもより優れた実現性を持つと知覚されるもののことを表します。先のメロンの例でいえば、静岡、高知、熊本、各県産のアールスメロンが、ある特定のベネフィットについて等しい実現性を持つとすれば、そのベネフィットに沿って、購入するメロンを決定することはできません。同等に実現するベネフィットは、選択の基準にはなりえません。従って、各県産の間で知覚差異を生み出し、相対的な独自性を生み出せるひとつ、またはそれ以上のベネフィットを強調する必要があり、それが進物の場合であれば、一般的にいえば、高級感ということになります。


以上から、ロシターとパーシーは、ブランドは重要なベネフィットを実現しなければならず、少なくともひとつの重要なベネフィットについて、相対的に独自なかたちで実現しなければならないと説いています。ここで考慮すべき点は3つあります。ひとつめが重要なベネフィットを決めること、2つめが重要なベネフィットを実現すること、3つめがその実現は独自性を発揮しなければならないということになります。


I-D-Uモデルのルールは、まずブランド独自のベネフィットを強調することであり、これが最も重要なポイントです。次に、競合ブランドと同等のベネフィットに言及すること。そして最後が、自社ブランドが劣っているベネフィットを他のベネフィットで相殺してしまうか、省略してしまうということです。

もし、ブランドが独自に実現できる重要なベネフィット持っていない場合はどうすればいいか、それは何が何でも一つは見つけ出すこと、創り出さなければならないいうことになります。というのも、それができなければ、そのブランドは市場に埋没し、退場せざるをえなくなるからです。


最後に、ロシターとパーシーのブランド態度を明確にするための多属性戦略を引用して、I-D-Uモデルを終わりにしたいと思います。

1. ブランドベネフィットの知覚実現性を高める。

2. ブランドが独自に実現するベネフィットの重要性を高める。

3. 競合ブランドのベネフィットにおける知覚実現性を弱める。

4. ブランドが独自に実現できる重要なベネフィットを追加する。

5. 自分のブランドが有利になるように、ブランド選択のルールを変える。


次回はミクロレベルのa-b-eモデルについてです。


12/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1

ここまでの3段階手法では、マクロレベルのX-YZモデルについて概説してきました。(Xについてはこちら、YZについてはこちら)

今回は、メゾレベルのI-D-Uモデルです。このモデルは、ブランドをポジショニングする時に、どのベネフィットを強調すべきかを決定することに役立ちます。

I-D-Uモデルは、次の3つの単語の頭文字をとったもので、IはImportant(重要性)、DはDelivery(実現性)、UはUniqueness(独自性)です。このモデルは、商品は、それが保有するベネフィットの独自性を、消費者(ユーザー)が他のブランドの中から、識別できるようになっていなければならないということを表しています。


ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーは、ベネフィットを購買動機で考察することを薦め、購買動機は7つあるとしています。その7つは、次のとおりです。

1. 問題を除去するため

2. 問題を回避するため

3. 今のままでは満足できないため、或いは十分な満足が得られないため

4. ほかとの組み合わせで回避するため(接近と回避の混合)

5. 感覚的に満足できるため

6. 知的好奇心や刺激、習熟などが得られるため

7. 社会的承認が得られるため


1から4を負の購買動機、5から7が正の購買動機です。なお、現在使用しているブランドの中身がなくなったり(たとえばコーヒー粉が使用することでなくなったり、メロンを食べたのでなくなった場合)、消耗したり(たとえば使用しているバッテリーが耐用年数をこえた場合)、そういったことで再度、購入するという行為(動機)については、リピート購買に該当するため、つまりはじめて購入するブランドの選択ではないために、上記の購買動機には含まれるものではないと両氏は述べています。


この7つの購買動機に基づいたポジショニングする場合は、大半のケースにおいて、ブランドがまだそこにポジショニングしていない場合に限ります。また、それは最も重視される購買動機(一次的動機)に基づいてポジショニングするというのが、意思決定のルールになります。なお、もし他のブランドがすでにそこにポジショニングしている場合には、次に重視される購買動機(二次的動機)に基づいてポジショニングします。


ロシターとパーシーは、分かりやすい例として、歯磨き粉を挙げています。歯磨き粉の属性または広義のポジショニングには、味・舌触りと、虫歯予防があります。ただ、多くのベネフィットが7つの購買動機のどれにぴったり当てはまるのかははっきりとはしません。味・舌触りは、上記5の感覚的に満足できるという購買動機になるかもしれませんが、食べ物の後味などを除くためといった問題を除去するため(上記1)であったり、虫歯予防などの問題回避(同2)といったこともあります。また、米国の場合だと、クレストの人気が非常に高いため、問題回避というよりも、社会的承認(同7)から購入している人も一定割合はいるでしょう。このように購買動機には曖昧な部分があるため、定性調査を行う際には、心理学の専門家に一次的購買動機を識別してもらうことが重要になる場合があるとロシターとパーシーは補足しています。

ところで両氏が紹介したM.S.ロスの研究結果は、かなり興味深いものです。それは、最も成功している多国籍ブランドの2/3以上は、ひとつの一次的購買動機に集中させているということです。ある調査によると、特定の動機にフォーカスしたブランドのほうが、複数の動機に基づいたブランドよりも、販売数量、マーケットシェア、マージンいずれも高かったということです。


最も強い購買動機ひとつに集中することは、消費者の理解を容易くし、記憶にとどめやすくするということがあるのでしょう。歯磨き粉のように、最も強い購買動機(なんらかの問題を回避すること)が最も多くの購買者をひきつけるのであれば、その最も強い購買動機から離れることなくポジショニングすることが不可欠なことということになります。


ただ、マーケティングアプローチ(ブランディング (4)ターゲティング ③3つのアプローチ)には、ひとつまたはごく少数のセグメントに絞って、大きなシェア獲得を狙う集中型マーケティング、またはニッチマーケティングというのがあります。ニッチを狙うのであれば、最も強い購買動機ではないポジショニングを選択するのが得策かもしれないとロシターとパーシーは述べていますし、かもしれないというよりは、そうしなければニッチとして成立しないだろうと思います。

これについて、たとえば両氏は、サッカリンやホルムアルデヒトなどは使用せず、全て天然成分から作られたというベネフィットを訴求した歯磨き粉の二次的購買動機や、通向きのワインの例などを紹介しています。


ロシターとパーシーは、7つの購買動機について、「もし~ならば」というチェックリストとして活用することで、優れた水平思考的なポジショニング戦略を探ることに役立つとしています。(水平思考/ラテラルシンキングとは、既成概念や理論にとらわれずに、水平移動によって刺激を誘発することで、自由にアイデアを出す思考法のこと)

よく知られた例として、タイレノールが挙げられています。それは、頭痛を鎮めるという問題除去型のポジショニングをしていた大半のアスピリンに対して、タイレノールは頭痛を鎮めることを接近動機として、これに胃痛を回避するベネフィットを組み合わせ、接近・回避の混合動機を利用したとロシターとパーシーは述べています。

最後に、両氏は、各購買動機の幅は非常に広いために、大多数の消費者を引きつける購買動機の中にも、ブランドの差別化を可能にするような差別的なベネフィット機会があると強調しています。

続きは、次回とさせていただきます。


11/22/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法ii X-YZモデルその2

前回は、ロシターとパーシーのポジショニング3段階手法におけるX-YZモデルのXについて述べました。ここで重要なことは、商品カテゴリーで当該ブランドをどのようにポジショニングするのか(Xの決定)、そのXには4つの選択肢があって、そのうちのどれを選択するかは慎重に決めなければならないということです。今回は、このX-YZモデルのYとZについてです。


X-YZモデルのYとZでは、競合ブランドに対してどのように自社ブランドをポジショニングするのか(Y,Zの選択)を考えます。これは、消費者(ユーザー)を表すYについてポジショニングするのか、或いは商品ベネフィットであるZに基づいてポジショニングするのかのどちらかを決めるということです(本稿では消費者を念頭において記述しているためユーザーと表記せず、消費者と記載しています)

ブランド/マーケティング担当者は、このYとZの2つのどちらを対象にするかを決めなければならず、これがX-YZモデルにおける2回目の意志決定になります(1回目の意志決定は、Xの決定を指します)。


X-YZモデルのYは、消費者に関するポジショニングです。このポジショニングの選択肢には、次の2つがあります。

Y. 消費者に関するポジショニング: 

Y1. ターゲット消費者が初心者(技術的商品の活用)

Y2. 購買動機が社会的承認にあたる商品


企業(または事業単位や商品ライン)は、特定した市場の専門家や、特定商品の専門家である必要があり、このためには特定の市場や商品に特化しなければならないロシターとパーシーは述べています。そして、この状況が適用できる時には、Y1かY2を選択すべきだと説いています。


Y1のターゲット消費者が初心者については、およそ初心者というのは商品の属性を十分理解できるかというと、そうでない場合が多いはずです。また、それが技術的な商品であれば尚更で、それは日本に限ったことではないでしょう。このため、技術的な商品であればあるほど、企業は商品特性への言及はほどほどにして、商品の消費者に焦点を当てるべきということになります。たとえば、今日の例でいえば、3Dプリンターやブロックチェーンによるビットコイン、複雑な金融商品などが、まさに当てはまるでしょう。

ロシターとパーシーは、ターゲットとなる初心者が本当に初心者となるのは、商品が性質的に技術的なものであり、実際、多くの初心者が新規のカテゴリーユーザーではあるが、その逆は必ずしも成立しないといっています。つまり、多くの新規商品カテゴリーが技術的なものではないため、初心者というのは当てはまらない(もしくは当てはまりにくい)としています。


Y2は、本来的にはZの要因になりますが、消費者の承認が重要なものとなるため、Yの要因として扱われています。当時の米国では、ファッション衣料や高級車などの商品カテゴリーでは、社会的承認が最大の購買動機であると捉えられていました。また、それは今でもそう大差なく通用するのだろうと思います。

日本と異なり米国の場合は、身につける衣料や雑貨、自家用車などが、各消費者の社会における地位やステータス、立場を表します。わかりやすくストレートにいえば、米国ではたとえば、世帯主の収入がさほど多くない人はレクサスのような高級車には決して乗りません。一方で、今日の日本ではまったくそうではなく、レクサスに限らず、アルファードやベルファイヤーといった高価格帯帯の車に、世帯主収入はおろか、世帯収入が車の半分や1/3以下の家庭が、こぞって乗っています。ですので、このY2要因を適用させるのは少し難しいように思えます。両国に共通するものでいえば、ひとつには、たとえば脱炭素やサーキュラーエコノミー関連の商品群などが代表的なものになるでしょう。


X-YZモデルのZは、商品のベネフィットに従ってポジショニングするもので、その他全ての状況があてはまるものとしています。

Z. 商品べネフィットに基づいてポジショニング

Z1. その他全ての状況


その他全ての状況と説明されていますが、実際は殆どのブランドがここに該当します。商品のベネフィットは、消費者ではなく、商品と関連付けられ、ひとつまたはそれ以上のベネフィットに、商品特性のメッセージと共に位置付けられます。


消費者、商品ベネフィット、どちらのポジショニングの場合でも、どのベネフィットが強調されるべきかを決める必要があり、これにはI-D-Uモデルを用いて検討します。これについては次回で概説することにします。


11/17/2024

ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法i X-YZモデルその1

ポジショニングについて、ジョン・R. ロシターとラリー・パーシーが、ブランドコミュニケーションの観点から、マクロレベル、メゾレベル、ミクロレベルの3段階手法というモデルを、およそ四半世紀前に提唱しました。今日においても効果のある枠組みだと筆者は思いますが、近年ではあまり語られることがないように思えるため、このブランディングブログで概説していきたいと思います。


ポジショニングの3段階手法は、次の3つのモデルで構成されます。

X-YZモデル (マクロレベル)

I-D-Uモデル (メゾレベル)

a-b-eモデル (ミクロレベル)


X-YZモデルは、ポジショニング上の位置づけを目的としたもので、3段階手法に基づいたポジショニングはこのモデルから始まります。

I-D-Uモデルは、X-YZモデルの次に来るもので、ベネフィットを選択するために適用されるモデルです。

a-b-eモデルは、I-D-Uの後に来る最後のモデルで、ベネフィットをミクロレベルでフォーカスするために用いられるモデルです。

以下に、それぞれのモデルを数回に分けて、できる限り簡潔に説明していきたいと思います。


マクロレベルのX-YZモデル

X、Y、Zはそれぞれ次のものを表します。

Xは、商品カテゴリーにおいて、対象にする自社のブランドをどう位置付けるかを決める因子で、商品カテゴリー自体か、商品カテゴリーにおけるニーズを表します。つまり、そのブランドはいったい何なのかを端的に表現するものになります。

Yは、ユーザーを表し、競争相手のブランドに対して、自社ブランドをどう位置付けるかを決める因子で、そのブランドは誰のためのものを表します。ユーザーとは消費者や法人などの利用者を指しますが、本稿では消費者を念頭においているため、以降はユーザーの代わりに、消費者として記述していきます。

Zは、ベネフィットを表し、Y同様、競合ブランドに対する自社ブランドの位置付けを決めるものです。ブランドのベネフィットを示すため、そのブランドは何を提供するのかということを表します。

まとめると、X-YZモデルは、そのブランドは何で[X]、誰を対象にして[Y]、何を提供しているのか即ちどういったベネフィットをYにもたらすのか[Z]を説明し、これをもってマクロレベルのブランドポジションを表します。

このX-YZモデルの後に、I-D-Uモデルとa-b-eモデルの2つが続くことになります。ロシターとパーシーは、このX-YZモデルを、ブランドポジションについて、消費者の頭または心の中に、当該ブランドは何で、誰を対象にし、どういったものを提供するのかを位置付けるもので、「上位のコミュニケーション効果」と述べています。


X-YZモデルのXは、上記のとおり、カテゴリーそのものかカテゴリーのニーズを表すもので、その決定に関する選択肢はハイレベルでXaとXbの2つ、それぞれが更に2つに分かれて、計4つの選択肢になります。

Xa. 中心的ポジショニング: 

Xa1. 先発ブランドか市場リーダー 

Xa2. 模倣ブランド(但し、ベネフィットがXa1と同等と消費者が判断でき、且つXa1より低価格で提供できる場合に限定)

 

Xb. 差別的ポジショニング

Xb1. その他全てのブランド 

Xb2. 後発の模倣ブランド


はじめにブランド/マーケティングの担当者は、ポジショニングを中心的か差別的かのどちらかを選ばなけれななりません。

選ぶ基準は、上記のとおり、カテゴリーに1番乗りするブランドは、自ずと中心的ポジショニングを選択することになります。というのも、その最初のブランドが、当該カテゴリーそのものを定義することになるからです。

定義するものは、商品カテゴリーの属性、属性の望ましい水準、ターゲット顧客による属性の組み合わせ方(または選択の仕方)です。こういったことは、後発ブランドに非常に大きな影響を与えるため、当該カテゴリーにおける主要なベネフィットを提供し、消費者が実感し続ける限り、先発ブランドは優位性を獲得し続けることができるといえます。


Xa1かXa2以外のブランドは全て、差別的ポジショニングを選択しなければいけないと、ロシターとパーシーはいっています。


Xb1はXa2になれないブランド、つまりXa1の先発リーダーか市場リーダーが提供するブランドのベネフィットが、消費者からみて同じものと認識されることに加え、価格が先発ブランドより低価格で提供することができること、この両方を実現できないブランドがXb1ということになります。これは後発の模倣ブランドも差別化する必要があるということにつながるため、Xb2はXb1の差別化ブランドを模倣するということになります。

4つの選択肢は、Xa1、Xa2、Xb1、Xb2の順で検討していきます。何事もそうかもしれませんが、最初が肝心です。ここでのポジショニングに関する意思決定(どの選択肢にするかを決めること)は、ポジショニング全体を考える上で、非常に重要な部分になります。というのも、これまで繰り返し触れてきましたが、ポジショニングは消費者の頭(または心)の中を対象にするため、一度決めた選択肢を後から変更することは容易ではなく、下手をすればブランドの存在価値自体が否定されることにつながりかねないため、慎重に検討しなければなりません。

X-YZモデルのYとZについては、次回にまわしたいと思います。


11/11/2024

ブランディング (5)ポジショニング ④差別化と疑似化

ケビン・レーン・ケラーは、ポジショニングを決める上で、差別化のポイントと疑似化のポイントを的確に選択することが非常に重要であると述べています。

差別化のポイントとは、端的にいえば、競争相手の商品との違いを表すベネフィットのことで、ここでのベネフィットとは消費者が買いたくなる要因です。

疑似化ポイントとは、競合商品と共通する機能や特徴のことを踏まえ、自社商品の価値が競合商品の価値と、同等であるとみなされるポイントのことをいいます。ケラーは、英語の原文ではポイント・オブ・パリティと呼んでいます。


従って、優れたポジショニングとは、競合商品との差別化ポイントに留まることなく、疑似化ポイント(ポイント・オブ・パリティ)についても、十分考慮されているということになります。

ケラーに従えば、ポジショニングを決めるための大まかなながれは、以下の2つです。


1. 競争上のフレーム・オブ・レファレンスを規定する。

2. 差別化と疑似化それぞれのポイントを確立する。


1のフレーム・オブ・レファレンスとは、競合商品と比較できる基準となる枠組みのことをいいます。ここですべきことは、自社ブランドの競争相手になる商品(または商品群)を決めて、それらが消費者にどのように見られているのか、位置付けられているのかを理解することです。ケラーは、適切なフレーム・オブ・レファレンスを規定すれば、具体的な差別化ポイントと疑似化ポイントの切り口が定められるといっています。なおケラーは、対象になる商品をカテゴリー・メンバーシップと呼んでいます。

ただ、このフレーム・オブ・レファレンスを規定するのは、そう簡単ではありません。たとえば、新しい清涼飲料を考える場合、レファレンスを狭義に捉えれば他の清涼飲料ということになりますが、単純に飲料に広げた場合だけでも、ミネラルウォーター、日本茶や中国茶、アイスコーヒーやアイスティー、フルーツ系飲料、スポーツドリンク、栄養飲料等々、コンビニや自販機で購入できるものだけでもいろいろあります。これに、もし飲食店や自宅で作れるものまで含めるとなると、膨大なレファレンスとなります。従って、当然のことながら、自社商品の企画段階、たとえばコンセプト開発時点での主旨を明確にしておく、仮説をしっかり出しておくことが非常に重要なタスクになります。


2の差別化のポイントと疑似化のポイントを確立することについては、差別化ポイントを選択する上で、最も考慮すべきことは、消費者からみた望ましさや好感度と、その望ましさの実現性であるとし、ケラーはそれぞれに以下のような基準を設けています。


好感度の基準

関連性: 差別化ポイントは自身と個人的に関連があるか。

独自性: 差別化ポイントは他に存在しない唯一のものか。

信用性: 差別化ポイントは信頼に値するか。

実現性の基準

実行可能性: 差別化ポイントを創出できるか。

伝達可能性: 差別化ポイントは消費者の知識と合致するか。

持続可能性: 差別化ポイントを維持・強化していくことができるか。


ケラーは、疑似化ポイントを他のブランドと共有されている連想と意味づけ、これにはカテゴリーと競争という2つがあり、カテゴリー疑似化ポイントは、ブランド拡張する際、カテゴリーの非疑似性が強いほど、カテゴリーの疑似化ポイントを確立しておくことが重要だと述べています。

競争的疑似化ポイントは、競争相手の差別化ポイントの効力を失わせるために作られる連想のことをいい、相手が優位になっている領域においてブレークイーブンに持ち込み、ほかの領域で自社が優位に立つために行うもの、一例としてミラービールのライトのおいしさはそのまま残してカロリーを控えめにしたケースで説明しています。


なおケラーは、差別化ポイントと疑似化ポイントは、その属性やベネフィットの面で、負の相関関係にあることが多いため、注意が必要といっています。たとえば、高品質と低価格、低カロリーとおいしさ、安全性とパワーといった具合です。また、それぞれの属性やベネフィットが、長短両方を有していることもあると述べています。たとえば、伝統は経験や専門性をほのめかすプラスの面がありながらも、一方で旧態依然とした時代遅れの産物などと、マイナスの要素として捉えられてしまうといった一面があるとしています。

映画007でお馴染みのBMWは、ラグジュアリーでありながら高度な機能を誇っていることで知られています(ただ近年のBMWの動きを見ていると、もしかしたら、それはもうすでに過去のことになってしまったのかもしれませんが・・・)。筆者がニューヨーク州イサカで勉強していた時は防水なのに通気性に優れた軽量のゴアテックス素材を用いたLLビーンのダウンジャケットをいつも愛用していました。相矛盾するかのようなものを両立させるには、技術だけでなく、消費者にそう思わせることが必要で、それができてはじめて相手のブランドを凌駕できるようになる、そのためにはケラーのいう差別化ポイントと疑似化ポイントをうまく確立させることが重要だということになります。


11/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③留意点ii 忘れてはならないこと

前々回の「差別化の留意点i 始めに問うべきこと(上)と、前回の「始めに問うべきこと(下)」では、ポジショニング戦略を考えていく前に、はじめに、自社の現状をしっかりと見ることの重要性とすべきタスクについて触れました。今回は、私たちが決して忘れてはならないことについて、簡潔に記述しておきたいと思います。それは、一言で表すと、


人は見たいものしか見ない

言い方を変えると、

人は自分が信じたいものを信じる

ということです。


これは、日本に限ったことではなく、米国でも欧州でも、その他アジアの国々でも、当てはまることだと思います。論理的に考えて行動しようとしても、数々のバイアス、たとえば、ハロー効果、バンドワゴン効果、後知恵バイアス、正常性バイアス、自己奉仕バイアスといったようなものが邪魔をします。(思考の罠i罠ii罠iii罠iv罠v罠vi)


加えていえば、昨今の(というか、実は随分昔からあった)多くのフェイクニュース、平気でうそをつく人々、無数にあるにせ情報、こういった類いのものは、悲しいことですが、インターネットの浸透によって、非常に多くなったと思います。このような環境下で、我々はどうすればいいのでしょうか。

残念ながら特効薬のようなものを、筆者は挙げることができません。ただ、我々は、次のようなことであれば、理解し実行することができると思います。たとえば、

ターゲットにする消費者は、どのブランドを支持しているのか。

当該ブランドは、その消費者の頭(または心)の中で、どのような場所を占めているのか。


支持されているブランドが自社のものでない場合は、我々は競争相手を深く理解しなければなりません。そして、自社がその競争相手に対して、何ができるかを注意深く検討し、攻撃すべき弱点を見つけることです。

次に、競合商品に対して差別化できるポイントを探して、自社が主張できる根拠を、ターゲットに対して示すこと

あとは、ぶれることのないメッセージを、繰り返し伝え、コミュニケーションをし続けること


そして、忘れてはならないのは、市場リーダーのポジションが、どういうものかを正しく把握すること。それは、多くのケースにおいて、自社のポジションを確認すること以上に重要といえるでしょう。何故ならば、リーダー企業が保有するブランドを消費者が最も支持しているからであり、通常、2位以下の企業には、それを簡単にひっくり返すことはできないからです。自社がどう考えるかではなく、消費者がどのように見ているかという点が重要だからです


つまるところ、消費者が今、考えている枠組みや前提といったようなものを、時間をかけて少しずつ壊していかなければならないということに行き着きます。それは、ある意味、競争のルールを変えていくということにもつながります。


トラウトとライズは、このように述べています。消費者の頭の中に梯子のようなものがあって、その梯子のひとつがある商品分野に該当する。梯子の各階段にはその消費者にとってのブランド名が刻まれていて、最上段が最も消費者の頭(または心)を占有している。新しい商品を市場に投入して、新市場を開拓したければ、新しい梯子を持ってくる必要があるということになります。


最後に、トラウトとライズの言葉を、少し長くなりますがそのまま引用したいと思います。「バカも休み休み言うべきだ。誤解は広告や営業努力でやすやす変えられるものではない。先入観のない人はいない人は広告や営業マンの説得に接すると自らの先入観に照らして、同意したり却下したりする。今日のマーケティングで何が無駄な努力といって、人の考えを変えようとすることほどバカげていることはない。人が一度何かを思い込んだら、それを変えようとするのは不可能に近い。そもそも、真実って何だ? それは見込み客の頭の中にある認識である。あなたにとって納得のいかないものかもしれないが、避けて通る道はない。事実は事実として受け入れて、付き合っていく他はないのである。」


10/25/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③差別化の留意点i 始めに問うべきこと(下)

ポジショニング戦略を立案する際、ジャックトラウトとアルライズの「6つの自問」を用いて、はじめに自問自答しておくことが極めて効果的です。前回の始めに問うべきことでは、ひとつめ「自社の現在のポジションは?」とふたつめ「どんなポジションを築きたいのか?」について触れました。今回は、残りの4つの問いについてです。


3. ライバルは誰か?

自社だけで市場を独占することは、資本市場社会においてはありえません。必ず競争相手が存在します。相手をよく理解し、どのように向き合うか。トラウトとライズは、市場のリーダーに対して、勝負を挑むのではなく、迂回しろと説いています。そして、まだ誰も手にしていないポジションを掴めといっています。 

ここでいうライバルとは、自社にとっての競争相手というよりは、消費者の頭の中で自社と戦う競争相手という理解が正しいでしょう。つまり、自社はライバル視していない相手が、ライバルである可能性があるということになります。ひとたびライバルがわかれば、トラウトとライズは、次の4つのパターンに言及しています。 

 

トップブランド(企業)がすべきことは防衛戦 

二番手は積極攻撃 

規模で劣る場合は側面攻撃 

ローカルブランド(企業)であればゲリラ戦

 

戦う場所は、リアルであろうとネットであろうと、小売りの店舗ではありません。消費者の頭(または心)の中でライバルと戦うわけです。それは一見して目に見えないため、かなりやっかいです。多変量解析などを用いた市場調査を行うことで、頭の中をマッピングしなければなりません。 

トラウトとライズは、消費者は単に商品を買うのではなく、選び取っていて、ブランドの長所や短所よりも、ポジショニングを重視すべきだと述べています。また、市場全体のポジションを切り崩して、仕切り直すことを薦めています。


4. 資金は十分か?

トラウトとライズは、消費者の頭のなかのシェアを獲得するには、(当たり前といえば当たり前のことですが)お金がかかるといっています。資金が限られているのであれば、地域を限定して広告を打つべきといっています。一例として、ニューヨークは全米で一番スコッチウイスキーの消費量が多いため、ニューヨークでNo1スコッチというポジションを獲得できれば、そのスコッチを全米に拡大できるとしています。


5. 同じことを続けられるか?

人の記憶には限りがあります。相手にわかりやすく要点を伝えたければ、3、5、7といった奇数にするといったことは知られています。但し、9つとなった途端に、理解に混乱が生じます。場合によっては、5つでも多いといわれることがあります。また、人は忘れがちな上、頭は混乱することを嫌います。加えて、周囲の環境が変化するため、自社のブランドを際立たせようと思えば、ひとたび決めたポジションとそのメッセージを、消費者に対して繰り返し伝える、同じことを言い続けることが必要です 

ライバルも積極的に活動していることでしょう。このため、消費者に覚えてもらい、一番に想起してもらうためには、独自性に富んでいることは勿論ですが、シンプルで分かりやすいことが重要です。わかりづらいことはご法度だと筆者は思います。 

本ブランディングのブログでも触れましたが、消費者は自分たちが経験してきたプロダクトの利用状況などから、利用可能な代替できるプロダクト、つまりとってかわることのできるベネフィットを常に検討しています(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場)。これにはいろいろな理由が考えられるでしょう。情報過多の時代において、自分に自信が持てない人たちは、他人が買うものを買う傾向が高いことが挙げられます。たとえば、何故これほどまでにSUVの車が多いのか。SUVを本当に必要としている、または乗ることを楽しんでいる人はそう多くないように思います。自分では選べないから、あの人たちが選んだもの・おすすめのものを購入する。理性的に考えたらすぐにわかるようなことでも、都度、感情に流されてしまうため、いつも心が揺れているということになるのでしょう。 

とはいえ、一方では、人の気持ちや心、ましてや頭の中にいたっては、そう簡単には変わりません。何に焦点を当てればいいのか。それは、自分たちが獲得したいポジションのコンセプトを、消費者がわかるように、繰り返し訴え続けることに尽きるといえるでしょう。トラウトとライズは、「ポジショニングとは、累積的なコンセプトである」と述べています。「長期的に広告し続けてこそ効果がでる」として、「何年間も同じことにこだわり続けなければ意味がない」といっています。


6. 自社にふさわしい広告を作っているか?

世の中、販売されている商品と広告が驚くほど釣り合わないものが多いと感じるのは筆者だけではないでしょう。ましてや会社の体質や文化、雰囲気などと、正反対の広告に出会うことも少なくありません(該当する会社の中の本当の姿を知る機会を得る人は、そう多くはないでしょうが)。プロダクトのポジションと広告がマッチしていることは重要と捉えるのがふつうのはずだと思えるのですが、意外とアンマッチのものが散見されます。人は、事実ではなく、イメージで判断する、ポジショニングも消費者の頭の中の少し具体的なイメージであるとすれば、広告には代理店丸投げではなく、もっと積極的に関与してもいいのではないでしょうか。

 

まず、現実を直視すること。自社のおかれている状況を、少し時間をかけて、一から順に見直すことが、最初にすべきこと。一足飛びに、課題解決の打ち手や、ポジショニング戦略を考えるのは、避けなければなりません。


10/20/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③差別化の留意点i 始めに問うべきこと(上)

ポジショニング戦略を考える前に、ジャックトラウトとアルライズは、以下の「6つの自問」をすべきとしています。


1. 自社の現在のポジションは?

2. どんなポジションを築きたいのか?

3. ライバルは誰か?

4. 資金は十分か?

5. 同じことを続けられるか?

6. 自社にふさわしい広告を作っているか?


要は、自分・自社をハッキリさせるということに尽きます。実際、自分(自社)の行先が分からない人に、ついていく人はまずいないでしょう。


1. 自社の現在のポジションは?

ビジネスにおいて、現状を正しく認識することは極めて重要であることは言うまでもありません。課題の設定や戦略の立案、オペレーションの改善や改革など、何かを始める時には、まずはじめに現状を把握することが重要です。 

そのためには、ファクト(事実)を洗い出すことが不可欠です。 これまでの自分たちの経験や勘に頼ることなく、思い込みや固定観念といったバイアスを排除して、多方面からファクトを集め、分析することが必要です。また、ファクトを積み上げても、正しく評価されるとは限りません。会社や上司の面子、業界通念、過去の成功体験などに引きずられて、評価そのものが歪められてしまうといったことは少なくありません。 

我々は、日常生活においても、何処かへ行くためにグーグルマップを見れば、まず自分の現在地が示されます。グーグルマップに限らず、施設やホールなどでの館内で案内図を見る時にでも、自分の現在地が明示されています。現在地を正しく知るからこそ、目的地への行き方がわかるようになります。ビジネスでも、同じことだといえます。

なおトラウトとライズは、ポジショニングの現在地は、企業サイドからではなく、消費者の側からのものでなくてはならないといっています。つまり、消費者の頭の中で、自社がどういったポジションを築いているかを知らなければならないということです。 

現在のポジショニングをリサーチする方法には、多変量解析によって、ポジショニングを決定することができます。但し、選定した調査対象者の特徴と数に結果が影響を受けるため、サンプル抽出には偏りがないように注意すること、多数の代表性のあるサンプルを確保することが重要です。ポジショニングによく用いられる多変量解析技法には、因子分析、判別分析、主成分分析、数量化理論II類、数量化理論III類、数量化理論IV類、コレスポンデンス分析、多次元尺度構成法(MDS)などがあります。

どういった技法や手法を使うかは別にしても、トラウトとライズは、我々がすべきことは、すでに消費者の頭の中に存在しているものに、自社のプロダクトやそのコンセプトを関連付ける方法を探すことだとしています。

 

2. どんなポジションを築きたいのか?

ポジションの構築において、最も重要なことは何でしょうか。様々な解析技法や理論、フレームワークや方法論をたくさん知っていることでしょうか。創造性や全体を構想する力、或いは解決策などをまとめ上げていくような論理力でしょうか。いずれも必要な条件だと思います。 

ですが、筆者は「これが進むべき道」と皆に示し、それを必ず実現させようとする強固な意志こそが、最重要なものだと思います。この点において、意志のないままに過去の取組み事例や成功した結果を単に踏襲するといったような考え方では、新しいポジショニングを成功させることなど到底できないといえるでしょう。 

トラウトとライズは、手に入れたいポジションを考える時は、欲張らずに、絞り込めと説いています。大きすぎるポジションは、たとえ手に入れることができたとしても、守りきれなくなると忠告しています。 

ひとつ例を挙げるとすると、少々古くなりますが、筆者にはキリンビールのラガーが頭に浮かびます。アサヒビールのスーパードライの爆発的ブームから、1990年前後を境に、ビール市場は生一色といった感じになりました。キリンビールは一番搾りを発売し、これが同社にとって久しぶりの大ヒットになったこともあってか、スーパードライの追撃態勢をより本格化するためだったのか、驚くことに、なんとラガービールを非加熱処理した生ビールしてしまいました。これにより、ラガービール特有の味は消え失せ、同時にラガービールの確固たるポジションは消滅してしまいました。往年のラガービールファンも去ってしまったのはいうまでもありません。 

 

大半のプロダクトにおいて、万人受けするような商品を開発し販売したところで、結局は誰にも認められないということです。ほかの消費者にも買ってもらいたいなどというのは厚かましいというか、無謀な考え方です。他とは異なる差別化のポイントや、突出した何かを検討したり、練り上げることをせずに、安易に妥協した産物を作ってはなりません。フォーカスするところを決める、絞り続けるべきで、このためには、長期的な視点を持って、手に入れたいポジションを考え続けることが必要です。

長くなりそうなため、続きは次回とさせていただきます。


10/14/2024

ブランディング (5)ポジショニング ②差別化のすすめ方

差別化のすすめ方は、どのようにすればいいのでしょうか。ジャック・トラウトは、ロジックによる差別化が肝要といい、クリエイターによる創作に任せるべきではなく、差別化にクリエイティビティや想像力の豊かさは関係ないといっています。また、大半のケースで、マーケティングが失敗する理由は、論理性の欠如だと述べています。


トラウトの差別化に向けたステップは、次の4つです。

1. 取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探す。

2. 差別化のアイデアを探す。

3. 主張の根拠を示して、信頼を獲得する。

4. あらゆるコミュニケーションの場で、アピールを徹底する。


1の取り巻く環境、特に競争相手を観察し、攻撃すべき弱点を探すことについて、トラウトは、重要なことは頭にすぐに浮かぶこと、よく考えないとわからないようなことでは駄目だといっています。ターゲット顧客が、競合他社の強みと弱み自社の強みと弱み、この2点をどのように見ているかということ、これをいち早く把握する必要があると述べています。

トラウトがよく用いたやり方は、対象になるカテゴリーに関係する基本特性を列挙し、各項目について、ターゲット顧客に対して、競合他社ごとに、10点満点で採点してもらうというものです。これを行うことで、当該カテゴリーにおいて、誰がどう感じているかを把握することができ、これに基づき、社内で議論を発展させていくというものです。


2の差別化のアイデアを探すことについては、ほかとはハッキリ違うこと、差別化できること、独自性であること、兎にも角にもこれを見つけ出して、顧客に魅力を感じてもらえるようにすることだといっています。この差別化や独自性は必ずしも商品そのものの特徴である必要はないとのこと。これについては、本ブランディングブログの差別化の方法を参考にしていただけるはずです(i商品の機能による差別化iiサービスによる差別化iii人による差別化ivチャネルによる差別化vイメージによる差別化)

そして、トラウトは差別化するためには、カテゴリーを自ら創り出して、そこに一番乗りすることだと述べています(ブランディング (1)ブランディングとは②)。一番手は永遠に一番手で、独自性なき後発は消えると指摘しています。実際、米国でいえば、コピーのゼロックス、ジーンズのリーバイス、ティッシュペーパーのクリネックス、ゼリーのジェロ、翌日(または翌朝)配達のフェデラル・エクスプレス等、カテゴリーに1番乗りして成功したブランドは、その後の市場シェアで優位性を保持し続けることが多いはずです。

ただ、一方で、必ずしも一番乗りが優位とはいえないのも事実です。たとえば、インターネット黎明期のネットエスケープ社のネットエスケープ・ナビゲーターというウェブブラウザーが後発のマイクロソフトのインターネットエクスプローラーに駆逐されてしまうケースや、パソコンOSの先発Macに対して後発のWindowsが市場を制した例、家庭用VTRで後発のビクター&松下連合のVHSが先発ソニーのベータを市場から退場させたことなど、いろいろ挙げることができます。

つまるところ、一番手のブランド/企業は、市場参入後の打ち手次第で、先発優位を維持し続けることは可能であるのは事実といえるでしょうし、実際のところ、先発ブランドが後発ブランドのポジショニングに対して、極めて大きな影響を与えることは間違いありません。

トラウトは、また、一番手の商品名がトップブランドであり続ける理由に、商品名が一般名詞化することも挙げています。ゼロックス、バンドエイド、サランラップ、ゴアテックス、ファイバーグラス等々です。


3の自分たちの主張の根拠を示して信頼を獲得することについては、世論という法廷の場に立っているくらいのつもりで、消費者が納得できるエビデンスを提示しなければならないといっています。建て前と本音、広告でうたっていることと実態の違いが、あまりにも多いことに我々は随分前から気づいています。消費者、ひいては自社従業員からの信頼を得るために、客観的なエビデンスや明確な根拠を提示する。これが、本来のあるべきブランドプロミスといえるでしょう(ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2SMM (4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位ii 文化の形成要素と顧客サービス)。

信頼の裏付けとして、専門性を見せるというのはひとつの有効なやり方です。たとえば、プロフェッショナルファームにみられる豊富な知識と多様な経験・実績から導きだせる問題解決における引き出しの多さなどが挙げられます。メーカーが自社の研究/技術開発力を誇示するのであれば、特許件数はひとつの有力な裏付けになるでしょう。専門性を少し拡大解釈することになりますが、歴史や伝統も、信頼の裏付けになるのではないでしょうか。宮内庁御用達、数百年以上変わることなくこだわり続けてきた製法や原材料といったものになります。レストランの格付けも、信頼の裏付けに該当することが多いと思います。これらは、次のステップ4で展開することになります。


4のあらゆるコミュニケーションの場でアピールを徹底するというのは、仮に良い商品を創ることが出来たとしても、それだけでは決して売れないからです。トラウトは、米国レンタカー業界のエイビスの「(当社は業界の)No2だからこそ、我々は頑張っています」といった広告をとおして、社員がモチベーションを上げた例を紹介しています。

大勢の人に選ばれ続けていることは、アピールできることです。多くの人が選んでいるからこそ、消費者は安心します。人が買うから自分も買うということです。今日の口コミは、やらせも多いようですが、アピールが徹底できるという点で、非常に強力なツールであることに間違いありません。著名人や多くの人が憧れるような人が選ぶ製品やサービスも、強力なアピールになります。多くのアスリートが選ぶナイキなどはその典型でしょう。他人が買うものを買いたがる人は多くいます。


ところで、トラウトは、ボールのあるところでプレーしろと説いています。所謂Think Globally, Act Locallyです。ゴルフはグローバルスポーツで、ゴルファーはこれを心得ているが、マーケターはそうでないといっています。この例として、ビールのハイネケンは世界中どこでも同じ味だが、マーケティングは標準化せずにローカルニーズを踏まえた多様な形態をとっているとしています。

ただ、グローバル化が進行し続けている今日では、画一的なメッセージを世界中に発信することが必ずしも通用しないとはいえません。地球温暖化、SDGs、ESG経営、ブランドパーパス等々、少し遡ればWindows95なども、画一的なメッセージだったように思います。一方で、ウォルマートは米国以外の国では、うまく事業成長ができずにいます。マグドナルドは現地に適したハンバーガー、たとえばインドの羊バーガーなどを提供しています。


日本の国土の約26倍の面積を持つ米国、その人口は日本の3倍もありません。米国は地域によって、考え方や行動様式などが大きく異なります。面積が大きいから、移民が作った国だから、それは当然という見方があります。一方で、日本はどうでしょうか。世界の大都市東京と地方では、人の意識やものの見方・考え方はかなり違うと筆者は強く感じています。少し大袈裟にいえば、国が違うくらいの感さえあります。同じ大都市でも、東京、大阪、名古屋でも随分異なります。こういったことを考えると、頭(または心)の中にポジショニングするやり方も、ターゲット市場が何処で、狙いたい顧客は誰か、そして競争相手は誰で何をしているかといったことについて、今まで以上にはっきりとさせておかなければいけならないということになります。


最後に、トラウトは何度も繰り返し説いています。大事なことは、自分が何を望むかではなく、競争相手との関係で何ができるかということ。そのためには、競争相手をしっかりと理解し、消費者の頭(または心)の中で相手がどういう場所を占めているかをまず理解しなければならないということを強調しています。決して忘れてはならない金言です。


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10/06/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法v イメージによる差別化

差別化の方法の5回目は、イメージについてです。(商品の機能による差別化サービスによる差別化人による差別化チャネルによる差別化)


イメージによる差別化

消費者からみて、他社と同じように映る製品やサービスであっても、ブランドに対する心象で差別化することを、イメージによる差別化といいます。フィリップコトラーによると、イメージによる差別化は、シンボル、メディア、雰囲気、イベントなどをとおして行われるとしています。なお、このイメージによる差別化は、一般的にいわれるところのブランドイメージとは異なるもの、或いは狭義の概念と捉えるべきです。 

というのも、ブランド・イメージとは調査などによって明らかにされた消費者が実際に認識しているブランドの姿のことを指すからです(ブランディング(2)ブランド用語①)。消費者がブランドをどのように見ているかを表すものがブランドイメージであるため、そのイメージを構成する要素には、自ずと商品やサービス、人、チャネルといった差別化の方法になるものが含まれ、そこには5つめの差別化の方法であるイメージも入るためです。

 

シンボル(またはロゴ)といえば、ナイキを思い浮かべる人は少ないないはずです。ナイキは、製品の機能以上に、多くのアスリートの心に、格好いい姿、スマートな自分といったようなイメージをロゴマークから想起させることに成功しました。こういったシンボルをとおしたイメージの確立に、マイケルジョーダンが果たした役割は、非常に大きいものがありました。ほかにも、3M、P&G、 Unilever、FedEx、インテル「intel inside」等々、国内外で高い評価を得ているものがたくさんあります。

自動車のレクサスも、シンボルマークによる差別化を実現したといえるでしょう。 米国において、レクサス前のトヨタ車には、性能が高く、故障しにくい優れた車という評判はゆるぎないものだったのでしょうが、それはあくまでも大衆車としての認識にとどまるるものでした。そこで、(それまでのトヨタがあまり得意とはしてはいなかった)デザイン性に優れた高級車として開発したのがレクサスだったわけです。レクサスはトヨタブランドとは一線を画したブランド展開を行い、今日レクサス(のシンボル)=ラグジュアリーな高級車というイメージを定着させ、世界的に成功を収めています。

SONYのロゴは、(世代によるかもしれませんが)シャープでスマートな製品というイメージを今でも想起させます。今日のソニーは、エンターテインメントの分野でも巨大な存在で、イメージセンサーにおいても大きな強みを発揮しているコングロマリット的なメーカーです。 

20世紀のことになりますが、SONYの4文字は、まさに性能の高い先進的な製品というイメージを、人々に与え続けていました。その代表格が(かなり古いかもしれませんが)ウォークマンです。筆者は学生時代の1981年に、米国で音楽旅行をした際、プレスマン(ほぼウォークマンのサイズで、録音機能が備わっているもの)を携行し、ニューヨークのジャズバーでミュージシャンに録音許可をした際、プレスマンを見せ、「こんな小さな機械が、良い音で録音できるのか」と言われ、実際に聞いてもらい、音の良さに相手も驚き、そのまま快諾されました。また、大陸横断バスのグレイハウンドの車中でプレスマンで音楽を聴いていると、黒人の子供から「雑音を聞いているの?」と言われ、ヘッドフォンを渡して音を聞かせると、驚嘆していたのを、不思議なことに今でも鮮明に覚えています。こういった場面では、いずれの人たちもSONYのロゴを、まじまじと眺め、それが脳裏に焼き付いたのではないでしょうか。そういったロゴによるイメージが、SONYにはありました。今の若い世代が、ソニーのロゴを実際のところ、どのように捉えているかはわかりませんが、以前と比べて、極端な差はないのではないかと思っています。

 

シンボルに含まれるであろうものにキャラクターがあります。不二家のキャラクター、ペコちゃんも同社のシンボルでしょう。もともとミルキーの販売促進のために練られていたキャラクターは、何故かミルキー発売の前年に、不二家レストランの店頭に登場しました。ママの味のミルキーという存在を超えて(ミルキーはもはやそれほど売れていないそうです)、永遠の6歳のペコちゃんは、70年以上も多くの人たちに認知され、親しまれています。 

ペコちゃんは架空の人物ですが、実在した人物がキャラクターになっているものに、ケンタッキーフライドチキンの創業者カーネルサンダース、煙草のマルボロのカウボーイなどもよく知られたキャラクターです。動物では、三越本店のライオン、ブルドッグソースのブルドック、そしてミッキーマウスやハローキティといったところでしょうか。

 

テレビをはじめとしたマスメディアによる差別化は、もはやあまり効かなくなってしまったといっていいでしょう。そのマスメディアをとおした差別化では、サントリーの伊右衛門が、今でも筆者の頭に浮かびます。京都宇治・福寿園の寛政2年創業、創業200年といったような老舗感、或いは本格的なイメージが付加された伊右衛門のメッセージは、当時、非常に印象的でした。今日、サントリーや京都福寿園といったコーポレートブランドの下ではなく、単独で伊右衛門ブランドを展開しています。コーポレートの冠をつけたメディア展開から伊右衛門単独になるまで、少し時間がかかったのかもしれませんが(わざと時間をかけていたと思いますが)、筆者には比較的短期間で強いブランドに育てられたと感じています。なお、マスメディアによる差別化以外に、ファンサイトを含めたネットメディアによる差別化については今回の対象外とし、別途、機会をみて触れてみたいと思います。


雰囲気による差別化については、最高級のホテルや旅館、レストランなどが幾つも挙げられます。もっと身近なところで、誰もが目にするものでいえば、スターバックスを挙げるべきでしょう。1971年に米国シアトルで誕生した同社は、当時、米国には存在しなかった本格的なコーヒーを提供するカフェとして登場したと、筆者は理解しています。日本には2003年に、自分らしい時間をゆったりと過ごせる自宅や職場とは異なる第三の場所「サードプレイス」というコンセプトで登場しました。米国と異なり、日本には至るところに喫茶店があったわけですから、提供するコーヒーをはじめ、提供の仕方や喫茶の空間全体を、ほかの喫茶店・カフェとは大きく違うイメージで展開する必要がありました。そのやり方が成功し、今では国内だけで1900店舗を超える規模に成長しました。


イベントによる差別化については、たとえばミニッツメイド社の名を冠したMLBヒューストンアストロズの球場(ミニッツメイド・パーク)や、国内では福岡PayPayドーム、京セラドーム、日産スタジアムなど、数が増えました。少し前であれば、サントリーホールが有名でしょう。ただ、これは実際に、森ビルとサントリーホールディングスが所有しているため、上記のようなネーミングライツ(命名権)とは異なります。


次回のブランディングブログは、差別化のすすめ方についてです。


10/01/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法iv チャネルによる差別化

差別化の方法4回目は、チャネルによる差別化です。3回目までは、商品の機能による差別化サービスによる差別化人による差別化について述べました。


チャネルによる差別化

日本特有のチャネルに、自動販売機があります。海外で、日本ほど自販機が至るところにある国はありません。今日ほど、コンビニが多くなかった時代には、自販機は非常に重要なチャネルでした。これで大成功したのが日本コカ・コーラです。20世紀には、何処にでもコカ・コーラの自販機はあるという状況だったため、好き嫌い問わず、必然の結果として製品は売れ続けていました。 

コンビニといえば、店舗数で依然、他社を大きく引き離しているのがセブンイレブンです。同社のドミナント戦略により、ある地域には何処を見ても、セブンイレブンだらけで、結果的にセブンで購入するという人は今でも多いのではないでしょうか。 

グリコのオフィスを対象にした置き菓子サービスのオフィスグリコは、2000年代前半からサービス展開を本格化させ、2021年時点で約10万台のサービス拠点を保有しています。同社によると、仕事の合間にお菓子を食べてリフレッシュ、BCP対策の一環、また、コロナ禍での利用など、様々な効果があったとしています。

コンピュータ製品を製造販売し、サービスビジネスも展開するデルは、今日、ITの世界の巨人です。同社は、もともとはエンドユーザーに直接、製品をカスタムメイドで提供する直販モデルで成長を遂げた企業です。デルの成功により、その後、各IT企業がこぞって直販モデルを取り入れました。

文房具のプラスは、コクヨによるチャネル支配に対抗するため、アスクルを設立し、直販モデルによる成功を収めました。

生活協同組合の生協は、組合員からの出資金で運営する形態をとり、食品などの宅配を行う点で、チャネルによる差別化の先駆けといえるでしょう。価格は必ずしも安いわけではなく、食材などの安全や安心を重視すると同社はうたい、現在では、共済、福祉、介護といったサービスも展開しています。 

ヤクルトレディによる訪問販売は、知らない人がいないくらい有名です。乳酸菌飲料のヤクルトは、ヤクルトレディと呼ばれる販売員が個別に各家庭を訪問し、ヤクルトの各商品を販売しています。このスタイルは、今から60年以上前に始まりました。ヤクルトレディを構成する人の多くは主婦で、訪問先の多くの消費者が主婦でもあったため、信頼関係を構築しやすかったのだろうと思います。同社には、「愛の訪問活動」というのがあり、ヤクルトの販売会社と地方自治体の間での契約に基づき、安否確認を兼ねてヤクルトレディが一人暮らしの高齢者の自宅を定期的に訪問しながら、商品を届けるという取組みが継続して行われています。 そのヤクルトは、10年以上も前に、日本と同じやり方で、ベトナムなどへも進出し、今では世界40ヵ国近い地域で活動しています。国内で行ってきたやり方を海外に持ち込み、事業の成長を可能にしました。

化粧品の訪問販売には、ポーラ、ノエビア、メナードなどのものが挙げられます。「ビジネスに参加した人がさらに参加者を広げていく取引」として知られるのが、ネットワークビジネスです。上記の化粧品会社3社が、厳密にネットワークビジネスかというと、必ずしもそうとはいえない点があり、解釈は人によって違いがあるでしょう。ネットワークビジネスは、事業拡大の仕方や取扱商品特性など、各社それぞれ異なるようですが、米国で創業されたアムウェイやシャクリー、国内では栄養補助食品の三基商事、国内で女性用下着などを扱うシャルレなどは、比較的よく知られているように思います。人と人の関係性を活用したチャネルによる差別化を行う企業は多数存在しています(但し、筆者には各社が実際のところ、どういったやり方でビジネスを展開しているのか、どれくらい成功しているのかということはわかりません)。 

ネットワーク的なビジネスから事業をはじめ、カタログ通販で会社を大きく成長させたのが千趣会です。ネットビジネスにも比較的早く取り組んだ同社ですが、消費行動の変化、競争相手の増大などにより、会員数は減少し、売上げも低迷するようになりました。また、扱う商品アイテムが増えたことで、販売経費などもかさみ、現在、利益は大きく縮減したものになりました。世情に合わせて、比較的安価なものをおしゃれに売ろうとして、当初は成功していましたが、時代の変化を読み切れず(たとえば1億総中流といわれた時代が終焉したタイミングや終焉の仕方、今日の状況など)、ターゲティングとそれに合わせた商品構成が、結果から見れば、中途半端なものになってしまったといえるのでしょう。 

チャネルによる差別化は、ネット販売が今日のように当たり前となる以前から、カタログ通販会社の増大とその多様化、特定のカテゴリーに特化した小売業態、たとえばにユニクロに代表されるようなファストファッションを売り物にするSPA(speciality store retailer of private label apparel、製造小売業)、100円ショップ、家電量販店、さらには街中にある衣料雑貨専門店の品揃えの変化など、消費者行動のみならず、時代の変化を捉え、業界の潮流を読んで、機敏に、自社のMD、商品企画、製造などに反映させ続けることで、差別化を継続して行えるのだろうと思います。


9/23/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法iii 人による差別化

差別化5つの方法として、前々回は商品の機能による差別化前回はサービスによる差別化について述べました。今回は、人による差別化です。

人による差別化

日本でも言わずと知れた人による差別化を実現させたのがディズニーです。同社では従業員をキャストと呼び、国内外問わず、明るく元気に顧客に接する姿は、ほかのアミューズメント施設とは大きく異なります。 

古典的な事例では、サウスウエスト航空を挙げるべきでしょう。米国のMBAプログラムでも、度々取り上げられました。 同社は米国民が車で移動していた地点を、短距離フライト、格安料金、簡素なサービス(食事なし、映画なしなど)、先着順の座席割り当て、そしてユーモアに富んだ接客サービスで、フライトを楽しいものに仕立て上げたことで知られています。同じ航空業界では、シンガポール航空が客室乗務員によるサービスの良さで非常に高い評判を得てきました(筆者は乗ったことはありませんが)。 

ホテル業界では、セントレジスのバトラー制度(これは本当に素晴らしい)、リッツカールトンのお客を待たせない応対サービスなどが挙げられるでしょう。

人による差別化は、比較的高単価な商品カテゴリーに、多くの事例を見出すことができます。ハイエンドなファッション衣料、たとえば紳士服のオーダーや、カラーコーディネートに関して卓越したアドバイスが欲しい顧客は、必ずといっていいほど高度な接客技術を持つ販売員と顔見知りになって、いつもその店で品物を選ぶことにしているのが珍しくありません。10年以上前のことになりますが、女性向けの衣料雑貨の店舗で、カリスマ店員という言葉が流行りました。このような店舗は、人の良し悪しがリピート需要に直結するだけに、人による差別化を徹底して重視します。また、何度も購入するわけではないですが、ハウスメーカー、特に注文住宅などは、営業パーソンの能力の高低で、全てが決まるといっても過言ではありません。

弁護士事務所や会計事務所、経営コンサルティング会社などのプロフェッショナルファームも、人による差別化が会社の業績を大きく左右します。あの人がいるから、あのファームに頼むということが、当たり前のこととして起こります。医療の世界でも同様でしょう。あのドクターがいるから、あそこの病院で診察を受けるといった具合です。  

人による差別化は、個人のやる気や努力、能力などに多くを依存している企業と、組織的な取り組みを重視している企業に分けられます。前者の場合であれば、やる気や努力を継続している人の多く(もしくはほぼ全員)が、自分の仕事が好きだから続けられるでしょうし、故に、顧客の課題を自分事として捉えている人が多くを占めていると筆者はいつも感じています。

後者のタイプ、組織的な取り組みを行っている企業では、平均レベルの従業員(普通の人々)が質の高いサービスを実践できる仕組みを作り上げています。これについては、別途、サービスマーケティング&マネジメント(SMM)のブログで取り上げていきたいと思います。

サービス企業の場合は、特に組織や企業の文化が、サービスクオリティの高低や継続性に大きな影響を与えています。組織文化とは、「ある集団がその歴史の中で環境に対して生き残り、またお互いが協力していく中で蓄積していった知識」(組織文化(1)競争力の源泉)と、組織文化の大家、エドガーH.シャインは述べています。 

そのシャインは、文化を「創造物」「行動」「共有された基本認識」という3つの要素に分けて、捉えています(SMM(4)サービス企業の論点 ⑤組織文化と競争優位i 文化の定義と3つのレベル)。 

その上で、社内の行動パターンを変えたければ、人々の思考を変えなければならず、人々の思考を変えるためには、思考の土台にある基本認識を変える必要があるとしています。ディズニーやシンガポール航空、ヤクルトといった企業は、他社よりもうまく構築された組織的な仕組みによって、人による差別化を実現しているといえるでしょう。

 次回は、チャネルによる差別化についてです。


9/16/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法ii サービスによる差別化

差別化5つの方法として、前回は商品の機能による差別化について述べました。今回は、サービスによる差別化です。

サービスによる差別化

メーカーの差別化で古典的事例として挙げたいのが、米国アウトドア用品を製造販売するLLビーンです。同社は100%の満足を保証し、購入者が満足できなければいつでも返品ができることを長年うたってきました。実際、筆者は90年代に7年近く米国に滞在し、LLビーンの普通ではない保証(100%の顧客満足保証)を実体験しました。ついつい買いたくなるようなモノが溢れているカタログには、高機能で高品質な商品の用途やストーリーと、安心感(同上)が載っていたのを、今でも覚えています。当時、カジュアルウェアのエディバウアーも似たような保証を行っていたと思います。  

こういった100% Guaranteedは、90年代の米国では、ホテルやレストランなど、多くのところで見たように記憶していますが、ほんものの保証となると、当時はごくわずかだったように思います。 

ところで、100%保証とは異なりますが、論理的に説明すれば即座に、顧客の問題を解決してくれるのが、今のアマゾンではないでしょうか(昔はそうではなかったですが、時間が経つにつれて、大きく改善してきました)。日本企業はサービスが良いと今でもよく言われていますが、筆者はあまりそうは思いません。一例として、詳しくは述べませんが、アマゾンとの対比として、楽天のサービスを思い浮かべると、納得される方も多いのではないでしょうか。 

ほかにも、永遠にリペア(修理)してくれるルイヴィトンのバッグも有名です。個人的には、自社製品に対する愛情に満ちているといっていいパナソニックが頭に浮かびます。随分古い話になりますが、終売したワープロの修理を、同社担当者が親身になって対応してくれたことには感激したものです。同じ家電メーカーのシャープは、2000年代だったと思いますが、アフターサービスを抜本的に見直し(昔はサービスが低いことで有名だった)、売上げ拡大につなげました。 

それ以外では、たとえば必ず定刻に荷物を届けてくれるのがクロネコヤマトの宅急便。フライトで、定刻どおり現地に到着したいのならルフトハンザ航空等々。サービスによる差別化が、競争力の源泉になっている例は、たくさんあります。 

B2Bの領域で、サービスによる差別化がグローバルで成功したケースに、IBMのソリューションサービスが挙げられます。90年代初頭に破綻しかけていたIBMを、外部から招へいされたルイス・ガースナーが、コンピューター製造企業から、ITを使って顧客のビジネス課題を解決するソリューション企業へと変貌させ、驚異的な復活を成し遂げました。これは、サービスによる差別化の事例ですが、それ以上に、ビジネスモデル転換の成功例といったほうが、より適切かもしれません。というのも、IBMはこれ以前にも、サービスの良さには定評があったといわれています。ただ、そのサービスとは、製品と一体化したサービスであり、たとえばそれは行き届いた製品修理サービスのようなものでした。 

ガースナーが推進したのは、顧客ニーズを対象としたサービスであり、製品とは切り離したサービス、たとえばデータセンターやアウトソーシングなど、従前では考えられなかったIBMと競合する製品をも扱うことになったからです。ちなみにガースナー退任後、CEOとなったサミュエル・パルミサーノが、プライスウォーターハウスクーパースの経営コンサルティング部門(当時PwCコンサルティング)をグローバルで一括して買収し、サービスビジネスへの大きな転換を完成させました。

余談ですが、そのガースナーは、IBMのトップに就任する前は、マッキンゼー、アメリカンエキスプレスのサービス企業、RJRナビスコの製造企業で働いた経験を持っていますが、サービス企業を経営することのほうが、製造企業よりもはるかに難しいと述べています。

このIBMの変容が契機となって、国内のNECや富士通といったIT企業も同様の手法を採用したことはよく知られているところです。また、このソリューションサービスは、ITの分野にとどまらず、その他多くのB2Bの分野へ広がることにもなりました。

建機メーカーのコマツもサービスビジネスを展開し、大きく成功した企業です。営業赤字になった2001年から経営改革を断行した同社は、KOMTRAX(コムトラックス)という建機の稼働管理システムを構築しました。これにより、世界中の建機の稼働状況をリアルタイムに把握し、正確な需要予測を実現させたことは、当時、業界の革命とまでいわれたほどです。今日、IoTがほぼ当たり前になりましたが、2000年代に完成させたのは驚嘆に値することです。

複写機メーカーの富士ゼロックス(当時、現富士フイルムビジネスイノベーション)やリコーは、複写機本体の販売から、複写機をリースにして使用料に応じた課金システムを構築、その後、顧客企業のプリント環境の一括管理による印刷コストの削減へと、サービスを大きく発展させました。 

販売からリースによる課金体系構築への転換は、タイヤのミシュランの事例も有名です。もはや古典的事例といってよいかと思いますが、走行距離に応じて代金を支払う従量課金型は今日、ブリジストンでも大きく展開しています。 

このようなサブスクリプション・ビジネスは、サーキュラーエコノミー(CE)の広がりもあって、大きく成長してきました。CEモデルの大きな特徴であるモノのサービス化、所謂PaaS(Product as a Service、サーキュラーエコノミー事例③サーキュラーエコノミー6つのモデルと事例①サーキュラーなアプローチ①)は、オランダのフィリップスの子会社であるシグニファイは照明器具を売るのではなく、明るさを売るサービスビジネスを展開しています。同様に、パナソニックも多様な製品でサブスクリプション型のサービスを行っています。スウェーデンのエレクトロラックスは、掃除機の販売だけでなく、掃除した面積に課金することをしています。 

ハードウェア系だけでなく、ファッション衣料雑貨でも、米国のレント・ザ・ランウェイが2009年からファッションアイテムのレンタルを始め、当初は大きな話題となり、成功も収めたことで、米国内はもとより、米国外の他企業へも飛び火しました。今日、PaaS型ビジネスは、シェアリングビジネスなどと併せて、一定の市場規模を確立しましたが、逆にミーツー(me too)企業も多数現れたことなどから、差別化し競争に勝ち抜いていくには、さらなる改良や創造が必要になっているといえるでしょう。

 

9/09/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法i 商品の機能による差別化

ポジショニングとは、自社プロダクトが他とはハッキリ異なる点、すなわち差別化のポイントや、利用者にとっての主たるベネフィットを、潜在顧客の頭または心の中に刷り込んでいく活動のことをいいます。(ブランディング (3)セグメンテーション ①主旨と要件)

また、他社との棲み分けをしっかり行える場所を確保して、消費者が競合を想起しないようにもっていくことができるのが、優れたポジショニングです。(ブランディング (1)ブランディングとは②)

要するに、ポジショニングでは、差別化の方向をハッキリさせて、自社プロダクトを確実に選んでもらうために何をすればいいのかを考えなければならないということです。


それでは、差別化の方法には、主にどういったものがあるのでしょうか。マイケルポーターは、競争優位の戦略で、差別化には、製品の特徴、機能間の連携、タイミング、地理的ロケーション、製品の品揃え、他企業との関係性の強さ、評判(ブランド)という7つの源泉があるといいました。これまで、本ブログでは、製品/サービスを一括りにしてプロダクトと呼んできましたが、サービスという言葉から連想されるやや曖昧な捉え方を避けるために、本稿では、「商品」に統一したいと思います。なお、ここでのブランディングは、はじめにお断りしたとおり、コーポレート・ブランディングには主眼をおかず、商品を中心としたプロダクトブランディングのポジショニングに関するものとなります。

差別化について、筆者は大括りとして以下にある5つの方法を挙げたいと思います。

商品の機能による差別化

サービスによる差別化 

人による差別化 

チャネルによる差別化

イメージによる差別化 


これら5つの方法は、ブランディングのポジショニングについて、顧客(消費者、企業)との接点が生まれるところに、差別化の機会があるということを示しています。

セオドア・レビットは、競争の観点からいえば、差別化できない製品など存在せず、全ては差別化であり、実際、現実に殆ど全てのものが差別化されていると述べました。(Marketing Success Through Differentiation-of Anything, HBR, Jan-Feb 1980)

とはいえ、いずれの製品も十分な差別化ができているかというとそうとはいえず、企業はコストとのバランスを考慮しながら、差別化する方法を慎重に検討しなければなりません。ですので、差別化はポイントを絞って、それを徹底して磨き上げることによって、他社とは異なる独自のもの(差別化のポイント)を、顧客から瞬時に識別されるようにすることが重要です。

また差別化のポイントは、顧客が識別できることが前提ですが、その差別化ポイントを顧客が望ましいものと捉えてくれることが必要です。その上で、顧客が、その商品を提供する企業には、それを実現する組織的な能力が備わっているとイメージしてくれることが非常に重要で、それは謂わば企業に対する信頼感のようなものだといえるでしょう。


商品の機能による差別化 

これは、商品のパフォーマンス、商品の使用をとおして、その働きから得られる効果によって差別化するものを指します。

ここでよく出てくるのが少し古い例ですが、安全な車ならボルボというものです(筆者は乗ったことがありませんが)。一方で、故障しにくい車ならトヨタ(もしくは日本車)です。 今だと、軽自動車の概念を変えたホンダのN-BOXなどになります。ほかに乗り物でいえば、大型バイクのハーレーダビッドソンが挙げられます。

商品のパフォーマンスについて、筆者の独断でほかに幾つか書かせて頂くと、たとえばタッチーキーの感触が良く、安定性高くしかも頑丈すぎるほど頑丈なPCやタイプライターならIBM(今はもう生産していませんが)。壊れにくいといえば、テレビやビデオデッキをはじめとしたパナソニックのものがあります。そのパナソニックがかなわないのが、見やすく操作しやすいインターフォンを作っているアイホン(AIPHONE)です。同じく住設機器で、もうひとつ挙げれば、座り心地の良いトイレのTOTOでしょう。 

ほかにも、ソフトな消費財関連でほぼ意見が一致するだろうものには、たとえば、まるでオーダーしたかのような履き心地の良い靴をつくるイタリアのサルバトーレフェラガモ。そのフェラガモがジッパーで採用する多くのものがYKK(当然でしょうが)。イタリアのトマトは最高ですが、日本だと熊本県産が甘くて赤い。食品は地域性もあり、中小零細企業に非常に優れたものが多いため、ここで記載するのは少々不適かと思いますので、1点だけ挙げると、誰もが知る加工食品のロングセラーブランドで、最も簡単においしい中華が作れる味の素のクックドゥ。まだまだほかにも挙げられます。

デザインも差別化が可能です。洗練されたおしゃれなデザインで一世を風靡したのが旧ソニーのVAIO。これより少し前の時代になりますが、カラフルでファッショナブルな腕時計で一大ムーブメントを巻き起こしたスイスのスウォッチ。親しみやすい操作性と美しいデザインで、多くの人を魅了したアップルコンピュータ。そのアップルは、iPhoneでシンプルで直観的な操作を可能にし、多くのアプリを生み出して、人々の暮らしを変えてしまいました。

このように商品の機能による差別化には、性能や信頼性、耐久性、おいしさや味覚といった品質面でのものを挙げることができます。ほかにも、大きさや形状などの物理的な構造、デザイン、色スタイルなどの働きによって得られる効果で、差別化することができるといえます。

品揃えも含めなければならないでしょう。たとえば、生活で必要なものは何でも揃えているアマゾン(アマゾンはサービスでも特筆すべき差別化ポイントがあります)。店舗面積がわずか50~60坪のところに約3500アイテムを揃えているセブンイレブン(ほかのコンビニとは商品の集積力がやはり違うと思います)。あと小売業でいえば、各地域で多くの品揃えをする地域一番店の各食品スーパーなどが該当するでしょう。 ドン・キホーテの品揃えも、大きな差別化ポイントです。圧縮陳列された多種多様な商品に加え、まるでジャングル(?)の中を見て回るような商品配置は、品揃えによる差別化を超えて、レイアウト自体もほかの小売企業と大きく異なり、差別化の一端を担っているといえます。

メーカーについても品揃えは差別化の要素になりうるといえますが、デジタルカタログが当たり前になった今日、たとえば住設機器メーカーのカタログには一見すると無限大ともいえるくらいの製品アイテム/SKUが掲載されています。日本特有の現象でしょうが、バイヤーや消費者にとっての分かりやすさという点では改善点があるように思え、これだけの品目数を生産・在庫する手間やコストのことなどを考えると、できるだけたくさんものを揃えるというのが、果たしてどこまで、競争優位につながっているのか、個人的には検証が必要だろうとは思います。

このように、商品の機能による差別化には多くのものを挙げることができます。人によって捉え方は少し異なる場合もあるでしょうが、今日のデジタル社会では、それほど大きな違いを生む商品があるとは思えないもののほうが多いのではないでしょうか。いずれにせよ消費者にとって、機能による差別化というのは、捉えやすい差別化であることには変わりありません。というのも、消費者がその差別化のポイントを捉えにくい場合は、商品提供者がそれをわかりやすく、時にはやや誇張して(?)、伝えることで、理解をたやすくすることもできるからです。

長くなってきましたので、サービス、人、チャネル、イメージによる差別化については、次に回したいと思います。



ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5

マーケティングミックス2つめのP、価格についての5回めです。 前回は先発企業の差別化プライシングについて述べました( 価格 その4 ) 。 今回は、同じく先発企業の競争的プライシングと製品ラインプライシングについてです。 競争的 プライシング と、3つの消費者特性(差別化プライシ...